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キズナアイだけじゃない!? 個性派キャラ大量“Vtuber”入門
2018年4月28日 09:45
最近、ネット上で話題になっている「Vtuber」(ブイチューバー)。「聞いた事はあるけど、ちゃんと見たことはない」という人も多いのではないか。また、Vtuberと言っても、様々なタイプのキャラクターが存在し、その数も日々増加し続けている。ここでは、独断と偏見にもとづき、筆者が気になるVtuberをチョイス。特徴や魅力について紹介する。
Vtuberとは何か
Vtuberとは何か、一言で言い表すならば「バーチャルなYouTuber(ユーチューバー)」だ。YouTuberはご存知の通り、YouTubeに様々な動画を投稿するクリエイター達の総称。中にはHIKAKIN(ヒカキン)のように、動画再生により生計を立てている人もいる。
「ネットの一部で人気を集めている人」という印象があるかもしれないが、ニールセン デジタルの調査「Nielsen Video Contents & Ads Report 2018」によれば、インターネットで視聴する動画のコンテンツ別時間シェアは、全体では「テレビ番組」が32%で最多だが、次いで「一般のユーザーが投稿した動画」が25%まで迫っている。
さらに、10代の4割は「YouTuberが投稿した動画」を視聴しており、これは「テレビ番組」と答えた10代(24%)より割合が高くなっている。つまり、若い人達にとって、もはやYouTuberは“一部で人気”の存在ではなく、テレビに出ている芸能人に匹敵するような人気や知名度を持つ存在になりつつあると言えるだろう。
そんなYouTuberが投稿する動画コンテンツ。様々な種類があるが、よく目にするのがゲームプレイ動画、iPhoneの新機種など話題の製品を紹介するレビュー動画、話題のスポットに出かけるレポート動画などだ。
こうしたYouTuberは、もちろん生身の人間で、動画にも彼らが登場する。しかし、それを人間ではなく、3DCGで作った美少女などに置き換え、バーチャルな存在としたものがバーチャルYouTuber、略して“Vtuber”だ。
独断と偏見で選ぶ“注目Vtuber”
“YouTubeで動画が話題になる”と言えば、「100万再生された」などの再生数に注目が集まりがちだ。一方で、増え続けるVtuberの人気を示す1つのバロメーターが「チャンネル登録者数」だ。YouTubeにおける「チャンネル登録」は、いわゆる「お気に入り登録」のようなもので、登録したクリエイターの動画が見やすくなる。さらに鈴のマークを押すと、新しい動画が投稿された際に通知が来て、見逃しにくくなる。つまり「チャンネル登録者数」は「ファンの数」と考えられているわけだ。
チャンネル登録者数が多いVtuberは、4月27日現在、「キズナアイ(A.I.Channel)」が約177万人、「キズナアイ(A.I.Games)」が約76万人、輝夜月(かぐやるな)が64万人、ミライアカリが56万人……などだ。
Vtuberの代表格と言えるのが、2016年末から活動を開始したキズナアイだ。高性能なスーパーAIを自称しているが、実際はいろいろと残念なポンコツAI部分が多く、それが逆に彼女の魅力にもなっている。
Vtuberの先駆け的なキャラクターであり、また、現在に至るまで、トップクラスの人気を誇る。最近では4月からBS日テレで、初の冠番組である「キズナアイのBEATスクランブル」の放送開始。4月放送開始のテレビアニメ「魔法少女サイト」で声優にも挑戦するなど、活躍の場はYouTubeやインターネットの外にも広がっている。
もはや“Vtuberのお手本”のような存在と言っても過言ではない。「A.I.Channel」と「A.I.Games」という2つのチャンネルをYouTube上に開設。A.I.Channelでは声真似やゲストとのトークなどのコンテンツを、A.I.Gamesではゲーム実況をメインに投稿している。
天然ボケキャラなキズナアイに対して、サバサバしたお姉さん的な印象があるのがミライアカリだ。ナイスバディなキャラクターで、胸揺れも含めて3DCGのクオリティは高い。ハイテンションで、キズナアイ同様、様々なゲームや企画に挑戦しており、下ネタ系にも寛容な懐の深さがある。見ていると元気をもらえるVtuberだ。
なお、上記のVtuber達が投稿しているコンテンツを見ると、“ゲームプレイ動画を配信するVtuberが多い”傾向がわかる。生身のYouTuberもゲーム配信は多いが、3DCGであるVtuberの場合、“新製品を買ってみたレポート”や“話題の場所に行ってみた”的な動画と相性が悪く、ゲーム配信の比重が高まるのかもしれない。
