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成熟した4K TVは買い時! 見えてきた8Kも。山之内×本田対談【'19冬映像機器編】
2019年12月17日 07:30
オーディオ&ビジュアル評論家・山之内正氏と本田雅一氏が、注目製品や動向について語る業界対談の2019年下半期編。新4K8K衛星放送開始から1年が経った今、4K有機ELテレビの現状やおすすめのモデル、その先に控える8Kテレビやコンテンツなどについて語った。
4K放送と4Kテレビの現状。次の8Kテレビで注目ポイントは?
本田:民放の4K放送はほとんどがBSハイビジョンの同時再送信ですが、NHKに関しては熱心に4K/8Kの良さを引きだそうと工夫をしていますね。フランス・カンヌのMIPCOMでも公開された渡辺謙主演「浮世の画家」なども、8Kでどう表現するか、4Kとは違う撮り方を考えながら、監督や撮影監督が工夫をしたとのこと。超大画面の映画とも、これまでのハイビジョンとも違う新しい撮り方を指向しています。
山之内:具体的にはどの辺がでしょうか?
本田:空間の表現力が格段に上がってます。単に解像力がある、ボケてない、シャープだ。といった話ではなく、極めて立体感が出るんです。“人の顔がちゃんとまるく見える”と言えばいいでしょうか。加えて階調性も上がって見えます。画素が増えることで、細かな情報が加わり、たとえば“黒”でも様々な黒が描き分けられる。浮世の画家を撮影する際にも、階調の描き分けが明確にできるようになったことによる表現力の高まりについて話していました。
山之内:実際の視覚で注目していく領域が、自然と立体的に浮かび上がってくる。これも8Kならではの世界でしょうね。カメラの性能も含めて、映像をとらえる技術全体が高まっている。これは4K放送にも良い影響があるでしょう。
本田:すでに撮影は4Kを超える解像度になってきていますよね。今後は8K録りで初期の編集も8K、最終的にグレーディングしていく段階やCGを合成する段階では4Kにしていく形になると思います。“作品”と呼ばれるような映像は、だんだんと8Kシフトが背景としては進むでしょう。
山之内:幕張で11月に行なわれたInter BEE 2019に行ってきましたが、8K撮影関係の展示は充実していましたね。カメラのサイズも小さくなって、去年とは全然違いました。現場で8K映像をモニターする環境も改善していました。業界標準のモニターがありませんが、制作現場は確実に8Kへと近付いています。
本田:以前はNHKがメーカーと共同開発していたものが、技研公開などで少しばかり紹介されている程度といった手弁当感がありましたが、だんだんと業界全体が8Kへと向かっていますね。今は4Kのドラマを、これからは8Kで制作するのが当たり前になれば、次の段階として8K映像を楽しむチャンスが増えてくるでしょう。調査会社iHSの予測では、8Kテレビの市場が立ち上がるのは2025年。テレビ受像機の普及はそこがスタート地点ですから、消費者が気にかけるようになるのはまだ少し先ですね。
山之内:ということは、少なくともあと5年以上は、コンテンツも受像機も8K周りは進化が続いていくということで、家庭向け製品では4Kが標準であり続ける可能性が高いということですね。
本田:そうですね。8K映像は実際に観るとインパクトが強いのですが、なかなかそれを観るチャンスがない。そうした意味でも、良さが認知されるようになって、さらに受像機のニーズが高まってというプロセスには少し時間がかかるでしょう。
山之内:だから、早く家庭で観られるようになって欲しいというのが素直な気持ちだけど、どこまでコンテンツが供給されるのか、受像機の価格の問題もありますよね。単に解像度だけ上がりました! という部分に絞って訴求しても、その良さはなかなか伝わらない。
本田:まずは体験なんですよね。たとえばNHKの編成とかマーケティングの方たち。彼らは技術的な視点ではコンテンツを観ていませんが、ハイビジョンから4Kになった時よりも、8Kをはじめて観たときの方が、違いが明確に感じられたと話していました。まだ体験してない方が多いわけですが、東京オリンピックで体験できる場所は増えるでしょうから、そこでどう観て、知ってもらえるかですね。
山之内:業界としては東京オリンピックの頃には、それなりに8Kのコンテンツも投入されて認知度も高まっていると想像していましたが、ここまで来たら焦る必要もないですから、ゆっくり顧客価値を高めることを優先して欲しいですね。
