小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1103回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Intra360のエース、アクションカメラの王道「Insta360 Ace Pro」

上位モデルとなる「Insta360 Ace Pro」

業界地図が変わる

コロナ禍の反動もあるのか、あるいはコロナ禍を踏まえたVlog需要に支えられてか、ここに来てアクション系カメラが急速に進化している。現時点ではGoPro、DJI、Insta360がトップ3を走っているが、中でもInsta360は他社とは違ったユニークな設計で注目を集めている。

過去Insta360のアクション系カメラは、モジュール組み立て式の「ONE RS」や小型カメラとディスプレイ/バッテリーモジュールを組み合わせる「Insta360 GO3」など、モジュール型のカメラを得意としてきた。

それが一転、11月21日に発売された「Insta360 Ace Pro」および「Insta360 Ace」は、モジュールが分離しないストレートなアクションカメラとして登場した。もはや正攻法でも勝てるという自信の表われだろう。

上位モデルのAce Proが1/1.3インチセンサー搭載で67,800円、Aceが1/2インチセンサー搭載で55,000円となっている。今回はAce Proをお借りしている。今年6月にInsta360 Go3が出たばかりだが、半年以内にさらに2モデル追加と乗りに乗っているInsta360の新作を、早速試してみよう。

基本通りのボディ設計

まずボディだが、いわゆるGoProスタイルとも言える横型コンパクトカメラで、「LEICA」のブランドロゴを冠したレンズガードの赤い差し色が映える。モデル名が書いてある底部の幾何学的な立体感も面白い。なおライカとの共同開発はAce Proのみで、下位モデルのAceは単独開発となっている。

注目の光学部は「SUPER-SUMMARIT-A」で、35mm換算16mm/F2.6の非球面レンズ。撮影画角としてはアクション広角、超広角、デワープ(リニア)、水平維持の4タイプがある。

レンズはLEICA「SUPER-SUMMARIT-A」
アクション広角
超広角
デワープ(リニア)
水平維持

センサーサイズは1/1.3インチで、ISO感度は100-6400、写真解像度は最大8,064×6,048の4,800万画素、動画解像度は最大7,680×4,320の8K。

正面のディスプレイは撮影時のステータス確認用で、画像は表示されない。その代わり2.4インチ背面ディスプレイが上向きにフリップして、自撮りに対応する。

正面ディスプレイはステータスを表示するのみ
背面ディスプレイがフリップして自撮り対応

背面から見てボディ左に電源ボタンがあり、電源投入後は指定の撮影モードに切り替えるクイックスイッチとなる。上面にはシャッター/Recボタンがある。左側にUSB-C端子とMicroSDカードスロット、右側にバッテリースロットがある。

左側にUSB-C端子とMicroSDカードスロット
バッテリーは右側

底部は2つのツメで挟み込む独自マウントとなっており、通常版に付属の標準マウントアダプタを取り付けると、いわゆるGoProマウントとなる。また以前から発売されている「クイックリリースマウント」とも互換性がある。これを使うと一般の三脚穴とGoProマウントが1つで兼用できる。

底部は独自のマウント機構
標準マウントアダプタはGoPro互換
クイックリリースマウントを使うと、三脚穴とGoProマウントの両対応になる

重量は約180gで、連続録画時間は約100分。充電は30W急速充電アダプタを使用して46分、一般の5V/3Aで63分となっている。

撮影モードはHDR写真、写真、動画、PureVideo、FreeFrame動画、タイムシフト、タイムラプス、ループ録画、スローモーション、スターラプス、バースト写真、インターバルの12種類。動画撮影では録画開始の15秒前から記録できる「プリ録画」も使える。また撮影モードとは別に、シーン別プリセットからも選択できる。ライディング、スキー、サーフィン、ダイビング、VLOGの5タイプから選べば、最適なセッティングで撮影できる。

撮影モード以外にもシーン別のプリセットが選べる

動画撮影の解像度とフレームレートは以下の通り。

モード解像度フレームレート
8K (16:9)7,680×4,32024fps
8K (2.35:1)7,680×3,27224fps
4K (4:3)4,032×3,02460/50/48/30/25/24fps
4K (16:9)3,840×2,160120/100/60/50/48/
30/25/24fps
2.7K (4:3)2,688×2,01660/50/48/30/25/24fps
2.7K (16:9)2,688×1,520120/100/60/50/48/
30/25/24fps
1440P (4:3)1,920×1,44060/50/48/30/25/24fps
1080P (16:9)1,920×1,080240/200/120/100/
60/50/48/30/25/24fps