Vtuberが楽しんでいる姿から、話題のゲームを知る事もできる。彼女達は、例えば「モンスターハンターワールド」のような、ゲームファンでなくても知っている有名作にも挑戦するが、ゲームファンの間で話題になっている「PUBG」や「フォートナイト」のような作品にも挑む。「キズナアイが挑戦していたので、このゲームに人気がある事を知った」という人もいるだろう。
個人的にも、パズルゲームなのに、ゾウやシマウマなどがテトリスのように降ってきてどうしようもなくなる「どうぶつタワー」や、何故か壺に入ったムキムキのおじさんが、ハンマーを振り回して崖を登っていくイライラゲーム「Getting Over It」をVtuber達が楽しそうに遊んでいるので「お、俺もやってみよう」と入手してしまった。
影響力も大きいため、ゲームメーカーがスポンサーについた動画も存在する。ソーシャルゲームでは、ゲーム内のコインを消費し、ランダムでアイテムをゲットする、いわゆる“ガチャ”というシステムが存在するが、“Vtuberがガチャの10連をひくだけの動画”というのもある。「他人がガチャをひく動画を見て面白いのか?」という疑問も頭をよぎるが、好きなVtuberだと、目当てのアイテムがもらえずに悔しがっているリアクションだけでも面白く、つい見てしまう。
動画からわかるVtuberの個性
こうしたゲーム動画においてVtuber達は、ゲームプレイを録画した映像に、小画面で顔を重ねて登場する。生身の人間ほど細かな表情の変化はないものの、敵にやられて放心状態になったり、頭をかかえたりといった様子も、見ていると面白い。
“ゲームのプレイ動画”というと、超絶テクニックで敵をバタバタ倒していったり、高難易度のステージを鮮やかにクリアしていくイメージがあるが、Vtuberの場合、必ずしもゲームが上手い必要はない。
例えばキズナアイの場合は、ゲームの腕前は“普段あまりゲームをプレイしていない人レベル”という印象。ジャンプし過ぎて谷底に落ちたり、敵が目の前にいるのに慌ててあらぬ方向に銃を撃ったりと、失敗も多い。やられて悔しがったり、ふてくされたり、といったリアクションの可愛さや、「あー! 落ちる落ちる!」と、一緒にハラハラするところが、彼女の動画の魅力と言えるだろう。
美少女Vtuberながら、対人で撃ち合うゲームもこなせる「電脳少女YouTuberシロ」の場合、美少女が可愛い声で「わーい」とか言いながら敵を倒していくという、ある種シュールな映像になる。このギャップを楽しむというのもアリだ。
そんなギャップの極地と言えるのが、新進気鋭のVtuber・猫宮ひなただ。「うい~」が口癖の、けだるそうな雰囲気の彼女だが、FPSの腕前はプロゲーマーかと驚くほど。のんびりした声で「うっしゃー」と喋りながら、超人的な動きで次々とヘッドショットを決めたり、敵陣背後にまわりこんで全滅させていく姿は、まさに“可愛い死神”で、インパクト大だ。
同じゲームをプレイしても、プレイするVtuberによって、面白さの方向はガラリと変わる。動画が再生される事で広告収入を得たり、生配信中にスーパーチャット(通称スパチャ)という、いわゆる投げ銭システムにより収入を得るVtuberもいる。そういった意味では“プロゲーマー的な存在”と言えなくもない。
“美少女キャラの可愛さ”に頼らないVtuberもいる。例えば「最果ての魔王ディープブリザード」は、“魔王”と言うだけあって、威厳のある男性の声で、まるでラスボスのように喋る。難易度の高いゲームに挑戦する際も「フハハ!! こんなもの10分で十分だ!!」と豪語。
だが、スタート直後から難易度の高さに手こずり、魔王キャラも何処へやら、谷底に落ちながら「助けて!!」と叫ぶ始末。予告した10分を過ぎてもまるでステージが進まず、次第に嗚咽が交じるなど、面白いが見ていて気の毒になる。キャラクター設定のユニークさが光るVtuberだ。
キャラクターの強烈さと言えば、輝夜月(かぐやるな)も外せない。異様なほどテンションが高く、可愛いのだけれど“首を絞められたような”と表現される、独特の声が魅力だ。
トークのスピードも速く、単に喋っているだけの動画なのに疾走感があり、見終わると全力疾走した後のように疲れる。男子の輪の中にもズカズカ入っていき、「ギャハハ!!」と笑いながらバンバン肩を叩いてくるクラストメイトの女子を思い出すようなキャラクターだ。
ゲームに挑戦したり、恋愛相談や血液型診断など、動画の題材は比較的オーソドックスなのだが、キャラクターのインパクトが凄くて、毎回内容よりも“輝夜月がすごかった”という印象しか残らない。存在感という意味ではVtuberの中でも白眉であり、もはや“彼女なら何をしていても面白い”という驚異的な存在になりつつある。
