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出揃った4K有機EL、液晶TV狙い目はどれ? 山之内正×本田雅一対談【'19夏映像機器編】

オーディオ&ビジュアル評論家・山之内正氏と本田雅一氏が、商戦期の注目製品や動向について語る業界対談。今年のテレビは有機ELパネルの更新に加え、4Kチューナー内蔵が当たり前になってきた。一方で、プレーヤーやレコーダー、ホームシアタープロジェクターなどの製品に動きは少なかった。

山之内正氏(左)、本田雅一氏(右)

昨年秋モデルもまだ有力な機種が残っている中、'19年上半期にそれぞれが注目する製品を中心に、製品選びや評価のポイントなどについて語ってもらった。

有機ELの進化。4Kチューナーの有無には注意

本田:まずはテレビからですが、例年の通りLGディスプレイのOLED(有機EL)パネルがアップデートされました。今年は黒からの立ち上がりが滑らかになりましたね。これは全製品に共通するものですね。パッと見にはわからないでしょうが、OLEDのもっとも不得手な部分ですから、この改善を今後が続くことを期待したいところです。

山之内:4Kチューナー内蔵モデルが出そろったことで、購入しやすい環境が整いました。各種機能などは別として、基本画質の向上でパナソニックが頑張りましたね。同じLGディスプレイのパネルでも、パネル組み立ての工程から自社で品質管理することで、ここまで画質が上がるという可能性を示した意義は大きい。他社製品も含め、2018年モデルで解決し切れていなかった課題のいくつかをクリアし、輝度アップや階調再現のリニアリティ改善など、着実な画質改善を果たしました。パネルごとのチューニングを徹底し、製品ごとの画質のばらつきを従来以上に抑えたことも評価したいですね。

山之内正氏

本田:パナソニックのGZ2000シリーズは55型と65型モデルのみのラインナップですが、画面全体を均一に冷却することでパネルの能力をさらに引き出せるようにした上で、パネルのタイミングコントローラが安全のために抑制している部分を、自社開発エンジンで一部代替し、冷却で得た余力を引き出せるようにしたのがポイントですね。

このために専用の組み立てラインを作る必要があり、サイズが65型以下となっていますが、従来機比で3割。他社比では最大5割程度、ピーク輝度が高まりました。

別途、記事も執筆しましたが、今年モデルでもっとも優れた画質を出しているのは、間違いなくGZ2000シリーズでしょう。この製品はDolby Atmos再生時に、天井反射で立体音響を引き出すイネーブルドスピーカーを搭載したことも注目ですね。

パナソニック「GZ2000」シリーズの65型「TH-65GZ2000」

山之内:薄型テレビなのに“敢えて厚くなるイネーブルドスピーカー”を採用というのは驚きました。サラウンド効果もさることながら、メインスピーカーとの組み合わせでセリフ位置を上げる効果もあり、こちらも歓迎する人が多いでしょう。画面が大きくなるほどセリフの高さに違和感を覚えやすくなるので。

背面に立体音響のイネーブルドスピーカーを内蔵

本田:セリフのリフトアップは、画面高さの1/3程度なのですが、それでも効果的ですね。パネル全体を冷却するために、組み立て工程を自社に作る覚悟を決めたことも含め、パナソニックのやる気を感じます。

一方でソニーのA8Gなのですが、4Kチューナーを内蔵していない点に注意した方がいいでしょう。映像エンジンもX1 Extremeで基本的な機能も含めて昨年モデルと、ほぼ同じと考えていいでしょう。

本田雅一氏

山之内:この段階で発売するなら、4Kチューナーは入っていて欲しいですよね。メーカーは販売の現場で何らかの対応はするでしょうが、新機種としてラインナップされていることにはやや疑問があります。

本田:おそらくLGディスプレイ製パネルが更新されたため、映像回路やソフトウェアは同じままで新たに画質チューニングが必要になり、使っている部品も異なるため新たな型番になったのだと思います。“ほぼ同じ”というのは、そういうことですね。

山之内:うっかりすると、チューナー内蔵と間違えてしまうかもしれませんね。そこは注意が必要です。

ソニーBRAVIA KJ-65A8G

本田:ソニーの有機ELで残念なのは、昨年末に発売されたX1 Ultimate内蔵のA9Fの完成度が高いこともあって、上位モデルのA9Gに大きな変化がみられないことです。4Kチューナー内蔵と、採用パネルの実力値が上がった部分での進化に留まっています。

