小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1052回
ソニー「FR7」、フルサイズでレンズ交換できるロボットカメラ
2022年10月19日 08:00
上へと登り続けるソニー
コンパクトデジカメが立ちゆかなくなったとき、ソニーは「RX100」などハイエンドコンデジ路線を立ち上げ、価格勝負を避けて上へと逃げ切った。デジタル一眼も、動画文脈ではAPS-Cは「ZV-E10」といったVlog方向へと伸ばしつつ、α7シリーズの上の方は従来シネマカメラのラインだったCinema Lineと合流、「FX3」と登場させた。元々は業務用ラインナップだったCinema Lineだが、コンシューマユーザーでもFX3を買ったという人も多い。
そんなCinema Lineも、“ひたすらハイエンド”とはちょっと違った方向性を打ち出し、フルサイズセンサー搭載のジンバル一体型カメラ「FR7」を登場させた。またFX3とほぼ同形ボディながら、センサーにAPS-Cを採用した「FX30」も市場投入した。発売日はFX30の方が早く、10月14日には発売が開始されている。一方FR7は11月11日発売予定となっている。
FR7は、ボディのみで132万円、レンズキットモデルが161.7万円となっている。価格帯からすれば業務用カメラではあるが、いわゆるEマウントレンズが使えるフルサイズの固定カメラで、ロボティクスによりパン・チルト・ズームに対応する。
同じくフルサイズでジンバルが付いたシネマカメラといえば、ちょうど昨年の今頃登場したDJIの「Ronin 4D」を思い出すところだが、やはりInterBEEが近づく10月~11月には、面白いカメラが登場する。
今回はFR7のレンズキットモデルをお借りしている。外ロケというよりはスタジオカメラに近い製品だが、どこまでやれるのか、その実力を探ってみよう。
全体では大型のカメラ
まずボディだが、おおまかに言うとコンパクトで可動に耐えられるカメラヘッド部分と、ステーション部分を含むジンバル部に分けられる。本体にはカメラを操作する部分はなく、外からリモートで動かす、完全ロボットカメラである。
カメラ総体としてはまあまあ大きいのだが、カメラヘッド部分はそれほど大きくはない。FX3ぐらいの大きさだろうか。ただしここにフルサイズのEマウントレンズがドーンと付くので、カメラ部としてはまずまずの重量になる。
ジンバルの軸はカメラの台座部分と一体になっており、その上のスライド機構の上にカメラヘッドが載る。キットレンズは、電動ズーム対応の「FE PZ 28-135mm F4 G OSS」。かなり重量のあるレンズだが、スライダー部分にレンズを支えるアームがあり、マウント部だけに重量がかかる事はない。一般的なジンバル同様、レンズを取り付けたのち、スライダーで重量バランス位置を調整できるようになっている。
使用できるEマウントレンズは、現時点では70本。中には電動ズーム非対応であったり、ズーム位置で重量バランスが大きく変わるレンズもあるため、レンズ交換のたびに重量バランスを見る必要がある。また一部のレンズは、マウントはできるが重量のためにジンバル部の動作を保証しないものもある。
センサーはフルサイズのExmor R CMOSで、有効画素数は約1,030万画素。FX6にも搭載されていたバリアブルNDを内蔵する。1/4~1/128までをシームレスに可変できるため、露出のもう1つのパラメータとして利用できる。
AFは像面位相差検出AFとコントラスト検出AFを併用した、ファストハイブリッドAF。リアルタイム瞳AFを搭載し、タッチ可能なタブレットでWebアプリを使えば、映像のタッチでリアルタイムトラッキングを実現する。画像処理エンジンは「BIONZ XR」。
またFX9、FX6、FX3に搭載されていた「S-Cinetone」も搭載。これはS-Logではなく、肌色を綺麗に見せるルックだ。もちろん上位機種同様、S-Log3、S-Gamut3での撮影もできる。
ジンバル可動範囲は、左右方向に±170度、上下方向に下30度、上195度。動作スピードは、0.02度~60度/秒となっている。上下逆さまにして、上からの吊り下げにも対応する。
ジンバルの台座部分が、カメラヘッドから後ろ、プロセッサ部ということになる。背面端子を見れば、どういった範囲の仕事に対応できるのかがわかる。左は電源端子だが、LAN端子からのPoE++(Power over Ethernet Plus Plus)にも対応するので、LANケーブルで制御と電源供給が可能だ。ただしPoE++動作時は、カメラ内部記録とそこからの再生機能が使えない。