異彩を放つのが“ねこます”こと、「ねこみみマスター(バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん)」だ。今まで紹介したVtuberは、声を女性が担当しているパターンが多いが、「のじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」と自称しているだけに、中身はおじさんである事を隠していない。でも外見は可愛い狐娘というキャラクターだ。ボイスチェンジャーなどは使わず、声はおじさんのまま。このギャップが魅力だ。
架空のキャラクターとして喋るのではなく、話す内容が“中身のおじさんの日常生活”というのもスゴイ。例えば、コンビニでのバイト(現在は転職済み)で遭遇した理不尽な出来事などを赤裸々に語り、最後は「世知辛いのじゃー」で締める。真摯に話す姿勢から、人柄の良さが伝わってきて「辛いこともあるけど頑張って!」と応援したくなる。声はおじさん、中身もおじさんなのに、何故か可愛く見てくるから不思議だ。ある意味で、自分がバーチャルな存在である事を、最も活用しているキャラクターと言ってもいいだろう。
なんでも赤裸々に語るってくれるが、3DCG製作ツールやモーションキャプチャなど、Vtuber活動に必要な機材やソフトウェアの詳細や、購入に必要な費用、それらを使って動画を作る苦労についても話してくれる。Vtuberの裏側や、Vtuberに関連する技術的なトレンドについても教えてくれるという意味でも、貴重なキャラクターだ。
Vtuberの可能性
“真面目でお硬い学級委員長”という見た目の月ノ美兎(つきのみと)は、見た目通り、凛とした声と丁寧な口調で配信するVtuber…‥なのだが、話を聞いていると、サブカルに造詣が深く、ネットにどっぷり使った幼少期を過ごし、下ネタもある程度OKという、懐の深さが最大の魅力。可愛さとディープさが同居した、人気急上昇中のVtuberだ。
彼女らしいコンテンツとして、「月ノ美兎の放課後ラジオ」(通称:みとらじ)が挙げられる。ラジオと言いつつ、映像も存在するので、要するに「2時間近くのフリートーク動画」なのだが、映像を見ていなくても理解できる内容であるため、ラジオ番組のように“何かの作業をしながら耳だけで聞いて、たまに画面を見る”という楽しみ方が可能だ。
VtuberやYouTuberというと、“インパクトの強い、数分の動画を毎日アップしていく”というスタイルが多いが、良い意味でダラッとした音声主軸の番組というのは逆に新鮮だ。
また、彼女はいちからという会社が手がけるアプリ「にじさんじ」を使って作られている。このアプリは、iPhone Xに搭載されている、利用者の顔を検出するフェイストラッキング機能「Animoji」を使っている。iPhone Xが検出した人間の表情や動きを、アニメ製作アプリ「Live2D」に存在する3Dモデルに、リアルタイムに反映させている。
つまり“高性能なPCやセンサー、ヘッドマウントディスプレイなどを用意しなくても気軽にVtuberになれるアプリ”だ。同じようなコンセプトで作られたアプリも、既に幾つか登場している。
高性能な3DCGツールで作り込まれたVtuberと比べると、動きの幅や、表情の変化の度合いなどでは見劣りする部分もあるが、“誰でも気軽にVtuberになれる時代”が到来しつつある事、キャラクターや番組の企画が面白ければ、素人/玄人/企業を問わず、“それを楽しむ人達が沢山いる”という土壌が既に存在する事がわかる。
一方で、こうしたVtuberとはガラッと雰囲気が違う、新たな方向性を感じさせるキャラクターが鳩羽つぐだ。彼女は……と、説明したいところだが、残念ながら彼女の情報は恐ろしく少ない。そしてそれこそが鳩羽つぐの魅力だ。
「鳩羽つぐです、西荻窪に住んでいます」と語る、小学生くらいの少女。「はいどーもー!」で始まるVtuber/YouTuberとまるでテンションが異なり、ゲームに挑戦したり、新製品を紹介するわけでもない。鳩羽つぐという少女の、何気ない生活のワンシーンを撮影してアップロードしたような印象だ。しかし、撮影している親などの、他の人間の気配は無く、全体的に物悲しさというか、ミステリアスな雰囲気が漂う。
それゆえ、3DCGで作られているキャラクターなのに、妙に生々しい実在感があり、つい「この子はどんな境遇に置かれているのか?」、「この動画を撮影しているのは誰なのか?」など、映像の裏を深読みしてしまう。「生身の人間がVtuberを作っている」という視聴者の認識を煙に巻くような、メタフィクション的なキャラクターだ。
