プレイバック2017
音楽制作にAIがやってきた。“耳コピ”実現も近い? by 藤本 健
2017年12月28日 07:30
2017年も間もなく終わり。改めてこの1年を振り返ってみると、音楽制作、DTMの世界に人工知能(AI)がやってきた年だったように思う。まあ、AIの定義というのがハッキリしないので、考えるような処理をするシステムを「人工知能によるもの」と謳っているだけなのかもしれないが、それにしても驚くほどよくできたシステムがいろいろと登場してきているのだ。
中でも目立っているのがアメリカのiZotope。ここは昨年末にNeutronという人工知能搭載のトラック調整ソフトをリリースし、さらに今年に入りそれを強化したNeutron 2を発売。それと同時に人気のマスタリングソフト、Ozoneに人工知能を搭載した新バージョンOzone 8が登場した。
この2つに共通するのはすでにでき上がっているトラックを聴かせると、EQやコンプ、エキサイター、ステレオイメージャーといったエフェクトを駆使しながら、いい感じに仕立て上げてくれるのだ。こうした作業は従来熟練したミックスエンジニア、マスタリングエンジニアが、彼らの卓越した耳と、豊富な経験を元に調整して処理していたのを、ほんの数秒聴かせるだけで、うまく調整してくれる。実際にその処理結果を聴いてみても、本当によくなっている。
当然、そのアルゴリズムが公開されているわけではないから、ディープラーニングが適用されているのか、ビッグデータが使われているのか(さすがにそれはなさそう?)、昔ながらのニューラルネットワークとかファジー理論が用いられているのかどうかを知る術もないのだが、このまま進化すると一部の職の領域を侵しだすのでは……と心配になるほどだ。もちろん、当面はミックスエンジニアが不要になるのではなく、彼らにとって便利なアシスタントが登場したという段階ではあるが、今後の進展次第では大変なことになるのでは、という予感が働くほどのデキなのだ。
一方、ギリシャのソフトウェアメーカーであるAccusonusのドラム用のツールにも驚かされた。Regroover Proというツールは2ミックスされたドラム音をキック、スネア、ハイハット、シンバル……のように分解でき、Drumatomというツールは生ドラムをレコーディングした際のかぶり音、つまりスネア用のマイクに入り込むハイハットやタムなど別のパーツの音をうまく分離してくれる、というものなのだ。
これらのツールは、熟練したエンジニアであっても簡単にできることではない。まさに不可能を可能にしてくれる最先端コンピュータ技術という感じがするソフトウェアだ。論理的に考えてみると、2ミックスされたドラムの音の分解においては、まず時間軸でスライスして、単独音と思われるキック、スネア、ハイハットなどを抽出し、重なった音からは、その抽出した音を引き算することで分離していく……のではないだろうか? とはいえ、これを人が1つ1つ操作したところで、キレイに分離できるとは到底思えない。そこをキレイに処理してくれるので、不思議にしか感じられないのだが、ここでも人工知能が使われているという。
一方で、SNSを通じて対話してくれるということで話題のマイクロソフトの女子高生AI、「りんな」も音楽の世界へと進出。人工知能の力で歌えるようになっていたのだ。必ずしも上手に歌っているのではないのが面白いところで、人の歌い方を真似して歌えるようになったとか。VOCALOIDなどとは明らかに違う歌い方で、聴いていてちょっと微笑ましく感じてしまうものなのだ。
こうした人工知能を用いたシステムの登場は、今後ますます加速していくのだろう、と期待しているところ。個人的には、早く実現してもらいたいのが耳コピの実現。つまりCDやMP3などの楽曲を聴かせると、コードを検出するのはもちろんのこと、ギター、ベース、キーボード、ドラム、ボーカル……と分解するとともに、その譜面を作り出すという機能だ。これまでも、世界中の開発者がさまざまなアプローチで取り組んできたテーマではあるが、まだまだ実用レベルには遠く及ばない。昨今の人工知能システムの加速により、この耳コピが実現する日も近いのでは……と期待しているところだ。