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今こそ高画質×大画面の4K有機ELテレビで巣ごもり!? 山之内×本田対談【'20冬 映像編】

オーディオ・ビジュアル評論家の山之内正氏と本田雅一氏の両名が、話題の新製品や業界動向を独自の視点で語る半期に1度の恒例対談。全2回を通じて、下半期に登場した新製品と2020年の総括をお届けする。

初回は「映像編」と題し、4K/8Kテレビやコロナ禍で一段と利用が進んだ映像配信の話題を取り上げる。

巣ごもりでテレビ出荷が堅調。画質で選ぶならOLEDが第一選択肢

本田:新型コロナウィルスは色々な影響をAV業界にももたらしましたが、パナソニックはコロナ禍でマレーシア工場での生産が滞り、'20年前半に製品を十分出荷できないという不運に見舞われました。後半になって徐々に出荷されるようにはなりましたが、本来、発売したかったラインナップを全て揃えられなかったのではないかな。一社だけ大きな影響を受けた感があり、少々気の毒だったかな。

山之内:コロナの影響が長引いているとはいえ、在宅でコンテンツと接する時間が増えたこともあり、テレビの需要はそれなりに堅調のようです。各社それぞれの得意領域で、健闘していると言えるかもしれません。

本田:各社とも当初心配していたほど出荷数は悪くはなく、自粛ムードの中で巣篭もり需要は得られたという話をよく聞きます。

山之内:夏にオリンピックが開催されていればさらに需要が広がって、販売もコンテンツも大いに盛り上がったはずですが、2021年も引き続き不透明感は拭えません。ただ、そんな見通しの立たない状況が続くとはいえ、高画質時代に向かう流れが止まったわけではありません。8Kに関しても、着実に進化をしているし、4Kでいえば、OLED(有機EL)も画質面、機能面で進化している。サイズ展開も含めて、この1年で従来以上に選択肢が広がりました。

2020年はLG、ソニー、そして東芝の3社から、4K有機ELテレビ初の40型台が発売された。写真はLGの48型「OLED 48CXPJA」

本田:OLEDはパネル自身の特性や、その駆動回路、ノウハウが蓄積され、かなりこなれてきました。基本的にはOLEDが優れているのだけど、少し前までは特定の部分、例えば階調表現などは液晶の方がいいことも多く、必ずしもOLEDがいいとは言い切れない部分もあった。でも、価格やサイズを脇に置いて画質で選ぶなら、OLEDが第一選択肢という環境になったと思います。

もちろん、液晶もハイエンド製品は高画質なのだけど、低価格化が進んでなかなか液晶で高画質を目指しにくい環境になってます。すでにフルHD以下の液晶テレビは機能や質感を削ぎ落とす方向ですが、今後4Kモデルにも波及するのではないかと心配です。価格だけが優先され、コストダウンが極端に進むのが業界プラスにならないという危惧があります。

今年6月に発売した、ソニーの65型4K有機ELテレビ「BRAVIA KJ-65A8H」(写真上)の価格は約42万円。18年発売の65型「A8F」(写真下)は約55万円前後だった

山之内:すでにいまの時点でもOLEDは2年前にくらべると2〜3割程度は安くなりました。価格がネックで液晶を選んでいたけど、そろそろOLEDを選ぼうという人が増えてきました。その影響を受けて液晶の競争力が下がってきたのは間違いないですが、その一方で、8Kを含むハイエンドでの液晶の可能性はあらためて注目したいです。

本田:現在はLGディスプレイだけが独占供給のテレビ用OLEDですが、来年は中国BOEもテレビ用OLEDを出荷予定です。日本向けに採用製品が出てくるかはやや疑問ですが、グローバルでみた時にLG一強ではなくなる。近い将来、OLEDパネルに価格競争や画質競争が起きれば、画質面で成熟してきたテレビ用OLEDパネルがさらに進化するかもしれません。

山之内:サイズ展開の広がりにも期待したいですね。いま私は仕事部屋に55型のOLEDを置いているけど、一回り小さい部屋には48型くらいの方がちょうどいいかなと思い始めていて、2台目のOLEDを買ってしまいそうです(笑)。

