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有力スピーカー続々、アナログ本命も? 山之内正×本田雅一対談【'19夏・音響編】
2019年8月2日 07:00
オーディオ&ビジュアル評論家・山之内正氏と本田雅一氏が、注目製品や動向について自由に語る対談のオーディオ編。気になるモデルが多いスピーカーや、AVアンプのメーカー再編、エントリー機ながら本命ともいえそうなレコードプレーヤーの登場、さらにはお気に入りのコンテンツ配信まで、様々な製品やサービスに話題が及んだ。なお、テレビなどの映像編は7月25日に掲載している。
スピーカーはアクティブ型が要注目。名機の新世代モデルも
山之内:5月にミュンヘンで開催されたオーディオショウHIGH ENDでは、アクティブスピーカーが多数出展されていました。KEFのLSXは日本でも発売されましたが、PIEGAやELACなどハイファイスピーカーのブランドが力を入れています。DALIやDYNAUDIOも以前から積極的に取り組んでいますが、それが他のブランドにも浸透してきました。
本田:プロ向けはかなり以前からアクティブに切り替わっていましたし、グローバルでは家庭向けもそうでした。個人的には、ずいぶん前からマルチアンプのアクティブ駆動なので大歓迎ですが、何がその背景にありますか。
山之内:まずは使い勝手の良さでしょう。ワイヤレス対応であれば送信モジュールとスピーカー本体だけでシステムが完結し、スピーカーケーブルをつなぐ煩わしさから解放されます。アクティブスピーカーが広がり始めたもうひとつの理由は、デジタルアンプと組み合わせ、マルチアンプで各ユニットを独立駆動することの音質メリットだと思います。アンプを専用設計できる利点はかなり大きいということでしょう。
本田:アクティブスピーカーで使いやすい小型デジタルアンプの質が、ここに来て本当に良くなってきていることも影響しているかもしれませんね。カジュアルな製品ですが、アメリカのSONOS Ampを先日評価してみたのですが、さすがにグローバルでもっとも売れているネットワークオーディオ機器メーカーだけあって機能的にも素晴らしいのですが、7万円そこそこの価格で多様なネットワークオーディオ機能を持ち、高機能・コンパクトな製品なのに音質もいい。よくできているなと思ったら、クアルコム製の最新デジタルアンプを内蔵しているんですよ。このモジュールが極めて高品位なのだと思います。
山之内:SONOSは日本ではまだあまり注目されていないけど、欧米ではかなり前から浸透していますね。直接の関連性はありませんが、実は同様の状況はアクティブスピーカー市場でも昔からあります。日本ではハイファイグレードのアクティブスピーカーは、市場としてなかなか立ち上がっていませんが、さすがに欧州著名ブランドもアクティブに向かうとなれば、これからじわじわと広がってくる予感があります。スタジオで圧倒的なシェアを持つフィンランドのGENELECは家庭用モデルにも力を注いでいますし、日本のメーカーからも新しい発想のアクティブスピーカーがハイファイグレードで登場する予定があるので、楽しみです。
本田:アクティブ以外でスピーカーの注目モデルはありますか。
山之内:久々に刷新されたソナス・ファベールのエレクタ・アマトールIIIはとても良いスピーカーです。ミュンヘンのHIGH ENDではその下のミニマ・アマトールIIが発表されましたが、こちらもボーカルや弦楽器が惚れ惚れするような音で鳴っていました。
本田:エレクタ・アマトールは3世代目ですが、初代・2代目も名機でした。実は初代ミニマを書斎で使っていたことがあったんですよ。ソナス・ファベールは、その佇まいからデザイン先行と誤解されることもありますが、実際には音質設計にこそ魅力があると思います。センタースピーカーもラインナップされているソネットシリーズを中心にしたホームシアターのスピーカーシステムを推薦しました。最上位モデルでもペア90万円ですが、もっと上のクラスと戦えるでしょう。ウォールスピーカーの設定もあり、インテリアを壊さずサラウンドスピーカーを設置したい場合でも使いやすいシリーズです。
ピックアップ製品(山之内)
ピックアップ製品(本田)