コーデックはH.265またはH.264で、ビットレートは最高170Mbpsとなっている。

なお今回はクリエイターキットに付属の多機能三脚もお送りいただいている。折り畳んで使えば短いグリップに、伸ばして使えば自撮り棒に、底部を広げれば三脚になるという優れものだ。Insta360は以前からアクセサリのクオリティが高く、個人的にも自撮り棒はInsta360製のものを購入して使っている。

グリップとして利用できる多機能三脚
展開すれば三脚に

良好な画質とコントラスト

では早速撮影してみよう。動画撮影の場合は、フレームレートが30以下では自動的にアクティブHDR撮影となる。とはいえ10bit撮影ということではなく、自動的にコントラスト処理が入るという意味だ。

フレームレートが30以下だと自動的にHDRモードに

アクティブHDR処理が入らない4K/60PとHDR処理が入る4K/30Pと撮り比べてみたところ、確かに30P以下では白飛びを抑え気味になるが、絵柄としては一段ほど暗くなる。空の抜けなどを見ればHDRではないほうが良好に感じるが、30P以下ではHDRをOFFにする事ができない。有無を言わさずHDRになるというのは、ちょっと使いづらい。

30P以下では自動的にアクティブHDRがONになる

また本機は24Pながら8K撮影もできる。センサーは等倍読み出しになるため画角は多少狭くなるが、解像感もあり発色も問題ない。サンプルはYouTube向けに4Kに縮小しているが、8Kのサンプル映像が欲しいとか、8Kで撮って4Kで切り出したいといった場合にも対応できる。

8K撮影のサンプル

撮影でちょっと気になったのが、高輝度部分に緑色の偽色が見られる事だ。画面中央部だし紫色でもないので、レンズに起因するフリンジとは考えにくい。センサー側での特性なのかもしれない。

高輝度部分に緑色の偽色が見られる

撮影時のユニークな機能としては、動画撮影中に画面内の○ボタンをタップすると、静止画が撮影できる。機能としては以前からあったものだが、最近あまりできるカメラを見かけなくなっていたので、この復活はありがたい人も多いだろう。

左下の○ボタンで写真も撮れる

もう1つ面白い機能としては、一度録画した動画ファイルの続きが撮影できる機能がある。画面中央の赤い部分をタップすると録画がポーズになり、再度タップすると録画が再開する機能だ。

撮影が「ポーズ」できるのは珍しい

加えて完全に録画が終了していても、再生画面の右下赤い○をタップすると、その設定で続きの録画が開始される。これは筆者もこれまで見たことのない機能だ。例えば4K60Pで撮影した動画の続きは4K60Pで撮れるし、8K24Pで撮っていた動画の続きは8K24Pで撮れる。どうしてもファイルを分けたくないという場合や、確実に同じモードで撮影したいという場合には便利かもしれない。

撮影完了したファイルからも、右下のボタンで録画の続きができる

デジタルズームの考え方も面白い。撮影中に画面を2回タップするか、ズームアイコンをタップすると瞬時に2倍ズームへ切り替わる。この間録画は止まらないので、アップカットへ編集したような動画が撮影できる。上記の続き録画機能と組み合わせれば、撮影が終わったらカット編集されている動画ができている、というような使い方もできる。

手ブレ補正については、動画モードではOFFから高まで4段階で選択できる。当然補正力を上げるにつれてちょっとずつ画角が狭くなっていくわけだが、元々16mmと広角なのでそれほど気にならない。8K撮影時には手ブレ補正が標準しか使えないが、補正力としては十分である。

またFreeFrameモードで撮影すると、スタビライズ情報のみを別に記録し、あとでInsta360 Studioなどのアプリを使って補正をかける事ができる。補正レベルや水平維持などもあとから調整できるというメリットもあるが、補正結果は若干強引な感じも受ける。

FreeFrameで撮影した動画をInsta360 Studioであとから手ブレ補正
手ブレ補正の比較

集音と夜間撮影はもう一歩?

