小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1104回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Anker、JBL、Oladance、最近注目の“ながら聴き”イヤフォン聴き比べ

左からOLADANCE AUDIO「Oladance OWS Pro」、JBL「JBL SOUNDGEAR SENSE」、Anker「Soundcore AeroFit Pro」

第2章スタート

耳を塞がない系のオープン型イヤフォンが好調だ。最初にトレンドになるかも、と感じたのは2022年の下記記事の時だ。元々耳を塞がないというコンセプトではShokzら骨伝導ヘッドフォンが先行したが、骨伝導は作れるメーカーが限られる。

一方で耳に引っ掛けて耳穴近くで音を吹くという方法論でベンチャーと老舗オーディオメーカーが相次いで参入したことで、この方式の将来性が際立った。ただどうしても耳から離れた位置から音を吹き付ける格好になるため、低音表現が課題となっていた。だがそれもShokzが今年7月に発売した「OpenFit」で解決してみせたことで、音楽を聴くイヤフォンとしての「能力不足」感がなくなった。耳を塞がない系は、今年早くも第2章の幕開けといった格好である。

そんなわけで今年夏以降に発売されたオープン型イヤフォン注目機を集めて、その技術的な進化点を見極めてみたい。今回テストするのは、8月21日発売のOLADANCE AUDIO「Oladance OWS Pro」34,800円、10月13日発売のJBL「JBL SOUNDGEAR SENSE」22,000円、そして11月15日発売のAnker「Soundcore AeroFit Pro」22,990円だ。

さすがの作り、「Oladance OWS Pro」

Oladanceの初代モデルは昨年紹介済みだが、16.5mmというマルチマグネット構造大型ドライバを搭載し、バランスの良い音で好印象だった。

第2弾となるOladance OWS Proはフラッグシップという位置づけで、「メビウスの輪」をモチーフにしたデザインが美しい。カラーバリエーションはブラック、ホワイト、シルバー、ピンク、グリーンの5色で、今回はホワイトをお借りしている。

Oladance OWS Pro ホワイトモデル

表面に露出する白い部分は光学多層膜でパール地のコーティングが施されている。ドライバも23×10mmの細長いタイプを採用したことで、全体的に細身でエレガントなスタイルとなっている。

光学多層膜によるパール地が美しい

音の放出口は裏面と底面にあり、通話用マイクも備える。上部にはタッチ操作できる長細いボタンがあり、押すだけでなく、長さを生かしたスライド操作もできる。

底部の放出口はかなり長い
上部の細長いバーが操作ボタン

裏側の中央部に電源ボタンがあるが、これはわかりにくい。最初にいつまでもペアリングしないと思ったら、電源が切れていた。一度ONにしたらOFFにすることはないと思うが、そもそも電源ボタンがいるのか、という疑問もある。

よく見ないと気がつかない電源ボタン

重量は片側13.8gで軽量のうえ、装着するとかなりガッチリハマっている感があるので、ランニング等で簡単に落ちる事はないだろう。接続コーデックは資料にないが、Androidとの接続ではAACだったので、AACおよびSBCに対応しているものと思われる。

装着の姿もエレガント

ケースはかなり大型だが、化粧品のコンパクト的なサイズと厚みなので、ポーチなどにも入れやすいだろう。バッテリー持続時間は、イヤフォン単体で16時間、ケース併用で最大58時間。15分の充電で最大6時間使える急速充電にも対応する。

ケースはかなり大型

本体フック部の先端に充電端子を設けたのはユニークだが、ケースに戻す際には上下をひっくり返して入れなければならないため、若干ややこしい。

フック部に充電端子

オーソドックスで堅実な設計「JBL SOUNDGEAR SENSE」

JBLとしては初となる耳を塞がない系イヤフォンが「JBL SOUNDGEAR SENSE」だ。カラーはブラックとホワイトで、今回はブラックをお借りしている。

JBL SOUNDGEAR SENSE ブラックモデル

スピーカー部だけで機能的には完結し、イヤーフックは本当にフックだけというシンプルさだ。他社製品がかなりデザインコンシャスになっている流れの中で、かなり「堅い」設計でまとめてきた。

本体部だけで完結するシンプルな作り

ただしイヤーフックと本体部の間にヒンジがあり、角度が4段階で設定できるなど、実用性は高い。耳への装着感はゆったり目で、装着性の良さにこだわってきた設計思想はこの製品にも生きている。またイヤーフック部を繋ぐネックバンドも同梱されており、これを使用するとかなりガッチリ固定された装着感となる。