AVアンプは、部屋に合わせた細かな補正技術に注目
本田:今年前半はAVアンプの話題が少ないですね。オンキヨー&パイオニアが手掛けてきたホームオーディオ事業が米Sound Unitedに売却されたことで、両ブランドの今後の動向も気になります。
山之内:デノンとマランツのようにブランドの個性を残しつつ共存できる関係を目指すのだと思うけど、デノン、マランツを含めSound Unitedが所有する4つのブランドの間でどこまで個性を出せるのか、かなり知恵を絞らないと難しいでしょう。
本田:独立性を保てるかどうかですね。同グループ以外ではヤマハが健闘していますが、ソニーは長い間、新製品が出てきていません。今後もこのジャンルに投資される予感もないのが残念ですね。
山之内:ブランドを整理するよりは、それぞれの個性を際立たせる方向に進んで欲しいですね。その方がユーザーの多様なニーズに応えられると思います。本格的なAVシステムは構築したいけど、大きく複雑な既存のAVアンプが嫌な人はたくさんいるので、たとえばマランツの薄型モデルのような製品をさらに突き詰めるとか。
本田:いまは部屋の中での存在感が少なく、スマートに使いこなせる製品の方が求められていますからね。機能が多ければ素晴らしいという時代は一巡し、本来のオーディオ機器としての質が問われる時代だと思います。
山之内:海外ブランドではリンがSELEKT DSMシリーズ用にサラウンドモジュールなどオプションボードを一気に7種類発売し、ホームシアター市場に一石を投じました。
本田:この製品で構築したサラウンドシステムは、細かな音場補正機能なんてなくとも、距離さえ合わせておきさえすれば、実に高音質で豊かな音場を実現するんですよね。内蔵ボードでは5.1chシステムまでしか組めませんが、Exakt Linkを用いれば7.1chまで拡張できます。良いスピーカーに良いアンプ、デコーダを組み合わせ、良質なDACで鳴らす。一体型AVアンプとは別世界です。
山之内:特にDACを上位仕様のKatalyst(カタリスト)にすると、明らかに一皮むけた音になります。リンジャパンによると、日本ではKatalystの比率が高く、しかもアンプ内蔵の一番高いモデルが売れているらしいです。
本田:わかります。僕も何人かにSELEKT DSMを用いたサラウンドシステムを薦めました。予算的に厳しいのであれば、フロント2chだけKatalystにして、他の3.1chはスタンダードなど、柔軟な選び方もできます。それぞれにアンプ内蔵/非内蔵も選べるから、アクティブスピーカーや既存パワーアンプを混在させることもできますし、システム構成の柔軟性が高いのは魅力ですね。ここまで高音質だとフロントスピーカーの実力次第ですが、センタースピーカーがなくともファントムセンターで充分な定位感が出ます。一体型AVアンプでセンターレスだと定位が曖昧になりがちですが、本当に良いシステムで組むとメインスピーカーの質の高さを活かせますね。
山之内:ステレオのシステムを発展させてサラウンドで聴きたいという人やピュアオーディオと併存させたい場合には良い選択肢になります。センターもサブウーファーもつながず4ch再生でも十分に楽しめます。
本田:半端なサブウーファーよりも、優れたメインスピーカーの低域の方が心地よくなってくれますしね。もちろん、LFEチャンネルには音場の空気感、雰囲気を出す重要な役割もありますが、ない方が好きという人は意外に多いと思います。
山之内:SELEKT DSM以外のリン製品でも使える新しい「アカウント・スペースオプティマイゼーション」はぜひ試して欲しい機能ですね。部屋のサイズやスピーカーの位置を入力して定在波を打ち消すものですが、部屋の形を自由に選んだり、補正に時間軸情報を組み込んで高精度化するなど、大きく進化しました。今回から手元のパソコンではなく、LINNのサーバーにデータを送信して演算結果をDSやDSM本体が受け取る方式に変わり、複雑な計算が短時間で完了するようになっています。
本田:以前は正面にスピーカーを向けることしかできませんでしたが、このバージョンから角度を付けて設置して補正してくれるようになり、サラウンドシステムでも活用できるのはいいですね。
