小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1078回
次はキヤノンのターン!? Vlog専用機「PowerShot V10」
2023年5月31日 08:00
Vlog機続々
デジタルカメラ業界は今、Vlogで湧いている。4月にソニーの「ZV-E1」が発売されたかと思えば、5月11日にはキヤノン初となるVlog専用機「PowerShot V10」が発表。5月16日にはソニーが新カメラのティザー広告を掲載し、5月23日に正式に「ZV-1 II」を発表した。「PowerShot V10」と「ZV-1 II」はどちらも6月下旬発売ということで、どう違うんだ、どっちがいいんだという話になる事は必至である。
「PowerShot V10」はPowerShotシリーズということで、同社コンパクトデジカメを少しモディファイして動画向けにした程度かなと思っていたのだが、実際にモノを見てみると全くの新設計である事がわかった。それでいて直販価格は59,950円とリーズナブル。「ZV-1 II」のおよそ半額ということで、注目度も高い。
キヤノンが自撮りにフォーカスしたカメラを出すのは、これが最初ではない。2013年に「iVIS mini」、翌年に「iVIS mini X」を製品化している。すでに生産完了となっているが、当時としては刺さる人には刺さりまくったカメラであった。
ただ当時は、今のように多くの人が自分にカメラを向けてしゃべりまくるというムーブメントはない。主に踊ってみた・歌ってみた・弾いてみた系のカメラとして重宝された。
できることは似ていても、「iVIS mini」シリーズは、ビデオカメラの技術がベースとなっていた。一方「PowerShot V10」はコンパクトデジカメの技術がベースになっている。このVlogという文脈に、キヤノンが出した答えとは――。
早速試してみよう。
よく考えられたボディ
「PowerShot V10」(以下V10)は、ブラックとシルバーの2色展開。2色とは言ってもトップ部分の色が違うだけで、ボディ大半は艶消しのダークグレイだ。今回はブラックをお借りしている。
ボディ全体としては、アクション系カメラよりは大きいがコンデジよりは小さいという、中間サイズ。重量は211gで超軽量を謳うが、iPhone14の重量が172g、14 Proでも206gなので、スマホよりちょっと重い。実際見た目はスゴく軽そうに見えるので、持つと意外とずっしりくるのに驚く。
見た目が軽そうに見えるのは、デザイン的になんとなくオールドコンデジ風に見えるからではないだろうか。昨今は若い人にオールドコンデジがブームだそうなので、デザイン受けは良さそうである。基本的に縦で使う設計になっており、センサーの向きはこれで横長で撮れる。
レンズは単焦点で、画角は動画撮影時97.5度、静止画撮影時100.2度となっている。35mm換算だと19mmと18mmぐらいという事になる。NDフィルターも3段分(ON/OFF/オート)入っている。
センサーは1インチ裏面照射CMOSセンサーで、動画撮影時の有効画素数は約1,310万画素。3倍までのデジタルズーム搭載、手ブレ補正は電子式だ。
背面には2型約46万ドットのタッチ液晶がある。ディスプレイを上に跳ね上げると自撮りモニターになる。
液晶パネルの下に格納される形で、自立用のスタンドが内蔵されている。一度モニターをちょっと開けないと取り出せないのが、オペレーションとしては微妙なところだ。底部には三脚穴もある。
動画記録サイズとフレームレートは以下のようになっている。
モード | 解像度 | fps |
4K | 3,840×2,160 | 29.97/23.98 |
FHD | 1,920×1,080 | 59.94/29.97/23.98 |
FHDの23.98fps以外の解像度とフレームレートでは、ビットレートが標準と軽量の2つから選択できる。
ボタン類はデジタルカメラとしては一般的な十字キーと4ボタンだが、電源ボタンもここにあるのは珍しい。また動画・静止画切り替えの明示的なボタンはなく、液晶タッチで録画モードを選択した時のみ、「通信ボタン」が動画と静止画ボタンになる。ただ液晶でも変えられるので、特に不便ではない。
端子類は、左側にUSB-C端子がある。バッテリーは本体埋め込み型で取り出せないが、本体充電ではUSB-PDが使える。単に形だけUSB-Cではなく、仕様をスマホに寄せたようだ。反対側にはmicroHDMIと、外部マイク端子がある。
スマホ時代に合わせた軽快な操作性
では早速撮影である。電源ボタンは長押しする必要はなく、1プッシュですぐ起動する。こうしたサクサク感は、スマホから初めて本物のカメラを使う人でも違和感がないだろう。液晶ディスプレイを跳ね上げて自撮りモードにすると、すぐに顔認識してAFが動く。展開から撮影開始まで、数秒で可能になる。
まずは手ブレ補正から見ていこう。手ブレ補正には「OFF」「入」「強」「自動水平維持」の4つがある。
電子補正しかないので、手ブレ補正を強くすればそれだけ画角が狭くなるが、とはいえ元々レンズの画角が19mmぐらいあるので、手ブレ補正強でも26mmぐらいは確保できる。
