小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1076回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

“ワイヤレスマイクあたりまえ”時代到来!? Anker、RODE、DJI 3種比較

今回テストした3つのワイヤレスマイク

2~3万円で買えるワイヤレスマイク

動画コンテンツの制作は、今やテレビやYouTuber、Vlogerだけのものではなく、一般企業の業務にまで拡がってきている。映像のほうはスマホやデジタル一眼でいくらでも収録できるが、音声の方は基本アナログ技術なのでノウハウが多く、なかなかうまくいかない、わからないという問題がある。

胸元に付けるラベリアマイクも利用したいところだが、業務用のワイヤレスマイクはなかなか高価である。そんな中、1~2年前からコンシューマでも使えるワイヤレスマイクが登場してきた。火付け役は、2021年4月のRODE「Wireless Go II」あたりではなかったかと思う。特にスマホ対応となったあたりから、急速に注目されるようになってきた。

そして今年もなかなか強力なモデルが登場している。1つは4月21日発売の、RODE「Wireless ME」だ。「Wireless Go II」はマイク2つとレシーバ1つのデュアルマイクセット、マイク1つとレシーバー1つのシングルマイクセットが用意されていたが、今回はマイク1、レシーバ1という構成のみだ。ただしレシーバ側にもマイクがあり、事実上デュアルマイクである。価格は25,300円と、かなり安いのも魅力だ。

もう1つはモバイルバッテリーやイヤフォン、プロジェクタ等でお馴染みAnkerの製品だ。これまではどちらかというとコンテンツを楽しむ側の製品がメインだったが、これまで会議用スピーカーやWebカメラなどを展開してきた「AnkerWork」というサブブランドから、ワイヤレスマイクを投入してきた。それが「AnkerWork M650 Wireless Microphone」だ。4月19日から発売開始しており、価格は34,990円。

今回はこの2製品をテストしてみたい。なおリファレンスとして、DJIの「DJI MIC」もお借りしている。発売当初はデュアルマイクと充電ケースのセットで4万円強(現在は49,720円)で販売されていたが、マイク2つもいらんやろという人のために、マイク1+レシーバ1のシンプル構成となったモデルも36,520円で販売中である。

リファレンスとしてお借りした、2021年発売のDJI MIC

よく練られた構成、RODE 「Wireless ME」

デュアルマイクのWireless GO IIの場合、出演者2人でカメラ担当者はしゃべらない(専任)という現場向けだったが、Vlog等の撮影では出演者と撮影者2人の掛け合いも多い。こうした用途になると、Wireless GO IIではカメラ側にレシーバに加えてマイクも付けなければならず、面倒だった。「Wireless ME」はレシーバ側にもマイクを搭載することで、この面倒を一気に解決しようという製品である。

ワイヤレスマイクおよびレシーバは、Wireless GOシリーズを継承した四角いデザインだが、今回は表面にRODEのロゴであるφマークが大きくフィーチャーされている。

1ペアとなったWireless ME

製品としてはワイヤレスマイク×1、レシーバー兼マイク×1、ウインドスクリーン×2、USB-TypeC - Lightninngケーブル×1、USB-TypeC - USB-TypeCケーブル×1、ステレオミニケーブル×1、PC用ステレオミニケーブル×1、キャリングポーチ×1となっている。

付属ケーブル4種
キャリングポーチも付属

マイク側の構成は他のWireless GOシリーズと同じで、上面にマイクと外部マイク入力端子、側面に充電用USB端子を備える。背面のクリップには、こっちが人に付ける側ですよというピクトグラムが貼られており、TXやRXという意味がわからない人でも間違いなく使えるよう、工夫されている。

ワイヤレスマイク側。上部に内蔵マイクとラベリアマイク入力
右側に充電用USB端子
人に取り付けることを示すピクトグラム

レシーバ側は、上位の製品には小型ディスプレイがあったが、今回は省略されている。またWireless GO IIにあった本体録音機能もない。見た目はトランスミッタ側とほぼ同じだが、上下が逆にデザインされている。つまり底部にマイクがあるという格好だ。これはクリップ部分がカメラのアクセサリーシューに差し込めるようになっているからで、マイクが撮影者のほうに向くよう設計されているということである。

