トピック

ソニー本気の8Kテレビと48型有機ELに注目! 山之内×本田対談【'20夏・テレビ編】

オーディオ・ビジュアル評論家の山之内正氏と本田雅一氏の両名が、話題の新製品や業界動向を独自の視点で語る恒例対談。

2020年の前半は、新型コロナウイルスの感染が拡大し、世界的にあらゆる経済活動が制限。新製品の開発や製造、発売スケジュールなどに影響が出たほか、各種イベントや展示会や軒並み中止となり、また製品を展示・販売する量販店や各地域のショップも一時休業を余儀なくされたことで、ユーザーが製品に実際に触れたり、試聴する機会すら確保するのが難しい状況が続いた。

ただ、そんな中でも、4K/8Kテレビやスピーカーなど、ビジュアル、そしてオーディオジャンルから各社の新モデルが発表、発売された。新製品、そして業界動向を最前線でチェックする2名の評論家に'20年の前半はどのように写ったのか。2名が注目した新製品を軸に、夏期までの総括を前編・後編の全2回でお届けする。

前編の映像編は、4K/8Kテレビがテーマ。そして後編では、最新オーディオ機器と、気軽に外出しにくい状況が続くいまだからこその“オーディオ・ビジュアルの愉しみ”をテーマに語ってもらった。

コロナ禍&巣ごもりでテレビ需要増。パーソナルにも使える48型有機EL

山之内:本来であれば、今年の夏には東京でオリンピックの開催が予定されていて、テレビの販売が大きく伸びると期待されていました。ところが新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、オリンピックは延期……しかも、未だに終息が見えていない。各メーカーとも、この状況に対応しようと苦労しているように思います。

本田:想定外の出来事を受け、当初は売上が大幅に落ち込むのではないか? と懸念していたようですが、いざ数字をみると春から続く外出自粛、いわゆる“巣ごもり”によって「テレビが(思ったよりも)売れた」と聞いています。気軽な外出がままならず、家族皆が自宅にいる時間が増える中で、2台目、3台目のサブテレビが必要になったり、これを機に買い換えるといったニーズがあったのだと思います。

実際私の回りでは、4Kテレビを仕事用のサブディスプレイとして活用する方が増えました。ノートPCを接続して画面を拡張することで作業効率を向上しつつ、時に入力を切り替えて、放送や動画コンテンツを手軽に楽しむのだそうです。

山之内:ディスプレイの表示面積が大きいことのメリットに、改めて気が付いた方も多いと思いますね。仕事だけでなく、学校で増えつつあるリモートの授業も同じで、画面サイズが大きい方が見やすい。これまでの一般的なテレビの設置イメージは、リビングに大型テレビが一台鎮座するものでしたが、よりパーソナルな使い方が増えるかもしれない。その点で言うと、今期のテレビでトピックだったのが、4K有機ELテレビとしては最小サイズとなる48型の登場でしょうね。

ソニーブラビアの48型4K有機ELテレビ「48A9S」。MASTER Seriesを冠した最上位モデルの位置付け。7月25日発売、価格は23万円前後

本田:48型はソニー東芝、そしてLGの3社から順次発売されました。じっくりと視聴できてはいませんが、第一印象としてはテレビとしての画質も高い完成度なのですが、ディスプレイとして使った場合も非常に見やすいと感じました。リビング用などではなく、個人の部屋、あるいは一人暮らしの中で高品位なディスプレイ兼用テレビを選ぶ場合、今回の48型は有力な候補でしょう。

山之内:とても残念なのは、コロナ禍で取材が制限されてしまっていることですね。通常であれば、視聴ルームで実機を前に、開発者を交えた取材等ができていたはずですが、今期に限っては視聴する機会がほとんど取れなかった。東芝のフラッグシップモデル(X9400シリーズ)は秋発売とのことですが、その時には各社のフラッグシップ機をしっかり見較べたいですね。

本田:ソニーの48型に関しては「10年ほど前の売れ筋だった“40型前後の液晶テレビ”を置き換える」ことを1つのターゲットにしているのだとか。今あるテレビ台や設置場所を極力変えずに画面のサイズアップを実現し、さらに最上位Master Seriesクオリティを併せ持った48型として企画したと聞きました。

一方の東芝は、パーソナル用途の訴求もとても意識しています。例えば、モニターモードにおいては輝度を75%程度に抑える仕様になっていて「焼き付きを気にすることなく、PCディスプレイとして使っても問題ない」と発言していました。48型サイズの登場によって、有機ELディスプレイの利用シーンが広がると思います。

