西田宗千佳のRandomTracking

第662回

iPhone Duoからカメラ新機能、半導体まで。アップルの製品発表を分析する

iPhone初の折りたたみモデル「iPhone Duo」

今年も新しいiPhoneが発表になった。

残念ながら今年は現地取材が叶わず、製品のハンズオンをお届けするのは少し先になる。

だが、発表内容からは、シンプルなスペック以外に多数のことが見えてきた。

今回はまず「発表から見える、実はここが注目」という話を7つほどまとめてみたい。

「iPhone Duo」のAV価値はライバルより高い?!

まずはやはり、折りたたみ型の「iPhone Duo」だろう。36万円からという価格の高さがかなりの(マイナス)インパクトではあるが、その話はまたのちほど。

iPhone Duoを発表するジョン・ターナスCEO

ここで注目しておきたいのは、「AV的にどこがポイントか」という点だ。

噂通り、開くと4:3の画面比になるデザインが採用された。最近は、閉じた形状がパスポートに近い大きさであることから「パスポートサイズ」と呼ばれることも増えている。

開くと横に広いデザイン

先日、サムスンが「Galaxy Z Fold8」「Galaxy Z Fold8 Ultra」「Galaxy Z Flip8」を発売した時にレビューを書いたが、Galaxy Z Fold8とiPhone Duoは同じ「パスポートサイズ」であり、映像を見た時や電子書籍を読んだ時のイメージはかなり近い、と考えていただいていい。

参考に。こちらがGalaxy Z Fold8

iPhone Duoについては実機を使ったわけではないから、使い勝手に言及するのは時期尚早だ。しかし、AV的な用途で、iPhone Duoのメリットは複数ある。

中でも大きいのは「スピーカーの配置」と「フロントカメラの構造」だ。

折りたたみ型で問題になるのは、スピーカーの位置がずれやすいことだ。二つ折りの中央に搭載するわけにはいかないので、どちらかにスピーカーが偏ってしまう。Galaxy Z Fold8の場合には左にあって、どうしても音が左側に偏る印象があった。

以下の画像は、アップルが公式に公開しているAR用モデルをVision Proで表示したもので、実機と同じサイズ・同じデザインである。iPhone Duoの場合、上の左側、下の右側に分かれる形でスピーカーが搭載されている。この方が、開いた状態での音場は自然なものになりやすいだろう。

せっかくなので、ARのiPhone Duoでサイズ感を確認
確認すると、スピーカーの位置は上の左側、下の右側に分かれる形

そしてもう1つは、フロントカメラの構造だ。

iPhoneのフロントカメラは上部にある「ダイナミックアイランド」の中にある。「ノッチ(切り欠き)が目立つ」という意見はあるが、折りたたみでない場合、そこまで問題にはならない。

これが折りたたみになると、「折りたたんだ時のフロントカメラ」と「開いた時のフロントカメラ」の両方が問題になってくる。カメラによる穴や切り欠きが、映像などのコンテンツ自体の邪魔になる場合が少なくない。

だがiPhone Duoは、開いた時のカメラを「インナーディスプレイ構造」にした。要は、ディスプレイの下に配置されていて、カメラを使っていない時は表示で隠れており、カメラを使った時だけ穴が見える形になっているわけだ。このため、ほとんどのシーンではコンテンツを邪魔しない。

カメラはディスプレイの背部に入る「インナーディスプレイ構造」
写真を撮っている時以外はカメラの穴が見えづらい

この2点は、iPhone Duoの徹底ぶりを示す例と言える。

どちらも、他社で採用例はある。だが、設計に制約が出てコストに影響すること、本体が厚くなる要因になることから、あえて採用しなくなったメーカーもある。

このあたりからは「少しでも価格を下げて普及を目指す」のか、それとも「体験が落ちないことを重視する」のか、というポリシーの違いが見えてくる。

iPhone DuoのiOSは特別。新しいUIの魅力

もう1つ、iPhone Duoの特徴として、「OSの折りたたみ最適化が想像以上に行なわれていた」点を挙げたい。

以下の2つのビデオを見るとわかりやすい。まずはアップル公式の、iPhone Duo紹介ビデオ。

Introducing the new iPhone Duo

次に、アップルが公開している、iPhone Duo向けのアプリデザインを解説したビデオだ。こちらは長いので、興味がある方だけでいい。

Design for iPhone Duo | Apple

折りたたみスマホの場合、

  • 折りたたんで1画面の時と、開いた時でどうアプリの扱いを変えるか
  • 開いた時に複数のアプリをどう並べるか
  • 画面の縦横比に合わせてどうアプリの画面を構成するか

