プレイバック2019

Amazon Music HDか、mora qualitasか。'20年の音楽の聴き方が決まった by 山之内正

2019年秋、ハイレゾまで聴ける音の良い定額制ストリーミングが国内でも本格始動した。これをきっかけに、もう一度、音楽の聴き方が変わる予感がする。

'19年秋、Amazon、そしてmoraがハイレゾ品質のストリーミングサービスを開始した

筆者はこの数年間、ダウンロードしたファイル音源とCD&SACDが9割、レコードが1割くらいの比率で音楽を聴いていたのだが、しばらく前からロスレスのストリーミング配信(TIDAL)を聴く比率が少しずつ増えていた。いまはディスク、ファイル音源、ストリーミングがほぼ同じ割合だろうか。それと同時にレコードを棚から引っ張り出して聴く機会も増えているのだが、それよりもネット再生で増えた時間の方がずっと長く、LINN DSの稼働時間の半分くらいTIDALを聴いているときもある。

TIDALがMasterと呼ぶMQAエンコードのハイレゾ音源も少しずつ増えているとはいえ、TIDALのラインナップと使い勝手にはいろいろ不満もある。海外出張時に登録を行ない非公式ながら利用できてはいるものの、なかなか日本がサービス対象にならないこともあって、もっと使いやすく音も良いサービスが出てくれば、そちらに乗り換えてもいいと考え始めていた。

そんな中、9月にAmazon Music HD、そして11月にはmora qualitasが相次いでサービスを立ち上げ、CD相当とハイレゾの音源を毎月2千円未満の固定料金で好きなだけ聴けるようになった。サブスクリプション配信はすでに広く定着しているが、圧縮とロスレス以上では音質の違いが決定的なので、これまでは検討の対象にもならなかった。それが一気にハイファイ水準まで引き上げられたことで、TIDAL同等のポジションに昇格。3つの選択肢のなかから好みのサービスを選べるようになった意味は大きい。

Amazon Music HD(PCアプリ画面)
mora qualitas(PCアプリ画面)

この数カ月、Amazon Music HDとmora qualitasの両方に登録し、お試し期間を利用してTIDALとの比較も交えながら使い勝手と音質を検証した。その結果、2020年以降、どのサービスを選ぶべきか、ほぼ方針が決まった。

とはいっても、mora qualitasを本登録、Amazon Music HDはあと数カ月様子を見た後に判断、TIDALもあと少し継続して使ってみるという中途半端な結論になった。

音源が最も豊富でハイレゾの曲数も多いAmazon Music HDの登録をすぐ決めない理由は、パソコンのアプリ使用時に排他モードが使えず、音質劣化が大きいことに尽きる。

音源の多くがハイレゾなのになんとももったいない話だが、MacとWindowsどちらもビットパーフェクトの再生は困難または著しく面倒で、継続して使うにはストレスが大きすぎる。スマホではダウンコンバートされてしまうことも残念だし、オーディオ機器の一部はAmazon Music HD対応をうたっているが、少なくともHEOSのアプリはキュー再生に非対応など使い勝手が良くない点が気になる。唯一期待できそうなのは、LINNがAmazon Music HD対応を予告していることで、それによって音質劣化のない再生が実現すれば継続して使う可能性が残る。

mora qualitasでは出力デバイス設定から「排他モード(WASAPI)」が選択可能

TIDALの契約を残す理由は、LINNのDS、そしてRoonとの親和性が高いこと。そして、両者の組み合わせでMQAのコアデコードによるハイレゾ再生も利用できることが大きい。実際にその経路で再生した場合の音質はかなり満足できるもので、Amazon Music HDを上回る例がほとんどだ。Amazon Music HDを更新しなかった場合、mora qualitasでは聴けない音源がTIDALなら聴ける例が多いことも継続の理由になる。

mora qualitasは音源の充実度が他の高音質サブスクリプションサービスに比べて見劣りするものの、パソコンを利用した再生時に排他モードを利用でき、面倒な操作や設定に煩わされることなく高音質で再生できるメリットが大きい。音源の充実にはある程度時間がかかるかもしれないが、検索機能や関連情報などアプリの使い勝手がよいので、長く使い続けられそうな気がする。

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。