山之内:画質に関してはその通りですが、設置性が高まったことは評価したいところです。斜めだった置き方、サブウーファーの配置などの見直しで、コンパクトさが増しています。画面がスピーカーになるアコースティックサーフェスも2個のアクチュエーターを1個の楕円形デバイスに統合したことで干渉が減り、クリアな音になりました。

本田:確かにかつてのガラスっぽい、キンキンした響きが抑えられ、聞きやすい音になりましたね。パネルから出てくる音の帯域も、以前より下まで伸びているようです。聴きやすい音です。

左が従来機A9Fのアクチュエーター(13W×2)で、右がA9Gの新型アクチュエーター。2個1組から1個の楕円形状とすることで、明瞭感を向上させたという

有機ELテレビについては、国産メーカーの製品はどれも階調性が良くなり、大きな不満なく楽しめるものになってきていると思います。そうした意味では、東芝の有機ELテレビの価格は魅力的です。

全録機能タイムシフトマシンなしのX830シリーズは実勢で30万円を大きく割り込んでいますし、約5万円を足せば地上波全録にも対応する。各社が基本グローバルモデルで対応する中、国内の放送事情に合わせた製品を作り続けている点は引き続き評価したいですね。

東芝REGZA 65X830

画質面でも地上デジタルの画質に合わせたSN対策やアップコンバートなど、実に細かい芸で日本市場に適応させています。色温度センサーを搭載して“おまかせ”での画質調整も力を入れています。

ただ、やはり画質面では冒頭で話題に出したパナソニックのGZ2000に尽きますね。

山之内:そうですね。一歩踏み込んだアプローチです。輝度が高まったことでダイナミックレンジに余裕が生まれ、より立体的な映像になっています。そのせいか、中間輝度の階調もより丁寧に追い込まれえ、とりわけ“立体感”では前モデルを大きく上回りました。

ピックアップ製品(本田)

【有機ELテレビ】
パナソニックGZ2000シリーズ
パネル調達先は同じながら、輝度を大きく伸ばして余裕ある立体的な映像を実現。イネーブルドスピーカー含め、振り切った商品企画で有機ELテレビの新たな可能性を見せた。
東芝 X830シリーズ
充分に整った画質と低価格。とりわけ55型モデルは戦略的な価格で売られており、費用対効果を狙うならば注目の製品。

ピックアップ製品(山之内)

【有機ELテレビ】
パナソニック GZ2000シリーズ
既存の4K有機ELテレビの課題を検証し、複数の課題を一つひとつていねいに追い込んで画質改善を実現した。パネル構造まで踏み込んだ性能改善のアプローチが他社にも波及することを期待したい。

液晶は8Kもいよいよ視野に? 大画面モデルにも注目

――(編集部)液晶テレビについてはどうですか?

山之内:液晶テレビに関しては、1月のラスベガス(CES 2019)で発表されたソニーの98型8Kテレビ(Z9Gシリーズ)のインパクトが衝撃的でした。まだ日本では販売予定がありませんが、日本で実機を詳細に観る機会があり、精緻な画質に感嘆しています。チューナー問題もあって発売に至っていないことが残念ですが、そう遠くない時期に、こういう画質が自分たち手元にやってくるのだ、という意識は持っておきたいですね。

ソニーBRAVIAのZ9Gシリーズ

本田:私も同様に国内で視聴をしましたが、Backlight Master Drive(BMD)採用のX1 Ultimate + 8K映像は本当に素晴らしいですね。ピーク輝度の伸びや階調性の高さなどもありますから、一概には比較はできないけれど、現在の有機ELが大型化されても、ここまでの画質は不可能だと思わせるものでした。4Kからのアップコンバートが極めて優秀ですから、8Kチューナーは入れなくていいからそのまま発売してくれればいいのに……と思いましたよ。

山之内:8Kテレビという選択肢は受信できるチャンネル数なども含めて特別なポジションですが、アップコンバートの優秀性なども含めると4KやHD映像を楽しむテレビとしても可能性を感じます。まだ一般の方は詳細な評価を行なえませんが、ああいう絵が出ることが証明されたのだから、今後の選択肢として視野は入れていきたいところです。