本田:まったく同感で、今年、来年のタイミングで8Kニーズを煽る必要はないでしょう。特に今年はそうですね。4Kテレビがとても成熟して価格や画質の面でバランスがいいですから。それに大型モデルですが、すでに8K OLED(有機EL)など“次の世代”が見え始めています。とりわけ東芝の88インチ8K OLEDテレビ(開発中の試作機)は凄い画質でしたね。ああいう製品が今後、登場してくる。
山之内:コントラストと精細感の両立が高い次元で実現すると何が起こるか? というと、これはもう体験しないとわからないようなリアリティがあそこにありました。相当な広角レンズで撮影した風景の映像も、画面に近付いていくとどんどん細かな情報が見えてくる。都市の映像を観ているのに、近付くと何か蠢いていたものが、実は人が歩いているところでした。
本田:ヘリコプターのショットですよね。肉眼では見えないレベルの情報が、あとから確認すると画面上で簡単に確認できる。近付くと自分自身が映像の中にはいってくような不思議な感覚でした。
山之内:これまで、LGが行なっていた8Kの展示は、デモでの見栄えを重視して、鮮やかさやコントラスト感を強調していました。しかし、東芝のタイムラプスの映像は、本当に生で観た風景を良質なカメラで、優れたクリエイターが創り上げたもので凄まじいリアリティでした。
本田:階調がしっかり出てナチュラル映像。派手さはないのだけど、言い換えればナチュラルに描きながらもインパクトもあるというところが、なおさらに凄みを感じさせ、8K OLEDの可能性を感じさせましたね。
山之内:我々が観た11月時点でのセットは試作機で、主要な基板がセットの外に出ていましたが、それでも基板一枚でまとまっていて、主要な機能はほぼ内蔵されていましたね。あとは冷却周りをしっかりと作り込めば、近い時期に発売できそうな雰囲気でした。
本田:担当者によれば、8Kレグザ用の映像エンジンは設計が終了。テープアウトしたチップであのセットを作って行ったとか。FPGAで仮に実装しているといったレベルではないので、あとはセットとして収めていく段階ですね。
山之内:そこまでいけば、普通は長くても1年あれば出てくるでしょうね
本田:それどころか、来春ぐらいに発表されてもおかしくないイメージですね。
ところで、8Kと言えばソニーのバックライトマスタードライブ(BMD)搭載8Kテレビ。日本では未発売でしたが、いよいよ出てくるという雰囲気になってきました。1月のCESで来年の米国モデルが発表されるでしょうから、それがベースになって日本にも投入されるのでは。取材から感じる雰囲気から察するに、出さない方が不自然なような状況ですね。
山之内:これだけ、東芝やソニーが次の世代を見せていますから、現段階で8Kを狙っているとしても、実際の製品出てから判断して遅くありません。いずれにしろ、相当に良いものになるでしょうからね。
──東芝の8K試作機について、具体的にはどの部分が注目なのでしょうか?
本田:新しい「8Kレグザエンジン」で何をやっているか、詳細も何もアナウンスはしていません。
おそらく、現状のOLED向けエンジンの能力を引き上げて、4倍の画素でも高画質にできますということをやっているはずです。OLEDは表示時の制約が多くパネルの能力を引き出して高画質にするには、それなりのテクニックが必要です。言い換えれば、メーカーの創意工夫の余地があるわけです。
山之内:映像エンジンの設計自体の基本コンセプトとしては4Kも8Kもそう大きくは本来変わらず、同じ視点で開発できるはずだけど、あとは処理速度、演算能力の問題で、圧倒的に負荷が大きくなるからそこ含めて性能差が問われるのは間違いないですね。
本田:ノイズ処理にしても、超解像がどこまで必要かはともかく、8Kに対しても超解像をかけるとか正しく高画質に見せるテクニックとか、あらゆる面で従来の4倍の能力が必要になります。でもそこまでないなら、あとはテクニックとなるわけですよ。
山之内:あとはアップコンバートの技術、中身が重要ですね。実際の映像はフルHDから8Kへと16倍の画素に増やさねばならない場合もあります。どこまで“らしい”画を出せるかも、腕の見せ所。そこは東芝も、ソニーも重視していると思います
本田:ところで、今年は4KのOLEDテレビが円熟の域に達してきたと感じています。言い換えるとメーカー間の画質差はかなり詰まってきています。この秋に新製品は出ませんでしたが、一方で画質はファームウェアアップデートで変わったものもありました。ソニーは最初から安定した画質ですが、東芝は劇的に良くなりましたね。印象がずいぶん変化したので、いろいろ見直さねばならず困ってしまう。HDRの表現がかなり自然になって、階調のつながりも良くなりました。
春の時点では、パナソニックのGZ2000が突き抜けている印象でしたが、ここにきて比べた時に、確かに冷却によって輝度を高められた部分の良さもあるけれど、各社アップデートの結果、大差とは言えなくなってきています。