左が一番鋭角、右が一番広角にセットした状態
左右を繋ぐネックバンドも付属

16.2mmの大型ドライバを採用し、独自のBASSエンハンスメントで低音強化したサウンドチューニングとなっている。また逆位相音を拡散させて音漏れを防ぐというアプローチも採られている。

大型ドライバで正面から直接音を放出する設計

表面のJBLロゴのあたりがタッチセンサーになっており、右のタッチで再生・停止、ダブルタッチで次のトラック、トリプルタッチで前のトラック。左のタッチで音量アップ、ダブルタッチで音量ダウンとなる。

ロゴのあたりがタッチセンサーになっている

2台の再生機に同時接続できる「マルチポイント」にも対応。左右どちらか片方だけでも使用可能なので、長時間の会議等でも片側ずつ使えば、かなりの時間対応できるだろう。通話用マイクは片側2基搭載し、ビームフォーミングによる集音に対応する。

重量は片側13.1gで、対応コーデックはSBCとAAC。将来のアップデートでLE Audioにも対応するので、LC3対応となる予定だ。

ケースもオーソドックスな横型でバッテリーは本体で約6時間、ケースと合わせて約18時間再生。15分充電で4時間再生の急速充電にも対応する。

手の混んだ意匠が面白いAnker「Soundcore AeroFit Pro」

オーディオブランドとしてもすっかり定着した感のあるAnker Soundcoreだが、こちらもブランド初となる耳を塞がない系へ参入だ。同時発売で「Soundocre AeroFit」(16,990円)もあるが、Proはプレミアムモデルという位置づけになる。カラーはミッドナイトブラック、ソフトホワイト、ミントブルー、ディープパープルの4色で、今回はミッドナイトブラックをお借りしている。

Soundcore AeroFit Pro ミッドナイトブラックモデル
同時発売の「Soundocre AeroFit」(右)とはかなり設計が違う

設計としては、上記2モデルの中間といったところ。つまり16.2mmの大型ドライバを搭載しつつ、イヤーフック部にバッテリーを分散するという作りだ。Proのみの特徴として、内部にジャイロセンサーを実装し、ヘッドトラッキングによる3Dオーディオも楽しめる。

大型ドライバを搭載し、バッテリーはフック部に分散

音の開口部は内側と底面の2箇所。内側開口部のガードにはただのパンチングではなく模様になっており、芸の細かいところを見せている。背面に圧力を逃がすためと思われる開口部もあるが、ここもサイズの違う3つの穴でデザインされている。さらに表面の音符ロゴ部分も、角度によってちりばめられたロゴが浮き上がるというデザインになっているが、さすがにそこまでは押しがクドい。

音の放出部は2箇所
表面の放出口と物理ボタン
反射によってロゴが浮き出る

操作ボタンは上部に物理ボタンで左右に1つずつ。デフォルトでは右の1回押しでボリュームアップ、左の1回押しでボリュームダウン。右の2回押しで再生・停止、左の2回押しで次のトラックとなっている。

装着感は非常に滑らかで、耳への当たりも軽い。またJBL同様左右を繋ぐネックバンドも付属しているが、こちらは長さを調節できる機構が付いており、運動時の固定に役に立つ。

ドライバは耳から浮いている状態で固定される
長さ調節可能なワイヤー型ネックバンドが付属

コーデックはSBCとAACで、マルチポイント機能、ビームフォーミングマイクも搭載する。重量は片側12.2gで、サイズ的に小さいわけではないが、3モデル中もっとも軽い。

ケースは平形だが、ボタンを押して蓋が開くようになっており、ボタン部分にもLEDをあしらって高級感を演出している。開くと蓋のお尻の部分が脚部となって立体的に持ち上がるなど、細かいところまでよくデザインされている。

ケースは立体的なデザイン

バッテリー持続時間は本体で14時間、ケース併用で46時間。10分充電で5.5時間再生の急速充電にも対応する。

三者三様の個性がある音質

では順に音質をチェックしていこう。今回聴いていくのは12月1日にリリースされたピーター・ガブリエルの新譜「i/o」のBlight-Side Mixから、リズムが軽快な「Road to Joy」。再生機はPixel 6aで、Amazon Musicから再生する。

Oladance OWS Proは、初回作もなかなかクリアでバランスのいい音だったが、基本路線は変わらない。不足気味とされてきた低音だが、今回は変形ながらも大型ドライバを採用したことで、バスドラのアタック感はなかなか健闘している。ただベースラインはやや腰高な印象だ。音の広がりは十分で、イヤフォンというよりオープン型のヘッドフォン近い。