レシーバー側にも底部にマイクがある
裏面にカメラ側であることを示すピクトグラム

側面には充電用USB端子と、アナログオーディオ出力がある。またクリップ部には、こちらをカメラ側に付けるんですよというピクトグラムがある。ちなみにレシーバは2台ぶんのマイク受信機能がある。つまりWreless GOシリーズのワイヤレスマイクをもう1つ用意すれば、3マイク収録もできる。

送受信は2.4GHzで、伝送距離は見通し約100m。連続駆動時間は最大7時間となっている。

またRODEのワイヤレスマイクが活用できるiOS用アプリ「RODE Capture」も公開された。撮影用アプリだが、RODEマイクのファームウェアアップデートもできる。これはあとで試してみよう。

他社製品をよく研究してきた「AnkerWork M650」

「AnkerWork M650」は、ワイヤレスマイク×2、レシーバ1のデュアルマイクシステムだ。そのほかレシーバをスマホに接続するためのUSB-CとLightningアダプタ、ウインドスクリーン×2、充電ケース、ステレオミニケーブル×1、USB-Cケーブル×1、キャリングポーチ×1となっている。

ウインドスクリーン以外は充電ケースに全部収まるAnkerWork M650

ワイヤレスマイクは円盤形で、上面にマイク、外部マイク入力端子があり、左側にはペアリング/ミュートボタンがある。背面のクリップは、90度ごとに回転できるようになっており、挟める方向に応じてマイクの向きが変えられるようになっている。またクリップ自体が強力なマグネットでくっついており、どこにも挟む場所がない場合は、服を間に挟んで固定できるようになっている。

ワイヤレスマイク部
側面のミュート/ペアリングボタン
背面のクリップはマグネットでくっついている

また表面のカバーは、別の色に付け替えられるようになっている。お借りしたのはブラックモデルだが、ソフトゴールドとダークグリーン2色のカバーが1個ずつ付属している。確かに服によっては黒が合わない場合もあり、色つきのほうがしっくりくるケースもあるだろう。こうした工夫は、競合他社には見られないところである。

カバーは標準のブラック以外に、ソフトゴールドとダークグリーンに付け替え可能

2つのマイク側にそれぞれ約4時間分の録音用ストレージがあり、レシーバ側の操作で音声録音もできる。「セーフモード」をONにすると、-6dBゲインを下げて録音できるなど、細かいところも気が利いている。

ウィンドスクリーンは外部入力端子に差し込んで固定する

レシーバは立方体で、クリップ部分はアクセサリーシューに付けられるようになっているあたりは、RODEと似ている。また背面に端子があり、ここにUSB-TypeCやLightningのアダプタを取り付けることで、スマートフォンと直結できるようになっている。このあたりはDJI MICと同じ発想である。

正面にタッチディスプレイを搭載したレシーバ
背面の集合端子にアダプタを接続する
USB-Cアダプタを装着したところ

本体左側にはUSB-C端子とアナログアウトがある。また右側には、タッチスクリーンのロックボタンがある。送受信は2.4GHzで、伝送距離は見通し約200m。

左側にUSB端子とアナログ出力
右側にスクリーンロックボタン

正面のタッチスクリーンは、上から下にスワイプするとレシーバーの設定、左から右がマイク1の設定、右から左がマイク2の設定となっている。下から上にスワイプすると、2つのマイクの同時制御を行なう設定が出てくる。

上から下にスワイプするとレシーバ側の設定
左から右にスワイプするとTX1の設定
下から上にスワイプすると同時制御メニュー

動作時間は約6時間、充電ケースを併用すると最大15時間使用できる。短時間充電にも対応しており、30分の充電で約4.5時間分使用できる。

充電ケースは、他社製品に比べるとやや大きめだ。マイク2つとレシーバ、変換端子2つが内蔵できる。ウインドスクリーンは入らないが、別途キャリングポーチが付いているので、そちらに入れておけばいいだろう。

