小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第751回
父が撮影した8mmフィルムを自分でデジタル化! サンコー「スーパーダビング8」
(2016/4/6 10:30)
今度はテレシネ?
人間長く生きていると、多くのメディアの変遷を身をもって知ることになる。最大の変革は1980年代半ばに起こった音と映像のデジタル化で、それ以前に存在した数多くのアナログメディアが生産終了していった。
そこからおよそ30年が経過し、デジタルフォーマットでも様々な上位レイヤーが登場している。ハイレゾにしても4Kにしても、“デジタル化の衝撃”の次のステップと言えるだろう。
ところがその一方で、ひっそりとアナログ復権の動きもある。先週はアナログオーディオとして「レコードプレーヤー」をお送りしたが、今回はアナログ映像の原点とも言える、8mmフィルムの話をお送りする。
とは言っても、正直筆者にとっては8mmフィルムは、それほど馴染みがあるメディアではない。父親がシングル8のカメラを持っていたが、フィルム代が高かったこともあり、子供のおもちゃにはならなかった。むしろフィルムであれば、社会人になってテレビ技術者になった際に、16mmや35mmのテレシネをやるようになったので、そちらの方が馴染みがある。
とは言え、コンシューマの世界で16mmや35mmのカメラがあったわけではなく、ビデオカメラが普及する前に一般家庭に存在したフィルム動画といえば、圧倒的に8mmフィルムであっただろう。最近では、今年のCESでKodakがスーパー8登場から50周年を記念して、スーパー8カメラをリバイバルする計画を発表している。
今回はサンコーから発売されている、8mmフィルムデジタルコンバーター「スーパーダビング8」をお借りしてみた。現像済み8mmフィルムをデジタルデータに変換してくれるマシンで、価格は税込み49,800円。他に競合する製品が全くないので、高いのか安いのかよくわからないのだが、家庭で眠っている8mmフィルムをどうにかしたいという人には、有り難い製品だろう。
3月22日より発売が開始されたが、初期ロットは瞬間蒸発とも言える売れ行きを見せ、現在は入荷待ちで予約受付中となっている。そんな中、今回は幸いにもサンプル機をお借りすることができたので、実際どんなものなのか、試してみたい。
フィルムスキャンの歴史
製品を試してみる前に、フィルムとビデオに関する歴史を整理してみよう。もともとフィルムは映画などを始め、投影機にセットしてスクリーンに映すことで、動画を再生するメディアだ。映画は35mmフィルムを使うが、テレビ向け時代劇などは16mmフィルムで撮影されたものも多い。
1960年代に2インチVTRが実用化される以前、テレビ放送では、録画するためにはフィルムを使うしかなかった。アナログビデオ信号をフィルムに転写するための装置を、「キネコ」という。キネスコープ・レコーダの略だ。
記録したものを映画館などでそのまま上映するだけならフィルムのままでいいわけだが、テレビ放送で利用するとなると、今度はフィルムからビデオ信号に変換しなければならない。フィルムを再生し、それをビデオカメラで撮影することでビデオ化するシステムのことを、「テレシネ」という。
通常テレシネは、リアルタイムで行なわれる。つまり10分のフィルムをビデオ化するのに、10分かかるわけだ。昔は、子供向けのアニメ番組などは、テレビ放送であってもそのままフィルムで再生し、リアルタイムで放送していた。VTRがまだ十分に普及するまで、テレビにおける録画放送とは、フィルムでの放送であったわけだ。
VTRが発達し、いわゆる録画放送がVTRへ取って代わられるようになると、フィルム作品も事前にVTRに録画したのち、放送されるようになっていった。海外作品の吹き替えが、原語と日本語の2カ国語で放送可能になったのは、1インチVTRが普及した、1982~3年以降のことである。1インチVTRは、音声トラックが2つあったのだ。それ以前に普及していた2インチVTRは、音声トラックが1つしかなかった。
テレシネ装置で世界的な最大手企業は、イギリスのランク・シンテルである。老舗のポストプロダクションや放送局には、テレシネ専門の「ランクシンテル室」があったものだ。現在ランクシンテルは、2012年にBlackmagic Designに買収され、新型のテレシネ装置が発売されている。