しかし、“視野には入る”けれど、あの大きさでは“部屋には入らない”。65型とは言わなくとも、70型台でこの絵をみたいと思う人は多いでしょうね。

本田:やはりBMDを実現するためには(バックライトの構造上)あのぐらいのサイズが必要なのだと思います。また8Kの場合は開口率の問題がありますから、今のところソニーとしては8K化は85型から……というスタンスなのでしょうね。4Kで良いから、65型や75型といったサイズにあのバックライトを入れて欲しい。

山之内:BMDを活かした姉妹機に期待したいですね。

実はZ9Gの評価をする際、他社の8Kテレビとも比較したのですが、パネルが8Kであっても、コントラスト感、輝度、SN感やバックライト制御など、一連の条件をクリアしなければ8Kの良さを活かせないことが改めてわかりました。

中途半端では感動しません。やり切らないと、驚かせる感動には至らないということですね。スペックだけでは感動しません。

本田:実際、8Kテレビでも海外モデルですがサムスンの8Kは、HDRがHDRのように見えなかった。アップコンバートも精細感がなく、これならば4Kの方がいいという出来です。シャープも8Kチューナーを内蔵させ、(日本で買える)唯一の国産8Kテレビとしてがんばっていますが、いかんせんピーク輝度が伸びず、バックライトのローカルディミングもハロ(暗い部分の周囲がぼんやりと光ってしまう現象)が目立ちます。将来、技術面での制約は解決していくでしょうが、現在のタイムラインで言えば、80型未満ならば8Kは視野に入れる必要がないというのが個人的な印象です。

山之内:具体的には、せっかく8Kなのに立体感は乏しいですね。画素数だけは多いのだけど、2次元情報として細かなテクスチャ情報がびっしり入った感じ。これが遠近感につながってないのが残念でした。立体感をどう引き出すかが、8K時代のポイントですね。

本田:ところで8Kを選択肢から外すならば、液晶の良さはやはり“有機ELよりも大きなサイズのモデルに手が届く”ところでしょう。一戸建て住まいならば、手頃な70型台の製品が欲しい方もいらっしゃるでしょう。

そうした意味ではソニーのX9500Gを勧めたいですね。バックライトの分割数は上位モデルほど多くありませんが、75型以上のモデルにはX-WideAngleが採用されているため視野角による画質変化がほとんどない。

ソニーKJ-85X9500G

映像処理回路はX1 Ultimateです。X1 Ultimateは超解像も優れていますが、なによりHDR復元機能が素晴らしい。大型限定ならX9500Gは注目です。

山之内:確かに液晶の中ではしっかりと画質が作り込まれたシリーズですね。とはいえ、65型以下のサイズでも、日本の場合は部屋が狭い場合もありますし、正面から見ても中央と周辺での色の変化もありますから、本当は広視野角技術のX-Wide Angleを載せるべきでしょう。コストや加工精度の問題はあるのでしょうが、次回は期待したいですね。

本田:さらにカジュアルなサイズ、たとえばリビング向けとしては主流となる55型ならば、有機ELの際にも挙げましたが地上デジタル放送の全録機能がある東芝は、勧めやすいですね。4Kテレビというと、どうしても4K放送や4K配信、UHD BDなどに目が行きがちですが、家族みんなで楽しむとき、実際もっとも多く楽しむのは地上波でしょうからねえ。

山之内:特別な作品を楽しむためのディスプレイとしてではなく、日常的な使い勝手ならば全録のタイムシフトマシンは選択肢として重要なポイントですね。積極的に使いこなすならば、確かに考慮すべきだと思います。

本田:Z730XはREGZAエンジンProfessionalになって、SN感やHDR変換時のコントラスト感、アップコンバートの質など、さまざまな部分でブラッシュアップされえていますが、IPS液晶採用で直下型のローカルディミングという組み合わせにも価値があると思います。もちろん、IPS液晶なのでコントラスト低いのですが、真っ暗な場所で見るのではなく、明るいリビングでファミリーで楽しむならば、比較的視野角が広いことやリーズナブルな価格も合わせて評価できると思います。

東芝65Z730X

ピックアップ製品(本田)