など、けっこう複雑な問題がつきまとう。

各社それぞれに工夫はしているのだが、なかなか決定打がない。タブレットとスマホを行き来するようなものなので、両立が非常に難しいのだ。アプリごとに設定が必要になり、設定項目が増えて複雑になりやすい。

アップルがジレンマを解決できた、と結論づけるのはまだ早い。しかし、「折りたたみ型のユーザーインターフェースとして、動画で見る限り非常に魅力的なものを作り上げた」のは間違いない。

閉じたところから開いた時に画面が移り変わるようなアニメーションがあったり、アプリを2分割で配置する時には本体を少し折りたたむだけで「中央に沿うようにアプリが分割される」動作があったりと、他の折りたたみ型では見たことがない。非常に美しく、素直に「さすがはアップル」と感心する。相当長い時間をかけて、作り込みを進めていたのではないだろうか。

開くときに内側が透けて見えるようなデザイン
画面分割も、少し本体を折ると、折り目の位置にウインドウサイズが自動的に合う
折りたたみ方や持つ方向に合わせてユーザーインターフェースが最適化される

他方で、基本的なユーザーインターフェース要素がかなり異なるため、「iPhone Duoを一切考慮してないアプリ」での動作が気になる。

アップルは、iPhone Duo発表と同時に多くの開発資料と解説ビデオを公開している。それだけ重要だと考えているのだろう。

iPhone Duoの発売は10月23日からで、1カ月半ほどある。

アップルのAIであるApple Intelligenceにも対応が必要になる。アップルとしては、アプリのアップデートの期間を用意した部分があるのかもしれない(実際にはおそらく、生産の都合だとは思うが)。

新しいデバイスでは、新しいユーザーインターフェースがあった方が良い。そのほうが製品が魅力的になる。

新Apple Watchの「Audio Intelligence」を深読みする

次に紹介するのは「Apple Watch」だ。

Apple Watch Series 12とUltra 4

iPhone 18 Proじゃないのか、と思うかもしれないが、非常に重要な機能が搭載されたので、ぜひ注目しておいてほしい。

Apple Watchの新モデルである「Apple Watch Series 12」「Apple Watch Ultra 4」では、心拍数と心拍変動の高頻度測定機能が搭載された。健康を保つには重要な機能だ。

ただ、ここで注目してほしいのはまた別の機能である。

それは、新機種で対応する「Audio Intelligence」だ。

新Apple Watchに搭載されるAI機能「Audio Intelligence」

これは、Apple Watchが常に周囲の音を聞き続ける機能だ。「サウンド認識」では、ドアベルやアラーム、サイレンなどを認識して利用者に通知する。

それに加え、興味深いのが「Live Rewind」「Siri Recap」と呼ばれる機能だ(編注:これら2機能は2026年後半にベータ版として英語から提供される)。

これらは、会話をApple Watchが記録し、認識することで実現される。

例えばLive Rewindの場合、Apple WatchのDigital Crownを2回押し(ダブルプレス)すると、直近15秒分の会話を「テキストでApple Watchの上に表示」してくれる。また、そこからSiri AIに対して質問したり、記録をお願いしたりもできる。