キャリングポーチも付属

3者3様の個性

まず、それぞれの音質を比較してみよう。今回の収録は、DJI MICはソニーZV-E10にアナログ入力、RODE Wireless MEはLightningアダプタを使ってiPhone 12 miniのRODE Caotureで、AnkerWork M650はUSB-Cアダプタを使ってPixel 6aの動画撮影機能を使って同時録音している。

また今回は周波数特性がわかりやすいように、DaVinci Resolveの周波数アナライザーをオーバーレイしている。

DJI MIC、RODE Wireless ME、AnkerWork M650。3つのマイクで同時録音

DJI MICは、音声収録に特化した周波数特性で、低域はそれほど出ていない。一方で高域への抜けがよく、明瞭感の強い「硬い音」であるのが特徴だ。

AnkerWork M650は低域まで特性が出ており、量感豊かな聞こえ方をする。ただしゃべりの集音という意味では、ここまで低域がいるかなという気もする。特性としてはボーカルマイクに近いのではないかと思う。しゃべりよりも音域を広く使う歌モノや、楽器の集音などにはなかなかいいのではないだろうか。

AnkerWork M650の場合、PC/Mac用のコントロールアプリが提供されている。本体では設定できない機能としては、低周波フィルターやイコライザーの設定があり、音質がある程度いじれるようになっている。

PC用アプリ「AnkerWork」

ただ、提供ソフトがパソコン用のみということもあり、現場で音を聴きながら調整していくという感じでもない。例えば低音をカットする低周波フィルターなどは、現場で音をモニターしながら設定したいわけだが、事前にヤマカンで仕込んでおくような事になってしまう。機能はあるのに、現場感と直結していないのが惜しい。

RODE Wireless MEは、しゃべりの集音としては抜けが良くすっきり聴かせるが、硬いわけではないという非常によく錬られた周波数特性で、安心して聴ける音になっている。このあたりはさすがマイク専門メーカーの面目躍如といった格好である。

続いて、長距離伝送をテストしてみた。どの製品も免許不要な2.4GHz帯を使用しており、伝送距離は技適で決められた出力範囲およびプロトコルのチューニング次第という事になる。スペック上の伝送距離は、DJI MICが250m、RODE Wireless MEが100m、AnkerWork M650が200mとなっている。

見通しのいい場所で、およそ50mずつ離れて、最終的に200m超の距離までテストしてみた。

3つのマイクの伝送距離をテスト

50m地点では、DJI MICは問題なく集音できる。AnkerWork M650は、多少ノイジーではあるものの、まあ使えなくはないかなという程度である。RODE Wireless MEは、かなりノイズが入ってしまい、ちょっとコンテンツとしてはどうかなという感じだ。

100m地点では、DJI MICは多少ボコボコ言っているものの、ノイズまじりで聞き取りづらいという感じではなく、まずまずではないかと思う。AnkerWork M650は、何をしゃべっているかはわかる程度だが、かなり音としてはガラガラで、コンテンツとしてはちょっと使えないかなといったレベルだ。RODE Wireless MEは、ほぼ伝送限界距離ということもあり、ところどころしか聞こえてこないという状況だ。

150mまで離れると、DJI MICの強みが出てくる。多少ノイズは入るものの、音質には影響なく、何をしゃべっているかも明確だ。AnkerWork M650は、かなりガラガラではあるものの、何をしゃべっているかはわかる。RODE Wireless MEはそもそもスペック外の距離であり、聞こえないのは当然であるが、周期的に入る瞬間があるといった感じだ。

200m地点となると、DJI MICは100m、150m付近の入り具合とあまり変わりがない。ときおりノイズは入るものの、しゃべりの内容を邪魔するほどでもなく、良好だ。AnkerWork M650は、スペック上の伝送距離ぎりぎりであるが、音声はノイズ混じりではあるものの、しゃべりが途切れるわけでもなく、内容はわかる。ただ、動画コンテンツとしてはちょっと使いづらい。RODE Wireless MEは、完全に受信圏外なので音声は全く聞こえない。