曲の前半は良好だが、後半で楽器数が増えてくるとかなり音が歪みっぽくなる。音量を上げると歪みが出るようだ。音量を半分以下に絞ると良好なので、ドライバの駆動が大音量に耐えられないのではないかという気がする。BGMレベルで音楽を楽しむなら十分対応できるだろう。音質的には高域の解像感に優れており、明るく開けた感じのサウンドだ。

アプリによるプリセットサウンドは、デフォルトほか、迫力ある低音、クリアな人の声、カスタムが選択できる。また外部雑音を抑制する「フォーカスモード」を備えるが、正直これをONにしても効果がよくわからない。ノイズキャンセリング的な効果があるわけではなさそうだが……。

EQはプリセット3種のほか、カスタムも可能
フォーカスモードは効果が確認できなかった

JBL SOUNDGEAR SENSEは、デフォルトのEQとして「JBL SOUNDGEAR SENSE」が当てられている。ただこのカーブでお分かりのように若干鼻をつまんだような音になっており、あまり印象は良くない。フラットに近い「STUDIO」のほうが良好のように思えるのだが……。

SOUNDGEAR SENSE専用のEQだそうだが……

EQがOFFの素の音は、低域から高域までバランスが良く、非常に良好だ。また4段階の角度設定でも高域・低域特性が変わる。EQでいじるより、むしろこのポジションで調整した方が自然で好ましいように思える。ただしポジションを一番下にすると、耳から浮いたところから鳴るというより、ほぼ耳にガッツリ当たる格好になる。

またアプリでは、オーディオモードとビデオモードの切り替えができる。切り替えると接続し直すので、ビデオモードではローレイテンシーで接続しているようだ。ただオーディオモードでもものすごく映像とズレるというわけではないので、実用上はそれほど気にしなくても大丈夫だろう。

オーディオモードとビデオモードの切り替えができる

Soundcore AeroFit Proは、3モデルの中で一番低音がよく出る。オープン型は低音がイマイチと感じている方には、満足度が高いだろう。ただデフォルト状態では全体的に低音に引っぱられて、高域の抜けが若干マスクされる。このあたりはカスタムEQで多少いじってやると、イイ感じになるだろう。Soundcoreではユーザーの聴感特性を測定して最適なEQを提供する「HearIDサウンド」が特徴だが、さすがにオープン型では特性が測定できないということか、この機能は搭載されていない。

EQ設定はシンプル

また本機にはヘッドトラッキングを含む3Dオーディオ機能がある。これはステレオ音楽に対しても有効で、これを使うと音像が一段大きく拡がるのがわかる。ある意味音がちょっとオフ気味になる傾向はあるが、イヤフォンで聴いているという感覚が薄くなるということで、仕事しながら音楽を聴くにはいいだろう。

3Dモードも搭載

3Dモードではヘッドトラッキングの有無が選択できる。ヘッドトラッキングの追従性は、一般的な対応機器寄りも若干遅れ気味のように聞こえる。ディレイがあると「音像酔い」が起こるので、気持ち悪いようであれば、ヘッドトラッキングはOFFで使うといいだろう。

またこちらも音楽モードとムービーモードがあるが、これは遅延量の切り替えではなく、音質の切り替えになっている。ムービーモードでは低域がより沈み込み、高域はやや抑え気味になる。

総論

今年後半に登場した3モデルを聴いたわけだが、これだけ低域がちゃんと出るモデルが出そろうと、オープン型イヤフォンは低音が出ないというのはもう過去の話と言って良さそうだ。音質的には三者三様それぞれに良いところがあり、個性が大きく異なる。聴覚測定とDSPによりもうだいたいどれも同じような音になってきたカナル型とは違い、まだまだこれから様々な創意工夫が生まれそうなジャンルだと再認識した。

もともとオープンなので、昨今音源が増えてきた空間オーディオとも相性がいいのもポイントだろう。頭内定位はかなり解消され、スピーカーで聴いているのと変わりない音場が感じられる。

装着感に関しても、それぞれに微妙な違いがある。単純に軽ければ良好というわけではなく、重心をどこに持ってくるかで耳への負担感が変わってくるところも面白い。オープン型は常用利用が前提となるので、耳への当たりが少ない方が良好に感じられるだろう。一方で耳に押しつけるほど低音は出るわけで、音質を取るか当たりを取るかは、悩ましいところだ。

JBLとAnkerが参戦を果たしたことで、耳を塞がない系も一過性のブームではなく、1つのジャンルとして長く定着しそうだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。