小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1179回

あのMarshallが!? いろんな意味で想定外のサウンドバー「HESTON 120」を聴く
2025年6月25日 08:00
サウンドバー初参入
ロック系のバンドをやっていた人なら、Marshallの名前はよく知っているはずだ。ギターアンプの定番であり、練習スタジオにこれがあると「…Marshallか…」と、ギター担当でなくてもアガる。
そんなMarshallだが、近年はブランドをうまく使ったコンシューマ商品を出している。2013年にはギターアンプ型のBluetoothスピーカー「STANMORE」、2015年にはカナル型イヤフォンの「MODE」シリーズ、ヘッドフォンの「MAJOR」シリーズを展開したほか、2017年にもヘッドフォン「MID Bluetooth」をリリースしている。Marshallのヘッドフォンはまあまあ売れたようで、時おり付けている人を見かける。意外に女性ユーザーも多いようだ。
そんなMarshallが次に仕掛けたのが、サウンドバー「HESTON 120」である。すでに販売が始まっており、直販価格は169,990円となっている。同社60年以上にわたる音響とデザインのノウハウを集結したという。
サウンドバーとしてはなかなかの高額商品になるが、一体どんな音がするのだろうか。さっそく聴いてみた。
かなり大型のサウンドバー
HESTON 120は、全長110cm、奥行14.5cm、高さ7.6cm、重量約7kgの本格サウンドバーだ。長さ的にはだいたい50インチ程度のテレビと合わせることを想定しているようである。
デザインは伝統のMarshallアンプのデザインを踏襲しており、正面のロゴもまさに本物感がある。奥の3つのノブもゴールドのまさに「アレ」だが、ギターアンプの方は可変抵抗に直接繋がっているので角度を示す目印がある。一方こちらは無段階でグルグル回る仕様なので、角度を示す目印はない。
では角度はどうやって見るのかというと、ノブの周りに赤色のLEDラインがあり、これがノブの角度を示す。クリック感があるのは一番右の入力切り替えだけで、それぞれの入力アイコンのところで止まるようになっている。ただ回しただけで簡単に入力が変わってしまうわけではなく、角度で入力を選んだのち、ノブを押し込むことで決定となる。
左側に3つのプリセットボタン、右側にサウンドモード切り替えボタンがある。サウンドモードは、Music、Movie、Night、Voiceの4つとなっている。
本体の左右の端には上向きにミッドウーファーとツイーターがあり、真横にもそれぞれ1基ずつ反射音用フルレンジドライバを装備している。前面には左右中央に3基のフルレンジフロントドライバがあり、その間に楕円系のサブウーファを2基搭載。また背面には4つのパッシブラジエータを備えるという、5.1.2チャンネル仕様だ。
アンプはサブウーファ用に50W×2、そのほかのドライバ用に30W×9だ。周波数特性は40~20kHzなので、ハイレゾ仕様ではない。対応オーディオフォーマットはDolby Atmos、DTS-Xとなっている。
HESTON 120にはなんと、電源ボタンがない。コンセントを差し込めばONになり、使ってなければ20分でスタンバイになるだけという大胆仕様だ。
背面端子も見ておこう。左からLAN端子、HDMI端子×2(うち1つはeARC対応)、USB-C、RCAステレオ、RCAモノ(サブウーファ接続用)となっている。ネットワークはWi-Fiにも対応する。
Bluetoothからの入力にも対応しており、コーデックはSBC、LC3、AACとなっている。さらっとLC3に対応してくるあたり、新世代らしさを感じさせる。
Wi-Fiサービスにはかなり柔軟に対応しており、AirPlay 2、Google Cast、Spotify Connect、TIDAL Connectに対応している。よってスマホから音楽再生する場合には、いちいちBluetooth接続する必要がないので、かなり楽だ。
HESTON 120には、なんとサウンドバーにありがちなリモコンが付属しない。基本的な操作は本体ボタンだけで完結できるほか、設定用に専用アプリ「Marshall」が提供されている。これまでヘッドフォンなどBluetooth製品に提供されていた「Marshall Bluetooth」とは別アプリなので、注意していただきたい。おそらく今後出るサウンドバー製品は、この新アプリが対応することになるだろう。
充実の低音表現
HESTON 120の設置はテレビ前で問題ないが、背面にパッシブラジエータがあるので、なるべく背面を開けたほうがいい。スピーカーが下に付いているタイプのテレビではぴったりくっつけると背面が塞がってしまうので、3~4cmぐらい前に出すといいだろう。また同様に側面も壁などで塞がないように注意したい。
本機はリモコンさえもない大胆仕様ではあるが、機能的にはかなり充実している。まずアプリを使って、サウンドのキャリブレーションができる。内蔵の2つのマイクを使ってノイズレベルを測定し、そのあとサウンドを再生して最適化を図る。このサウンドもギターのアーミングだったりハーモニックスだったりして、さすがギターアンプメーカーだと思わせる。
サウンドのチューニングは、センターノブのBASS/TREBLEノブで調整する。これはサウンドモードごとに値を記憶するので、音楽は高音しゃっきりめに、ムービーは低音多めに、といった調整ができる。
