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ソニーのAirpeakが飛び、吉田会長がAFEELAに乗る、海外クリエイター集結「Kando Trip」に潜入!
2024年9月17日 08:00
ソニーは、クリエイターとの交流を経て、今後の製品開発などの共創を目指すイベント「Kando Trip 2024」を米カルフォルニア州サンタ・バーバラにて現地時間の8月27日から30日まで開催。新レンズの発表や、プロクリエイターの公演や撮影セミナーなど様々な施策が行なわれた、熱い4日間に密着した。
Kando Tripは2017年より米国で開始されたイベントで、ソニーがクリエイターの集う場を提供し、そこに集まったクリエイターから、製品の活用方法や新製品への要望などを、ソニー側が直接学ぶ場としての役割も持たせ、クリエイターとの長期的な環境を築くことにも繋がっているという。
今回、このイベントにクリエイター/メディア枠として招待されたので、その様子をレポートする。様々な視点を持った若手クリエイターが参加していることに加え、映画監督やプロスポーツカメラマンの第一線で活躍するベテランクリエイターのセミナーや、ワークショップが多数開催、ソニーのエンジニアとも直接コミュニケーションが取れる、クリエイター視点で多方面から刺激を受けることができるイベントとなっていた。
大規模なアメリカ開催。海が望めるリゾート地に多数の撮影スポット
Kando Tripは元々は静止画撮影に特化したクリエイターイベントとして展開され、開催を重ねる毎に、動画撮影やオーディオ領域も参画。その規模も徐々に拡大していき、今回はソニー・ホンダモビリティや、グループ各社も本格的に参画。参加クリエイターもシネマクリエイターまで拡充され、300名規模の参加者が集まった。
また米国のほかにも、ドイツ、フランス、スペインなどの欧州をはじめ、中国、オーストラリアなど、様々な地域で開催されている。
その中でもやはり米国での開催の規模が一番大きく、今回の開催地はカルフォルニア州 サンタ・バーバラのザ・リッツ・カールトン バカラ……海が望めるリゾートホテルの敷地いっぱいを使った大規模なイベントとなった。
会場は毎回、“クリエイティブな遊び場”をテーマに設計されている。
実際に行ってみると、中に入れるほどの巨大ウォークマンや、「KANDO」の文字看板、願い事と写真を貼って吊るすKando Tree、ビンテージな雰囲気の車とサーフボードなど、撮影スポットが用意されており、参加者がそれらを使って自由に撮影できるようになっていた。
クリエイター達がそれらを思い思いに撮影して、「#SonyKandoTrip」のタグを付けてInstagramなどのSNSに投稿。現地にいると、「この景色をこのような形で切り抜くのか」と様々な気づきがあるので、そういった点でも面白みが感じられる。
会場にいるクリエイター達もソニーのカメラを首から下げているのは当たり前といった状況で、人によってはFX6やVENICEのような大型のカメラ、さらにはアームで吊り下げるタイプのスタビライザーを使った撮影現場でしか見ないような装備の人、ZV-E10に600mmのレンズを装着して実質900mmの映像を撮影している人などもおり、思わず「その装備、どんな使い心地ですか?」「どんな画が撮れますか?」と声をかけてみたくなる。
なかにはソニーのドローンAirpeakを飛ばして上空からの撮影を行なっている人や、その場でセットを組んで、配信を始めているような人たちもおり、なかなか日本国内では体験できない自由さが感じられる。
実際に筆者の目の前でも、ソニーのレンズテクノロジー&システム事業部 事業部長の岸政典氏自ら、クリエイターに声をかけて、その装備を体験している様子が見られた。このようなやり取りが会場全体で自然に行なわれている。
Kando Tripでのこのようなやり取りから、VLOGCAM「ZV-1」の開発がスタートしたり、Ci Media Cloudの機能拡張が生まれるなど、ソニーのエンジニアチームとしても、直接ユーザーの声を聞くことで、モチベーションが高まっているとのことだ。
参加者同士でも、若手のクリエイターがベテランの人から撮影技法を学んでいるだけでなく、ベテランも若手クリエイターに、最近の流行やTikTokでウケる撮影方法を聞いているような、参加者が普段の立場と関係なく、皆互いに尊重し合ってコミュニケーションを取っているので、イベント全体が非常に明るくポジティブな雰囲気で、居心地が良い。この空気感も、7年間このイベントが様々なクリエイターから支持されてきた理由なのだろう。
