“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第450回:カムコーダとMP4カメラの間 三洋「DMX-CS1」

~ デザイン重視の薄型で再ブレイク必至? ~



■ デザインの砂漠からの生還

 三洋Xactiといえば、新製品発表時にこまめにブロガーイベントを開催するなどして、地道にファン層を広げてきたシリーズである。独特の縦型ガンショットスタイルはデビュー当時のままに、フルハイビジョンモデル、防水モデルなどを展開し、デジカメでもない、ビデオカメラでもないという路線を突き進んでいる。

 デザインも昨年あたりから急速にレベルが上がってきており、カラーバリエーションも含めてなかなかイイ感じのモデルが増えてきた。以前など、デザイン重視モデルといいつつ、その結果が液晶内部に埋め込まれた謎のダイヤモンドのイミテーションだったりして、ここはどんなデザインの砂漠なんですかと思わず二度見したのが嘘のようである。

 実際、展示会などで出展される三洋のデザインコンセプトのモックアップは、非常に優れたものが多いのだが、過去は商品になるまでに何か関所があったわけである。それが経営体制の変化により、思い切った勝負に出られるようになったという事なのかもしれない。この傾向はJVCにも感じられる。

DMX-CS1

 さて、1月のCESで最初に発表された薄型モデル「DMX-CS1」(以下CS1)がまもなく日本でも発売される。店頭予想価格は4万円前後となっているが、すでにネットでは31,000円台まで下がっているところもあるようだ。

 デザインもよし、薄型、そしてXactiブランドで3万円ちょっとという価格は、昨今日本でも盛り上がりつつある低価格のフルHD MPEG-4(MP4)カメラを牽制するに十分なインパクトである。カラーバリエーションは3色で、今回はピンクをお借りしている。まだ最終の製品版ではないため、仕様は変更される可能性もあることをお断わりしておく。ではその実力をさっそくテストしてみよう。


■ 思わず手に取りたくなるサイズ

 Xactiのハイビジョンモデルが登場したときには、あーやっぱりこんなになっちゃうかー、といった印象を持った。ボディに比べてレンズがでかすぎるのである。ちょっとオタマジャクシ的なルックスで、さすがにこれは女性受けは難しい感じがしたのだが、今回のCS1はレンズ部分が大幅に小さくなり、すっきりしたルックスとなっている。

 丁度レンズユニット部分だけが若干出っ張ってはいるが、グリップ部の薄さが綺麗にまとまっている。従来のXactiよりも若干背が高い印象はあるが、スリムさがそれを払拭しており、薄さ自体が一つの機能であることを物語る。

全体的にコスメな印象レンズユニットの形で少し出っ張っている

 外装は大部分が金属質感で、作りは非常にしっかりしている。ただ随所がぴかぴかのミラー状になっているので、指紋の汚れが気になるところである。

レンズは小型ながら9倍の光学ズーム

 レンズは新開発の光学9倍ズームレンズだが、画素の読み出し範囲を変えて拡大するアドバンスズームを加えると、合計10倍ズームとなる。マニュアルがないため詳細はわからないが、アドバンスズームはメニューを見た限り、常時ONしかないようである。また静止画ではアドバンスズームは使用できない。

 画角は動画(16:9)で38~380mm、静止画(4:3)で38mm~342mm。元々Xactiはデジカメの傾向が強い製品ゆえに、ワイド化は当然の流れであろう。なおMP4カメラでは、720pモードに比べて1080iモードは画角が極端に狭くなる傾向があるが、本機は基本的に画質モードでは画角は変わらない。唯一VGAモードだけはアスペクト比が4:3なので、画角が変わる程度である。


撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)

撮影モード

ワイド端

テレ端

動画(16:9)


38mm


380mm

静止画(4:3)


38mm


342mm

レンズ下にminiHDMIなどの端子が

 レンズの上にはLEDライトがある。静止画用のフラッシュはなく、ビデオライトで代用する格好だ。ライト自体はかなり明るいが、フラッシュのような到達距離はなく、近距離での写真撮影でしか使えないだろう。レンズの下には、USBとAVアナログ出力の兼用端子と、miniHDMI端子がある。

 撮像素子は1/5型、約340万画素CMOSセンサーで、薄型のセンサーモジュールを新規に開発したという。三板式では1/6型というサイズはあるが、単板で1/5型は相当小さい部類に入るだろう。静止画は最大3,264×2,448ドットで約8Mピクセルの撮影が可能。

 液晶モニターは2.7型/約23万画素で、液晶の左側に操作ボタン類が集まっている。十字キーも平たく、センター押しがないタイプ。決定動作は十字キー下のSETボタンになる。