山之内:48型というと、横幅はおおよそ1mくらい。主力サイズの55型や65型と比べると、両サイドにスピーカーも置けるのではないかと思えてしまうくらい小ぶりな印象で、一般的なテレビ台とも組み合わせやすいサイズです。何より、ある程度近い距離で見ても高画質で、映像に集中できる点は自発光である有機ELモデルの魅力と思います。液晶モデルを至近距離で見ると、輝度のムラが目立ったり、画面中央と周辺のコントラストや色の変化が気になってしまいますからね。

本田:小さな画面サイズでも、近くで見れば大画面ですから(笑) 僕が個人的に試した範囲では、書斎机の奥にテレビ台を設置。ノート型パソコンを使いながら、奥にある大画面も活用するというスタイルが便利でした。

東芝レグザのみ、2種類の48型4K有機ELテレビをラインナップする。写真は7月10日発売の「48X8400」。22万円前後
タイムシフトマシン機能付きの48型4K有機ELテレビ「48X9400」。'20年秋の発売を予定しており、価格は未定

山之内:私がもう一つ東芝レグザで注目したのは、放送番組毎に画質を最適化する「クラウドAI高画質テクノロジー」というものです。機能自体は春モデルから搭載されていますが、これまでに無かったアプローチであり、非常に可能性のある高画質技術と感じました。

LGの48型4K有機ELテレビ「48CXPJA」。6月発売、価格は23万円前後

本田:AIのディープラーニングを利用した高画質化という手法は各社で行なわれていますが、今期のレグザにおいては従来のアプローチ、つまりUHD BDと2K BDを比較してその差分を機械学習させる方法に加え、8K/4K放送と2K放送を比較し、その差分を元にテレビのパラメータを最適化させる手法が新しく追加されています。

実際のところ現状は、放送の比較視聴をするのはAIではなく、レグザの画質担当が、コロナ禍の自粛期間中に番組をしらみつぶしにチェックし、各モデルごとに最適なパラメータをデータベース化したと聞いています。そのデータベースはクラウド上に蓄積されていて、レグザはその情報を元に、該当番組視聴時に自動でパラメータを適応させる。ユーザーは操作をすることなく、(画質担当チームが考える)最適な画質で番組が楽しめるようになっているわけですね。しかも、そのパラメータは今も増え続けているという……。

山之内:番組制作側が意図するルックや演出と、テレビ設計や画質調整担当らが考える好ましい映像とが上手くマッチした場合は、一層の効果が期待できそうですね。

東芝レグザの「クラウドAI高画質テクノロジー」の概念図
クラウドAI高画質テクノロジーは、4K有機ELテレビ「X9400」「X8400」ほか、'20年に発売した4K液晶テレビ「Z740X」「M540X」シリーズにも適用される

日本の8K放送用に徹底チューニングしたソニー本気の8Kテレビ

本田:私が推したいのは、ソニー初の8Kテレビ「Z9H」(KJ-85Z9H)です。ソニーは2019年のCESにて、8K解像度の海外モデル「Z9G」を発表し、北米や中国で先行投入した実績があります。日本モデルのZ9Hと、海外モデルのZ9Gは、パネルの方式やバックライトの制御技術、映像エンジンといった基本的な部分は変わらないのですが、Z9Hが興味深いのは、海外モデルとは画作りの追い込みが大きく違うことなのです。

ソニー初の8Kチューナー搭載8Kテレビ「KJ-85Z9H」。200万円

本田:Z9Hの企画・開発者らは、ドキュメンタリーや紀行、スポーツ、音楽など、実際に8Kで制作・放送されている番組を素材に、ハイファイ志向ではなくて、リアル感やライブ感をより感じられるよう、丹念にチューニングしたと話していました。

8Kモデルを手掛けるプレーヤーが徐々に増えることで、単に数字やスペックを並べてアピールするだけの段階から、製品のクオリティや各メーカーのチューニングを競い合う段階に入ってきたと感じますし、これからが非常に楽しみですね。

実際に放送されている8K番組をベースに、チューニングを追い込んだという

山之内:新型コロナウイルスの終息が見えにくい中、製品開発や、いま話に出たような画作り、音作りといった核となる部分に更なる影響が出ないか、気がかりですね。開発ルームのような環境や機材をテレワークで整備するわけにはいかないでしょうし。

本田:そうですね。先ほどのZ9Hに限っては、他の4K/8Kテレビよりも比較的発売が早かったため、コロナの影響云々といった話題は取材時に出ませんでした。ただ今期は、各社とも新モデルの発表が遅れ気味だったとは思います。

