レビュー
ソニー「WF-1000XM5」と同じドライバ&プロセッサで3万円以下「LinkBuds Fit」を試す
2024年10月21日 09:03
11月15日に発売されるソニーLinkBudsシリーズの新製品「LinkBuds Fit」。完全ワイヤレスイヤフォンのフラッグシップモデル「WF-1000XM5」と同じダイナミックドライバーXと統合プロセッサーV2の組み合わせが採用されていることもあって、注目度の高い製品だ。それでいて直販価格は29,700円と、WF-1000XM5(直販価格41,800円)より価格も抑えられている。
穴の空いたドライバーが特徴のLinkBuds Openは、2022年に発売されたLinkBudsの後継機として登場したが、こちらのLinkBuds Fitは、LinkBudsシリーズの新製品という立ち位置で、装着したまま長時間すごすというLinkBudsシリーズのコンセプトにさらに寄り添ったモデルとして新開発されたという。
発売に先駆けてLinkBuds Fitをお借りできたので、聴いてみよう。WF-1000XM5と、併売される従来機「LinkBuds S」とも比較し、それぞれの特徴や違いについてもチェックした。
軽い着け心地で“着けっぱなし”に特化したFit
さっそくLinkBuds Fitの外観を見てみよう。カラーはブラック、ホワイト、グリーン、バイオレットの4色展開で、今回お借りしたのはホワイト。1000XシリーズともLinkBuds Sとも異なる、スリムで細長い豆のような形状をしている。
まず目を引く特徴が、角のような形状の「エアフィッティングサポーター」。この角の部分は筐体から直接生えているのではなく、角の付いたシリコンのカバーを装着している。そのため、先端は空洞になっていて柔らかく、どんな形の耳でも脱落しにくく安定して装着できる。
よく見てみると、イヤーピースも浅めだ。LinkBuds SやWF-1000XM5と並べてみるとノズルも短いことがわかる。このノズルとイヤーピースを採用することで、外耳道の浅い位置で密閉し、セミオープン型イヤフォンのような圧迫感の少ない軽い着け心地を実現。長時間使っていても疲れにくい工夫のメインとなる部分がここだ。
「セミオープン型のような」という表現だと、AirPodsのように脱落しやすいのでは? と思うかもしれないが、そこはイヤーピースがしっかりと密閉している上、さらにエアフィッティングサポーターのおかげで、カナル型のように耳の奥まで押し込まなくても安定して装着できるというわけだ。
ケースはコンパクトで軽量なのだが、1000XM5やLinkBuds Sのケースとは形状が異なり、厚みがある。そのため、ズボンのポケットに入れて歩くと、かなり存在感がある。
なので、ケースはバッグに入れたいところだが、近所の散歩などの時にはアクセサリとして実売3,000円で発売されるカラビナ付きの専用ケースが欲しくなる。これでズボンのベルトループに引っかけておけば身軽で済む。欲を言うと、この専用ケースのカラビナにリールが付けてもらえると、カラビナを付けたままケースへの出し入れができるので嬉しいのだが、そこはラインナップの拡充に期待したい。
ちなみに専用ケースはアッシュグリーン、アッシュブルー、アッシュバイオレット、アッシュピンク、ピュアブラックの5色でファッションアイテム的にカスタマイズできるアイテムとして発売するとのこと。エアフィッティングサポーターも同色で展開し、ケースとサポーターで別の色で組み合わせたりすることもできる。エアフィッティングサポーターの実売価格は2,000円前後だ。
長時間聴きやすい音。BGMエフェクトで外出気分も
WF-1000XM5と同じドライバーとプロセッサーの組み合わせということで、気になるのはその音だろう。ここからは、LinkBuds Fitだけでなく、WF-1000XM5とLinkBuds Sとの比較もしていこう。今回は再生機にPixel 8aを使用し、コーデックはLDACで接続している。
結論から言ってしまうと、3機種ともソニーらしい解像感の高さは同じだが、帯域のバランスは全く異なっている。
WF-1000XM5は、強力なアクティブノイズキャンセリング(ANC)とフォームタイプのイヤーピースによる無音の空間に、力強い低域と抜けの良い高域、全体的にリバーブ感も強めに入っていて、音楽の世界に没入しやすい音作りがされている。