テレビCMも、かつては35mmフィルムで撮影されていた。ビデオカメラで撮影するより発色もよく、解像度が高く、テレシネ時にカラーグレーディングができるからである。昔はカラーグレーディングなどというかっこいい言葉はなく、「タイミング」と言っていた。このタイミング装置で最大手だったのが、米国の「Da Vinci」である。このDa Vinci社も、2010年にBlackmagic Designに買収されている。
一方映画の世界では、4Kのシネマ用カメラが登場する以前は、フィルム撮影したのち、デジタル化して合成処理を行なうというワークフローが一般的だった。この映画用のテレシネ装置では、フィルムを1コマずつ時間をかけて撮影する、「スローテレシネ」と呼ばれる方式が登場して以降、合成のレベルが格段に向上した。
通常速度でテレシネを行なうと、フィルムの映像はどうしても“揺れ”が出てしまう。それはパーフォレーション(フィルムに開けられている穴)に引っ掛ける金属製の爪の入り具合だったり、フィルムにかかるテンションであったり、いろいろな条件で自然に発生するものだ。
2000年以前にソニーも「FVS-1000」というモデルで、テレシネ機に参入したことがある。これの特徴は、フィルムの揺れに合わせてセンサーの方を動かし、揺れを低減するというものであった。現在一眼のαには、手振れ補正の一環としてセンサーを動かす機構が搭載されているが、昔のテレシネ装置の仕組みを知っているものとしては、あの技術が10数年を経てコンシューマ機に搭載されたかと思うと、なかなか感慨深いものである。
一方スローテレシネは、1コマずつゆっくりスキャンするため、フィルム特有の揺れが少ない。またコマの位置が多少ずれても、スキャナの読出し範囲を調整することで、前のコマとぴったり同じ位置に揃えることができる。電子手ブレ補正みたいなものである。現在フィルムスキャナーと呼ばれる装置は、このスローテレシネ式が大半である。
8mmフィルムを自分でデジタル化
8mmフィルムについてちょっとおさらいしておく。コンシューマに普及した2大フォーマットとして、「スーパー8」と「シングル8」がある。スーパー8はコダックが開発、シングル8は富士フイルムが開発したもので、カートリッジの形状が全然違う。したがって、カメラはそれぞれ専用のものを使用する。
ただ現像してカートリッジから取り出してしまえば、フィルム幅やパーフォレーションの位置、コマのサイズは同じなので、同じ映写機で上映することができた。
両フォーマットは1965年に開発されたが、それ以前には「ダブル8」というフォーマットがあった。これは16mm幅のフィルムを使うが、撮影幅は8mmだ。つまり1本のリールで、A面が終わったらB面にひっくり返して撮影できた。現像時にフィルムを真ん中からカットして、最終的に8mmフィルムになるという仕掛けである。
ダブル8は、レギュラー8、スタンダード8、ノーマル8など、世界中でバラバラに呼ばれているが、全て同じものだ。ただし後のスーパー8とシングル8とは、コマの幅やパーフォレーションの大きさ、間隔などが違っている。
したがって現像済みの8mmフィルムとしては、ダブル8と、スーパー8/シングル8の2タイプが存在するわけである。本機では、この両方のフォーマットに対応できる。
8mmフィルムデジタル変換器は、左側に現像済みの8mmフィルムをセットし、途中にスキャナを通って右側の巻き取りリールに巻き取られていくという仕組みだ。途中に4箇所のフィルムガイドがあるので、それを全て通るようにフィルムをローディングさせる。フィルムガイドは、普通は回転するローラーになっているものだが、本機のものは回転しないので、ただの杭のようなものである。
スキャナ部分は、下からバックライトを当てて上のCMOSカメラで読み取る方式。センサーとしては1/3インチ、3.53メガピクセルで、解像度としては1,440×1,080の4:3となる。動画コーデックはH.264で、ファイルフォーマットはMP4。ビットレートは10Mbpsだ。なお8mmフィルムには音声トラックはないので、オーディオストリームは記録されない。
中央部にはメニュー操作用のボタン類と、2.4インチのディスプレイがある。ディスプレイはスキャン中の映像が表示されるほか、メニュー表示も行なう。
