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「プラズマを越える」。新4K VIERAが目指した最高画質

こだわりの色がハイコントラストに進化した「AX900」

 「4K本格普及の年」と呼ばれる2014年。年末商戦の話題の中心となるのは、やはり4Kだろう。「4K元年」と言われた昨年、パナソニックの4Kテレビは「TH-L65WT600」の1モデルのみで、むしろプラズマテレビからの撤退が大きな話題。4K対応に出遅れた感もあった。しかし、今年の5月に発売した4K VIERA「AX800シリーズ」の投入以降シェアを伸ばしており、4K市場における存在感を増している。

 今秋にはさらにラインナップを強化。最高画質を謳うVIERA AX900シリーズと、フルHDテレビの置換えを狙うスタンダード機AX700シリーズを10月17日より発売する。ミドルクラスのAX800シリーズを加えた、3シリーズ12機種の4Kテレビで、2014年の年末商戦に臨む。

 ラインアップ強化したVIERAの4K戦略とは? パナソニックの強みとはなにか? VIERAの開発を担当するパナソニック テレビビジネスユニット 電気設計グループの清水浩文氏に聞いた。

パナソニック アプライアンス社 ホームエンターテインメント事業部 テレビビジネスユニット 電気設計グループ 清水浩文氏

4Kを拡大した狙いは「選べる4K」

 これまではAX800シリーズのみだった4K VIERA。なぜこの年末商戦に、3シリーズの12モデルまで拡充したのだろうか? パナソニックは4K市場をどう見ているのだろうか?

清水:日本は特に顕著ですが、グローバルで4Kが想定以上に伸びています。「買い替えるのであればよりきれいなもの」という方が非常に多く、また、4K試験放送も始まったこともあり、4Kテレビへの関心が高まってます。春にVIERA AX800シリーズを発売しましたが、3つのインチサイズ展開でしたので、選択肢としてはまだ少なかった。

VIERA AX900シリーズとAX700シリーズ

 AX800シリーズは4Kの主力として、引き続き高画質とお求めやすさの両方を求める人にアピールしていきますが、その上にプラズマを越える画質、さらなる高画質を求める人のための製品がAX900シリーズ、フルHDを置き換えて4Kに気軽に触れていただくものがAX700シリーズになります。

 これまでは、50/58/65型の3つのインチサイズでしたが、これからは40型から85型までを用意し、さらに松竹梅(AX900/AX800/AX700)の3つのシリーズになりますので、画質を求める人から、(価格の)お求めやすさを求める人、サイズなどから選ぶ人など、さまざまなニーズに応えられるラインナップを用意しました。

VIERA AX900シリーズ
VIERA AX800シリーズ「TH-65AX800」
VIERA AX700シリーズ

「プラズマを超えた」。AX900シリーズの高画質追求

 画質を追求した、最上位シリーズのAX900は、85型「TH-85AX900」、65型「TH-65AX900」、55型「TH-55AX900」の3サイズで展開。4K VIERAとして初めてとなるLEDバックライトを直下に配して多分割ローカルディミング(LED部分駆動)、IPS液晶パネル(85型はVA液晶)の採用や、忠実画質再現技術「ヘキサクロマドライブ」などにより、「VIERA史上最高画質」を謳っている。

 パナソニックのテレビ事業は、昨年大きな転換を余儀なくされている。それは同社が長年にわたって推進してきたプラズマテレビからの撤退だ。それまで最高画質モデルをプラズマテレビで展開してきた同社だけに、プラズマの画質に愛着を持つファンも多く存在する。清水氏によれば、VIERA AX900シリーズが目指したのは「プラズマを越える高画質」だという。

清水:AX900シリーズは、VIERAの最高画質を目指しました。パナソニックは、これまでプラズマテレビを軸に展開し、プラズマのファンやプラズマから買い替える方が大勢いらっしゃいます。そこで、「プラズマを超える高画質」をターゲットにしたのがAX900です。

 それでは、AX900の画質面でのこだわりとは、どのようなものだろうか?