 液晶部内側には電源ボタンしかないが、基本的には液晶の開閉で電源ON/OFFとなるので、使用頻度は高くない。バッテリが同じくここにあるので、バッテリ交換時に手動で電源を切るという動作が必要である。なお本機は本体充電機能がないので、充電時は必ずバッテリを外す必要がある。

液晶脇にメニュー操作系のボタン類充電時にはバッテリを外す必要がある

 後ろ側は、細い部分に小さくズームレバー、録画ボタン、静止画シャッターが付けられている。その下にはSDカードスロットがあり、新規格のSDXCカードにも対応、さらに「Eye-Fi」にも対応している。このカバーはジョイント部分が短く、メディアを取り出しづらい。

 ボディ底部にはストラップホールと、三脚穴がある。三脚に付けると、Xacti特有の前傾姿勢になるあたりは、よく考えられている。

ズームレバーを始め、ボタン類はかなり小さいSDカードはちょっと出しづらいか充電器はコンセント型ではなく、ケーブルを繋ぐタイプ

■ 画質的にはやや低調

 では早速撮影してみよう。撮影日は天候は良かったが非常に風の強い日で、かなりマイクがフカレている。これだけの風を受けたらどんなカメラでも大抵はフカレるので、その点は大目に見ていただきたい。

 背面の小さいボタン類は、サイズの割にはそこそこ出っ張っていることもあって、使いづらくはない。ただ静止画撮影ボタンがかなり上の方にあるので、静止画を撮るときは少し上に握り直す必要がある。ベースはムービーにあるということだろう。

 動画の画質モードはだいぶ整理されて、選びやすくなっている。なお★マークのモードは、CESでの発表では、AppleのiMovieに最適化されたフォーマットの「iFlame」に対応したモードとしていたのだが、日本で発表されたときにはその話はなく、現時点ではこのモードについて詳細は説明はされていない。

動画サンプル

モード

解像度

fps

ビットレート

サンプル

Full-HD

1,920×1,080ドット

60i

16Mbps


sa0025.mp4(35.1MB)

Full-SHQ

1,920×1,080ドット

30p

12Mbps


sa0026.mp4(25.7MB)

HD-HR

1,280×720ドット

60p

12Mbps


sa0027.mp4(26.2MB)

HD-SHQ

1,280×720ドット

30p

9Mbps


sa0028.mp4(16.5MB)

960×540ドット

30p

24Mbps


sa0029.mp4(45.2MB)

TV-SHQ

640×480ドット

30p

3Mbps


sa0030.mp4(6.6MB)

編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 手ブレ補正がONのままで三脚に乗せても、動きがおかしくなるようなことはなかったが、なぜかVGAモードだけは激しく誤動作が起こる。最終製品では改善されているといいのだが。

 ボディのグリップ部が薄いので、ハンディでは非常にしっかり握れる。女性の手でも楽に掴めるサイズである。手ブレ補正の補正量自体は昨今のトレンドのようには大きくないが、しっかり自然な角度で握れることが、安定した映像に繋がっている。

フルHDとしてはややビットレート不足か

 一方画質に関しては、今時のAVCHDカムコーダと真正面から比べるのは酷というものである。第一レンズのサイズが全然違うので、フルHDで撮影すればやはりそれなりの解像感だ。ビットレートがフルHDでも16Mbpsということで、水面などは若干ざわついた感じになる。



stab.mpg(82.7MB)

sample.mpg(378.4MB)
手ぶれ補正自体はそれほど効かないが、握りやすいため安定するFull-HDモードで撮影した動画サンプル
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 ただ、光学+アドバンスズームで10倍が使え、しかも38mmの広角ということで、画角的には使いやすい。この点は、2万円のMP4カメラでよしとするか、もう1万円プラスしてXactiの世界に行くかで、悩ましいところである。

 液晶画面は視野角もそこそこ広く見にくくはないが、モニター外縁部が上下とも左側にむかってすぼまっている関係で、画面をみながらの水平がとりづらい。本機の場合は特に縁がピンクで目立つので、そっちのラインに釣られてしまうのである。できれば画面上に、水平のガイドを示す線が欲しいところだ。

 発色に関しては十分で、コントラストなどはやや静止画っぽい。肌色なども綺麗だが、紫の発色が若干赤っぽくなる傾向はあるようだ。

美肌モードなどは使っていないが、肌色の発色は綺麗紫は若干赤っぽくなる傾向


room.mpg(243.8MB)
室内サンプル。低照度ではAGCが効き過ぎの傾向
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 室内での撮影は、ISO感度オートでは増感の影響で、色味が浅くなる。暗部のS/Nと発色を考えたら、多少暗いがISO200ぐらいに押さえた方がいいようだ。



■ AVCHD vs MPEG-4?

