小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1174回

LUMIX S1の進化形、新開発センサー搭載の「S1II」で撮る
2025年5月15日 08:00
Sシリーズも第2世代へ
マイクロフォーサイズ推しだったLUMIXがフルサイズへ参入したのが、2019年の事である。S1とS1Rの2モデルを同時発売したわけだが、S1Rの次世代モデル「S1RII」は今年3月に8Kカメラとして登場した。
当然次はS1の次世代モデルが出るだろうと予想はされていたのだが、第2世代は2つに分かれた。「S1II」と、「S1IIE」である。機能的にはかなり似ているが、S1IIEがスタンダードモデル、S1IIがプロ向けモデルといった位置づけになっている。ボディのみの市場想定価格は「S1II」が45万5,400円前後、「S1IIE」が35万6,400円前後。今回は動画表現に優れるということから、S1IIのほうをお借りして試してみる。
これでS1シリーズとしては、いわゆるMarkIIモデルがないのはS1Hのみとなった。こちらも2019年発売でプロ向け動画機として登場しているので、動画撮影者としてはMarkIIが待たれるところだ。
そう考えると、現時点でS1IIの立ち位置がどのあたりになるのかも、気になるところである。早速試してみよう。
ボディはみんな同じ!?
S1IIのボディだが、丁度、前回レビューしたS1RIIもまだ手元にあるので、比較してみた。外見から見る限り、ボディの作りはまったく同じである。もちろんセンサーが違うので、それに合わせて機能的な違いはあるわけだが、ボタンの位置やモニター、ビューファインダの仕様は共通となっている。S1IIEは今回お借りしていないが、写真で比較する限りはこれも同じボディを採用しているものと思われる。
コストダウンの関係から、世代をまたいだ同グレードのカメラで同じボディを採用する例はあるが、同時期に発売するグレード違いのカメラで同じボディを採用するというのは珍しい。たしかに世代をまたいでも同じボディより、世代ごとにボディが変わったほうが新鮮味がある。
採用されたセンサーは約2,420万画素のフルサイズセンサーで、部分積層型CMOSイメージセンサーとなっている。これは画素領域の上下に高速処理回路を積層して配置することで、従来センサーよりも3.5倍の高速の読みだしを実現するというものだ。
部分積層センサーを世界で初めて搭載したのは、2024年のニコン「Z6III」のようだ。パナソニックとしては本機が初搭載となる。
動画撮影においては、センサー全域の3:2/5.1K解像度で60p記録を実現するとともに、V-Log撮影時にはダイナミックレンジブースト機能と併用することで、最大15ストップのダイナミックレンジを確保する。これはLUMIXとしては最大値となる。
動画記録モードは膨大な組み合わせとなるが、フルサイズのアスペクト比とフレームレートに注目すると以下のようになる。
アスペクト比 | 解像度 | サンプリング/ビット深度 | フレームレート |
3:2 | 6K 5952×3968 | 4:2:0 10bit | 30p/25p/24p |
5.1K 5088×3392 | 4:2:0 10bit | 60p/50p/48p/30p/25p/24p | |
16:9 | 5.9K 5888×3312 | 4:2:0 10bit | 60p/50p/48p/30p/25p/24p |
4K 3840×2160 | 4:2:2 10bit | 60p/50p/48p/30p/25p/24p | |
4:2:0 10bit | 120p/100p | ||
FHD 1920×1080 | 4:2:2 10bit | 240p/200p/120p/100p/60p/50p/48p/30p/25p/24p | |
17:9 | 5.8K 5760 x 3040 | 4:2:0 10bit | 60p/50p/48p/30p/25p/24p |
C4K 4096 x 2160 | 4:2:2 10bit | 60p/50p/48p/30p/25p/24p | |
4:2:0 10bit | 120p/100p/96p | ||
2.4:1 | 6K 5952 x 2512 | 4:2:0 10bit | 60p/50p/48p/30p/25p/24p |
C4K 4096 x 1728 | 4:2:2 10bit | 60p/50p/48p/30p/25p/24p | |
4:2:0 10bit | 120p/100p/96p | ||
4:2:0 10bit | 120p/100p/96p | ||
4:3 | 4.8K 4800 x 3600 | 4:2:0 10bit | 60p/50p/48p/30p/25p/24p |
基本的には6Kセンサーのカメラではあるが、他の機能との組み合わせで排他処理になる撮影モードもある。例えば光学ズームとセンサーズームを連動させた「ハイブリッドズーム」を使おうと思ったら、C4K以下の解像度を選択しなければならない。
またファイル形式のMOV、MP4、Apple ProResによっても使用可能な解像度、フレームレート、サンプリングビットレートが変わってくる。なんでもアリのように見えるが、細かいところで組み合わせ条件がある。とはいえ、フルサイズからAPS-Cサイズまで幅広い解像度とフレームレートが選べるわけで、多くの条件に対応できるカメラと言えるだろう。
6Kセンサーで余裕のある撮影
