プレイバック2020

空間再現からレクサスまで、見て・聴いて印象が一変した製品たち by 海上忍

LEXUS「LC500 Convertible」

今年は新製品発表会に足を運ぶ機会が激減。どの企業もTeamsやZoomを使ったオンラインでの発表会に移行してしまい、製品を体感できるオフラインでの発表会は数えるほど。時節柄仕方のないこととはいえ、実際に見て、聴いて、時間があればイジり回して感想を述べることが職責の根幹にあるだけに、なんともやるせない気持ちにさせられた。

小型製品は自宅に取り寄せ、配送が難しい大型製品はなんとか機会を設けてもらい取材するという体制で凌いだが、午前は◯◯で午後は××という"渡り取材"ではないからか、印象がはっきり記憶に残るという意外なメリットが。期せずして濃密な取材になったというわけだ。

なかでも強烈だったのは「LEXUS LC500 Convertible」。パイオニア(TAD)の技術を投入したカーオーディオ、しかも後付けではなくレクサスのボディ設計部隊まで巻き込んで作られたものとあって高い完成度……人馬ならぬ“車音一体感”とでもいうべきだろうか、ハンドルの向こう側に浮かぶ音像が記憶に刻まれた。先入観がこうまであっさりと覆される取材は、なかなかない。

ソニー「ELF-SR1」

ソニーの空間再現ディスプレイ「ELF-SR1」も、実機を体験し印象が大きく変わった製品だ。1月のCESで「視線認識型ライトフィールドディスプレイ」として参考展示されていたことは知人や記事を通じて承知していたが、やはりVRやAR、MRの類は百聞は一見に如かず。精細感といい立体感といい、想像の域を超えていた。

ただ、取材時にホビー系かつインタラクティブなコンテンツを試せなかったのは残念。いろいろな角度からキャラクターを眺めるだけでは理解し得ない地平があるはずで、せっかく取材するならその部分を提示してほしかったところ。次の取材機会にはPS5で、手に汗握るゲームで、どうかひとつ。

iBasso Audio DX220Max

昨年末の深セン取材の折に訪ねたiBasso AudioのフラッグシップDAP「DX220Max」も、記憶に残る製品だ。秋のヘッドフォン祭 2019などで試作機の音は聴いていたが、完成された製品としての音はより力強く、透明感の一方で靭やかさを感じるものに仕上がっていた。

最近ポータブルオーディオ方面ではTWSイヤフォンの取材/試聴が続いていたため、大艦巨砲主義的プロダクトのインパクトが相対的に大きく感じられたこともあるが、やはりスマートフォンや小型DAPでは出せない音というものがある。iBassoは新製品「DX300」の発売を来年早々に控えており、そちらも楽しみに待ちたい。

ユキム「PNA-RCA01」

最後に取り上げるのは、コンポのRCA端子に挿すだけで音質改善効果を得られるというプロダクト。ユキムのスーパーオーディオアクセサリーシリーズから発売されたプラグ・ノイズ・アブソーバー「PNA-RCA01」だ。ともすれば「?」という目でみられがちな製品ジャンルではあるが、何度試しても自分の耳にははっきり違いが感じられ、これまた強いインパクトがあった。

その仕組みは、音声信号に重畳された高周波ノイズが抵抗とコンデンサーの直列回路を経由してケースに流入・吸収される……のだそうだが、理屈はともあれ、装着すると定位が明確になる。フォーカスがより鮮明になり、奥行きも広がるのだ。拙宅のダイニングテーブル下に設置されているマランツ「NR1200」(食卓で薄型スピーカとラズパイのHDMI出力を試すために導入した)でも効果を感じたときには、もはや笑うしかなかった。

取材のきっかけは、設計の山崎雅弘氏。独立する以前から交流があり、彼が関与したUSBパワーコンディショナーは特別設計の試作品(筆者のリクエストでコンデンサーをOSコンに替えてもらった)も利用した経緯から、仕組みと効果はある程度理解していたつもりだが、実際に試すと印象は変わる。やはり見て、聴いて、イジり回してナンボの職業なのだなあ、と感じ入った年末だ。

海上 忍

IT/AVコラムニスト。UNIX系OSやスマートフォンに関する連載・著作多数。テクニカルな記事を手がける一方、エントリ層向けの柔らかいコラムも好み執筆する。オーディオ&ビジュアル方面では、OSおよびWeb開発方面の情報収集力を活かした製品プラットフォームの動向分析や、BluetoothやDLNAといったワイヤレス分野の取材が得意。2012年よりAV機器アワード「VGP」審査員。