手ブレ補正「入」でもまずまずだが、大きなブレは補正できない。歩かずに手持ちで撮影する時には、画角と手ブレの両立ができるだろう。「強」ではかなり強く補正できているのがわかる。
自動水平維持は、カメラを傾けても水平を維持する機能だが、補正角度が3度ぐらいしかないので、ほぼ実用性はないように見える。
「美肌動画」以外のモードでは、デジタルズームが使える。バリアブルではなく、倍率を選択するスタイルだ。録画中にはズーム倍率を変更することはできない。
4Kで撮影してHDで見せることを考えると、2倍ぐらいまでは画質劣化はほとんどわからない。19mmではちょっと広すぎるといったケースでは、デジタルズームは有効だろう。電子手ブレ補正とも併用できるため、さらに拡大するのかと思っていたら、画角は変わらなかった。「オート」や「マニュアル露出動画」のときも、あらかじめ電子手ブレ補正ぶんのバッファ領域は確保されているのだろう。
「マニュアル露出動画」では、絞りも開放F2.8から8まで、複数羽根の絞りがバリアブルで動く。極小サイズのレンズでは、絞りは2枚羽根で済む菱形絞りだったり、2つ3つの穴の入れ替え方式でも致し方ないところだが、ここはキヤノンがカメラメーカーとしての意地を見せた。センサーサイズが1インチなので、すごく背景がボケるわけではないが、効果は確認できる。
音声収録を試してみた。本機は上向きにステレオマイクが付けられているが、専用のウインドスクリーンなどはない。録音設定にはウインドカットがあるので、これを「オート」にして屋外で集音してみた。
海岸沿いなので風はそれなりにあることから、音声はわりとフカレてしまう。やはりアクセサリでウインドスクリーンは欲しいところだが、そこそこヒットすればサードパーティが出してくるのではないだろうか。
一方室内での集音は問題ないレベルだ。どういう撮影をするかにもよるとは思うが、19mmという画角はかなり広い。人物撮影では、カメラ前30cmでバストショットぐらいである。全身を撮りたい場合や、背景を多く見せたい場合には有利だが、普通のしゃべりの収録では、デジタルズームを併用したほうがおさまりはいいだろう。
「バエ」が狙える? 多彩な機能
人物撮影においては、美肌撮影は見逃せない機能だ。「美肌動画」モードにすると、1~5までの5段階で補正の強さを切り替えることができる。なお「美肌動画」の効果をOFFにするには、「オート」など別のモードに抜けるしかない。「オート」よりも「美肌効果」のほうが少し画角が広いのは、「美肌効果」モードでは手ブレ補正が効かないので、そのぶんのバッファ領域を解放するからだろう。
順次補正効果が強くなっていくのがわかるが、背景のディテールはそれほど変わっていない。ただ髪のディテールは多少影響を受けているように見える。おそらく「3」ぐらいが一番バランスのいいところだろう。
「オート」と「マニュアル露出動画」のときには、14種類のカラーフィルター機能が使える。それぞれに特有の名前が付けられている。サンプルの動画にはヒストグラムとベクタースコープをオーバーレイしてあるので、フィルターの動きがわかるだろう。なおベクタースコープ表示はわかりやすいように、2倍拡大している。
色調やガンマカーブがかなり大きく変わるのがわかる。料理の撮影にはTastyWarmかTastyCoolがいいだろう。
カラーフィルターは単に選ぶだけで、強度などは変えられないが、もう1つ「色合い」という機能がある。これはマゼンタ - グリーン軸とブルー - アンバー軸の2軸を調整して、色を作っていく機能である。
サンプルではそれぞれのカラーをマックスにした場合を掲載しているが、実際にはこの2軸の色を混ぜていく格好になる。ただ、軸は通信ボタンで切り替えなければならないため、好みの色を見つけるには何度も切り替えが必要になる。十字のマトリックスで決められるようなUIならもう少し楽になっただろう。
総論
Vlog向けとして登場したPowerShot V10だが、この価格帯のカメラの難しいところは、「スマホより綺麗なの?」という部分と戦っていかなければならないところである。いわゆる「バエ」や「美肌」で撮影したい人には便利な機能が搭載されているが、美肌モードでは手ブレ補正やデジタルズームが使えないなど、制約も多い。画像処理プロセッサは2020年に登場した「DIGIC X」ではあるが、処理が重いのだろう。
スマホにないメリットとしては、マイク性能の良さがあるが、屋外撮影ではフカレ対策が必要だ。
一方で電源はUSB PDを採用したり、Macと繋ぐと外部ストレージとしてマウントするのではなく、iPhoneなどと同じように「写真」にマウントしてくるなど、普通のデジタルカメラにはない作りになっている。こうした部分がどれぐらい響くかが勝負だが、ある意味カタログスペックで選ぶより、ユーザーが実際に使い始めてから評価が上がるタイプの製品であろう。
USB接続でライブカメラになったり、PCに繋いでUSBカメラの代わりになったりと、用途は広い。デジカメの新しい姿として、定着するだろうか。