会場にAFEELAが。吉田会長も乗車
ソニー・ホンダモビリティも参画しており、会場には今年のCESで展示されたAFEELAが登場。走行はできないが、自由に撮影や乗車体験ができる環境となっていた。360 Reality Audioの体験や、助手席で実際にPS5のリモートプレイを行なう様子が見られる。
初日はメインの広場、翌日は海辺の広場、最終日はディナー会場に出現するなど、広い会場内のそこそこな距離を動いているのだが、一目に付かない時間帯を狙って移動していたそうだ。
また、ソニーグループの吉田憲一郎会長も現れ、AFEELAに乗車。その後も参加者の撮影に応じていた。
200機種以上が借りられる貸出コーナーも
会場を見ていて目を引いたのが「Gear Checkout」、機材の貸し出しコーナーだ。ここで用意されているのは機種はなんと200種類以上。カメラ本体も「ZV-E10 II」などのVLOGCAMから、フラッグシップ機の「α1」、Cinema Lineの「FX6」まで貸出で利用できるほか、レンズも発売中のモデルがほぼ網羅されている。
憧れの機種や組み合わせを手軽に体験してみたり、他の参加者の気になる装備をその場で自分も試してみたりといったことが手軽に行なえる。
今回は会場で新レンズ「FE 85mm F1.4 GM II」が発表され、その発表直後に貸出がスタート。多くの参加者がこのスペースに殺到し、目の前で発表された新レンズを使って会場内を撮影して回っている様子が見られた。
筆者もここで、発表会での撮影用に「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」を借りてみたが、ネームタグを見せて、貸出機と紐付けて登録してもらうだけなので非常にスムーズだった。返却は借りた日の21時までとなっており、日をまたいで借りることはできないものの、朝も7時30分からスタートしていたので、会場内でじっくり使うことができる。
Gear Checkoutの近くにはクリーニングコーナーもあり、持参した機材をその場で綺麗にしてもらうこともできる。
撮影スポットのほかにも、ワークショップや、撮影の機会にしやすいプログラムなどが用意されており、借りた機材を使って様々な撮影が行ないやすい環境ができている。
せっかくレンズを借りたので、プールエリアで行なわれていたシンクロナイズドスイミングの様子を撮影してみた。今回は普段使っているリグも外した状態で参加していたため、FE 70-200mm F2.8 GM OSS IIを装着したα7C IIを手持ちの状態で撮影。短スパンで様々なエリアを移動しつつ、長時間の取材ということで極力装備を軽くしていたことが仇となり、非常に辛かった。三脚も借りれば良かった……
動画にも映っているが、演者に近づいての撮影も可能で、なんなら水中で撮影をしている人も。そんな特殊な装備、撮影方法をしている人はやはり多くの人に声をかけられて、撮れた写真や映像を見せながらコミュニケーションを取っている様子が多くみられた。
そして、借りられるのは機材だけでない。なんと被写体となるモデルも一定時間専属で付いてもらえる「Talent-On-The-Go」というサービスも用意されている。
今回のKando Tripでは約20名のキャストがおり、15分単位で予約をしてモデルになってもらうことができる環境となっていた。ライティングなどを行なえる場所も用意されており、より凝った撮影もその場で行なえる。
裏方には大量の衣装とメイクスペースが用意されており、衣装やメイクの雰囲気も指定できるようだった。バレエの衣装から、剣道着などまであるほか、ウエディングドレスだけでもかなりの種類が揃っていた。
ここに登録しているキャストもほとんどの人が若手で、撮影してもらった写真や動画が拡散されることで、被写体となったキャスト自身も多くの人の目に付くようになるWin-Winの関係が築けているそうだ。カメラマンの方も、どのような指示を出せばスムーズに撮影できるかという練習ができる。
ちなみにこのTalent-On-The-GoはKando Tripの第1回目から展開しているサービスで、米国で担当している方の話では、「テントの集まりのようなイベントから始まったKando Tripが、ついにリッツ・カールトンでの開催まで行き着いて感慨深い」と話していた。
こうした体験の場のほかに、製品のフィードバックを行なえるセッションも用意されている。その様子を少しだけ見せたもらったのだが、「現場の人間はエンジニアのように丁寧にカメラを置くようなことはしないのだから、もっと筐体やマウントを丈夫にしてほしい」と現場での扱いを再現している様子などを目の当たりにした。