今回撮影で使用したレンズは、キットレンズとして付属する「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S」である。光学24mmから105mmのズームレンズで、F4通しなのでそれほど明るくはないが、レンズ内にも手ブレ補正があるので、ボディ補正と合わせて7.0段となる「Dual I.S.2」が使えるのがポイントだ。
光学4.4倍だが、さらに4K解像度でハイブリッドズームを使うと、24mmから164mmの6.8倍ズームレンズとして使える。いわゆるビデオカメラでいうところのショートズームとして使いやすい範囲となるため、これ1本でとりあえずロケ撮影などで求められる画角はなんとかなるという強みがある。
そこでまずは、4K/60pのProRes 422HQで、ハイブリッドズームを使って撮影してみた。フォトスタイルは、新搭載された「シネライクA2」である。
発色としては、シネマらしいしっとり系の落ち着いたニュアンスである。またF4でもテレ端側ならかなりボケ足も長いので、抜けをボカすといった撮影にも対応できる。
AFに関してはかなり小さい被写体でも問題なく指定してフォーカスが合うので、心配が少ない。またズーム倍率が6.8倍あると絵作りにも余裕ができ、よほどの望遠を求められない限りは、問題なくカバーできる。
また4K解像度なら、手持ちでフィックスが撮れる「手ブレ補正ブースト」も使える。無理にセンサー性能ギリギリの6Kで撮影するより、4Kでセンサー的な余裕を持たせて撮影する方がメリットがある。
新開発の部分積層型CMOSは、暗所撮影にもメリットがあるようで、動画でのISO感度最大値は204800に達する。そこで今回は、先にレビューした裏面照射CMOSのS1RIIと比較してみる。
レンズは「S 24-60mm F2.8」で、解放のF2.8、シャッタースピード1/30に固定した。S1RIIは8Kで撮影し、編集時に4Kへ縮小している。一方S1IIは6Kで撮影し、編集時に4Kに縮小している。縮小すればSNが上がるので、夜間撮影を行なうならSNを上げるためにこのような手法で撮影するはずだ。実質的なSN比を見ていこうというわけである。
S1RIIは8Kから4Kに縮小するので、原理的にはSNは4倍に上がるはずである。最高のISO 51200でもそれほどSNは悪くなっていないのがわかる。
一方S1IIの6Kから4Kへの縮小によるSN向上は、8Kほどではないはずだが、S1RIIとほとんど遜色ないSNとなっている。最高のISO 204800では、さすがに奥の水面に偽色を感じるところだが、その一つ手前のISO 102400ぐらいまでは実用の範囲内かと思う。
夜間の風景撮影も行なってみた。ISO感度はオートに設定したが、ほとんどのカットはISO 51200である。撮影用に照明を入れたような映像になっているが、実際にはリアルな地明かりのみである。
なお本機およびS1RIIには「ナイトモード」という設定があり、これをONにするとメニュー表示も含めてディスプレイが赤色で表示される。液晶ディスプレイとビューファインダを別々に設定できるので、ビューファインダーのみカラーで、といった使い分けができる。
これまで夜間撮影は裏面照射一択だったが、部分積層型CMOSではそれ以上の高感度な撮影が可能となっている。フレームレートの高さと暗部の強さが、同時発売のS1IIEと比較して大きく違うポイントになるだろう。
ダイナミックレンジブーストのダイナミックレンジ
続いてHDRコンテンツ対応ということで、Log撮影もテストしてみた。本機はダイナミックレンジブーストを使用すると、LUMIXとしては過去最高の15ストップのダイナミックレンジが得られる。とはいえ、S1RIIは14ストップ、S1IIEでは14+ストップなので、ものすごく違うというわけではないとは思うが、一応テストしてみた。
レンズはS 24-105mmで、5.8K/30p ProRes RAWで撮影している。ProRes RAWは動画編集ソフトのDaVinci Resolveが対応していないので、今回はFinalCut Proで編集している。
ダイナミックレンジを多少広げてみたが、ラティチュードは十分あるので、この程度の輝度拡張はどうということもない。画質的にも十分で、デジタルシネマ系コンテンツにも十分対応できるだろう。
ProRes RAWで撮影するのが現実的かという指摘もあるところだが、確かにビットレートが4.2Gbpsもあるので、めちゃくちゃファイル容量は食う。だがそのかわりmacOS上での編集はかなりレスポンスが良く、また書き出しもあっという間だ。編集効率は高くなるので、ストレージさえ十分であれば現実的な選択肢となるだろう。
総論
初代S1はボディ単体の店頭予想価格が31万4,000円前後だったが、今回のS1IIは45万5,400円前後となっており、MarkIIとはいってもグレードが違うカメラとなっている。そういう意味では35万6,400円前後の「S1IIE」は初代S1とそれほど変わらず、買いやすいモデルである。
S1IIの魅力はなんと言っても、新開発の6K部分積層型CMOSだろう。4Kコンテンツ制作においても、センサーの余裕を使って様々な機能を提供しており、まさに「使い倒す」設計となっている。
AFの精度も高く、かなり小さいターゲットでもフォーカストラッキングできる、強力な動画用手ブレ補正が数タイプあるなど、かなり動画撮影に注力した作りとなっている。
マイクロフォーサーズではGHという絶対的な信頼度の動画カメラシリーズがあるが、フルサイズに関してはS1Hが本命と思われてきた。だがS1のMarkII系で全般的に動画機能を強化してきたことで、LUMIX全体で動画に強いカメラという方向性に振っていくということなのかもしれない。