「Vtuberが何かをしている様子を楽しむ」のではなく、「Vtuberを使って世界観やメッセージを表現する作品」のような方向性も、今後広がっていくのかもしれない。
視聴者として感じるYouTuberとVtuberの違い
YouTuberをバーチャルキャラクター化したものがVtuberであるため、CGであっても「面白い人が、面白い事をする」というコンテンツの基本スタイルは同じだ。一方で、VtuberはYouTuberほど生々しい存在ではなく、キャラクターとして記号化されているのが、大きな違いだ。
例えば、ファンがキズナアイのイラストを描いてSNSに投稿したり、キャラクターのLINEスタンプを購入して使うといった行為は、リアルなYouTuberでも無くはないが、Vtuberの方が積極的に行なわれている。アニメやゲームの人気キャラクターと同じような感覚で広がっていけるのが、Vtuberの強みと言えるかもしれない。
特定の作品に縛られた存在でもないため、自由度も高く、他の作品やキャラクターとコラボするといった展開も多い。例えばキズナアイは、4月から放送中のアニメ「魔法少女サイト」において、キズナアイとして声優に挑戦。日本政府観光局(JNTO)ニューヨーク事務所から、日本観光をプロモーションする観光大使に起用されたりもしている。将来的に、リアルなYouTuberや芸能人にも負けない、多方面で活躍するVtuberが登場する可能性もある。
バーチャルな存在だが、声を出している人間の動きをキャプチャしているため、人間のような生っぽさもある。頻繁にライブ配信を行ない、視聴者とリアルタイムに会話するといった行為は、既存のアニメやゲームのキャラでは難しいと思われ、こうした活動がVtuberをより身近な存在と感じさせてくれる。バーチャルキャラなのに“生きている感”が強い。3次元と2次元のはざまに存在する、2.5次元的なキャラクターがVtuberと言えるだろう。
Vtuber同士の連携も加速している。VR空間で他者とコミュニケーションできるサービス「VRchat」を活用しているVtuberも多く、Vtuber同士がゲストとして相手の番組に参加し、1つのコンテンツを作るといった動きも珍しくない。
最近では、ニコニコ動画を手がけるドワンゴが、インフィニットループと共同で、「バーチャルキャスト」(Virtual Cast)のβ版を開始した。HTCのVIVEを使い、バーチャルキャラクターになって映像を配信したり、他のキャラクターがいるスタジオに遊びに行ってコミュニケーションし、その様子を配信するといったものだ。ソフト自体に配信機能は無く、配信先はニコニコ生放送だけでなく、YouTube Live、ツイキャス、Twitch、OPENREC.tvもサポートしている。
クリエイターが使用するモデリングツールが異なると、キャラクターの3Dデータフォーマットも異なり、コラボする際のハードルになる。そこでドワンゴは、プラットフォームに依存せず、他のエンジンや環境でも取り扱える3Dアバターファイルフォーマット「VRM」も開発・提供している。
“面白いユーザーの動画に視聴者が集まり、盛り上がり、新たなムーブメントを生み出す”という構図は、ニコニコ動画が得意としていたものだ。YouTubeから生まれたYouTuberの盛り上がりは、ニコニコ動画の“お株を奪う”ような展開と言えるが、そこからVtuberが生まれ、そのVtuberの世界でドワンゴが存在感を増しはじめているのは面白い展開だ。
4月28日、29日に幕張メッセで開催されている「ニコニコ超会議 2018」にも、Vtuberが登場する企画が用意され、前述のVtuberからも何人かが参加している。YouTubeという1つの配信サービスにとらわれない、ネット上のキャラクターになっているのがわかる。
5G時代の到来を控え、スマートフォンの進化は進み、ネットの動画視聴もより快適になっていく。スマホで遊ぶゲームもより魅力的になっていくだろう。それらと親和性の高いVtuberを目にする機会は、今後も増えていきそうだ。彼らはVRの進化とも親和性が高く、いずれはどのVtuberにも、VRの世界で会えるようになるかもしれない。
ちなみに、YouTubeで「Vtuber デビュー」や「Vtuber はじめまして」などで検索し、検索条件に「アップロード日 今週/今月」などと加えると、生まれたばかりのVtuber達にヒットする。人気Vtuberのコンテンツを楽しむだけでなく、まだ話題にはなっていないけれど、お気に入りのVtuberを探してみるのも、面白いはずだ。