トピック
4Kレグザの色はなぜリッチ? 広色域技術「量子ドット」の秘密
2022年8月31日 11:30
TVS REGZAは、8月31日の4K液晶レグザ「Z770L」シリーズ発売に先立ち、同モデルで採用した量子ドット技術に関する説明会を開催。同技術の概要や量子ドットを使うことによる映像表現力向上の具体例を開発者らが解説した。
量子ドットは、数ナノメートルサイズの半導体微粒子。青色などの特定の光を量子ドットに照射すると、緑や赤に色(波長)を変えて発光する特性があるため、ディスプレイの色再現範囲を拡張する方法として、海外、そして国内のテレビメーカーが採用を加速させている。
TVS REGZAはその急先鋒で、2022年発売予定の4K液晶レグザ6シリーズ17モデル中、4シリーズ8モデルに量子ドットを採用。高価格・大型なフラッグシップを中心に採用する他社と異なり、比較的手頃なシリーズや43型の中型にも採用するなど、同技術を広く展開している。
レグザ、広色域量子ドット×全録のミドル4K液晶「Z770L」
レグザ初、ミニLED×量子ドット搭載のフラッグシップ4K液晶
ブランド統括マネージャーの本村裕史氏は、「テレビの高画質には『きめ細やかさ』『自然な色』そして『コントラスト』の3つの要素が欠かせない。ただ、4Kによる高精細化、有機ELやミニLEDバックライトによる高コントラスト化が進む一方で、これまで“色”だけがキャッチアップできていなかった」と話す。
「肉眼で見る世界の色は、実は非常にリッチ。例えば、車のテールランプや信号機、街の看板やネオンなどは多彩でビビットだ。これまでのテレビ開発においてもリアルな色再現を目指してきたが、デバイスの性能に限界があり100%の再現には至らなかった。色を濃くしようとすると、すぐに飽和し階調が潰れてしまっていた」という。
こうした現状を打破する手法として、同社が数年前より着目・研究し、今年初採用したのが量子ドット技術だ。
本村氏は「量子ドットをレグザに組み込むことで、現実世界のようなリッチな色彩が表現できる。我々は、自然な色を支えるテレビの新たな高画質技術が“広色域量子ドット”であり、技術ブレークスルーの1つと考える」と同技術を評価。そして、「量子ドットは今後の業界のトレンドになりうるもの。量子ドットとは何か。なぜ色域が広がるのか。そしてテレビに使われることでどのような効果が得られるのか? を改めて紹介する場が必要と考えた」と、説明会開催の意図を話す。
青色光を当てるとサイズに応じて色が変化する「量子ドット」
レグザは現在、ミニLEDバックライト搭載の最上位4K液晶「Z875L」「Z870L」と、ハイグレード4K液晶「Z770L」「Z670L」の4シリーズ8モデルで量子ドット技術を採用している。
従来モデルと量子ドットを採用したモデルの構造的な違いは、液晶パネルに当てる“白色光(RGB光)”の作り方だ。
液晶パネルは白色光をカラーフィルターで分離して、サブピクセルをRGBに色分けするが、従来の液晶テレビでは、青色LEDに蛍光体を直接被せることで分離前の白色光を作っている。ただ、この方法はパネルの構造がシンプルでコストに有利な一方、画質的には緑・赤の波長のピークが青に比べて弱くなってしまい、色純度がイマイチという課題があった。
一方の量子ドットモデルは、青色LEDの光を量子ドットシートで透過させることで白色光を作る。量子ドットは、青色光を当てるとサイズに応じて色が変化する特性がある。また量子ドットのサイズを揃えれば、波長のバラツキ(濁り)が少ない、ピュアな緑・赤色に変換することが可能だ(青色は色変換せずにそのままシートを透過)。
つまり量子ドットによる白色化は、従来よりも変換効率に優れ、RGBともに純度の高い波長が得られる。結果、純度の高いRGB成分(人間の目では白色光)をカラーフィルターでさらに分離することで、従来よりもあざやかで色彩に富んだ描写が可能になる、というわけだ。
画質パネル責任者を務める杉山徹氏は、「量子ドットはサイズの大小で、ブルーの光をシアンや赤に変えることができるのが特徴。レグザでは、テレビの色再現……つまりRGBの3色を表現するのに適した量子ドットのサイズを選択すると同時に、シートに使用する量子ドットのサイズを統一することで、従来よりも高い色純度を実現している」と話す。
発光のメカニズムについても、説明が行なわれた。
杉山氏によれば、量子ドットをより詳細に表現するなら“半導体微粒子を数百個から数千個集めた球状の結晶”とのこと。そしてその結晶に励起光(テレビの場合は青色LEDの光)が入ると、結晶内の電子が光のエネルギーを吸収。その電子が元の状態に戻ろうとする際に発生する“エネルギーギャップ”の幅で、赤や緑色に結晶が発光(波長変換)するそうだ。
