プレイバック2017

隠れた注目作、20万円台OLED「55C7P」や音の「EX850」。HDRが手ごろに by 本田雅一

有機ELテレビ本家、LGの「OLED55C7P」に注目

 今年1年のオーディオ&ビジュアル業界を振り返ると、やはりOLEDテレビ(有機EL)の年だったと言えるだろう。もちろん、昨年がHDRの年と言われつつ、現時点でも継続的に動きがあるように、来年以降もまだまだ動きはあるだろう。それはOLEDテレビも同じだ。

 今年はシャープと三菱を除き、日本で販売されているメジャーブランドのテレビにOLEDパネル採用機が出揃った。つまりスタート地点に選手が並んだことで、本格的な競争が始まり、それによって商品としての完成度、顧客の選択肢が広がっていくということだが、すでに今年前半にOLEDテレビが出揃ったこともあり、年末までにはそうした競争による前進も見られた。

 今年のOLEDテレビは、全社が採用するLG製パネルの性能・品質が向上したことによる進歩もあるが、OLEDパネルのクセを掴み、どう使いこなせば画質・体験を向上させられるのか、メーカー側が理解を深めてきたことも大きい。

 中でも注目している機種がふたつある。

 ひとつ目はOLED普及に賭けるLGの「OLED55C7P」だ。この製品は20万円台半ばで購入できる上、画質は上位2モデルとまったく同じ。採用するパネル仕様も同じならば、映像エンジンやチューニングまで同じなのだ。

「OLED55C7P」

 しかも、年末に向けたファームウェアのアップデートで弱点だった暗部階調も改善され、色の安定性も高まった。OLEDパネル生産メーカーながら、画質面ではやや差をつけられていた同社だが、これによって差はかなり詰まっている。

 地デジ放送のノイズ処理、フルHDから4Kへのアップコンバート処理などに弱点を抱えるが、高画質なブルーレイレコーダなど、組み合わせる製品でそれらをカバーできるならば(つまりレコーダやプレーヤー側で4K化してから本機に入力するのであれば)、極めて納得感のある製品に仕上がっていると思う。

 ただし、総合的な画質完成度・実力ならソニーのBRAVIA A1が、もっとも完成度の高い製品だと思う。ひとつ難点を挙げるならば、スタンドの構造上、置けるテレビ台に制約があることぐらいだろうか。

ソニー「KJ-65A1」

 モニターのような正確な色再現を狙ったパナソニックEZ1000もいいが、映像処理がEZ1000と共通のパナソニックEZ950もお買い得だと思う。本誌読者ならば、EZ1000のスピーカーは不要という方もいるだろうから、その場合はEZ950は狙い目だ。全社中、もっともNRが優れている東芝は、とりわけ地デジの画質が良好。全チャンネルタイムシフト可能なREGZA X910も、パネルが1世代前とはいえ大きな性能差はない。アップデートで大幅な高画質化も図られている。

パナソニックVIERA「TH-65EZ1000」

 各社とも個性あるOLEDテレビに仕上がっているだけでなく、年末に向けてほぼすべてのメーカーが大幅な画質アップデートを行なっている。それだけ急速にノウハウがたまり、また競争が激しくなっている。結果、業界全体でOLEDテレビの品質が底上げされたのだ。

液晶テレビの注目は“音”と“HDR”にチャレンジしたVIERA EX850

 一方、液晶テレビはソニーのBRAVIA Z9Dシリーズがいまだにトップに君臨しているが、筆者が今年、一番おもしろいと思ったのがパナソニックEX850である。

パナソニック「VIERA TH-49EX850」

 視野角の広いIPSは、家族で楽しむファミリー層、あるいはレイアウトへの自由度を……と思うならば、できれば選びたい液晶方式だ。しかし、原理的にVAよりもコントラストが低いため、HDR映像を楽しめるよう積極的にピーク輝度を上げたローカルディミングを施そうとすると、どうしてもその弊害が目立つ。

 EX850は“正しい表示”をある程度諦め(というと語弊があるが)、液晶パネルの明暗ダイナミックレンジを可能な限り幅広く使うような画像処理を行なう。シーンチェンジなどで不自然に感じる場面もあるが、IPSでHDRを楽しむために、あえてチャレンジしたようだが、ミドルクラスの売れ筋価格帯であれば、こうした割り切り方もいいのではないか? と思う。

 その上で、今年モデルのテレビとしては圧倒的に優れた音質を実現しており、この1台だけでリビングの映像エンターテインメントを完結させることもできる。“高い再現性”ではなく“見栄えの良い映像”、サウンドバーがなくとも優れた音質。割り切りとコダワリの両面で今年一番の大胆な製品に仕上がっていた。

プロジェクタも4K/HDR時代

 一方、個人的に注目しているのがソニー「VPL-VW745ES」およびOSスクリーンの「レイロドール」である。前者はレーザー光源では最廉価、2000ルーメンの出力を誇るHDR対応プロジェクタ、後者はゲイン2.7の新世代スクリーン。この組み合わせで、どこまでHDRを表現できるのか。

VPL-VW745
レイロドール

 価格が飛び抜けているVPL-VW5000ESは別格として、これまで本格的なHDRシアターを実現しようと思えば、JVCのDLA-Z1(350万円)を導入する他ないというのが、ホームプロジェクターの現実だった。しかし、この両者を組み合わせれば、かなりいい線までHDRシアターを実現できるのでは? という期待がある。

 両者をセットで評価する機会には、まだ残念ながら恵まれていないが、光量の制約から難しさを感じていたプロジェクタによるHDR表現が、ついにここで現実的な価格へと降りてきそうな予感を感じさせる製品である。

 完全なブラックルームであれば、一般的なスクリーンとVW745ESの組み合わせでも満足できるHDRが楽しめる。加えてレイロドールを組み合わせれば……。まだ高価な組み合わせではあるが、意外にここから先は素早くハードルが下がっていくかもしれない。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。