小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1079回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

現代の“ラジカセ?”空間オーディオとハイレゾ対応、Anker「Soundcore Motion X600」

Soundcore Motion X600、左からブルー、スペースグレー、グリーン

絶好調のAnker

Ankerは元々モバイルバッテリーで人気の出たメーカーだが、イヤフォンでも毎回最先端技術を盛り込んだ製品を出しており、オーディオメーカーとしての評価も高まりつつある。そんな中、ワイヤレスマイクまで製品化したのには驚かされたところである。

そんなAnkerが、ポータブルスピーカー「Soundcore Motion X600」を5月末に発売するや大人気商品となった。執筆時点では公式サイトほかAmazonでも軒並み売り切れており、入手不可となっている。価格は19,990円。

元々Ankerは小型のBluetoothスピーカーも多数製品化しており、中型機では「Soundcore Motion」というシリーズを展開してきたところだが、X600はこのシリーズ中の最上位モデルとなる。

スペースグレー、グリーン、ブルーの3色展開だが、今回スペースグレーのみ先行発売された格好で、グリーン、ブルーは6月下旬以降の発売が予定されていた。スペースグレーでもAmazonでは再入荷の予定は立たずとなっており、最短で入手できるのはグリーン、ブルーの6月下旬ということになりそうだ。

空間オーディオとハイレゾにも対応するというX600を、さっそく試してみよう。

シンプルながら上品なデザイン

まず外観は、上部にハンドルがあるところからも、パッと見るとちょっとデザインコンシャスなラジカセのような雰囲気。ただ若い人はラジカセ自体を見たことがないだろうから、もしかしたらお弁当箱みたいに見えるのかもしれない。

上部に固定ハンドルを配した独特のデザイン

サイズはそれほど大きくなく、約310×81×170mm(幅×奥行き×高さ)という程度。ただ内部にバッテリーも備えているため、重量は約1,930gと、見た目の印象よりは重たい。IPX7の防水性能があり、お風呂やプールサイドでも使用できる。

特徴的なのは、斜め前方に傾いた天板にもフルレンジスピーカーがあることで、この上部へ放出する音が空間オーディオへの対応を物語る。一方で特徴的なハンドルは、折り畳む事ができず、この状態で固定である。上部の放出音がハンドルに当たってるのでは……というのが気になるところである。

上部にフルレンジスピーカーが1つ
ハンドル部に折り畳み機構はない
正面のスピーカーはメッシュで覆われている
背面のメッシュはバスレフポートになっている

内部のスピーカーは、正面向きに15Wウーファー×2、5Wツイーター×2。上部のフルレンジは10Wである。天板にあるボタン類は、フルフラットでバックライトもあるためタッチセンサー式に見えるが、実際には押し込み型のスイッチとなっている。

内蔵ユニットのイメージ
上面のスイッチは押し込みタイプ

Bluetooth対応コーデックは、SBCとLDACのみ。AACにもaptXにも対応せず、実質的にはLDAC一択である。iPhoneユーザーはSBCで聴く事になり、ハイレゾ対応にはならないという割り切りようだ。ただ多数のコーデックに対応すれば対応チップもライセンス料も乗ってくるため、2万円を切る価格では実現できなかったかもしれない。

注目の空間オーディオ技術は独自開発のアルゴリズムによるもので、通常の2chソースも空間オーディオ化できるという。またボタン1発で低音の増強できるBassUP機能を搭載。

背面にUSB-Cの充電端子と、アナログオーディオ入力がある。内蔵バッテリーによる再生時間は約12時間だが、空間オーディオ機能とBassUP機能をONにした場合は、最大9時間再生となる。充電は約6時間。

背面端子は2つ

コーデックの選択とイコライザー設定は、イヤフォン同様SoundCoreアプリから行なえる。

設定はSoundCoreアプリから行なう
プリセットのEQ設定
カスタム設定ではかなり自由度の高いEQが可能

サイズに似合わぬ低音が楽しい

ではさっそく聴いてみよう。今回は再生にはGoogle Pixel 6aを使用し、Amazon Musicの楽曲をLDACで繋いで聴いている。

まずはいつもリファレンスに使っているドナルド・フェイゲンの「Morph The Cat」から聴いてみる。空間オーディオおよびBassUP機能をOFFにして、素のサウンドを確認してみたが、ボディサイズの割には低音もしっかり出ており、ドラムのキック音はかなりのアタックが感じられる。ベースラインはやや引っ込み気味ではあるが、素質の良さを感じさせる。ただ音像はおよそ30cmのボディから外に出る事はなく、かなり求心的な音だ。