中でも5月下旬に新モデルを発表したパナソニックのビエラは、有機ELのミドルレンジ「HZ1800シリーズ」や液晶のハイエンド「HX950シリーズ」が8月下旬発売となっていて、例年より発売は遅めですよね。これはあくまで予想ですけれど、型名や機種数から見ていると、ビエラは計画していたモデルを全て発表し切れていない感じも受けますね。

パナソニック・ビエラの4K有機ELテレビ「HZ1800」。65型と55型の2サイズ展開で、発売は8月下旬。なお、最上位GZ2000は販売継続
4K液晶テレビの最上位機「HX950」。8月下旬より発売

本田:各ブランドを俯瞰して感じるのは、各々で目指している画質の方向性がハッキリしてきたということ。4K有機ELテレビの場合、デバイス性能も、それを活かす高画質技術やノウハウも高まりつつあるなか、東芝レグザは、超解像やNRなどもしっかり効かせ、さらには個々の放送番組までも切り込んで高画質化するなど“魅せる”ことに積極的になっています。

パナソニックはというと、ここ数年目指しているのは“リファレンス”で、愚直にモニター画質を追求している。ソニーもモニターライクではあるけれども、高輝度を持ち上げるなど、テクニックを巧みに使いバランスの良い画質にまとめ上げている。この三者三様の方向性は非常に面白いなと。

山之内:有機ELテレビの新しいトピックとしては、倍速駆動における動画ぼやけの低減も挙げられますが、東芝レグザが65型・55型サイズで採用した「高放熱インナープレート」の挿入も興味深いです。構造や素材を工夫して、自社でパネル化する手法は、'19年発売のパナソニック・ビエラ「GZ2000シリーズ」が先行していますけれど、レグザの高放熱インナープレートがどこまで輝度やダイナミックレンジの向上に寄与しているのか、気になりますね。

本田:昨年から、有機ELのセルを調達してセットメーカー側でパネル化できるようなるなど、自由度は出てきているようですから、それを如何に上手く利用して商品の魅力に落とし込んでいくか、各社腕の見せ所だと思います。

GZ2000シリーズでは、独自で設計した構造や素材、パネル駆動を採用した特別仕様のディスプレイを採用することで、高コントラスト化を実現している
X9400、X8400の65型と55型のみに採用する高放熱インナープレート

山之内:液晶テレビについては、いかがお考えですか? 4Kチューナーを搭載したモデルでも、価格がこなれてきて、だいぶ手が届きやすくなりましたね。

本田:そうですね。ソニーのエントリーモデル「X8000Hシリーズ」などは43型で9万円、75型でも25万円ですからね。画質を最優先するコアな層は有機ELを選ぶことになるのでしょうが、液晶を購入する比較的ライトな層は、価格はもちろん、製品の使いやすさであったり、どの動画配信サービスが見られるか? という側面もポイントです。昨今の巣ごもりが、テレビで動画配信サービスを楽しむスタイルを一段と定着させたことは間違いないでしょうから、動画配信サービスとの連携は一層重要になってくるでしょうね。

ソニー・ブラビアの4K液晶テレビ「X8000Hシリーズ」。60Hzパネルではあるが、HDR X1エンジンやDolby Vision/Atmosに対応したお手頃なモデル

山之内:ソニーやパナソニックの一部機種には「Netflixモード」など、専用の画質モードがあって、デモ等でオン・オフを見比べると狙いは理解できるし、実際にディテールが見えやすくなるなど一定の効果は感じます。

本田:Netflixを始めとした海外の動画配信サービスは、ポストプロダクションでの制作プロセスが各国で統一されていて、作品の品質がキチンと担保されています。高品質な配信作品を専用の画質モードを備えたテレビで忠実に楽しむのは、映像にこだわりある方なら重要な要素でしょうね。

ソニー・ブラビアや、パナソニック・ビエラなど、一部機種にはNetflix作品専用の「Netflixモード」を搭載する

山之内:実際、テレビで動画配信サービスを利用し始めると、Android TVであるか否かや、UIのサクサク感なども気になり始めますね。

本田:Android TV OSを採用した当初はトラブルが多く、テレビメーカーが苦労している様子でしたが、今はシステムも安定していますし、何よりネイティブアプリのラインナップ数だとか、新しいサービスへの追従性等を加味すれば、Android TVの強みが際立ってきましたよね。中でもソニーのブラビアは、Androidのスマホやタブレットと連携するChromecastに加えて、iPhone/iPadなどとも繋がるAirPlay 2もサポートしているので、一歩リードしているという印象はあります。