【液晶テレビ】
ソニー X9500Gシリーズ(75型以上)
X1 Ultimate + X-Wide Angleという、Masterシリーズに投入された技術を採用し、高いコストパフォーマンスを実現。広視野角技術が65型以下のモデルに搭載されない点だけが悔やまれる。
東芝 Z730Xシリーズ
IPS液晶採用のカジュアルな直下型バックライト+ローカルディミングの製品。タイムシフトマシンも内蔵しており、リーズナブルながら充実のテレビライフを手に入れることができる。暗い部屋で映画を……といった用途でないならば、費用対効果は高い。

ピックアップ製品(山之内)

【液晶テレビ】
ソニー X9500Gシリーズ
明るさとコントラストの両立に焦点を合わせ、リアリティの高い映像を実現した。液晶テレビの高画質化がいまも継続中で、今後さらなる画質向上が実現することを期待させる重要な製品。

プロジェクターやUHD BDプレーヤーは昨年モデル強し。新たな動きも

本田:この春は新機種もないですし、プロジェクターに関してはあまり大きな話題はありません。しかし比較して話題にもならないほど、画質指向のプロジェクターはJVCのVシリーズが良かった。8K e-SHIFTのDLA-V9も素晴らしいですが、コストパフォーマンス面ではDLA-V7が抜きんでていると思います。とりわけパナソニックのUB9000 Japan Limitedと組み合わせた優れたHDR画質は、ホームプロジェクターの可能性を大きく広げるものでした。

JVCのDLA-V7

山之内:プロジェクターの性能そのものは変化していませんが、UB9000の登場で、自宅でもHDR作品を本来のクオリティで楽しめるようになったことは大きいですね。音質も従来機に比べて確実な進化を遂げ、トップ水準にまで到達しました。画質についてはもうひとつ、接続相手がJVCのプロジェクターでなくとも、画の質感が明らかに変わる。まずはUB9000を買っとけばプレーヤーは間違いない、という状況ですね。ホームシアター市場の底上げに、パナソニックは極めて大きな貢献をしたと思います。

本田:ソニーのHDR対応プロジェクターも「HDRリファレンス」というモードがある製品ならば、JVC向けの出力プロファイルを適用することで似たような効果を引き出せると思います。このモードはロールオフを行なわない“ハードクリップ”モードで、コントラスト設定でピーク輝度の設定を変更できます。うまく使いこなせば、ソニー製プロジェクターのユーザーでもUB9000の能力を、さらに活かした使いこなしができるでしょう。

パナソニックのUHD BDプレーヤーDP-UB9000 Japan Limited

――より低価格なUHD BDプレーヤーの中にもDolby VisionやHDR10+などの動的メタ対応コンテンツに対応する製品が出始めています。

ソニーのUBP-X800M2はDolby Vision対応で実売45,000円前後
パナソニックはDolby Vision/HDR10+対応の入門機DP-UB45を発売。実売28,000円前後

本田:UB9000導入による利点は動的メタ情報のないHDR10再生時の画質なのですが、他にも画質・音質ともに優れた側面があることに加えて、対応コンテンツがまださほど多くはないこと、さらに対応するテレビやプロジェクターが少ないこともあって、その価値はいまだ高いままだと思います。

もっとも、Netflixが動的メタでHDRコンテンツを配信していますし、他の配信業者やUHD BDも動的メタ対応コンテンツが増加していくでしょう。長期的にみれば状況は改善すると思いますが、そもそも高級プレーヤーにライバルがいませんからね。

あくまで“プレーヤー”という製品ジャンルで言うと、指名買いならば他に候補はないのでは。

同様にレコーダーもパナソニックが独壇場ですね。今年はHEVCで4K放送を再圧縮する機能が搭載され、さらに独壇場になってきました。4K単体チューナー代わりに、4Kチューナー内蔵レコーダーを購入する人も多いようです。

ピックアップ製品(本田)

【レコーダー】
パナソニックDMR-4S100
4K動画の圧縮録画にも対応。4Kチューナー内蔵ではない4Kテレビを使っているのなら、是非とも組み合わせたい1台。
パナソニックDMR-4S100(下)

ピックアップ製品(山之内)

【UHD BDプレーヤー】
パナソニック DP-UB9000(前回と同じ)
プレーヤー側で画質改善にどこまで貢献できるかを徹底した追い込んだ傑作。UHD BD再生時の画質の良さに加え、クオリティの高い映像ストリーミングで高画質・高音質再生ができる点も見逃せない。

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。