かなり強い論調で要望を訴えているように見えるのだが、使い込んでいなければわからないような細かい指摘も多い。ZV-E10 IIやα7C IIなど細かい部分で使いやすい機種が増えてきたのも、こういった意見がしっかり取り入れられているからなのかもしれない。できれば日本でも開催して、その声も聞いてほしい。
オーディオも本格参画。至る所にULT TOWER 10が
静止画特化のイベントとして始まり、同じくカメラ(イメージング)の領域で動画撮影の要素が加わっていき、今回から本格的に参画したのがオーディオ領域だ。これまでも、会場の片隅にオーディオの製品を展示して、参加者に触れてもらうといったこともしていたというが、今回はULT POWER SOUNDシリーズ製品を本格的に投入した野外ステージやクラブイベントも展開した。
初日の27日夜に行なわれた「SoundClub Live by The Ocean」では、海が見える広場に、ULT TOWER 10を4本並べた野外ステージを展開。3組の若手音楽アーティストがコンサートを披露した。
こうしたステージもまた、撮影スポット的な役割も担っており、多くの参加者がその様子を撮影。クリエイター達がこの体験と、こだわって撮影した写真や動画をSNSで発信することで、パフォーマンスをしたアーティストも、新しい層に見えてもらえる機会が増え、双方にとって良い効果が自然と生まれていくのだという。
また、29日夜に行なわれた「SoundClub Presents:Austin Millz」では、ULT TOWER 10が6台横並びに配置されたDJブースが登場。床が揺れるような轟音とともに、参加者達が湧き上がっていた。
こんなステージでもやはり本格的な装備で撮影を行なう人も。大型カメラだけではなく、リグのようなものでスマホを3台並べて撮影を行なっている人などもおり、「そんなやり方があるのか」と思わずじっくりと観察してしまう。
そしてこのULT TOWER 10、こういったステージだけでなく、会場の様々な箇所に設置されており、常時BGMを流していたのだが、このライトアップと巨体な見た目と反して、素直な音が再生される。日本未発売のモデルだったため、日中に爽やかな印象のBGMが流れているのを聴いて、「その見た目でそんな繊細な音を再生できるのか」と思っていたのだが、おそらくこの時聴いた音がULTオフだったのだろう。
夜の本格的なステージでは、おそらくULT2のモードに設定されていたのだろう、重低音が身体に響き、地面が揺れる。そんな重低音マシマシな状態でも、ボーカルやアコースティックギターの音は篭もったりせずにクリアな音で耳に届く。
会場の広さに合わせてULT TOWER 10の本数を調整するだけで、いい音の野外ステージが完成してしまっている状況には驚かされた。日本で使ったら近所からのクレームが来そうだが、これができるのも米国ならでは。スピーカーのポテンシャルとしては、コンシューマー機というよりも、もはや屋外イベントで使えるPAレベルだ。
SoundClub Live by The Oceanで司会を担当していた音楽キュレーターのAri Elkins氏に話を聞いてみると、このULT TOWER 10の音は、参加していたアーティスト側からも好評だったそうで、普段モニタースピーカーを使って制作している立場からしても、意図した音に対して重低音に寄る迫力が足された理想的な音で観客に届けることができて、衝撃的だったという声もあったという。
Elkins氏は、Kando Tripへの参加は3回目で、オーディオ領域の参入がスタートしたタイミングからこのイベントを見てきたという。参加するごとにどんどんと大きくなっていくイベントの規模の変化が一番印象的だといい、根底の部分にあるクリエイターとソニーのコミュニケーションを取れる場という部分はそのままに、様々な領域のクリエイターが参加するようになってきたところに魅力を感じているそうだ。
とくに今回はイメージング分野とオーディオの分野のギャップがほとんどなくなり、Kando Tripの一部としてオーディオ系のプログラムが行なわれている点が、非常に嬉しかったと話していた。
参加し続ける理由も、様々な分野で年齢も異なる人達が集まるこの場で勉強になることが多いほか、この場で得た人との繋がりが、日頃の活動にも良い影響になっていくのだという。とくに世代と関係なく、互いに持っている知識を共有し合える場であることに意義を感じているとのことだ。