Siri Recapは、会話ごとにSiriがノートを作り、内容とサマリーを残すものだ。

会話をノートとして記録、内容とサマリーを残す「Siri Recap」

こうした機能について、最近は「常に録音し続けるデバイス」で実現していたりもする。「SwitchBot AIマインドクリップ」などが代表例だろう。

これらの製品はSiri Recapと似ているが、大きな違いが1つある。

それは、Siri Recapでは「文字として記録はしているが、録音は残っていないし誰もアクセスできない」という点だ。

Audio Intelligenceでは、「音声は残さない」「音声へのアクセスもできない」「個人識別もしない」という

録音できた方がいいのでは……と思うかもしれないが、ここには微妙な一線が存在する。

常に録音し続けるのは一見便利だが、プライバシーの問題も生まれやすい。録音は本来、相手に断って行なうべきものだ。

では、音声にはアクセスできず、書き起こしだけならいいのか……というと、ここも「誰かとの会話を残す」なら、微妙なラインだ。

だが、音声が一人歩きしない形態である方が望ましくはある。そして、アップルの手法の場合、あえて話者の特定も行なわない。「メモとして残す」ことだけに特化しており、Apple Watch内蔵のマイクを「あくまでセンサーとして使う」方向性に振り切っている。

これは、今後の「AIコンパニオンデバイス」を考える上では重要な提案だ。

Audio Intelligenceでやっていることは、録音としてでなく「AIが聞いた情報を記録する」ことだ。では、音声を映像に置き換えて考えてみたい。

カメラで常に録画し続けるのは、音声以上にプライバシー面で課題がある。そこで、映像ではなく「何が写っていたか」という、AIが認識した情報だけが残るとしたらどうだろう?

人間がAIにサポートしてもらいながら生活するなら、AIにも目や耳が必要になる。AIサポートデバイスとはそういう存在だが、記録されることはプライバシー問題につながる。

録画・写真・録音は大切な要素だ。ただそれは、「記録するとき」と明確にした上で行なうべきなのだろう。それと、「15秒前に何を言っていたかを文字で確認する」ための、AIがセンサーとして使うためのものとは切り分ける必要がある。

Apple Watchがそうした要素を入れてきたのは、他のウェアラブルデバイスの用途を奪うと同時に、「AIコンパニオンデバイス時代にも強いデバイスを用意したい」という考えがあるのではないか。

そうすると、将来的にありうる「AIのためのイメージセンサーを搭載したAIコンパニオンデバイス」が出てきた時にも、この延長線上にある考え方で登場するのではないか、と思えるのだ。

iPhone 18 Proは「カメラ」軸の変化

次は「iPhone 18 Pro」。今回は発表会で最初に説明され、いつもとは様子が違った。

変更点は比較的シンプル。プロセッサー自体の進化と、メインカメラへの「可変絞り」の追加だ。

可変絞りを追加すると撮影時の明るさと被写界深度のコントロールがしやすくなる。写真のボケ味が変わるし、近いところも撮りやすくなると期待できる。

iPhone 18 Proでは可変絞りを採用

スマホの中で機械式の絞りを採用した製品がなかったわけではない。中国系メーカーはハイエンド製品で採用しているし、サムスンも過去には採用していた。

ただ、「効果はあるが限定的」というのがこれまでのイメージだ。アップルはその辺をどう調整してきたのか。ここは実機での撮影をしないと分からないところだ。

プロセッサーについては、2nm世代に移行したことによる性能向上がメインだ。といっても、ピーク性能をひたすら引き上げることよりも、消費電力低減による長時間駆動や発熱低減、サーマルスロットリングの回避などが中心になるだろう。

新プロセッサーは「A20 Pro」
CPU、GPU共に順当に進化

AIに関しては、オンデバイスAIを処理する「Neural Engine」が16コアから16コア2系統=32コアになり、処理性能が倍になっている。これは主に、Apple Intelligence利用時の負荷軽減に使われるだろう。

Apple Intelligenceが本格的に使われるようになると、どうしても内部でのAI処理量が増える。そうなったとしても発熱や消費電力を抑え、「iPhoneをより賢く使えるが、バッテリー動作時間は伸ばす」という形が想定される。