ソニーの48型4K有機ELテレビ「BRAVIA KJ-48A9S」
東芝の48型4K有機ELテレビ「48X8400」

本田:自分の部屋で使うときの48型は快適ですね。サイズが小さくなると画素が小さくなりますから。明るい画面を表示させている際には焼き付きが気になりますが、メーカーは問題ないと言ってます。BOEはこのサイズは入ってこないと思いますから、しばらくはLG独占になるかな。ただ、55型以上はBOEとの画質競争を期待したいですね。このところ大幅な進化がなかったので。

山之内:各社でピークや黒の階調性が極端に違うということが、ほぼなくなった。画質についてはいっそうハイレベルな次元の高い競争になってきたと感じます。

本田:OLEDの画質ではパナソニックが愚直にモニターライクな一方、ソニーがOLEDのクセも加味しながら、一番素直にパネルの良さを引き出してきました。ただ、他社も追いついてきていますね。

10月に発売された、パナソニックの最上位4K有機ELビエラ「TH-65HZ2000」

山之内:パナソニックも見せ方に工夫を凝らしていて、春モデルをソニーと見比べた印象では、両者の差が小さくなっているように思いました。ソニーのHDRの見せ方のうまさがいまも際立つ一方で、今年のパナソニックのOLEDテレビは、去年実現していた素直な画質をベースにノウハウを積み上げている印象です。

本田:パナソニックはモニターライクと言いつつも、OLEDパネルそのものの特性などもあって特定の場面でクセが出ていましたが、そうした問題はなくなりましたね。東芝もこれは同じで、55型、65型なら欲しいときにOLEDを買えばいいという状況になっています。

配信飛躍の年。今後はますます“本気”の動画配信対応が重要

本田:このコロナ禍でテレビの視聴スタイルも変化してきました。何しろネット配信動画を見る人が増えました。もちろん、ヒットコンテンツの存在も無視できませんが、コロナ禍でネット配信動画を見る時間は確実に伸びています。ソニーや東芝は以前からネット配信重視の姿勢を見せ、東芝はフルHD液晶の低価格ラインもネット配信動画機能をキープしてきた。パナソニックの夏秋新製品も、配信を意識した内容です。

山之内:速いペースで視聴者の利用実態が変わりましたね。私自身、仕事場のOLEDテレビは最初からアンテナケーブルをつないでいません。部屋にはCATVの端子が付いているけど、契約していないので見ることができない(笑)。

テレビと繋がっているのは、LANケーブルとBDプレーヤーからのHDMI接続だけ。地上波は自宅のリビングでときどきニュースを見るくらいでしょうか。パッケージソフトとネットの配信コンテンツがメインで、次によく見るのはコンサートのライブやアーカイブ映像ですね。出来ればチューナーレスのブラビアが欲しい。実際のユーザーの利用実態に則したネット接続専用モデルがあってもいいのではないかと思います。チューナーはオプションで追加するという選択肢があってもいい。

本田:ただ、テレビのネット動画再生機能は経年変化で時代遅れになりがち。結果、FireTVなどの端末を別に接続することになる。もちろん、各社ともネットでアプリをインストールできるようにしているのだけど、今後も新しいサービスは増える可能性がありますから、コンピュータ的に将来に向けた能力の余剰分が求められるようになるかな。

東芝は4Kテレビ用の処理エンジンを搭載することで、快適なネット動画操作を実現したHDモデル「V34シリーズ」を発売
LGからも、約5万円でApple TVやHDRに対応した32型フルHD液晶テレビ「32LX6900PJA」が発売された

山之内:知り合いから相談を受けたとき、広いリビングで家族みんなが使うモデルだったので、ひとまわり大きなテレビを薦めました。その後、65型テレビの感想を聞いてみたら、たしかに全員が使うけど、家族で使い方が全然違うと言ってました。大人は放送のリアルタイム視聴とBDレコーダーで録画した番組を見るのが中心、子供たちはゲームが大画面になって大喜び。ネット配信の番組にも興味を示しているそうです。

