小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1085回
ショッピングモールのアナウンス、どんな装置で流してる? QBEEで見た「業務の世界」
2023年7月26日 08:00
夏の恒例行事、QBEE
7月19日、20日の2日間、福岡国際センターにて九州最大のプロフェッショナル向け放送・業務用機材展「九州放送機器展2023」が開催された。例年11月に開催されるInterBEEは、国内最大の放送機器展で、守備範囲も非常に広いが、九州放送機器展ことQBEEでは、どちらかというと業務用機の展示が多いという違いがある。
ネット放送などは基本的にテレビ放送をダウングレードした格好なので機材も似ているが、本当に専門性の高い業務用機というのは、ほとんど人の目に触れることもなくひっそりと稼働しているので、その業界にいても見る機会が少ない。
今回はそうした専門性の高い機器を沢山見る事ができたので、「そんな機材でやってたのか!」と思っていただければ幸いである。
ショッピングモールなどのリピートアナウンスを出す装置
ショッピングモール内を歩いていると、様々なアナウンスに遭遇する。エスカレーターでは「足もとにご注意ください」というアナウンスが1日中流れているし、セール期間中にはキャンペーン情報が流れてくるし、夕方5時からのタイムセールの案内や、定時には従業員に向けたフロアチェックのアナウンスも流れてくる。
こうした定期的に毎回流れるアナウンスは、何らかの機材で行なわれているのだろうとは想像が付くが、実際どのような機材なのか。それがCES Insdustrialというメーカーの、メッセージステーション「MS-404NW」および「MS-202NW」だ。CES Insdustrialは浜松で2018年に創業した比較的新しい会社だが、実は元ローランドの社員が中心となって起業している。
かつてこうした市場はローランドの「ARシリーズ」というレコーダー兼プレーヤーがほとんどのシェアを占めていたが、同シリーズが販売終了となったことから、それを引き継ぐ格好でローランドOBが起業した。
SDカードに収録した音声を、プログラムやプレイリストを使って自動再生する。アナウンスは決まった時間間隔や定時に出せるだけでなく、プログラムにより週間、年間単位でもスケジュールが組める。内部に24プログラム、1プログラムあたり500ステップ設定可能。プログラムはイントラネットを使って外部から流し込める。また外部コントローラからマニュアルでもポン出しできるよう、制御端子も設けている。
アナログ入力もあり、有線やCDなどの音楽もミックスできる。さらにマイクを繋げば、緊急のアナウンスにも対応できる。
「MS-404NW」は既発売の製品で、4ch独立した出力が出せる。例えば館内全体やフロア別、売り場別などに分けて、別々のアナウンスが4出力できる。「MS-202NW」は来年1月発売予定の新モデルで、2ch仕様にして価格を下げたモデルだ。
どちらも単体で購入するというよりは、システム設計した施工業者がインストールする製品である。こうした1分1秒単位で正確に決まったアナウンスを出すというニーズは世界の中でも日本にしかないという。
テレビの字幕放送を作る装置
テレビのリモコンにある「字幕」ボタンを押せば、ほとんどの番組で字幕が表示される。これは2018年に策定された視聴覚障害者等向けの指針として、6時から25時までの放送には、一部対象外の番組を除いて全てに字幕を付けなければならない事になっているからである。
対象外の番組とは、複数人が同時にしゃべるような番組だ。すなわち情報バラエティなどは、現在対象外となっている。
朋栄では、クラウド音声認識サービスを利用した字幕放送制作支援ツール「NeON-CA」の新バージョンを出展した。音声認識AIは、Speechmatics、Google、Microsoft Azureの3つから選択できるが、国内で最も利用されているのはSpeechmaticsだという。
字幕放送の制作は、録画番組なのか、生放送番組なのかで方法論が異なる。録画番組の場合は放送前に番組ファイルが入手できるため、事前に字幕データ作成作業ができる。
まず番組ファイルをアップロードすると、クラウド上でプロキシファイルが作られる。このプロキシファイルを元にAIで音声認識させ、ベーシックな字幕データが作成される。これを人が修正して字幕ファイルを作成し、オンエア時に本番の映像とともに出力される。