Neural Engineは2系統32コアに拡充

派手なフルモデルチェンジではないが、順当な変化というところだろうか。

編集前写真を残す「Appleリファレンス画像」とはなにか

iPhone 18 Proのカメラ周りで個人的に注目したいのが「Apple Reference Image(Appleリファレンス画像)」だ。

写真の真正性担保のための「Apple Reference Image(Appleリファレンス画像)」を搭載

写真は編集可能であり、今はAIによって生成も、大幅な改変も簡単にできる。

そんな中で「撮影された写真が真正なものである」と担保する仕組みが求められている。俗に「写真真正性(オーセンティシティ)」などと呼ばれる概念だ。

業界的な取り組みもあるのだが、アップルは今回、iPhone 18 Proの機能として「Apple Reference Image」を搭載した。

これは、撮影時にピクセル単位でデータに電子署名をしてしまうことで、撮影した写真自体を「署名を破壊することなく改変ができない」ものにする。

中央がリファレンスイメージ。どう編集されたかを確認できる

撮影には「リファレンスモード」と呼ばれる新しいモードでの撮影が必須。センサーレベルで得たデータをクラウドで処理して「リファレンス画像化」するという。

リファレンス画像から、画像をコピーした上で編集はできる。ただ、リファレンス画像は再編集できないので「どこが編集されたかを可視化できる」という仕組みだ。

現状での情報は少ないが、仕組み上、業界標準として使われてきた「C2PA」などとは異なる仕組み、と考えられる。

C2PAは、1枚の写真についてどのような改変が行われたかを記録していく「来歴記録」で、改変自体を阻むわけではない。それに対してApple Reference Imageは、「署名の改ざんが難しいリファレンス写真」を残すことで、編集後、コピーの変更点を明らかにする、という発想だと理解できる。

なおアップルは、もう一つのデファクトスタンダードと言える「SynthID」にも対応予定を表明した。こちらは主にAI生成画像について、「AI生成である」旨の電子透かしを埋め込むもの。AIでの編集や生成を可視化するためのものだ。すでに多くのAIサービスでの画像生成に導入されており、アップルも同じアプローチを採ることになる。

ANC強化の「AirPods 5」。大きく進化した「Pro」の布石か

少し意外だったのは、「AirPods 5」が発表されたことかもしれない。

AirPodsが「5」にリニューアル

AirPods 4は発表から2年が経過しており、競合との関係を考えても、アクティブノイズキャンセルの効果を改善する必要がある……と考えたのかもしれない。

オープンイヤーではもっとも優れたANCを謳う

耳の中にイヤーピースを押し込むAirPods Proとは異なり、耳に負担の少ない「オープンイヤー型」であり、単なる低価格品ではなく「別のもの」としての価値を認められているのだろう。あくまで「アップルのイヤフォンとしてはエントリー価格」であり、23,800円という価格は、必ずしも安いわけではないが。

少し勘ぐるとすれば、「Pro」などのモデルはもっと大きな改変を控えているのかもしれない。

高くなるスマホをどう買うのか。スタンダードモデルは「後日」に

最後は「価格」だ。

いうまでもなく、どの製品も高価になった。iPhone 18 Proシリーズも、iPhone 17 Proシリーズに比べ値上がりしている。iPhone Duoに至っては36万円と、ハイエンドPCとそう変わらない。

iPhone Duoは1999ドルから。日本だと364,800円から

だから買う価値がない……というつもりはない。利便性と「ドキドキ」があるなら、製品としては価値を持つ。問題は、そこで手を伸ばせる人が減ってしまうということだ。

僚誌・Impress Watchの連載で書いたが、折りたたみ型を中心に、スマホの値段はかなり上がってしまった。ここ2年で急激に進んだ円安と、メモリー高騰のダブルパンチは大きい。

その中で、メーカーは、利益を確保しやすく差別化もできる「ハイエンドシフト」が明確だ。アップルも、今秋は明確にハイエンドシフトである。折りたたみ型はハイエンドの最たるものであり、「可能性は非常に大きいが、誰もがすぐに買えるわけではない」製品だ。

その中で、今回はiPhone 17の直接の後継機種、いわゆる「スタンダードモデル」が出なかった。おそらくは、メモリーやストレージの調達が難しく、この時期に全てのモデル分を調達し切るのは難しかったのだろう。

年末から春に向けて販売数量が上がるスタンダードモデルについては、無理にこの時期に売るのではなく、もう少し時間をかけて調達した上で販売する計画なのかもしれない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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