ソニー・ブラビアは'19年モデルからUIなどを大幅に刷新。高速CPUの採用で、ネット動画アプリの起動や電源、各種切替といった操作全体のレスポンスを高めている
Android TVを採用するシャープ・アクオスも、エンジン性能を高めることで、電源やチャンネル切り替え、アプリの立ち上げ・操作といったレスポンス改善に取り組んでいる

山之内:液晶ブラビアで私が注目したのは「X-Wide Angle」対応モデルの拡大ですね。'19年モデルでは85型と75型のみの対応だったのが、'20年モデルでは65型・55型にも搭載された。光学設計を工夫することで広視野角を実現するこの技術は、サイズの大小関係なく導入されるべきと考えていましたから、今回のサイズ拡充は歓迎したいです。

本田:本当ですね。X-Wide Angleを搭載することのデメリットはありません。実際、有機ELテレビ同等の視野角特性が得られるわけですからね。

斜めから見た場合でも正面視聴時と同等の高コントラストを実現するという「X-Wide Angle(エックス ワイド アングル)」

山之内:先ほどZ9Hの話題が出ました。私も映像については期待していますが、個人的にはスピーカーにも注目したい。ツイーター部に“音響レンズ”として機能するウェーブガイドを装着したり、また画面の上下左右・計4カ所のユニットを使って音をセンターに定位させる「アコースティック・マルチオーディオ」など、既存の技術をテレビに応用するアイデアは非常にユニークと感じました。

それから、レグザX9400シリーズにおいては、ハイパワーな内蔵アンプを活用して、接続したスピーカーを駆動する「外部スピーカー出力」ができましたね。PROFEELなどには付いていましたが、最近はめっきり見なくなっていたので逆に新鮮に感じました。

本田:Z9Hに携わった開発者から聞いた話ですが、長円型と真円型のユニットとで実際に音を聞き比べ、音の歪みが少なさや背圧等を考慮して真円型を選択したのだそうです。ただ、ユニットの前にスリット形状を施したパネルカバーを組み合わせると内部定在波でノイジーな音になってしまう。そこで“音響レンズ”的なものを使って可聴帯域外に内部定在波を押し上げることでキレイに音に仕上げているわけですね。パンチングメタルのカバーも検討したそうですが、実際の音を聴き比べ、デザイナーの意見を押し切って音質優先でスリットタイプにしたそうですね。

山之内:基板の設計やパーツの選び方を見ると、ベテランのオーディオエンジニアがキチンと仕上げているなと分かりますよね。

スリット加工を施したベゼル奥にスピーカーユニットを搭載

本田:担当者は極厚の銅箔基板を自腹で購入し、パッシブのネットワークをどのように配置すればインピーダンスが最も下がるか、音を逐一チェックしながら追い込んでいったそうです。またサブウーファーを含めて9ch分の音をハンドリングするに当たって、位相がキッチリ揃うように補正フィルターも作り込むことで、バーチャルサラウンドであってもDolby Atmosなどの音源がしっかり再現できるようにしたと話していました。まぁ、Z9Hは200万円ですから、それに見合う品質を提供するのは当然かもしれません。

スピーカー設計コンセプト
独自のWave Guideについて

本田:もっとも、Z9Hが今期テレビの注目製品であることは間違いなく、また今までのものとはレベルが違うと強く感じる一方、では“今すぐ8Kテレビを買うか?”と問われると、非常に悩ましい。LGからは88型(88ZXPJA)、77型(77ZXPJA)の8K有機ELテレビが出ましたけど、レグザなど他ブランドのモデルがまだ出ていない段階では評価云々を述べる材料が乏しい。今どうしても8Kテレビを買うとなればZ9H一択ですが、実際はもう少し待って見比べてから判断したいですね。

山之内:8Kテレビにおける1つの起爆剤であり、最大のコンテンツであった東京オリンピックが今年無くなってしまった影響はあるでしょうね。特に急を要するのでなければ、来年まで“8K貯金”する選択肢もあるし、むしろ成熟しつつある4Kテレビを選ぶのもありだと思いますよ。

LGの88型8K有機ELテレビ「OLED 88ZXPJA」。6月発売で、約370万円
77型8K有機ELテレビ「OLED 77ZXPJA」は、約250万円

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。

本田 雅一

テクノロジー、ネットトレンドなどの取材記事・コラムを執筆するほか、AV製品は多くのメーカー、ジャンルを網羅的に評論。経済誌への市場分析、インタビュー記事も寄稿しているほか、YouTubeで寄稿した記事やネットトレンドなどについてわかりやすく解説するチャンネルも開設。 メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。