BassUP機能をONにすると、ベースラインがドーンと前に出てきて、ヘッドフォンやイヤフォンのような、鼓膜近くで聴いているかのようなサウンドが展開される。ボディを触ると、ベースにあわせて細かく振動しており、ドライバが相当なストロークで動いている様子を感じさせる。ただ、ボディのビビリなどはなく、エンクロージャはかなり堅牢に作られている。

背面のメッシュ部分からは、バスレフと思われる低音が出ている。十分な低音を楽しみたいのなら、壁などにピッタリくっつけず、10cm以上は空けた方がいいだろう。

空間オーディオをONにすると、表情が一変する。高域の立ち上がりがよくなり、ステレオセパレーションが拡大するのがわかる。目をつぶって聴くと、特にハイハットの定位が全長1mぐらいのサウンドバーで聴いているかのようだ。中抜け感も少なく、このサウンドが全長30cm程度のボディから出てくるわけだから、スペース効率がものすごくいいということになる。この短さでサウンドバーを作ったら、相当面白そうだ。

通常はどちらもONで問題ないだろう。というかこの2つの機能が、X600の真骨頂と言っていい。

独特な空間オーディオ

独自アルゴリズムの空間オーディオに関しては、元の再生ソースに左右されやすいように思える。一般のステレオソースを再生すると、左右へは大きく拡がるが、立体的な「包み込まれるような」という感じはそれほどない。おそらく上向きの音がそれほど大きくないからかと思う。

一方で、元のソースが360RAやDolby Atmosといった空間オーディオ対応となると、一般のステレオ音源のさらに2倍ぐらいの広がりがある。横幅2mのサウンドバーといった風情だ。

音の包み込みも感じられるのだが、これは本当に元のソースがどういった空間オーディオミックスなのかに大きく左右されるようである。筆者が確認した中で最も強く空間オーディオ感が感じられたのは、サンタナの「Ultimate Santana」というベスト盤に360RAで収録されている、「僕のリズムを聞いとくれ」と「ブラック・マジック・ウーマン」であった。Dolby Atmosでの再生も良好で、コールド・プレイの「Music of the spheres」もなかなかの立体感で再生される。

ただ、同様に360RAやDolby Atmosでの配信でも、それほど立体的に聴こえないものもあった。空間オーディオミックスでも、上手くハマるものとハマらないものがあるようだ。筆者が確認した中では、ジョン・メイヤーの「Heavier Things」は全曲360RAで配信されているが、立体感はそれほど感じられなかった。ただこれらの聴こえ方は、頭部伝達関数の差かもしれず、利き手によって違いがあるかもしれない。

またもう1つの注意点としては、スピーカーを顔の真正面に設置して、80cmぐらいの距離で聴いているときが一番広がりが感じられるというところだ。このオーディオ体験に慣れてくれば、多少横向きでも離れても脳が覚えているので立体感が感じられるが、なかなか立体に聴こえないという方は、しばらく真正面に置いて空間オーディオ配信楽曲を聴いてみるといいだろう。

総論

このサイズで量感のある低音再生、そして若干慣れが必要だが効果の高い空間オーディオ再生を搭載。しかもこれが2万円しないということで、そりゃバカ売れしますよねという納得の商品である。

バッテリーも内蔵し、完全ワイヤレスでどこにでも持って行ける、どこにでも置けるというコンセプトは、これまでの同社ポータブルBluetoothスピーカーの流れを組むものである。

だが個人的に惜しいのは、ハンドルが邪魔ということだ。仕事中に目の前に置きたいのだが、ハンドルが邪魔で微妙にモニターの下の部分が使えなくなる。モニター台を使って上に上げればちょうどいいかもしれないが、できれば常設したい人向けにハンドルなしモデルも作ってもらえると助かる。

正面に置くと微妙にハンドルが邪魔……

入手しやすい価格ゆえに、プレゼントなどでも重宝しそうだ。自分で買う人はかなりアンテナの高い人だと思うが、このサウンドなら貰っても嬉しいはずである。あるいは共有スペースを使ったダンスレッスンなど、音出し設備のないところでの臨時スピーカーとしても使いやすいのではないだろうか。

最近、高級Bluetoothスピーカーが続々と登場してきているところだが、この価格でこれだけのサウンドスケールが出せる製品が出た事で、「価値観の基準」が変わりそうである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。