テレビの機能自体はそれほど変化していない一方で、使われ方の方がもっと劇的に変わっている。PS5の性能を活かせる環境が限られることが問題になっているように、環境の進化に合わせて基本的な仕様がアップグレードできるようにならないといけませんね。

ソニーは11月、2018年以降発売の一部ブラビアを対象に、「Apple TVアプリ」をサポート。ブラビアでApple TV+が見られるようになった

本田:検索性も問題ですね。様々なネット動画サービスがあるなかで、横断的に探しにくい。放送も含めたコンテンツ発見の手助けは、今後求められる要素でしょう。

それから、ネット配信での画質を重視するなら、配信映像の出自(ビットレートやコーデック)がある程度分かるのだから、配信に特化した高画質処理にも期待したい。配信は放送規格にとらわれず、最新コーデックも採用しやすい。実際、放送よりも配信の方が高画質になっています。まさか、配信で画質が語れる時代になるとは10年前は想像もしていませんでしたよ。

東芝レグザの一部モデルに搭載されている、ネット動画の高画質機能「ネット動画ビューティ」。動画配信サービスごとの画質特性や伝送方式に最適なパラメータを、サービス毎に適用することで高画質化を目指す

山之内:コンテンツ側の作り込みの深さも問われる。既存の放送は基本的に従来と変わってないし、端的に言えば時間も金もかけられなくなって、劣化が著しい。4K時代になっても従来の手法で作っている。その一方で配信は様々なチャレンジができるし、その成果も確実にクオリティの差として見えてきました。画質の作り込みや一貫性を感じるほどに完成度が高いと、当然そちらを選ぶ人が増えるでしょう。

本田:NetflixやAmazon Prime Videoなど海外系の映像配信サービスも、日本市場向けにオリジナルコンテンツに力を入れ始めました。日本の既存コンテンツを日本国内のサービスが囲うだけでは、そうした勢力の勢いを止められなくなってくる。日本発のコンテンツがアジアなどで通用していることも背景としてあるので、今後の動きに注目したいところですね。

山之内:個人的な体験を一つ紹介しましょう。コロナで試聴会やセミナーなどのイベントがなくなりましたが、その一部を補う形で動画配信を利用する機会が増えました。そのコンテンツはほぼ4Kで制作していて、PCでは分かりにくいけど、4Kテレビで見ればYouTubeでも違いがすぐにわかる。いままで伝えられなかった空気感や製品の質感なども4Kなら十分に表現できる。

空間を共有できない時期だからこそ、今までとは違うレビューができる可能性を感じました。YouTubeに限らず、配信を利用すれば、従来とは違う情報伝達手段としての可能性が広がるかもしれません。

本田:4Kの撮影環境は特種でもなんでもないですからね。私自身もYouTubeを撮影する際には4K撮影・編集している。今の所、書き出しはフルHDにしていますが、海外の有名YouTuberは4K60pでの制作が主流になってきていますね。牧歌的なYouTubeの時代は終わっていて、商業的な成功を意識した制作者が増えているのも一因でしょう。

ネット配信サービスが4K対応、HDR対応当たり前になってくると、ネット映像端末の画質評価や機能評価も、もっときちんと行う必要がありそうです。Fire TV Stick、Chromecast、Apple TV 4Kなど、それぞれの価格と機能、使いやすさ、画質、音質をチェックしないと。これまでは機能面中心だったけれど、評価軸を加える必要がありますね。

AmazonのFire TV Stick
新しいユーザーインターフェイスが採用され、使用頻度の高いアプリがアクセスしやすくなったほか、関心の高いコンテンツやライブ番組の見つけやすさも改善された
GoogleのChromecast with Google TV。コンテンツの横断検索が可能になった

本田:ところで8Kテレビのサイズが小さい方向に降りてきていますが、必ずしも8Kパネルの方がいいよとは言えないことを、きちんと伝えておきたいです。8Kの液晶パネルは開口率が低いという問題がありますから、ピークの輝度が出しにくい。出そうとすると消費電力が半端なく増えてしまう。ソニーの8K液晶は素晴らしい画質を実現していますが、それもサイズが大きいからできるのであって、55型クラスで液晶の8Kとなるとデメリットの方が大きくなる。