背面には、ACアダプタのポートのほか、記録用のSDカードスロットがある。「TV OUT」端子からは、専用ケーブルでアナログコンポジット出力が出せるようになっている。USB端子は、PCにつなぐことでSDカードの内容が読み出せる。もちろん、SDカードを取り出して、カードリーダを使ってPCに直接読み込んでもいい。
では早速スキャンしてみよう。まず最初にSDカードをフォーマットする必要がある。これをやらないと、いつまでもスキャンがスタートしない。カードをフォーマットしたのちOKボタンを押すと、リールサイズ選択の画面になる。手持ちのフィルムのリールサイズを選んでOKボタンを押すと、スキャンが開始される。
スキャン速度は、秒速2コマ程度といったところ。3分のフィルムをスキャンし終えるのに、35分とある。ネットでは遅いという意見もあるようだが、おそらく映写機のようにリアルタイムで動くものだという認識なのだろう。スローテレシネであることを考えれば、フィルムの揺れも相当軽減されているはずであり、この程度の速度なら妥当な速度である。
一見チャチだがちゃんと動く
手元には、筆者の父が撮影したっきりになっていた8mmフィルムが2本ある。特にラベリングなどもされていないので、中身は何が記録されているのか、今となっては誰にもわからないという代物である。筆者が中学生ぐらいの動画だと思われるので、今から40年ぐらい前に撮影されたものだと思われる。
フィルムの状態としては、きちんとケースに入っていたこともあり、それほど悪くない。編集もされていない、撮影されたそのままなので、パーフォレーションの破損もないようだ。実際の動作状況は、動画で見ていただいた方がわかりやすいだろう。変換後はリールを左右逆に入れ替えて、巻き戻しを行う機能も備えている。
実際にデジタル変換された動画を見てみると、動きがせわしないのがわかる。これは8mmフィルムは秒間18コマで撮影するのに対し、動画ファイルとしては30fpsになっているからだ。昔のようにテレビにつないで見るしか方法がなかった時代でもないので、ファイル的には18fpsのものを生成しても良かったのではないかと思う。
一応カラーフィルムで撮影されてはいるが、色味はかなり褪色が見られる。フィルムの粒子はかなり荒く、グレインノイズが多い。ビットレート的には10Mbpsあり、通常の動画であればそこそこの画質になるはずだが、グレインノイズは大量のビットレートを消費する。そう考えれば、15~20Mbpsぐらいあっても良かったかもしれない。
内容としては、おそらく社員旅行と思われる動画が収録されていた。このままでも味はあるのだが、せっかくなのでDaVinci Resolveを使って色補正をしてみた。またスピードもなるべく元通りになるよう、修正してみた。こうしたことがすべて自分でできるような時代になるとは、驚きである。
総論
意外にも初期ロットが売り切れてしまうほどの人気となっている本製品だが、これほどみんな手元に8mmフィルムを持っていたとは思わなかった。今時映写機を手に入れるのも難しいし、どうにもならないままタンスの奥に眠っているフィルムはそこそこあるということなのかもしれない。
操作としてはそれほど難しいとは思わなかったが、これはフィルムのようなテープ状のものを扱い慣れているかどうかという経験は大きい。筆者はかつての仕事柄こういうものには慣れているが、普通はカセット状のケースに入ったテープメディアを扱うことが多かったはずである。オープンリール型のメディアを扱っていたのは、それよりもずっと前の世代であろう。
仕上がりとしてはそれほど悪くはないが、褪色しているフィルムも多いだろうから、自分で色補正やノイズリダクションができれば、満足度は高い。すべて自分でやれるという面白さはある。しかしコンシューマ向けの記事で、テレシネの話を書く時代が来るとは、なんとも不思議な感じである。
一方で、5万円弱という価格を投じて、自分でデジタル化するのがコスト的に合うのかという話もあるだろう。数が多ければ採算は合うだろうが、2~3本であれば変換サービスを利用した方が安いし、プロがきちんと作業してくれるはずだ。ざっと調べたところ、富士フイルムや、カメラのキタムラが変換サービスをやっているようである。
いずれにしても、このような製品やサービスがいつまでも存在しているわけではないので、思い立ったら早めに行動しておく方が良さそうだ。