山之内:自分の部屋のデータはすべてLINNのサーバーに保存されているので、いつでも呼び出して修正できるし、複数の補正値を登録して切り替えることもできます。
本田:この機能の素晴らしいところは、クラウド側で補正演算を行なっているため、手元の機器は古いままでも使えることですね。遡って初代Klimax DSでも使えます。とても合理的な方法ですね。かつてゴールドムンドがCADデータから導いて信号補正を行なうシステムを提供していましたが、数千万円規模の製品でした。隔世の感がありますね。
山之内:マイクで測定するAVアンプの手法とは違うけど、注目したい技術です。低域が変わると上の音域も音場の透明感が変わりますから、とても有効な方法です。
ピックアップ製品(山之内)
ピックアップ製品(本田)
レコードプレーヤーはテクニクス「SL-1500C」が圧倒的か
山之内:レコード関連も話題が豊富です。昨年ラックスマンが発売したPD151はミドルレンジでテクニクスに迫る人気がありますが、テクニクスはSL-1500Cを10万円ちょうどで発売して、これがまた完成度が非常に高く、人気が出そうです。
本田:あれは価格性能比が良すぎますよ。
山之内:昔のテクニクスもエポックメイキングなレコードプレーヤーをいくつか発売してきました。ジャケットサイズのSL-10とかロングセラーのSL-1200シリーズがその代表ですね。今回のSL-1500Cはそれらと同じくらい手軽で、しかもSL-1200以上にシンプルで使いやすい製品になりました。
本田:コアとなる部分は上級機と同じで、トーンアームもほぼ同じ。内蔵フォノイコライザーもまずまずのものだし、コストダウンされているケーブルや脚を変えるとグッと良くなりますから、手元にちょっとしたインシュレータやケーブルをすでに持っているなら、それを活用するだけで軽くその上のクラスの音が楽しめます。
山之内:付属カートリッジにオルトフォンの2M REDを選んだのも正解です。音楽ジャンルを選ばないし、再生音のバランスもかなり良いので、プレーヤーを買ってからしばらくはそのままこれで楽しめますよ。ピッチコントロールもストロボスコープもないシンプルなSL-1500Cが気に入る人はたくさんいそうです。
高級機ではロクサンのザークシーズ(XERXES)が新製品に生まれ変わり、日本市場への本格導入が始まりました。初代機は1980年代後半に登場したイギリスを代表する名機で、高精度な回転機構と入念な振動対策がいまも語り継がれています。今年の秋にはヤマハのGT-5000がいよいよ登場し、こちらも大きな話題を集めそうです。
ピックアップ製品(山之内)
ピックアップ製品(本田)
完全ワイヤレスイヤフォンの接続安定性。ヘッドフォンは前方定位に注目
本田:イヤフォンは完全ワイヤレスがゼンハイザーやサムスンなど、いろいろ出てきましたが、完全ワイヤレスのジャンルは、音質はともかく機能や左右切れのしにくさなどが、内蔵するチップに依存しています。アップルは系列のBeatsを含め、自社開発チップで実現していますが、他は1万5,000円以上の高級機はクアルコム製チップ、その下はリアルテック製チップなどが使われています。機能面もそうですが、実はBluetoothの音声コーデックがaptXに対応できるのはクアルコム製だけなんですよ。
クアルコムがaptXの開発会社を買収し、今のところ、完全ワイヤレスのジャンルのみですが、他社チップへのライセンスを行なっていないようです。もっとも、あまり細かなスペックよりも、ありのままに製品を評価する方がいいと思います。iPhoneユーザーならば、Powerbeats Proは意外にも真面目な音で、長時間駆動可能なバッテリーも含めてとてもよくできています。AndroidユーザーならDSEE HXでCDや圧縮音源も“ハイレゾ相当”にするというソニーのWF-1000XM3が要注目ですね。
【訂正】初出時、WF-1000XM3がLDAC対応としていましたが、誤りのため修正しました(10時30分)
山之内:有線イヤフォンの高級機では、ソニーのIER-Z1Rがやっと春に発売されました。シグネチャーシリーズ初のイヤフォンで、仕上げやパッケージにもこだわっています。デザインは好みが分かれそうですが。