BASS/TREBLEをセンターにして、音楽再生でサウンドモードの違いを聴き比べてみた。Amazon MusicをM4 MacMiniで再生し、AirPlay 2でHESTON 120に送信している。楽曲はxPropagandaの「The Heart Is Strange」を聴いていく。
「Music」はやっぱりというか予想通りの低音重視で、ベースやキックドラムがドコドコ鳴るタイプの音だ。高域は控えめで、ハイハットの音がややシャープに聞こえる程度である。
「Movie」になるとサウンドは一変し、高域の抜けと解像感が増す。また音の広がり方が顕著で、ただのステレオソースなのに、音像はかなり広い。左右のフルレンジをフル活用しているのだろう。トーンコントロールでBASSをちょっと足してやれば、音楽もこのモードで十分楽しめる。
「Night」は極端に低域をカットし、周り響かないように配慮された音だ。音域を中音域に絞ることで、小音量でも聴きやすい音にまとめている。
Voiceは声の音域に絞ったサウンドで、音楽など幅広いソースには向かないが、テレビでニュースやトークバラエティを見る場合には声が聞き取りやすい。
アプリ側ではEQも使えるが、意外に機能は少ない。5バンドのグラフィックEQが1つ使えるだけで、カスタムかデフォルトプリセットの2択というシンプルな仕様だ。
カスタムボタンの機能も、想定外だった。こうしたプリセットは、通常トーンコントロールなど音作りの状態を切り替えられるようプリセットしておくものだと思われがちだ。しかしHESTON 120では、なんとSpotifyのプレイリストがプリセットできるというものだった。
まあボタン1発でいつもの音楽が聴けるというのもいい機能ではあるのだが、わざわざそうした機能をこんな一等地に3つしかないボタンに割り付けてくるとは思わなかった。
そのほか、アプリからは大量のインターネットラジオがプリセットされている。このあたりは、いかにもラジオ大好きな米国仕様である。
映画でも十分なサウンド
映画の再生についてもテストしてみた。本機のHDMI 2端子にAmazon Fire TV Stick 4Kを接続し、HDMI 1 eARC端子とテレビを接続している。今回はNetflixで公開中の映画「新幹線大爆破」を視聴した。クレジットには4K/HDR/空間オーディオ対応となっている。
サウンドモードは当然「Movie」である。高域のキレの良さにより、セリフはかなり聞き取りやすい。また挿入される不安を煽る音楽の低音部はかなりズシリと響く表現で、シーンの緊張感をよく表現できている。
開始1時間ほどのところにある爆発シーンでは、爆発の重低音はだいぶ軽いが、これは演出上そういうサウンド(爆発というよりは発破による破裂)なのだろう。とはいえ、Movieモード自体がそれほど低音を強調していないので、若干の物足りなさを感じる。やはりトーンコントロールで少し低音を足しておいた方がよさそうだ。
音の広がり方は“プロセッサで広げました”という感じがなく、反射音を使ってナチュラルに聴かせようという方向性のようだ。必要以上に大げさにしないところに、Marshallの質実剛健な部分が垣間見える。
薄型ではあるが基本的には低音がよく出るサウンドバーなので、満足度は高い。ただMovieモードの方がドーンと低音が出そうなものなのに、Musicモードの方がドコドコ出るという点でも想定外である。どんだけ低音が好きなんだよと。
映画をMovieモードで楽しむなら、今後発売が予定されているサブウーファを組み合わせるのがベストなのだろう。
総論
サウンドバーは国内メーカーに優秀な製品が多いので、輸入ものといえばこれまでBOSEかJBLぐらいしか印象にないところだ。だがMarshallの参入で、国内メーカーにはないセンスの製品を体験できた。
電源ボタンなし、リモコンなし、サウンドプリセットなしという大胆な仕様で、低音偏愛主義な音の仕上がりは、国内メーカーばかり聞いていてはあまり出会えないタイプの音である。たとえサウンドバーであっても平均や標準に行こうとしないという、そういうブレないところがMarshallらしい。
一方で機能的にはかなり細かいところまで気を利かせている。マイク内蔵で単体で自動キャリブレーションできるあたりは、最初の製品でありながらかなり他社を研究してきたと思われる。
またBluetoothよりもネットワークによるキャスト系の機能を充実させたことで、コーデックに左右されない安定したサウンドクオリティを目指したことが伺われる。このあたりも他社にはないアプローチだ。
デザイン面でもまさにMarshallのヘッドアンプみたいなルックスで、ロックファンなら部屋に置いておきたいと感じるだろう。いきなりギターアンプが一般家庭のリビングにあるのは変すぎるが、サウンドバーなら許される。昨今はプロセッサ技術を使って、短い全長でも広いサウンドフィールドを出すというのが主流になっているところだが、ドーンと筐体があるという、ある意味威圧感を出すのも演出の一つなのかもしれない。
ハイレゾ非対応で17万円弱はなかなか強気の価格設定だが、米国では1000ドルである。「輸入品=贅沢品」という1970年代ぐらいの感覚が、日本を覆うことになるかもしれない。円安がこうした趣味の製品にまで影響が及ぶのは、なかなかしんどいところである。