一方ニュース番組などの生放送番組では、スタジオでの本番を30秒ほど早くスタートさせ、遅延装置を間に挟み込む。字幕作成はその30秒のタイムラグの間に作成し、オンエアのタイミングに合わせて送出される。
基本は3人体制で、2人が1枚ごと交互にAIが生成してきた字幕のチェック及び修正を行ない、1人が内容確認の上で映像・音声とのタイミングを見て送出するという。
この字幕放送、現在はNHKおよびキー局のみが対象だが、地方局でも2027年までに対象番組の80%以上に字幕を付けなければならないことになっており、今後こうした字幕作成システムは全国の放送局で使なわれる事になる。
オールインワンOBS専用端末
今やネット中継も重要な業務になってきているが、スイッチャーやミキサーなどのハードウェアベースでやるスタイルと、PCとソフトウェアでやるスタイルとに二分されてきている。PCベースは低価格で柔軟性も高いが、映像や音声の入出力ボードが必要だったり、配線回りでゴチャゴチャするのが難点だ。
バイオスの「Blastreams」は、14インチディスプレイを内蔵したLinuxベースのネット配信専用PC。背面というか天面に4Kまで対応するSDIとHDMIの入力を備え、USBカメラ、ネットワーク端子はNDI機器も接続できる。
スイッチングソフトウェアはOBS Studioで、こちらはプリインストールではなく自分でインストールする方式。OBS Studioは無料ソフトだが、プリインストールするとライセンス料がかかるということで、ユーザーが自分でインストールする方式にしたそうだ。
前面にはシーン切り替えやトランジション、REC、LIVEといったボタンを備え、キーボードやマウス操作と合わせて使用できる。九州では昨年の「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」で使用されたという。価格は約45万円。
SM58もワイヤレスに。100人規模のポータブルPA機器
地域のイベントやお祭りなども徐々に復活しつつある昨今だが、コロナ禍の数年間動かさなかったために、道具や機材がすっかりダメになってしまった自治会などもそこそこあるようだ。
BOSEの「S1 Pro Plus」は、バッテリーで11時間使用可能なポータブルPAスピーカー。前モデルとして「S1 Pro」があり、これにトランスミッタモジュールを2系統追加されたのが「S1 Pro Plus」である。すでに米国では発売されており、日本では9月~10月に発売予定。
ボディは背面や底面の一部がカットされたようなデザインになっており、縦にも横にも斜めにも置ける。内部にジャイロセンサーを搭載しており、ボディがどの状態で置かれたかを検知して最適なEQを自動的に適用する。
入力ノブは押しボタンになっており、音量のほかバス・トレブルといったトーンコントロールや、リバーブも内蔵している。ノブ横のディスプレイは、ボディの置かれた体制に応じて表示が回転する。
マイク用のトランスミッタをボディ内に収納でき、SM58など本来ケーブル接続で使うマイクに装着すると、ワイヤレスで伝送できる。伝送距離はおよそ9m。Bluetoothスピーカーとしても使用でき、スマホから音楽やアナウンスを流すといったこともできる。あいにく防水防滴仕様ではないため、雨天での屋外使用はできない。
日本での価格はまだ決定していないが、だいたい10万円超ぐらいになると思われる。個人で買うようなものでもないが、自治会などでは買いやすい価格だ。
総論
九州放送機器展は小規模な展示会で、全体は半日あれば楽に回れる規模である。このためメーカーさんとも話がしやすく、思いがけず深い話が聞けたりする。機材を見に行くというより、技術トレンドを聴きに行くというほうが主眼の展示会だろうと思っている。
放送専用機器ももちろん展示してあるが、昨今はイベント業務が再開され、放送以外の機材展示のほうがアグレッシブなものが多かった。またヨーロッパ最大の放送機器展であるIBCが9月に控えており、そこで出展予定の最新機材もこっそり展示されていたりする。
今回はちょうど期間中、隣のマリンメッセ福岡で「世界水泳2023 FUKUOKA」が開催されており、近隣のホテルが軒並み高騰するというアクシデントもあったが、九州地方の映像関係者は最新の機材に触れる機会が少ない。日帰りでも顔を出すべき展示会である。