プレイバック2022
インフレ&円安でコスパ感アップした、2022年の注目AV製品 by 鴻池賢三
2022年12月26日 08:00
エレクトロニクス業界全体の2022年を振り返ると、電子パーツの不足による価格高騰が話題に上るケースが多かった。例えば、人気で利用者も多いアップル製品は強気なのか、円安も加わって割高感が強い。
一方、AV機器に関しては、様子が少し異なるように感じた。海外ブランド製品は値上げのアナウンスが目立ったが、国内ブランドは値上げ一辺倒ではなく、商品企画に影響を与えたと思われる事例がいくつかあったのが印象的だった。
AV業界の場合、多くの製品は1年に1度のペースで新モデルに置き換わるが、価格帯が上がってしまうと、メーカーとしてはユーザー離れが心配になるもの。食品ならお値段据え置きで内容量を減らす手も考えられるが、AV機器はどうだっただろうか?
注目製品その1 エプソン「EH-TW6250」
そんな状況下で、筆者が特に気になったのが、エプソンのプロジェクター「EH-TW6250」だ。
実質、フルHDの人気モデル「EH-TW5825」の後継にあたる売れ筋ラインで、執筆時点(12月初旬)で実売価格は「EH-TW5825」よりも2~3万円程度高く、値上げと言えば値上げだが、“4K/HDR対応”となると話は違ってくる。実際の製品と映像を見ても、コスパ感がより増した印象だ。
環境の変化が生み出した特異モデルと言っても良いのではないだろうか?
注目製品その2 マランツ「CINEMAシリーズ」
マランツの新しいAVアンプ・CINEMAシリーズの「CINEMA 50」と「CINEMA 70s」も今年の注目製品と言える。価格面では煙に巻かれた感も無くは無いが、ラインナップの整理やフロントデザインの一新など「AVアンプはこういうモノ」というデザインからの脱却には好感を覚えた。
ここ数年、業界全体としてAVアンプの販売数量が減り、メーカーも淘汰された。“モノ消費”の機器マニア向けではなく、“コト消費”のリビングシアターユーザーを積極的に取り入れることが、業界の再活性化につながるかもしれない。
実際に「CINEMA 50」「CINEMA 70s」を試聴したが、前モデルの資産を多く引き継ぎつつも、8Kパススルーや3Dオーディオフォーマットなど順当な進化を遂げ、さらに、音質も回路の工夫などで向上。価格アップは仕方ないものの、それ以上の価値を提供しようとする努力が見ることができた。
2023年はさらなる高付加価値製品の登場に期待!
2022年はAV業界にとって逆境とも言える状況だったが、単なる値上げに終わらず、商品の価値を高める切っ掛けになったと思う。2023年もこの流れに乗って、新しい技術や発想を採り入れた製品の登場に期待したい。
2022年発表の新技術で、筆者が特に注目したのは、JDIのディスプレイ技術「eLEAP」。フォトマスクを使用しない蒸着方式で、従来技術比2倍の輝度、または3倍長寿命を謳う画期的な技術だ。フォトマスクを使用しないので製造工程も簡素化でき、コストや環境面でも有利とみられる。スマホから大画面テレビまで、OLED画質の新時代が開けそうだ。
JDI、“既存有機ELの全特徴を凌駕”「eLEAP」量産技術確立
大量生産と各セットメーカーへの供給が実現すれば、身近なモバイルデバイスから大画面テレビまで、大幅な高画質化が可能になりそう。特に画質面では、「2倍の輝度」が楽しみだ。今まで以上に映像を明るくする必要は感じないが、HDR映像でピーク輝度が2倍に伸びると、リアリティや実在感は桁違いになるだろう。VRゴーグルへの応用も期待したい。
8Kコンテンツは放送にはあまり期待できなさそうだが、配信やゲームは量と質の両面で可能性は大きく、「eLEAP」の8Kディスプレイが登場すれば大いに盛り上がりそう。
ちなみに筆者は「MSFS2020」(マイクロソフトのフライトシミュレーター)が趣味。こちらの8K化も是非お願いしたいものだ。
そして、原稿を書いている間にも、“量子ドット素材そのものを発光”させる「QD-ELディスプレイ」に関するニュースが飛び込んできた。製品になるまで少し時間が掛かりそうだが、OLEDもマイクロLEDも吹っ飛ばすゲームチェンジャーの可能性を感じ、今後、動きに注視したい。
筆者的2023年の抱負
筆者は2017年頃から、中国メーカーの台頭に興味を持ち、年に何度か取材に訪れていたが、コロナで往来が困難になり、2019年末を境に休止中。その間にも、続々と海を渡ってやって来るイヤフォンは個性的で面白い。粗削りな時期を超えて、完成度の高さに唸らされることもしばしば。新しい発想や技術の導入も早く、作っている人々が若く熱く、最新技術を用いた研究開発もさかんな印象だ。
筆者は2000年頃、アメリカのシリコンバレーに憧れてAV向けのASICベンチャー企業にジョインしていたが、その時のような刺激を貰えそうな気がしてならない。2023年は、中国ほか、アジア各国にも取材に訪れたいと思っている。