清水:色については、AX800シリーズでも高い評価を頂いています。その良さを踏襲しながら、明暗の表現力を高めたことが最大の違いになります。AX800は、プラズマテレビの終息にあたって、そこをちゃんとカバーできる液晶テレビを作ろう、そうしたお客様をキャッチアップする製品を作ろうという狙いがありました。

 AX900は多数のLEDをパネル直下に配置して部分制御できるので、明るさや暗さの表現は、自発光のプラズマに近く、はるかにやりやすくなりました。またAX900では、液晶パネルの開口率の向上や高輝度LEDの採用により、輝度をAX800に比較して約2倍に向上しています。この明るさはプラズマでは実現できないものでした。

高輝度IPS液晶パネルと直下型LEDバックライトを採用

 清水氏は、AX800発売時のインタビューで、「プラズマに負けない」高画質と語っていたが、AX900では「プラズマを越える」と語る。その自信の根拠はどこにあるのだろうか。

清水:まずは明るさです。AX800では、明るさを抑えた上でプラズマに近い画質を作っていきました。それが、AX900では2倍の輝度が出せるようになりましたので、プラズマでは表現できなかった高輝度、高階調が表現できるようになっています。

細かなバックライトエリア制御でコントラスト感や暗部階調を向上

 ただ、明るいだけではありません。暗部の階調表現についてはAX800でも高く評価いただいいていましたが、AX900では、より細かいバックライトのエリア制御をかけています。黒の締りや暗部表現、物質感など、映画の質感においても、“プラズマ超え”をターゲットに開発しました。

 一方、AX800シリーズで注目され、支持を集めたのは色表現だ。通常は3原色(RGB)の3つの座標軸で行なう処理を、補色(CMY)も加えて6つの座標軸で補正を行なう事で、不自然な色の発生を抑え、色彩豊かで忠実な映像再現を可能にするというヘキサクロマドライブを強くアピールしていた。AX900では、その部分は進化しているのだろうか?

清水:AX800でご好評頂いているヘキサクロマドライブによる忠実色再現は踏襲しています。加えて4K放送で採用予定の広色域規格「BT.2020」に対応したのが進化点ですね。現時点で、BT.2020の信号はほとんど無いのですが、4K放送規格にもBT.2020が入っています。今回は新LSIによる信号処理で対応しました。

ヘキサクロマドライブを継承し、BT.2020の表示にも対応した

 AX800で追求したプラズマの色を進化させ、そして明るさ、暗さといったコントラスト表現力を大幅に向上した。これが、「プラズマ超え」を自負するAX900シリーズの画質面の大きな特徴といえる。

 そして、もう一つ清水氏が強調するのが「視野角」だ。特に「色の視野角」にこだわり、AX900シリーズではIPSパネルを採用している。

清水:色へのこだわりはプラズマ時代から、パナソニックのテレビのアイデンティティとなるものです。だから、ヘキサクロマドライブを搭載し、DCI(デジタルシネマ規格)の色域をカバーした忠実色再現にこだわってきました。

 一般的な液晶パネルでは、正面からずれて左右から見みると色が“抜け”て、白っぽく見えてしまう。そうなるとせっかくの豊富な広色域の色が勿体無い。そこで色の魅力を最大限に発揮するために、AX900シリーズでは、こだわってIPS方式のパネルを採用しました。(編注:85型「TH-85AX900」はVA方式)

IPS液晶パネルの採用で斜めからみても色変化を抑える

 4Kテレビでは、近づいても画素が見えにくくなるため、より画面に近い場所で迫力ある映像体験ができることが大きな魅力。一方で、画面に近づけば、そのぶん視野角がより重要になってくる。

清水:そうですね。4Kを活かすパナソニックの最高画質のためには、IPSは欠かせないと考えました。IPSはVA方式に比べると正面視のパネル自体のコントラストが出にくい傾向がありますが、高輝度LEDを多数パネル直下に配置して部分制御できるので、コントラストについても強化されています。

 また、LEDドライバを新規設計してますし、IPSの特性に合わせ多分割のバックライト制御のアルゴリズムやガンマカーブも再構築しました。シネマ画質は、パナソニックハリウッド研究所(PHL)などと共同で検討しています。

清水氏が自信作という65型「TH-65AX900」

「本当のハンズフリー操作」を。ダイレクト音声操作に対応

 画質以外に、VIERA AX900シリーズの大きな点と呼べるのが、リモコンなしで音声でVIERAの操作が行なえる「ダイレクト音声操作」に対応したこと。

 本体上部にマイクを内蔵しており、「テレビをつけて」と音声で命令すると電源がONになる。テレビを視聴中に「マイクオン」としゃべると音声入力画面が表示され、チャンネル切り替えや地デジ/BSなど放送波の切り替え、ボリューム操作、番組表操作や録画予約、フリーワード/一発検索、マイチャンネルの横断検索などが行なえる。なぜ、AX900でダイレクト音声操作を投入したのだろうか?