山之内:ソニーのZ9Hで体験できる臨場感は、一部の技術だけをもってきても実現しません。サイズ、視野角、明るさ、超解像含めたアップコンバートのノウハウ。それらをもれなく押さえておかないと実現は難しい。小さいモデルでもやって欲しいとは思うし、期待はしたいけど、かなり難しいチャレンジになるでしょう。

ソニーの85型8K液晶テレビ「BRAVIA KJ-85Z9H」
2021年1月に発売を予定している、LGの8K液晶テレビ「55NANO95JNA」。約30万円で最小55型の“手の届く8Kテレビ”の性能や如何に

本田:個人的には現状、70型台までは8Kは最適解ではないのではないかと思っています。80、100型なら8Kがいいとは思いますけどね。

山之内:85型を超えるクラスになると、新築やリフォームなど、最初からそのサイズのテレビを設置することを前提にした住宅設計を導入しないと設置しにくいでしょうね。将来の買い替えも想定して、玄関通らずにパネルだけ入れ換えられる仕様にするとか、いろいろな工夫が必要です。オーディオマニアのなかには、巨大なスピーカーを入れるためにドアを外したり、スピーカーを入れてから壁を作る人もいる。それと同じ発想です。

リモートワークの推進で都心から郊外への移住が広がれば、スペースのあるところで大きな画面とともに暮らす方が自分の生活が充実すると考える人が増えるでしょう。8Kなどコンテンツの進化に伴って、明るく高コントラストな85型や100型の大画面再生に挑戦する人が増えるかもしれません。

本田:以前ならば、ここにプロジェクターという選択肢もありましたが、高画質コンテンツはHDR制作が増えてきており、プロジェクターでの表現は難しい。商品として映画オンリーならばいいのですが、位置付けが難しくなってきていますね。

山之内:小さくて精細度の高いモニターも魅力だけど、普段体験できないほどの大画面の魅力は置き換えがたいものです。超高画質の大画面がある空間のなかで過ごしたいという潜在的需要を掘り起こすには、没入感の高い8K OLEDの方が可能性がありそうです。プロジェクターが提供できる表現領域と視聴環境については、たしかにHDRを含め、さまざまな制約が気になってきました。

JVCプロジェクタのD-ILAシリーズでは、パナソニックBDプレーヤとの連動機能や、ユーザの使用環境に応じて最適な明るさ設定に自動調整する機能「Theater Optimizer」など、プロジェクタで最適なHDR描写を実現するべく様々な画質改善を行なっており、ユーザから高い人気を集めている

本田:最大の問題は、Ultra HD Blu-rayがテレビやモニターでの表示を前提とした作りで、プロジェクターが考慮されていないこと。さらに規格上はHDR/SDR同時収録が可能なのに、UHDにはHDR映像しか入っていない。でもネット配信だと、機器に合わせてSDR/HDR選択してくれる。僕はプロジェクターで映画を観たいとき、コンテンツによってはあえて(SDRの)BDで見るときもあります。SDRの方がいま私が持っているプロジェクターとは自然に馴染むんですよね。

山之内:私もそこは同じです。直近の悩みどころは自宅のスクリーンで「TENET テネット」のUHD BDをどう見るかですね。劇場の体験が強烈だったので、今度はSDRで別の視点からじっくり見てみようかな。

本田:ドルビーシネマだって、シネマ用にグレーディングしてるからいいのであって。高輝度なテレビ向けにグレーディングされたUHD BDを家庭用プロジェクターで見るのは、性能的に厳しいものがあります。ということで、HDRの表現に悩んでいるプロジェクターファンの方は、より一層、ネット配信の動向に注目すべきかと思います。

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。

本田 雅一

テクノロジー、ネットトレンドなどの取材記事・コラムを執筆するほか、AV製品は多くのメーカー、ジャンルを網羅的に評論。経済誌への市場分析、インタビュー記事も寄稿しているほか、YouTubeで寄稿した記事やネットトレンドなどについてわかりやすく解説するチャンネルも開設。 メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。