対して、LinkBuds Sはタイトな低域に全体的にスッキリとした見通し。フラットな傾向で聴き疲れのしない、リラックスして聴いたり、作業中に聞き流すのにちょうど良い音といった印象だ。
これらに対してLinkBuds Fitは、強烈に感じる音を抑えつつ、全体的な解像度が高い。LinkBuds Sと同じく長時間聴きやすいバランスの取れた音に仕上げてきているのだが、ボーカルの帯域がしっかりと前に出てきていて、低い男性ボーカルの歌声もハッキリと聴き取れる。WF-1000XM5にあるリバーブ感はなく、スッキリとした見通しの音だ。
それでいて、低域の響きはしっかりと感じられるので、物足りなさのようなものは感じない。それもドライバーが頑張って鳴らしているという響きではなく、ノズルから鼓膜までの距離、耳の中の空間を活かして響かせているような、余裕のある響きに感じられる。これが低域の量感をしっかり感じられつつ、ボーカルの帯域も邪魔しない塩梅になっていて、ぶっちゃけWF-1000XM5よりも好みの音だ。
同じシリーズであるLinkBuds SとFitは、イヤーピースの違いによる着け心地の差で併売する形になったとのことだったが、音もFitの方がより洗練されているようにも感じる。
さらにLinkBuds Fitでは、新たなエフェクト機能としてBGMエフェクトが利用できる。音の広がり感を調整するもので、マイルーム、リビング、カフェの3タイプが用意されている。この並び順で徐々に音源が遠く、空間が広くなっていく感覚で、リビングとカフェでは、離れた位置での壁の反響も感じられる。
元々ながら聴きしやすい音ではあるのだが、BGMエフェクトを使うことでより一層集中したい作業時などに使えそうな印象だ。
もう一つ触れておきたい機能が、ワイドエリアタップだ。イヤフォン本体だけではなく、頬などをタップすることで再生/停止や外音コントロールなどをコントロールできる機能。
基本操作は2回連続タップで、割り当ては本体のタップ操作と同じ。アプリから感度を標準、高で調整できるほか、使用しないという選択も可能だ。筆者の場合は、感度が標準だと上手く反応してくれなかったため、感度を高にして、頬骨の下辺りをタップすることでスムーズに操作できた。センサー部をタップするよりもこちらの方が使いやすく感じた。この使い勝手は非常に気に入った。Wf-1000XM5からの買い換えという案が頭を過る。
外音取り込みはソニー最高性能。ANCの効き具合は若干弱め
ANCと外音取り込み機能を切り替えるという使い方は3機種とも変わらないのだが、1000XシリーズはANCによる没入感に浸って音楽を楽しむのがメインで、必要に応じて外音取り込み機能を使うのに対し、LinkBudsシリーズは外音取り込み機能を使ったながら聴きがメインと、コンセプトが異なっている。
LinkBuds Sは普段外音取り込みを使いながら、音楽の世界に没入したいときにANCを使うという製品だったのだが、LinkBuds Fitはどうやらながら聴きにさらに注力し、ANCも音楽の世界ではなく作業に集中したいときに、周囲の雑音をカットするといった使い方を想定しているようだ。
というのも、ANCの遮音性がLinkBuds Sと比較しても控えめになっているように感じるからだ。おそらくこれはLinkBuds Fitはイヤーピースが浅くなった分、物理的な遮音性が少し低くなったのだと思われる。
一方で、外音取り込み機能には特に力を入れており、ソニー最高性能と紹介している。
実際に外音取り込み機能を使ってみると、開放型のヘッドフォンを使っているときのような感覚で外の音が聞える。音楽再生の音量にもよるが、筆者が普段設定している音量(Pixel 8aやiPhoneの音量バーの1/4〜1/3の間くらい)では、そのままテレビでニュースを観てもアナウンサーの言葉をしっかり聴き取れる。WF-1000XM5と比較すると、とくに人の声が聴き取りやすくなっている。
筐体の方をよく見ると、マイクの位置も耳の内部側に配置されている1000XM5やLinkBuds Sに対して、LinkBuds Fitは耳の外側から収音できるように配置されている。この位置だと風の音も拾ってしまうのではと思うかもしれないが、風の強いときに外音取り込みを使っても、ゴーッという音はせず、風切り音対策もバッチリのようだ。これはANC使用時でも同じで、あの風の音をキャンセルしている音をあまり感じなくて快適だった。
新アプリ「Sound Connect」は何が変わった?