ダイレクト音声操作の利用イメージ

清水:4Kやスマートなど、テレビが高機能化していくと、どうしても操作が難しく、わかりにくくなってしまう。幅広い年代の方に、簡単に映像やさまざまな使い方を楽しんで頂くためには、リモコンやスマートフォンで文字を打ち込む必要がなく、声で操作できること。これが使いやすさの進化だと考えています。

 これまでも音声操作には取り組んできましたが、特に検索性については、ご好評頂いています。従来は、リモコンとマイクを使っていましたが、AX900ではマイクすらいらないというところまで来ました。

 これまでは、「便利だけど、マイクのためにリモコンを持つならば、リモコン操作と変わらない」。という声もありました。そこで今回は、テレビに声をかけるだけ、完全なハンズフリーが実現できました。そこが大きな違いですね。

ダイレクト音声操作の利用例

 音声操作による操作性や検索性の向上は、これまでのVIERAでも体験できていたし、その魅力も理解していた。しかし、ダイレクト音声操作のデモを体験すると、「リモコンを持たない“だけ”」なのだが、テレビを操作するためのハードルが一段低くなったことを感じさせてくれる。

 ダイレクト音声操作のような機能こそ、テレビやデジタル製品に詳しい人だけでなく、より幅広い層にとってもニーズがありそうだ。であれば、フラッグシップ機のAX900シリーズだけでなく、AX700などで搭載しても良かったのでは? と感じるが、AX700シリーズは、リモコンのマイクを使った音声操作のみの対応となっている。

 清水氏に尋ねると、ダイレクト音声操作対応のためには、本体にマイクを内蔵する必要があるほか、音声をきちんと認識/反映するためのノイズキャンセル処理などに、かなりの演算能力が必要となるのだという。そのため、ダイレクト音声操作はAX900シリーズからの対応となるが、操作性の進化という点で、音声操作には今後も注力していくという。

目標は「こころに響く高画質」。4K Worldを訴求

 フルHD置き換えを狙ったAX700シリーズなど、普及サイズの40型まで4Kラインナップを拡大した新4K VIERA。ただし、4Kネイティブコンテンツはまだ潤沢というわけではない。6月に4K試験放送がスタートし、シャープやソニーが4K放送チューナを発売、東芝もREGZA Z10Xシリーズで4K放送チューナをテレビに内蔵してきた。VIERAにおける4K放送チューナ、4Kコンテンツ対応はどう考えているのだろうか?

清水:BSや地上波などで4K放送が幅広く提供されれば、当然チューナを搭載したい。ただ、現時点でもHDMIはHDCP 2.2に対応し、4Kチューナで受信した映像を入力できますので、視聴という点では準備はできています。

 また、地デジやBDのアップコンバートの画質ももちろん進化しています。やはりテレビですので、一番見られるのは地デジ。同じ地デジ放送でも元映像がHDに満たないコンテンツをアップコンバートしていたり、逆に4Kから地デジにダウンコンバートされたものだったりといろいろありますが、その元の映像=原画の解像度を自動判別し、超解像をかける処理を入れました。映像に対してより最適な超解像をかけられるようになりましたので、地デジもよりキレイに見ていただけると思います。4K放送であれば、4K放送に最適化した処理を行ないます。

原画の解像度を自動判別してから超解像処理を適用

 4Kコンテンツについては、放送だけでなく「ひかりTV 4K」など、ネット配信もスタートしている。VIERAも2015年春のひかりTV 4K対応を予告しているが、ネット配信での4K対応をどう考えているのだろうか?

清水:(2013年の)TH-L65WT600の時から「Panasonic 4K Channel」を立ち上げて、4Kのネット動画を配信していますし、AX800シリーズ以降の4K VIERAではHEVCデコーダを搭載していますから、新しい規格やサービスにも対応できます。また、ネット配信だけでなく、4KのビデオカメラだったりLUMIX(デジタルカメラ)も発売されます。撮影した写真や動画をDIGAにバックアップして出力するなど、周辺機器も連携して4K Worldを進化させています。

 地デジの画質向上はもちろんですが、4Kの映像はやはり情報量が違う。一度4Kを体験していただけると、フルHDの画に物足りなさを感じる。家庭の中に4Kが入り込んでいく、ステップに入ってきたなと感じています。

 AX900で目指したのはVIERA最高の画質です。パナソニックの色へのこだわり、パネルや階調表現力など、プラズマの画質を継承しながら進化させていく。「こころに響く高画質」が目標です。

東京オリンピックを目指す若きアスリートを応援するキャンペーン「ビューティフルジャパン」も展開。清水氏も出演している

(協力:パナソニック)

臼田勤哉