プレイバック2017

気づけばトーンアームやラックまで、これぞアナログレコードの泥沼!? by 野村ケンジ

 さて、あっという間に2017年も年の瀬となってしまった。改めて今年を振り返ってみると、筆者がフォローしているジャンルのなかではイヤフォンやヘッドフォンなど、ポータブルオーディオの世界が相変わらずの活況ぶりで、魅力的な製品が数多く登場してくれた。気がついたら、手元にもかなりの数の新顔が並んでいるのも、例年通りだ。とはいえ、2017年ならではの特徴もいくつかあった。それは、完全ワイヤレスBluetoothイヤホンのラインナップ拡大と、3万円クラスのお手軽ハイレゾ対応DAP(デジタルオーディオプレーヤー)の充実だ。

ソニーの左右完全分離型Bluetoothイヤフォン「WF-1000X」のシャンパンゴールド

 2015年頃から姿を見せ始めた完全ワイヤレスイヤホンだが、2016年発売のアップル純正モデル「AirPods」以降は幅広い層から注目を集めるようになったのだろう、この2017年秋にはソニーやBOSEなどのオーディオメーカーをはじめ、様々なブランドから新製品が登場。この冬は大いに盛り上がりを見せていた。とはいえ、既存のBluetoothイヤホン(左右の本体がケーブルで繋がれているタイプなど)に比べると高額となっているため、主流となるにはまだまだ時間がかかるだろうが、“屋外手軽に音楽を楽しめる”ツールとして、今後も大いに注目を集めることだろう。

 もうひとつ、3万円前後のハイレゾ対応DAPも今年はかなり充実してくれた。3月に登場したオンキヨー「rubato DP-S1」、パイオニア「private XDP-30R」は、コンパクトなサイズに加えe-onkyoから直接ハイレゾ音源をダウンロードでき、「Deezer Hi-Fi」への対応などWi-Fi環境であれば音楽ストリーミングなども楽しめるなど、スマートフォンユーザーにも納得の利便性が盛り込まれている。

ACTIVO「CT10」

 さらに、12月にはGroovers JapanがACTIVOという新しいブランドを展開。その第1弾モデルとして、ハイレゾDAP「CT10」を発表している。こちらの発売は2018年第1四半期を目指しているようだが、iriverの協力によって作り上げられた製品だけに、その音質に期待がかかる。もちろん、既存ブランドも更なる充実が推し進められており、ウォークマンAシリーズ(新製品はA40シリーズと呼ばれている)やFiio「X3」(X3 III)などはリニューアルによって音質などを向上。いずれの製品も、ひと昔前の5万円クラス、いや7万円クラスに匹敵するほどの音質や利便性を持ち合わせており、いまや大いに魅力的な価格帯となった。DAPの高価格化、大型化が進むなか、手ごろな価格でコンパクトサイズの製品が充実してくれたことは、いちユーザーとして嬉しいかぎりだ。

 とはいえ、今年の“買っちゃった”報告は他のオーディオジャンルの製品となる。というのも、なんとはなしに2017年に導入したいちばん高額な製品をチェックしてみたところ、DAPやヘッドホンではなく、アナログレコードプレーヤー(本体)だったのだ。ということで、今年はそちらについての紹介をさせていただけたらと思う。

 結論を先にいうと、今年、ティアック「TN-570」に続く2台目のアナログプレーヤーとしてTien「TT3」を導入した。価格は「Viroa 10inch」アームとのセットで66万円(税込)なり。いやはや、やっちまいました。

Tien「TT3」

 昨年も書かせていただいたとおり、過去の取材を通してアナログレコードの世界の泥沼具合はよく分かっていたので、あくまでも幅広いユーザーにお勧めできる価格帯のものにとどめようと意識していたものの、どうしても我慢できず、導入を決意。7月の発売すぐにオーダーし、この半年間、格段のクオリティ向上を果たしたアナログオーディオライフを楽しんでいる。いや、ゆっくり音楽を楽しんでいる時間がなかなか作れないのでちょっとしか聴けていなかったりするのだが、満足度はかなり高い。

 しかしながら、「TT3」導入のきっかけは音の良さだけではない。ずばり、コストパフォーマンスの高さに感銘を受けたからだ。“66万円でハイコスパ”というと、疑問に思う人がいるかもしれないが、アナログレコードプレーヤーに詳しい人であれば、なんとはなしに納得してもらえるはず。というのも、「TT3」は、重さ約1kgのプラッターを磁力で浮かせ、それをCPU制御された3基の低トルク・コアレスモーターでベルト駆動するという、独特のシステムを搭載。セットされる「Viroa 10inch」アームも、マグネットによるダンピング機構やカーボン製アーム、タングステンスティール×サファイアとを組み合わせたベアリングなどを採用するという、なかなか手の込んだ作りだったりする。