山之内:実際テレビ開発に携わっている人は、早い段階で他社製品がどんなチューニングをかけているかチェックしていますよね。我々も、だんだんと不自然な表現になっている部分などを、他社との比較で映像を観ながら感じるところもありますが、メーカー自身も画質へのフィードバックをかけています。
本田:4KのOLEDテレビは、LGもかなり階調性良くなってはいますが、やはり上記3社の製品から選ぶことになるのかなと。もっともモニターライクを指向しているのはパナソニック。“足さない、引かない”を徹底しようと頑張ってますね。ソニーも基本は同じだけれど、OLEDパネル自身の性能や制約の中での最大公約数を引き出してくれる。東芝は、ともかく見栄えを重視して“あるべき絵”を出そうと積極的に振る舞う。それぞれに個性だと思いますが、テレビ放送を楽しむための受像機という意味では、タイムシフトマシンが入っている東芝は孤高の存在ですね。
山之内:そうした意味では他にない。一択ですね。
本田:大型テレビをディスプレイととらえるか、皆で楽しむのか、捉え方によって選び方が変わる。日本の放送を骨までしゃぶるなら東芝しかない。でも、高品位なディスプレイとしてみてはまた違った見方も出てきます。GZ2000のような愚直にモニターを目指すのもひとつの手ですね。4者4様で特徴があっていい。
そういう意味ではLGのOLEDテレビの幅広いランナップはいいですね。最上位グレードと同じ画質の内蔵スピーカー版とも言えるE9Pは、同じ65インチで比べるとW9Pより5万円以上安い。たかが価格、されど価格。
“アンテナ不要”がもっと広がる? 映像配信への期待
山之内:音も絡んだ話題としては、IMAX EnhancedにBRAVIAが対応して、複数AVアンプメーカーもそれをサポートするプログラムがスタートしました。画質と音質の品位を同時にサポートするパッケージです。課題としてはコンテンツ少なすぎることがありますね。価格含めてもうひとひねり欲しいのですが、実際に体験すると確かに良さはあります。まだ模索段階という印象ですが、今後の展開に期待したい。
本田:1月のCESでソニーがBRAVIA米国モデルを発表した際にアナウンスしたものの国内版ですね。IMAXが背景にあるので、コンテンツの質に関しては極めて高く、それを家庭向け機器で再現するという方向には共感しますが、確かに元になるコンテンツがたくさん出てくるイメージはないですね。
山之内:9月のIFAでも展示はありましたが、今回はTSUTAYA TVが日本での配信を担い、ソニーがBRAVIAで映像側に対応するというのがトピックですね。DTSも同様の取り組みをしています。
──TSUTAYA TVで配信というのは意外でした。
本田:なぜTSUTAYA? という話をさておき、ネット配信は放送やBlu-rayのような物理メディアと違って技術的な規格を厳密に決めなくともサービスを開始できる利点があります。特に有料での配信サービスを行なっているところは、基幹放送が4K/HDRになっていくとフルHDのままでは価値を出しにくくなるため、差異化要因のひとつとして新しい技術の導入には積極的になってきているんですよ。
サムスンやパナソニック、TCLなど5社が今年1月に立ち上げた8Kアソシエーションは現在16社にまでメンバーが増加し、'20年1月のCESまでにはさらに20社が参加する見込みのようです。スペインのRakuten TV、イタリアのChili、アメリカのUltraFlix、ロシアのMEGOGO、フランスのThe Explorersなどが、積極的に8Kの配信サービスに積極的です。
どこも生き残りに必死なんですよ。フランスの通信衛星会社ユーテルサットが、8Kへの切り替えを行なおうとしているのも同様の動きですね。(放送の)有料チャンネルは8Kを目指さない。
制作が8Kへと向かっているので、8K化は有料の映像配信サービスが牽引するでしょう。
山之内:4Kでもその流れは明確にありますね。フルHDのときは、まずBSハイビジョン放送がありましたから、それをレコーダーでアーカイブするニーズがあって、そこにBlu-ray、ネット配信が加わる流れでしたが、4Kではネット配信のコンテンツが多いこともあって、記録と再生を行なうニーズは先細り感が否定できません。
本田:4K放送を記録するとなると、データ量も多くてHDD容量も多く必要になりますし、アーカイブにも時間がかかります。さまざまなコストを考えると、手軽にネット配信で楽しみたいというのは自然な流れだと思います。
山之内:4Kの場合、Blu-ray Discに焼く場合でも互換性の問題がありますからね。レコーダーメーカー間の互換性で、従来より制約が多くなっている。録画ファンは今もたくさんいるのに、ディスク含めた録画環境をきちんと整備していかないと、本当に市場がなくなるでしょう。