続いて音声集音もテストしてみた。集音はステレオ、風切り音低減、方向性強調の3モードがある。風切り音低減は一応風音は低減できるものの、一定量以上の風が吹くと対応できなくなるようだ。方向性強調はVLOG向けに有効だが、風切り音低減と両立できないので、フカレにはまあまあ弱い機体だと言えるだろう。

集音3モードをテスト

4K120Pによるスロー撮影は、解像度が落ちる事もなく良好だ。また水中から出たときの水切れもよく、レンズプロテクタ部の撥水コーティングが効いている。

良好なスロー撮影

夜間撮影では、暗部特性に優れたPureVideoモードでの撮影が推奨されている。このモードでは、専用の「低照度手ブレ補正」がある。ただ正確には「手ブレ」が原因ではなく、シャッタースピード低下による残像を抑える機能のようだ。

PureVideoモードのみで使用できる低照度手ブレ補正機能

実際に夜景で撮り比べてみたが、確かに低照度撮影特有の光源に対するブレは抑えられるが、2段ほど暗く撮れてしまうので、あまり暗すぎる時には使いづらい。元々ISO感度が最高6400なので、それほど暗部に強いセンサーではなく、それを補う機能という事だろう。

夜間撮影のサンプル。後半は低照度手ブレ補正OFFで撮影

最後にスマートフォンと組み合わせた自動編集機能も見ておこう。本機をスマホアプリ「Insta360」と接続すると、「編集する」のコーナーに「自動編集」というボタンがある。カメラ内の映像を選択して解析させるだけで、テンプレートに合わせた編集をしてくれる。

ショットを選んで順番を整理するだけ
テンプレートに合わせて秒数を切り出し、エフェクトもかけてくれる
自動編集で編集した結果

カメラからスマートフォンへの転送作業も自動で行なわれるので、スマホとカメラが一体になって動作する感覚である。このあたりの作り込みの上手さは、Insta360が昔から得意とするところだ。

総論

Insta360は、これまではどちらかというと360度の「街撮り」に向いたミニカメラを多く排出しており、本格アクション用カメラが弱かった。そこを強化すべく投入したのがAce ProとAceの位置づけだろう。

前面ディスプレイではなく背面ディスプレイをフリップすることで、Vlog撮影時も大きな画面で画角が確認できるのは、デジタルカメラ的な手法をアクションカメラに取り入れたという事である。

録画中にポーズできたり、録画後のファイルから続けて録画できるという機能は、ある意味カメラにレコーダ的な要素を持ち込んだ点で、斬新である。この機能をどう使えば効果的か、さらに錬ると面白くなるだろう。

レンズの性能も良く、光量のある昼間は画質も良好だが、30fps以下で自動的にONになるアクティブHDRに関しては、あまり効果的だとは思えない。必ずONになるのではなく、OFFも選択できると良かった。またせっかくのレンズ性能を生かすのであれば、10bit LogによるHDR撮影がないのは勿体ない。

音声収録は、内蔵マイクの音質は悪くないものの、フカレには弱いようだ。屋外集音用にウィンドスクリーンのようなアクセサリが欲しいところである。あるいは先日のGoPro Hero12で搭載されていた、AirPodsとペアリングしてそちらのマイクで集音を行なう機能も搭載されているので、これを使うもいいだろう。GoPro同様、AirPods以外のBluetoothイヤフォンも使えるようで、Edifier「W320TN」でも動作が確認できた。

夜間撮影に関しては、最高ISO感度が6400なので、それほど強いというわけではない。SNでは先日の「DJI Osmo Pocket3」のほうが良好だった。ただこのあたりはNRの処理次第というところもあり、今後のファームアップで改善される可能性もある。現在本機は頻繁にファームアップしており、今回の試用中にも2回アップデートが行なわれている。

ソフトウェアとの連携の良さは、特筆すべきだろう。プロ向けには手ブレ補正や水平維持の修正、ビギナー向けにはスマホアプリによる自動編集と、カメラ単体だけでなくソフトとの総合力で評価すべきだ。

これまでInsta360は特殊カメラメーカーという感じで、一般ユーザーへの知名度が薄かったが、今回のAceシリーズの投入でスタンダードなカメラもやれるメーカーへと脱皮を図った。Ace Proでは競合他社への差別化で色々チャレンジしてはいるが、それが効果的かは正直微妙な部分もある。ただ少なくとも、GoProとDJIに肩を並べたことは間違いない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。