本田:発売までにずいぶん時間がかかりましたね。確かに音は良いのですが、少々重いのが残念です。装着感は決して悪くないのですが。また実力を引き出すには、接続するプレーヤーの内蔵アンプにもそれなりの駆動力が必要になると思います。
山之内:Z1Rは音作りの方向がこれまでのソニー製イヤフォンとは少し違っていて、個性を強く主張するサウンドとは一線を画しています。ボーカルやクラシックの音源にはかなりお薦めです。
山之内:ヘッドフォンでは最近登場したクロスゾーンのCZ-10に注目しています。ベリリウムをコーティングした振動板など基幹技術を活かしながらCZ-1に比べてかなり軽くして、価格も9万円まで下がりました。声の音像が頭の前の方に浮かぶので、既存のヘッドフォンでボーカルやソロ楽器が頭のなかに定位する感覚が嫌という人にはお薦めです。
ヘッドフォンならではの情報量を活かしながら音を前に前方に定位させるのは、特にアコースティックな手法で実現するのが非常に難しい。でもこれから注目を集める技術であることは間違いありません。
ピックアップ製品(本田)
WF-1000XM3は優れたノイズキャンセリング機能と実用上充分なバッテリー持続時間が魅力だ。ノイズキャンセリング機能付きのイヤフォン/ヘッドフォンは音質が悪くて当たり前だが、この製品はノイズキャンセリング機能が有効でも無効でも、聴感上の音質がほとんど変化しない。しかも装着時の安定感に優れている。ランニングなどスポーツシーンでの利用でなければ、あらゆるシーンにマッチする万能性の高い製品。非クアルコム系チップのTWSだがDSEE HXでアップコンバート可能と、他製品にはないオリジナリティの高さが光る。
一方、Powerbeats Proはフィッティングに優れた長寿命バッテリーかつ、スポーツシーンでも落とさない耳掛けフック付きのTWS。手軽さ、コンパクトという意味で一般的なTWSよりもハンドリングは落ちるが、一方で防水・防汗かつバッテリー持続時間を気にせず使える。音質もバランス良く、フィッティングさえキッチリ調整すれば問題ない。iPhoneとの組み合わせではとりわけ使い勝手がいい。
ピックアップ製品(山之内)
ストリーミング配信がますます手放せない存在に
本田:コンテンツはどうですか。映像作品はNetflixが良くなってきて、映画のBlu-rayを買う機会がかなり減ってきてしまいました。
山之内:仕事場にもOLED(有機EL)テレビを入れたけど、自宅と違ってこちらはアンテナ線よりLANケーブル経由の配信コンテンツとHDMI経由のUHD BD/BDを見る時間の方がはるかに長いですね。配信系専用とまではいかないけど、準専用機みたいな位置付けになっています。
本田:Netflixも画質が良くなっていて、利便性も合わせて考えると「UHD BDじゃないと画質的にNG」と言いにくい状況になってきました。最大ビットレートが100Mbps近いUHD BDは、もちろん画質面では王様なのですが、ネット配信は継続的に進化させていくこともできるので、これから……たとえば4Kを超える6Kや8Kといった解像度の映像では、いよいよストリーミングが主流になっていくかもしれませんね。
――(編集部)使う配信サービスに変化があったりはしますか?
本田:音楽配信サービスですが、TIDALからQobuzに切り替えることは検討しています。ほぼ同じコンテンツが楽しめますが、クラシック、ジャズ系はQobuzの方が充実していう印象ですね。特に2Lなどの欧州高音質系レーベルには強い。
山之内:コンサートのライヴ配信はこれからかなり充実すると期待しています。ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールはおなじみですが、ウィーン・フィルも配信に積極的に取り組んでいます。OTTAVA TVでは有料でウィーン国立歌劇場のライヴ配信が始まりました。時差を考慮して翌日配信する準ライヴ形態ですが、72時間はオンデマンドで繰り返し観られます。日本語字幕も付くので、完全なリアルタイムのライヴより見やすいですね。
本田:映像コンテンツでも、コンサートやスポーツのライヴはこれからもっと増えてくるでしょう。チケット制で限定人数だけリアルタイムで楽しめ、数カ月後からは再配信といったビジネスモデルが定着すれば、音楽コンテンツ業界の構造が大きく変化するかも知れませんね。