 三洋Xactiの記録フォーマットは、MPEG-4 AVC/H.264である。現在いわゆるビデオカメラと呼ばれる製品群のほとんどはAVCHDとなっているが、その点でもXactiシリーズは異質な存在である。

 三洋としてはMPEG-4だからPCとの親和性が高いのだ、という路線を打ち出していたが、Xactiで撮影したFull-HDモードの映像がQuicktimeで再生できないという問題があって、編集ソフトに持ち込めない状態がしばらく続いていた。

 Quicktime側のアップデートによりこの問題は現在はクリアされたが、そうしている間にWindows7がAVCHDの再生をOS側でサポートしたため、AVCHD側の環境が追いついてしまった。Mac OSではAVCHDはサポートされていないが、Windows環境では差がなくなってきている。

 例えばWindows 7対応のWindows Liveムービーメーカーは、MPEG-4にも対応しているが、同時にAVCHDにも対応している。再生レスポンスも、双方のコーデックともにそれほどの差はないようだ。

 一方Mac OSでは、AVCHDの再生はOSレベルではサポートされていないが、MPEG-4なら簡単に再生できるため、メリットがある。

 今回はせっかくの機会なので、★モードでも撮影してみた。これとフルHDのMPEG-4を比較して、iMovieでの作業効率の違いなどをチェックしてみよう。今回使用したマシンは、MacBookPro 3.1(Intel Core 2 Duo 2.4GHz/メモリ 2GB 667MHz DDR2)である。

iMovieで作業効率を比較

 まず、ほぼ同条件で撮影した両モード映像ファイル12個の読み込み時間を計測した。Full-HDモードで撮影した映像の場合、サムネイルが表示されて編集可能状態になるまで、約20分30秒かかった。読み込みながらファイルをiMovieに最適化しているため、時間がかかる。サムネイルを作るだけでも、6分ぐらいかかっている。

 編集作業自体は、すでに最適化されているため、あまりストレスは感じない。YouTubeへのアップロードは、960×540サイズで行なった。当然リサイズ処理が入るため、元々960×540サイズで撮影する★モードとは単純に比較できないが、8分55秒かかった。

 一方★モードで撮影した映像ファイルは、読み込みから編集可能状態になるまで、59秒。映像のサイズは1/4、フレームレートは半分だが、ビットレートはこちらの方が高い。サムネイルは新たに作っているようだが、それでもかなりの時間短縮である。

 一方YouTubeへのアップロードは、7分7秒であった。リサイズ処理は行なわないが、大半がアップロードに時間が費やされるので、あまり差が付かないようだ。ただアップロードはその都度速度が変わるので、あまり厳密な比較とは言えない。

 YouTubeにアップロードした映像は、ここで確認できる。


■ 総論

 これだけ小さなレンズでフルHDを撮るわけだから、画質的には普通のビデオカメラに比べてそれなりである。しかし光学ズームを備えていたり、露出が綺麗に決まったりという点では、現時点のMP4カメラはまだ適わないレベルにあることは間違いない。

 AFはデフォルトが9点測距になっているが、背景が大きく抜けた映像では後ろにフォーカスが合いやすい。スポットフォーカスにして中央部でAFを動かし、AFロックしたのち構図を作るというやり方のほうがいいだろう。こういう使い方ができるのも、ある程度の機能が載っているからであり、何の設定もなくただ撮れるというMP4カメラからはやはり一歩踏み込んでいる。

 構造としては、薄型化のために本体充電機能まで取ってしまったため、バッテリをしょっちゅう外す必要があるところをどう評価するかが悩むところだ。クレードルもないため、充電やPC/Macへの取り込みのために、いちいち本体のフタを外す必要がある。そのあたりの部品の耐久性がちょっと気になるところである。

 ただ、価格的にこれが3万円切ってくるようであれば、ソニーのbloggieなどはかなり苦しくなってくる。おそらくユーザー的には、ほぼ同じゾーンになることだろう。

 昨今の傾向として、運動会以外の映像を撮るための映像機器が続々と登場している点は、良い傾向である。世の中の様々な出来事を動画で撮影し、情報化していく作業としては、ケータイでは不十分だし、ビデオカメラでは大仰すぎるし、こういったカメラの存在が重要である。特にMacユーザーにとっては、記録がMPEG-4であることや、★モードでiMovieでの取り込みが高速化されることは、メリットが大きい。

 ビデオカメラの薄型化というのはこれまでにないトレンドなだけに、CS1がどのような市場を形成するのか、大変興味がある。

(2010年 2月 10日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]