Tien「TT3」

 そう、「TT3」の内容を詳しく見てみると、66万円は充分にリーズナブルと思える。倍や3倍の値段をプライスタグが付けられていてもおかしくない良質さを持ち合わせているのだ。少なくとも筆者はサンプル機の音を聴いたときにそう感じ、もともとコスパの良い製品にはめっぽう弱いこともあって、気がついたら導入を決意していたのである。

セットされる「Viroa 10inch」アーム

 では、何故こんなに安く作り上げることが出来たのか。それは、新進気鋭のオーディオブランドTien Audioの創立者であり、台北でハイエンドターンテーブルの修理工房を営んでいる通称“ターンテーブル博士”ジェフ・ティエン氏が、ツボを心得た物づくりをしているからだと推測できる。資料を見てみると、世界中のハイエンド・ターンテーブルを徹底的に分析・研究した成果に基づき作り上げたのが、この「TT3」なのだという。経験値がものをいい、ベストの結果を出した、ということなのだろう。皆さんも、実際の音を聴いてもらえれば、その実力の程を感じてもらえるはずだ。

 もちろん、コストパフォーマンスが高いからこその弱点もある。それは、セッティングの難しさだ。全てのパートが音質を最優先、次にコストパフォーマンスを重要視しているが故に、最近流行のお手軽アナログプレーヤーとは全く逆、とてもセンシティブな調整が必要となっているのだ。ターンテーブルの水平が狂っていたりアームの高さが適切でなかったりするだけで回転が安定せず、マグネットダンピング機構も2カ所のネジ調整を数度回すだけで音がからりと変わってしまったりする。仕事柄の役得をフル活用して、最初のセッティングは輸入代理店の技術スタッフに行なってもらったが、微調整を行なうのがせいぜいで、(Viroa 10inchがストレートアームを採用することもあって)カートリッジ交換すら自力でできないというだらしない状況が続いている。

 このままでは仕事に活かし切れない! ということで、もっと手軽にカートリッジ交換が可能なトーンアームを追加することにした。「TT3」は3本までアーム取付が可能で、今回はそれを活かして2本目のアームを取り付けることにしたもの。まわりの人たちの様々な意見を参考にしつつ、チョイスしたのはGLANZの「MH-10B」。こちら、定価は税込で18万円強とGRANZとしてはエントリーモデル(!)に位置するが、音質的にかなり評判が良いこと、ステンレス製のS字アームを採用しているためヘッドシェルの交換が容易なことから、こちらの導入を決意した。既にオーダーは済ませ、製品の到着を待っているところだ。ほら、これがアナログレコードの泥沼というヤツですよ~(笑)

GLANZの「MH-10B」

 さらにもうひとつ、「TT3」と合わせて導入したものがある。それは、オーディオラックだ。

 もともと、アナログプレーヤー用のオーディオラックにはヤマハのGTラックを活用していたが、アナログプレーヤーのクオリティアップに合わせて出来の良いラックを探していたところ、SoundMagicの「XU03FSS」に遭遇。こちら、防弾ガラスを3枚合わせにしたうえ、各段がそれぞれスパイクで支持されているなど、振動の影響を最低限に抑える工夫が施されていることから、アナログレコードとの相性が抜群だったのだ。カーオーディオもフォローしている人間として、ガラス製のラックは避けて通っていたのだが、「XU03FSS」の実物を叩いてみて、ガラス素材とは思えない響きの早い収束に驚かされた。防弾ガラスの間に挟まれている素材のおかげなのだろう、ここまで響きの少ない、結果としてアナログレコードの音に影響を及ばしにくいオーディオラックは、そうそうない。ということで、「TT3」追加に伴い、オーディオラックのグレードアップも行なうことにした。

新たに導入したラック、SoundMasic「XU03FSS」

 というわけで、アナログレコード関連でかなりの散財をすることとなった2017年だが、現状の満足度はかなり高く、さすがにこのジャンルでの大きな出費はしばらくないはず!? と考えている。とはいえ、次はホームシアターのHDR化、Atmos化も考えないといけないし、2017年冬に登場したハイエンドヘッドフォンで入手できていないものがいくつかある。ああ、物欲がつきることのない今日この頃だ。

野村ケンジ

ヘッドフォンからホームシアター、カーオーディオまで、幅広いジャンルをフォローするAVライター。オーディオ専門誌からモノ誌、Web情報サイトまで、様々なメディアで執筆を行なっている。ビンテージオーディオから最近、力を入れているジャンルはポータブルオーディオ系。毎年300機種以上のヘッドフォンを試聴し続けているほか、常に20~30製品を個人所有している。一方で、仕事場には、100インチスクリーンと4Kプロジェクタによる6畳間「ミニマムシアター」を構築。スピーカーもステレオ用のプロフェッショナル向けTADと、マルチチャンネル用のELACを無理矢理同居させている。また、近年はアニソン関連にも力を入れており、ランティスのハイレゾ配信に関してはスーパーバイザーを務めている。