映像出力はSDI、OPTICAL、HDMIの3タイプ。OPTICALは別途SFP+モジュールを使ってSDI信号を光変換して出力することになる。LAN端子からは、RTSP、SRT、NDI|HXでのIPストリーミングに対応する。
入力としては、GENLOCKとTC INがある。OPTION端子は、LAN端子同様RJ-45端子だが、ピン変換してGPIタリーの入出力になる。
音声入力は、XLRタイプの5ピンコネクタで、ステレオ入力に対応する。基本的には外部マイクを接続して内部収録するという事になる。なお収録されたファイルには、オーディオトラックが8ch分記録される。
背面から見て左側に、メモリーカードスロットが2基ある。CFexpress Type AとSDXCの兼用スロットだ。記録方式は以下のようになっている。
記録方式 | 解像度 | フレームレート |
XAVC Intra | 4,096×2,160 | 59.94、29.97、24、23.98p |
3,840×2,160 | 59.94、29.97、23.98p | |
1,920×1,080 | 59.94、29.97、23.98p | |
XAVC Long | 3,840×2,160 | 59.94、29.97、23.98p |
1,920×1,080 | 59.94、29.97、23.98p |
なお最高3,840×2,160/120pのハイフレームレート撮影にも対応するが、この場合は画角が約10%クロップされる。
リモートシネマの先陣
FR7はカメラ本体だけあっても操作するところが全くないので、何らかの形でリモート操作する必要がある。現状で提供されている方法としては、付属の赤外線リモコン、Ethernet経由でのWebアプリ、リモートカメラ用コントローラ「RM-IP500」の接続がある。また来年、放送用としてシステムカメラへの対応が予定されている。さらに時期は未定だが、ソニーが開発するクラウド中継システム「M2 Live」への対応も予定されている。
カメラの基本的なセッティングは、赤外線リモコンを使うことで、映像出力にメニューが出せる。
撮影モードとして、Log収録の「Cine EI」と、グレーディング不要の「カスタム」を備えるあたりは、FX6と同じ構造である。ただFR7はその撮影スタイルから、本体収録よりも映像出力をスイッチャーやレコーダで受けるといった使われ方のほうが多いカメラだと言える。
リモコンは、パン・チルト・ズーム・フォーカスがマニュアルで操作できるほか、プリセットボタンを使って3つのポジションを記憶できる。
今回はEthernet経由でiPadに直接接続し、Webアプリを使って操作してみた。カメラにQRコードが書いてあるので、それを読み取ってログインすると、ブラウザにUI画面が出てくる。
ポイントは、タブレット画面だけでモニターしながらパン・チルト・ズーム・フォーカスのコントロールができるところだろう。今回は23.98fps、ベーシック感度ISO 800、F4に固定し、露出はバリアブルNDでフォローしている。なおバリアブルNDは最小でも1/4で、ゼロにする場合は物理的にNDフィルタが外に出る。
マニュアル操作は、画面右下のUIで操作する。パン・チルトとズームは、マルチタッチ対応なので同時に動かす事が可能だ。ただこんなに両方のUIが近いと両手ではなかなか操作できないので、ズーム操作は左側に移すなどして欲しいところだ。
ポジションのプリセットは、WEBアプリのほうが多くのポジションが登録できる。マニュアル操作での動作と、プリセットの動きについては、動画でご確認いただきたい。
今回はS-Log3で収録したものを、DaVinci Resolveでグレーティングしている。映像品質としては、FX6やFX3と変わらず、グレーディングによって同じカラーに合わせ込むことができる。
なおプリセットによる動きは、ズームスピードとジンバルのスピードを一致させるのは難しい。ジンバルの動作は、プリセット画面であとから変更もできるのだが、ズームスピードはプリセットに記憶できないようだ。このため、ズームの動作が終わってからジンバルの動きが完了するような動作になる。
単にカメラアングルを切り替えるだけならこうした仕様でもいいのだが、カメラ動作まで本編で使いたいという場合は、ジンバル・ズーム・フォーカスの3つを時間軸で同時に制御できるUIが必要だろう。
なおタブレットのUIでもカメラ設定の変更が可能だ。こちらのほうが多くの設定をいっぺんに見られるので、状態が把握しやすい。
音声収録はハードルが高い?