本田:録画ニーズは別の形で有料・無料のネット配信サービスが置き換えていくことになるのでは。録画機と同じ機能ではないけれど、録画機と似た使い方はネットへと溶け込んでいく。
山之内:そうなればいいんですが、一方で、従来の録画文化も日本にはあるから、そこは護って欲しいですね。
──今AV Watchで4K放送関連の記事で多く読まれるのは、フレッツ・テレビなどのような「アンテナ不要」というキーワードなんですよね。
山之内:実際うちもそうですよ。アンテナは建てていません。サービスの品質や運用・導入のやりやすさなどトータルでオススメです。
本田:放送波は右旋左旋の問題があって、きちんと受信できるかの点検が欠かせないですからね。その点、ネット回線は高速なインターネット回線さえあれば簡単に受信できます。それに今は集合住宅でも光回線を戸別に引いてくれますからね。我が家も147戸が入る集合住宅ですが、直接、光回線を引き込んでいます。厳密にはネット配信とは違いますが、AVコンテンツは光ファイバー化してきているということでしょうね。
話をディスプレイに戻しますが、4KでHDRが導入されたことで、ホームプロジェクターで映像を楽しむ方向への投資がかなり下火になってきました。映像作品もグレーディングを4K/HDR向けに行なっているので、画面サイズを除けばHDRの表現力がより高い直視型の方が魅力的ですし、以前の“映画館を再現”という方向へのニーズが明らかに弱まっています。
一方で4K/HDRに関しては、かなり技術的にはこなれてきた印象です。特にOLEDテレビに関してはかなり成熟し、価格面でもこなれてきました。冒頭で「4Kと8Kの画質差、体験の差は圧倒的」と書いたように、良い環境で8Kを観ると本当に素晴らしいのですが、その環境を現在、手軽に手にできるかというと難しい。今年は技術的に成熟し商品としてまとまっている4Kテレビは、費用対効果がとても高い状態にありますね。
一言で言えばこの年末年始のタイミングは買い時。画質的に進化の余地はあるでしょうが、充分に良くなっているので。
山之内:それには全く同意します。今年は4Kテレビがもっとも商品として脂が乗っていますね。
本田:もちろん、今後は8Kテレビももっと良くなっていくでしょう。しかし、液晶なら開口率、OLEDなら画素が小さくなることによるピーク輝度や全体の消費電流といった問題を解決していかねばならないでしょうし、商品としての成熟はまだまだ先でしょう。
LGディスプレイは65インチや77インチの8Kも作ると言っていますが、実際にはまだできていません。1月のCESでは少しトレンドが見えてくるかもしれませんが、いずれにしろスペックとして8Kになりました!というのではなく、“8Kってやっぱりイイよね”と言えるだけの完成度にまで高めてからプロモートしてほしいですね。
ピックアップ製品(本田)
A9Gはアコースティックサーフェイスの音質が向上。サブウーファーと組み合わせたときのトータルの体験が上質に演出されており、絵作りの面でも破綻のない自然な絵を引き出している。X1 Ultimateによるリアリティの向上もめざましく、とりわけSDR映像を積極的にHDRへと拡張する映像処理に優れる。
一方、GZ2000はモニターライクでクセのない映像は魅力。イネーブルドスピーカーを独立させて単独でのサラウンド再生も良好だ。イネーブルドスピーカーを使ってセリフをリフトアップするため、下部にスピーカーがある違和感も緩和されている。65インチ限定なのは残念だが、明るさを引き出したパンチのある絵は印象的だ。
東芝のX930は発売当初に比べ、階調性やホワイトバランスなどの調整がかかったのか、アップデートによる画質改善が著しい。もともと、ノイズリダクションやAIを用いた映画ソフトのHDR変換機能、地デジにフォーカスを当てたノイズ、テロップを見やすくする画処理などユニークな機能を持つ同製品だが、基礎となる画質が上がったことでそれらもより生きてくる。また東芝だけのタイムシフトマシンの存在も忘れてはならない。地デジを骨までしゃぶるならREGZAだ。
OLEDで予算重視ならばLGのE9P。上位のW9Pシリーズと同等画質だが、55インチモデルが用意されており価格も手頃。
液晶テレビは、上期の時点と変わらず、ソニーX9500Gシリーズ(75型以上)と、東芝Z730Xシリーズ。
録画機はソニーも4Kチューナ内蔵モデルを出してきたが、シャープ、パナソニックと主要メーカー全体を通して、やはりパナソニックの強さが目立つ。全自動モデル、通常モデルともに、接続するテレビのメーカーを問わずパナソニックを選んでおけば失敗はない。