量子ドットのサイズについて「青色を緑色に変換する場合はエネルギーギャップを大きくしなければならないため、赤よりも逆に小さいサイズの量子ドットを使う」(杉山氏)という。
なおシートに練り込まれている量子ドットは、レグザがパーツメーカーにオーダーしているそうで「量子ドットシートの内容は各社で違うはず。2022年発売の量子ドット採用レグザに関しては、全シリーズで同じシートを採用した」(同氏)とのことだった。
ディスプレイがどれだけの色範囲を表示できるかを示す色度図でも、従来モデルと量子ドットモデルの差を見ることができる。
下は量子ドット採用の「75Z770L」と、白色LED採用の「75M550L」の色度図を比較したもの。Z770Lでは青色LED光を赤・緑色に変換する量子ドットを使うことで、三角形の頂点がM550Lよりもの外側に伸びている。青色に関しても「量子ドットで緑の波長幅が狭くキレがよくなったことで青への回り込みがなくなり、結果的に青の再現範囲が広がった。Z770Lシリーズの場合、DCI-P3面積率は110%に及ぶ」(杉山氏)と話す。
なお、M550Lで使われている白色LEDは、一般的なタイプよりも“広色域な白色LED”が使われており、一般的な液晶モデルと量子ドットモデルの本来の色度図比較は、もっと差が大きいそうだ。
量子ドットの効果を最大化するには「エンジン」「輝度」がかかせない
高画質映像処理エンジンの開発責任者を務める山内日美生氏からは、実際の映像を交えながら量子ドットによる映像表現力の具体例が紹介された。
会場では、量子ドット採用の「75Z770L」と、白色LED採用の「75M550L」を横並びで設置。一般社団法人映像情報メディア学会が色評価用に制作したという、3種類の映像を比較表示した。
赤や緑・シアンの色領域が広いステンドグラスや昆虫の映像では、量子ドット採用のZ770Lがグラスの輝きや蝶の羽をあざやかに表示。花の映像では、微妙な赤色の違いをオブジェクトごとに描き分けていた。
山内氏は「Z770Lは緑の原色点が大きく伸びていて、緑と青を結ぶ線の領域がシアン側に広がっている。なので、この蝶やステンドグラスの映像だけでなく、ビーチなどを映した映像を見ても、従来より色の表現力が格段に向上していることが体感できると思う。またこれまではパネルが表現できる色域が狭いと、同色のわずかな違いも表現できず、すべて同じ色にクリップされてしまっていた。パネルで表現できる色域が広がれば、あざやかにしてもクリップされず、グラデーションを保ちながら物体のわずかなニュアンスも伝えることができるようになる」と量子ドット採用のメリットを説明する。
このように見ていくと、量子ドットが色再現拡張の万能薬とも思えてくるが、「量子ドットを採用すれば、すべてのテレビがキレイになる」という単純な話ではないらしい。
というのも、量子ドットによる色域拡大は一種の“暴れ馬”。いままでよりも再現できる色の範囲が広くなる分、しっかりとエンジン側でコントロールしなければ、見たときに違和感を感じる派手な色に転びやすいという。特に難しいのが、人肌などの中間色。いかにナチュラルで自然な色に制御できるかがアルゴリズムの肝になるという。
またバックライトのパワーも重要で、本村氏は「ピーク輝度を上げコントラストレシオを拡げることで初めて、カラーボリューム(色数)が増える。ある程度のバックライトパワーがなければ、量子ドットの効果を最大化できない」と話す。
量子ドット採用レグザでは、映像エンジンによる色のマネージメントとバックライトのエリア制御を組みわせることで、色再現性能を最大化。
具体的には、地デジやBS放送などのBT.709の標準色域で制作されているコンテンツにおいても、709色域にクリップされた色情報を映像エンジンによる広色域復元技術で拡大。さらにLEDバックライトのエリア制御で輝度レンジを拡大することでカラーボリュームも拡大。豊かな色彩を再現しつつ、微妙な中間色を高精度に制御することで、過度と感じないナチュラルで色彩豊かな描写を実現したという。
量子ドット採用モデルと従来モデルとの色の違いは誰が見ても歴然で、あまりの鮮烈さに最初戸惑いを覚えるほど。ただ、ある程度画面に近づかなければ差が感じにくい解像度の差と違って、色の違いは遠くからでも感じやすい。量販店で量子ドットの有り無しを見比べたら、明るくあざやかな量子ドットモデルに注目が集まるのは間違いないだろう。
量子ドットの技術は液晶テレビだけでなく、すでに有機ELテレビにも使われ始めており、量子ドットを用いたディスプレイは今後も増えることが予想される。国内ブランドの強みである映像エンジンやバックライト制御などの技術も加わることで、また一段とテレビメーカーの高画質化競争が加速しそうだ。