小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1063回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

“本みたいに薄い”のに、なんでこんな音が!? B&O「Beosound Emerge」

薄型スピーカー、BANG & OLUFSEN「Beosound Emerge」

小型スピーカーの当たり年か

昨年レビューしたDevialetポータブルスピーカー「Mania」は、小型ながらめっちゃガッツのある低音を出してくる、実に面白いスピーカーであった。単なるステレオスピーカーというだけでなく、まったく同じ構造を背面にも装備することで、新しいサウンドフィールドを創造した。

実は同時期に発売されたスピーカーで、もう1つ面白いものがあった。それが今回ご紹介する、BANG & OLUFSEN「Beosound Emerge」である。

昨年11月24日発売で、価格は価格は93,990円。多くのショップはこの値段だが、Amazonでは9% OFFの85,445円で販売されている。

普通、スピーカーのエンクロージャには一定の体積が必要で、多くは四角い箱型になるわけだが、Beosound Emergeは本のようにペッタンコである。だがちゃんとフルレンジでパワフルな音が出るという。一体どういうこっちゃいというわけで、今回お借りした次第である。

Beosound Emergeはモノラルスピーカーだが、2台をペアリングすることでステレオ化もできる。今回は2台お借りしたので、その両方で聴いてみたい。

BANG & OLUFSEN「Beosound Emerge」

これが本当のブックシェルフ型?

小型スピーカーを指す、ブックシェルフ型という言葉がある。「本棚」という意味で、本棚に入るぐらいのサイズ感であることから、こう呼ばれる。だがBeosound Emergeは本当に本棚の中に本として紛れ込めるぐらいのサイズ感である。

正面から見てこの薄さ

形状は前に向かって薄くなるくさび形で、前面が3.4cm、背面が6.7cm。高さ25.5cmで奥行き16.5cmとなっている。B5判型の本の高さとほぼ同じだ。

高さはB5判型の本とほぼ同じ
奥に行くほど太くなる独特の形状

側面は木の化粧板でカバーされており、開口部は前面と背面という事になる。内部の設計は資料が公開されていないが、37mmミッドレンジと14mmソフトドームツイーター、100mmのウーファーから構成される3Wayだ。

側板は本物の木を採用しているため、1台ずつ風合いが異なる

14mmツイーターは、フレーム部まで含めても20mm径ぐらいだと思うので、まあ前面向きににまっすぐ配置できるように思える。耳を当てて確認すると、上から1/3ぐらいのところに配置されているようだ。

正面下部に小さくB&Oのロゴ

一方37mmミッドレンジはフレーム部まで入れれば40mm径以上はあると思うので、まっすぐ正面向きには入らない。おそらくちょっと角度を付けて斜めに入れられているのだろう。当然100mmウーファーはまっすぐには入らないので、これは横向きに入れてあるのだろう。ちなみにウーファーは背面放出しているので、内部でエンクロージャが仕切られていると考えられる。非常に面白い構造だ。

上部にはタッチ式のコントローラーがある。電源ボタンはなく、長時間使用していないと自動的にスタンバイになる。再生ボタンを押せば復帰する。再生ボタンの左右はトラックの切り替えや、ネットラジオ選局で使用する。ボリュームは周囲の円形部分をなぞることで、アップダウンできる。ボリュームレベルは、前面上部のファブリック素材の奧に4段階のLEDが仕込まれており、その点灯でわかるようになっている。

上部はタッチ式のコントローラーになっている

左のBluetoothボタンは、長押しするとペアリングだ。右はマイクのON・OFF切り替えである。下の4つの点は、ネットラジオのプリセットへのショートカットである。入力ソースとしては、Bluetoothのほか、ネットワーク経由でApple AirPlay 2とChromecast、Spotify Connectに対応するほか、アナログと光デジタルのAUX入力がある。

底面には、USB-Cの電源ポートがある。付属のケーブルはかなり長く、2mのものが付属する。かなり置き場所は自由にできるだろう。その横にはEthernet端子、AUX端子が見える。また底部にはネジ穴もあり、スタンドや天井吊り下げにも対応する。

底部の端子類
前部の底面にネジ穴がある

マイクが搭載されているが、AlexaやGoogleアシスタントには対応しない。これはアクティブ・ルーム補正技術が内蔵されており、スイープ音を発して音響測定するためのものだ。上部マイクボタンでソフト的にON/OFFできるほか、背面のスライドスイッチでハード的にもON/OFFできるようになっている。

驚くほどガッツリした音

本機の細かい機能は、設定用アプリ「B&O」から操作する。アプリと本機を接続すると、Active Room Compensation機能の画面が表示される。これはスイープ音を出力してマイクで集音し、設置場所に合わせた低域特性にチューニングする機能だ。高級サウンドバーには搭載されることも多い機能だが、このタイプの小型機で搭載されるのは珍しい。

音質補正機能も搭載

では早速聴いてみよう。今回は1月11日に急逝した高橋幸宏氏を偲んで、同氏のソロアルバムの中で最も良く聴いた「WHAT, ME WORRY?」のハイレゾ版をApple Musicで聴いていく。現在Apple Musicでは、プレイリスト「はじめての高橋幸宏」をフィーチャーしている。また音楽評論家の萩原健太氏がセレクトした、高橋幸宏氏がカバーした楽曲のプレイリスト[Kenta Hagiwaraの「otonano Radio vol.154」をApple Musicで]もある。YMO以外よく知らないという方は、こういうところから入るのもいいだろう。