レジェンドの講座や映画/ドキュメンタリー制作秘話も
撮影技術関連のワークショップだけでなく、レジンアート制作や、ヨガなどの体験セッションや、レジェンドとされるクリエイター達の話が聴ける講座、TVショー「Cobra Kai」の撮影監督によるワークショップ、Podcast番組の公開収録など、開催地に合わせた内容やソニーグループのコンテンツに関するものも用意されている。
とくに講義系の内容は、第一線で活躍するクリエイターに直接質問できるQAセッションも設けられており、参加者もどんどん質問し、壇上のクリエイターもそれらの内容に丁寧に答えていくので、設定されている時間をオーバーすることも多々あり、参加者と登壇者の創作に対する熱意を感じられる。
今回は、様々な講座をかいつまんで見るような形で取材していたのだが、その中でも印象的だったのが、数々の受賞歴を持ち、テキサス大学で臨床学教授でもあるEli Read氏、イラン革命の写真などでWorld Press Photo of the Yearの受賞歴も持つフォトジャーナリストのDavid Burnett氏、オリンピック世界大会やワールドカップなど、数々の大会で撮影実績を持っているスポーツカメラマン Neil Leifer氏の三人が登壇した「How to Be Legendary」。
「“レジェンド”と呼ばれるようになる方法はわからないけど、人とのつながりを大事にすることと、根気よく続けることを大事にしてきたら今の立場になっていた」という話は、万国共通なのだなと思い知らされつつ、カメラマンとしての現場での意識や、人生の転機についても語られ、筆者も思わずその場にとどまって聞き込んでしまった。
また、アニメ映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」の制作秘話が語られた「A Look Behind The Scenes」では、シーンのカットを表示しながら、演出について細かい解説を監督の1人であるJustin K Thompson氏が行なっており、個人的に非常に興味深い内容だった。さらに気になることをその場で聞けるのだから、QAセッションは大盛り上がりだ。日本でもやってほしい。
さらに規模拡大へ。新しい領域のクリエイターを集めてコミュニティの輪を広げる
そんな参加者のクリエイターとソニーの社員が一緒になって、全力で楽しめるような場を提供しているように感じるKando Trip。米国での開催で指揮を執るSony Electronics North AmeriaのMatthew Parnell氏に聞くと、やはり1番の目的は「ソニー製品を使用しているクリエイターを集めてコミュニティを作り上げること」にあるという。
7年目の開催となり、これだけ多くの参加者が集まってくれることに加えて、ソニーグループのテクノロジーが一堂に会するようなイベントとして成長したことを光栄に思っているとしつつ、今後もさらに規模を大きくしていくことを目指しているという。より多くの人を集めながら、クリエイターの新しい分野にも進出していくことを目標にしているそうだ。
元々イメージング領域のイベントであったKando Tripにオーディオ領域を取り入れた理由を尋ねてみると、静止画撮影、映像撮影と同じようにオーディオ業界にも多くのクリエイターが存在していることを考えたときに、クリエイターが集まるKando Tripという場においても、オーディオ領域の存在感を発揮できると考えたという。
そんなKando Tripだが、日本での開催や、日本人クリエイターの参加については、「可能性は十分にある」とのことだ。規模の違いはあるものの、Kando Tripは米国以外での開催も拡大していく方針のため、その開催地として候補に挙がる可能性があるほか、クリエイターについても、新しい領域、新しい人脈を取り込んでいくことを常に心がけていることから、「その中に日本人が入ってくることもあるだろう」とのことだ。
もし将来的に日本で開催されたら、日本で人気のある動画クリエイターとして、映像クリエイターやYouTuberだけでなく、mocopiを活用するVTuberも参加するなど、日本らしい広がりもあるかもしれない。
そういったクリエイター達との交流が、より魅力的で、手軽に、そしてクオリティの高い映像作品が作れる製品開発の原動力になっていくだろう。活動の中での困りごとや要望を気軽に伝えて、エンジニア側もそれを実際の製品に活かしてくれそうな雰囲気ができているこのイベントは、是非日本でも開催してほしい。
協力:ソニー