FR7をマルチカメラ収録で使用する場合は、別途タイムコードを分配して各カメラに入力して同期するというスタイルになるだろう。FX6と組み合わせる場合は、FX6からタイムコードが出せるので、これをマスターにしてFR7に入力すればよい。
一方FX3と組み合わせる場合、先のアップデートでタイムコード入力には対応したが、出力ができない。よって、別途タイムコードジェネレータを用意して分配するといった配線が必要になる。
一方昨今の編集ツールは、同じ音声が入っていれば、それを頼りに各カメラを同期してくれる機能を持っている。音声さえ入っていれば、簡易的なマルチカメラ編集はできるわけだが、あいにくFR7はマイクを内蔵していない。
XLRの5ピンコネクタもそれほど一般的なものではないため、マイク1本繋ぐだけでも別途特殊コネクタを用意する必要がある。筆者宅にもさすがに用意がなかったので、今回は音声入力はテストしていない。
搭載スペースがなかったかもしれないが、FX3でもハンドル部に標準XLRが2ch搭載されていることを考えると、FR7に音声を入れるのは、なかなかハードルが高い。何か簡易的なマイクでも付けられればいいのだが。3.5mmのマイク入力ぐらいあってもよかっただろう。
またジンバル動作時は、ウィーン、ウィーンというロボコップの動作音みたいなモーター音が若干聞こえてくる。ある程度重たいレンズでも動かせるよう、かなりトルクの高いモーターを使用しているからだろうが、動作スピードによって音の高さも変わってくる。
今回のテストでは、2mぐらい離れた位置でラベリアマイクを使って音声収録を行なってみた。このぐらい離れればモーター音は入ってこない。ただ静かな場所で被写体に接近して撮影する場合、録音音声に動作音が入ってくるかもしれない。むしろ長ダマを使った撮影に威力を発揮するカメラと言えるかもしれない。
総論
昨今はNetflixのようなプラットフォーム主導によるシーズンものの大作が多く作られるようになり、撮影もカメラマンの足場がないようなユニークな位置からの撮影など、多彩なカメラワークが求められている。コストを抑えたシネマ品質の特殊撮影機器は、ニーズが大きいところだ。
またシネマ以外にも、通常のビデオ撮影にも対応できるため、スタジオカメラとしての利用も想定されるところだ。レンズ込みでの161.7万円、コントローラの「RM-IP500」が42.9万円なので、合計で200万円ぐらい。放送用カメラのレベルからすれば、割と安い。モーターとしてはかなりゆっくりも動かせるので、タイムラプス撮影にも使える。複数台のマルチカメラ用途であれば、ワンポイントでの利用も多くなると思われるので、機材レンタル屋さんでも多く導入されるだろう。
ただ、このカメラをリモートでマニュアルコントロールするのか、それともプリセットを使ったオートメーションで動作させるのかで、評価が変わってくる。現在は割とマニュアルコントロールに重きを置いているようで、完全プログラムで同じパターンを何度も撮るみたいな撮影には、まだソフトウェアが追いついておらず、今後の開発に期待がかかる。
とは言え、これまでソニーのPTZカメラは4K/30p止まりで、レンズ交換できるものがなかった。またフルサイズセンサー搭載も初である。中国メーカーのカメラがジンバル当たり前になってきている中、その方面でもソニーは上に登っていく方向で勝負するようだ。