こうして比べてみてわかるのは、DJI MICは伝送距離に関してはバケモノで、このあたりはドローンで培った遠距離伝送技術のカタマリである事がわかる。

AnkerWork M650は、確かに200mまで伝送はできるものの、音質的にはすでに50mぐらいからガラガラである。通話音質としては許容できるが、映像コンテンツとしては使いづらい。このあたりのチューニングは、コンテンツ制作というよりはトランシーバーのようなチューニングで、会話が成立する程度の音質を目標にしているのではないかという気がする。映像制作向けであれば、伝送距離は短くても、もっとS/Nを上げるべきだろう。

RODE Wireless MEはスペック上では100m伝送が可能だが、50mでも厳しい。音質的には悪くないが、ワイヤレスとは言ってもせいぜい5~10m程度の距離で使う想定でいたほうが無難だろう。

それぞれに特徴的な機能

次に、それぞれの特徴的な機能からチェックしていこう。RODEのほうは、新アプリのRODE Captureがポイントだ。基本的にはカメラアプリだが、インカメラとアウトカメラが同時に撮影できるという特徴がある。2つの映像は、PinPやスプリットとして同時収録もできるし、それぞれ別のファイルとして同時収録することもできる。

裏表で同時撮影ができるRODE Capture

Wireless MEとの組み合わせでは、レシーバ側のマイクのON/OFFや、ミックス録音するのか、またLR別々に録音するのかを設定できる。オートゲインも有効だが、入力ゲインのモニタリングや調整も可能だ。Wireless GO IIと違い、レシーバ側にレベルメーターがないため、こうしたサポートソフトはできるだけ利用した方がいい。

2つのマイクの設定ができる
RODE Captureで撮影した動画

一方AnkerWork M650のほうで特徴的なのは、ノイズリダクションを内蔵していることだ。OFF、弱、強の3段階から選択できる。交通量の多い道路際でテストしてみたところ、車の走行音などは、「弱」でも十分効果がある。音質の変化も少ないので、使いやすい。「強」にするとかなり強力にリダクションすることができ、背後にトラックが通ってもロードノイズはほぼ聞こえてこない。ただ、ちょっと音声がクリップする箇所があるので、使いどころには注意したいところだ。

ノイズリダクションをテスト

総論

RODEのワイヤレスマイクは高価なのが玉に瑕だったが、マイクユニットを減らしてレシーバ側へ統合し、価格をぐっと下げてきた構成は、非常に納得できる。特に自分でカメラを回すクリエイターにとって、ちょうどいい構成と言えそうだ。単にスマホで撮影、録音する場合にも、2マイク使えるので、取材でインタビューする際などにも重宝するだろう。

弱点としては、本体内部に録音機能がないので、スタンドアロンでは動かないというところである。またスマホと組み合わせる場合、コネクタで固定できるわけではなく、ケーブル接続になるので、レシーバをどう固定するか工夫が必要になる。

AnkerWork M650は、同社初のワイヤレスマイクとなるわけだが、よく研究されている。ノイズリダクションなどは、イヤフォンの通話機能で実績があることから、なかなか出来がいい。マイク側にも録音機能があり、このマイクシステムだけでもレコーダとして使えるのもポイントだろう。

ただ長距離伝送での音質となると、コミュニケーション向けの「話が聞こえりゃいい」的なチューニングになっており、制作には使いづらい。ローカルで録音できるとはいえ、ワイヤレスであることの意味からすれば、伝送距離は50m程度に落としても、とにかくノイズが入らないというチューニングにシフトすべきだろう。

DJI MICは長距離伝送の品質やローカル録音機能なども含め、全能感のある品質である。価格的には頭1つ抜けた格好だが、この品質ならば納得できる。

今回のテストではそれぞれに特徴があることがわかった。コストバランスも考えながら、自分の用途に最適な製品を選んで欲しい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。