今回はApple Musicで高橋幸宏を聴いていく

こうした薄いスピーカーからどんな音が出るのかと思いきや、意外にも普通のスピーカーと比べてもまったく遜色ない、ちゃんとしたバランスの音が出てきて驚いた。印象としてはハイ上がりで低音はサブウーファ必須みたいな先入観を持っていたが、低音の出力もかなりしっかりしており、いい意味で裏切られた。

音のボリューム感という意味では、Amazon Echo Studioに匹敵するが、体積がずいぶん違う。Echo Studioは単体でステレオスピーカーなので、その分容積が必要ではあるのだが、低音も含めた量感で引けを取らない。

低音のボリュームや音量はEcho Studioに匹敵

サウンドはモノラルで、高音の指向性があるため、円筒スピーカーのようにどこから聴いても同じというわけではない。やはり正面からの音が一番明瞭である。ニアフィールドで聴くと、普通すぎて面白くないかもしれない。

やはりさりげなく部屋のどこかへ置いて、スピーカーに見えないスピーカーから音が出ている、といった楽しみ方がいいだろう。音量がかなり出るし、低音もそれに付いてくるので、店舗などの広い空間に置くのもいいかもしれない。

「B&O」アプリを使えば、サウンドモードが変更できる。サウンドモードは、Active Room Compensationによって最適化されたバランスのほか、LoungeやSpeechといったプリセットも用意されている。

面白いのは右下の目玉のような機能だ。これは中心のボタンをジョイスティックのように上下左右に動かす事で、サウンドイメージを操作できるUIになっている。単に低音、高音を操作するだけでは音のイメージまでは想起できないが、こうしてグラフィカルに見せられれば、“どうしたいのか”のイメージがわかる。

サウンドモードで音の味付けが変わる
ユニークなサウンド調整機能を搭載

この設定は、名前を付けてプリセットとして保存できる。またサウンドモードとは別に高音・低音のイコライザも使える。こうした機能のおかげで、音の印象はかなり大きく変えられる。特有の色がないという言い方もできるが、サウンドの好みにうるさい人や、ケースバイケースでいろんなサウンドを演出したいという人にも満足できるスピーカーだろう。

EQは別に搭載されている

複数台で多彩なリスニング

ステレオペアにできるということで、今回はもう1台お借りしている。段取りとしては、2台をアプリに接続し、どちらかのスピーカーの「サウンド設定」からスピーカーペアリングを作成する。ステレオペアリング以降は、ペア全体が1つのスピーカーとして、他のアプリから認識されるようになる。

ステレオペアで使うこともできる

またステレオペアリング中は、オーディオの伝送方式が選択できる。デフォルトではLC3plusになっているが、ネットワーク速度に余裕があるなら非圧縮に変更すべきだろう。

ステレオペアでは伝送方式が選択できる

ステレオ再生では、解像感の良い再生が可能だ。幸宏氏の軽快なスネアワークも十分に楽しめる。1台だとサウンドレインフォースメント的な使い方がメインとなるが、2台だとニアフィールド向けのステレオセットになる。まあ2台で20万円近いシステムなので、当然それはいい音で鳴ってもらわないと困るわけだが……。

ほかにも、複数台を使ったマルチルームという機能もある。1台ずつ別々の部屋に設置してあっても、全体で同じ音が鳴るという設定だ。よほどの大邸宅でなければ使い出がなさそうな機能ではあるが、イベントハウスなどで重宝するという話も聴く。確かに1箇所でデカい音を鳴らすより、部屋で適度な音量で鳴った方がいいだろう。

B&Oアプリでは、タイマーの設定ができる。アラームを鳴らすことができたりするわけだが、特定の時間でスタンバイに入るように設定する事ができる。店舗や業務で利用する場合は、就業時間後に自動的にスタンバイにするといった使い方もできるだろう。

タイマー機能で自動スタンバイも可能
ネットラジオのプリセットも変更できる

総論

Bluetoothクラスの小型スピーカーは、Amazon Echoなどのスマートスピーカーに食われてしまった感がある。スマートスピーカーは単なるBluetoothスピーカーと違い、ストリーミングを直接受けられるなど、スマホが再生に縛られないというメリットがある。

一方でハイブランドが小型スピーカー市場にあらためてチャレンジしてきており、様々な形状で面白いサウンドフィールドを持ったものを投入してきている。

従来のように左右に分かれたスピーカーを設置して、正面に座ってムムムと聴くのではなく、どこか目立たないところにおいて部屋全体で聴くといった具合に、音楽の聴き方も変わってきた。あるいはライトユーザーが、常時音楽を鳴らし続ける生活になった、と言えるのかもしれない。

十分な低音で音量もかなり出るのに、設置スペースがものすごく小さいBeosound Emergeは、ステレオセットをドーンと置くのが憚られるという人にとって、実に魅力的な選択肢なのではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。