LinkBuds OpenとLinkBuds Speakerの発売に合わせて、従来の「Headphones Connect」アプリが「AutoPlay」アプリと統合し、新アプリ「Sound Connect」に変更され、これまでHeadphones Connectを使用していた機種も全て、このSound Connectを使用するようになった。
主にトップ画面が変更され、画面下部に「マイデバイス」「ディスカバー」「メニュー」の項目が表示。枚でバイスの画面には「ノイズキャンセリング」「外音取り込み」「オフ」が選択できる外音コントロールと、イコライザー、アダプティブサウンドコントロール、Auto Playに加えて、接続中の聴きと再生中の項目が表示されるようになり、一番下の編集ボタンで、外音コントロールなどをトップに表示させるかを選択できる。
ディスカバーの部分には使い方のヒントなどが載っており、メニュー項目にはお知らせとヘルプ、設定とデータのバックアップと復元、このアプリについてという項目がある。このお知らせ欄にソフトウェアアップデートのおしらせが載るのだが、ここをタップするとそのお知らせが表示されるだけ。思わず「このメニューからアプデの確認とかができるんじゃないんかい!!」と叫びそうになる。
ちなみにディスカバーも機能の案内だけで、案内された機能がどこの項目にあるのかは自分で探す必要があるため、ここでも「自動外音取り込みの設定項目どこ!?」といった感じで叫びたくなる。
一番下の編集ボタンの1つ上に「デバイス設定」の項目があり、ここを押すとHeadphone Connectと同じような項目が現れる。こちらの画面はHeadphone Connectとほとんど変わっていない。どの項目がどこにあるのかわかりにくかったことから、今回の新アプリになったとのことだったが、サウンドの項目に「Bluetooth接続品質」の項目があって、同じBluetooth関係の項目である「LE Audio接続設定」がシステムタブにあるなど、ユーザーの直接の不満は改善できてないように感じる。
筆者はWF-1000XM5で普段から使用しているのだが、それでも確認したい機能がどのタブにあるのか未だに把握できていない。おそらく使いこなせていない機能もたくさんあると思う。
例えば今回のLinkBuds FitであればBGMエフェクトはON/OFFを手軽に変えたいし、他の機種も共通の項目では、接続が不安定なときに接続品質を音質優先から接続優先に切り替えたりといった項目をワンタップでできる位置に配置できるように編集欄に追加してほしいといった要望が浮かぶ。UI面は今後のアップデートに期待したい。
三者三様のラインナップ。自分に合ったイヤフォンが選べるようになった
実際に触ってみるとしっかりと違いが見えてきた3機種。音楽への没入感を取るのであればANC最強のWF-1000XM5。とにかくながら聴きで快適に使いたい場合はLinkBuds Fit。没入感とながら聴きのどっちも取りたいという場合はLinkBuds Sといった具合だろう。LinkBuds Fitが完全な新モデルとして登場した意味がよくわかる。
この3機種で比較してしまうと、LinkBuds SはBGMエフェクトなどの新機能が使えない点や、音の解像感の部分でもやや不利な要素もあるのだが、WF-1000XM5のイヤーピースがそのまま使えるため、装着してANC性能を上げることができたりもするので、「ながら聴きに特化したい」「新しい機種が欲しい」という気持ちが無ければ買い換える必要はないようにも思う。LinkBuds Sを気に入っているユーザーに向けたアップグレードモデルがあると嬉しいところではある。
LinkBuds Fitに話を戻すと、こちらはWF-1000XM5と同じドライバーとプロセッサーで、外音取り込み側のフラッグシップを作ったというようなイメージがしっくりくるくらい完成度の高いモデルだと感じた。そっと耳を塞ぐような着け心地の良さや、長時間聴きやすいながらソニーならではのスッキリと解像感の高い音作りは、価格相当の価値が感じられるほか、多機能で自分にあった使い方を模索できるところも嬉しい。
とくに流し聴きしながら作業している人や、リラックスしたいときに完全ワイヤレスイヤフォンを使う人には気に入る要素が詰まっているだろう。ANC特有の圧迫感も控えめなので、あの感覚が苦手だけどANCを使っているという人にもオススメだ。試す際にはまずその軽い着け心地とフィット感を体験してみてほしい。