レビュー

音も外観も超進化、マランツ“まったく新しいシアターアンプ”CINEMAシリーズの実力

CINEMA 70s(シルバーゴールド)

「HDMI入力があって、2chの音が良くて、将来的にはマルチチャンネルでも使えるAVアンプ欲しいな」と思っても、「大きくて無骨な黒い箱を部屋に置きたくない」とか「家族が許してくれないだろうな」という人は多い。だが、そんなユーザーの声がメーカー側に届いたようで、マランツから“まったく新しいホームシアター用アンプ”「CINEMAシリーズ」が登場した。

百聞は一見にしかず、写真を見てみよう。「お、薄いヤツもあるのか」「結局デカいのもあるのか」など、感じ方は人それぞれだと思うが、おそらく多くの人が「AVアンプっぽくない」とか「高級感がある」と感じたと思う。

私は「良い意味でマニアックな雰囲気が無い」と感じる。今までのAVアンプって、ツマミやボタンが大量に並び「どこ触ればいいかわからない」「マニア以外は触るんじゃない」的な雰囲気だったが、あの感じが無い。「これならラックの奥に隠さず、見える場所に設置してもいいかな……」と思った人もいるだろう。

外観が“グッときた”人は多かったようで、9月に「CINEMAシリーズが出る」と予告されたニュース記事のアクセス数が非常に高かった。「今後登場する」という予告だけで、スペックも価格も何も発表されていなかったのに、だ。

そんなCINEMAシリーズの発売がスタートする。第1弾として登場するのが、薄さ109mmの「CINEMA 70s」(12月下旬発売/154,000円)と、「CINEMA 50」(12月上旬/286,000円)だ。CINEMA 70sのみ、シルバーゴールドとブラックの2色を用意。CINEMA 50はブラックのみだ。

CINEMA 50

ここまで、外観の話しかしていないので「デザインが変わっただけでしょ?」と思っている人も多いだろう。ぶっちゃけ私も、「マランツが2ch用アンプなどで先に採用していた新世代デザインにAVアンプも揃えたんだな」程度にしか思っていなかった。だが、音を聴いて衝撃を受けた。その理由は「フロントパネルどころではなく、全てを1から作り直した」からだ。

今まで手が出せなかった部分も改良できる

“1から作り直した”のは、製品だけではない。スライド写真を見るとわかるのだが、普通AV製品というのは旧機種があって、その進化版として新機種が出る。例えば「AV01」みたいなアンプがあったら、翌年「AV02」になったり「AV01 mk2」になったりする。だが、新たなCINEMAシリーズのラインナップは、全モデルが後継機ではなく、新しいモデルとして1からスタートしている。

CINEMAシリーズのラインナップ

マランツ・ブランドマネージャーの高山健一氏は「AV製品のモデルチェンジは基本的に“小さな階段を登る”宿命にありますが、今回は十数年ぶりの大きな変革です」と語る。

変革を決意した理由は、“ストリーミングの普及”だ。音楽配信だけでなく、映像配信も多くの人が利用するようになり、家庭内で皆が沢山の音楽や映画を楽しむようになった。そうした時代だからこそ、HDMIとも親和性が高く、単体で音楽配信も受けられるAVアンプを“AVファンだけのもの”にしておくのはもったいない。

「今までのオーディオファンだけが楽しむものから、家族の誰しもが楽しめるものにしたい。そのためにはリビングと調和するデザイン性が大切です。隠すのではなく、誇りを持っていただけるようなデザインにこだわりました」(高山氏)。

CINEMA 70sブラック
薄さ109mm
CINEMA 70sシルバーゴールド
大型のCINEMA 50であっても、リビングに溶け込みやすい、威圧感のないデザインになった

変わったのはフロントパネルだけではない。マランツのサウンドマスター・尾形好宣氏によれば、この変革を機に、トップカバーやサイドパネル、サブシャーシ、インシュレーター、内部パーツまで多くの部分が刷新された。「毎年のモデルチェンジでは、改良したくても“手が出せない部分”があります。例えば、サイドパネルを固定するネジ。以前からM4サイズのよりシッカリ固定できるネジに変えたいと考えていましたが、そうしたベース部分の改良は通常のモデルチェンジでは難しい。インシュレーターも肉厚のリブを入れ、楕円形で平行面を無くしたものに変え、トップカバーも新しくなっています。このタイミングで、今の時代に求められる音や機能を実現できるように、文字通り一から作り直しました」。

マランツのサウンドマスター・尾形好宣氏
側面のネジもよりシッカリ固定できるものに変更
インシュレーターも進化した

フロントパネルにも、使い勝手と高音質を両立させる工夫がある。「以前のデザインでは、ディスプレイがFL管、いわゆる蛍光管でしたが、CINEMAシリーズではモノクロ有機ELになり、小さいですが高解像度で自発光であるため視認性が高い。ボリュームの数字も、ボリュームを操作している時だけ大きく表示するなど、使い勝手を高めています」。

「一方で、サウンドマスターの立場からすると、有機ELは動作周波数も高く、音への影響も気になります。そこで、フロントパネルのすぐ裏にパワーアンプが配置されるCINEMA 50では、フロントパネル裏にシールドを貼って、音への影響が無いように対策をしました」(尾形氏)。

CINEMA 50に使われている、フロントパネルの裏。シールドが施されている

音質の進化という面では、従来モデルの“価格帯”を踏襲せず、新たに製品ラインナップも刷新した事が大きい。より高音質なパーツを内部に投入できるからだ。

「例えばCINEMA 50のプリアンプ部には、マランツ独自の高速アンプモジュールであるHDAM-SA2を搭載しています。広帯域にわたってフラットな周波数特性とハイスルーレートなHDAMは“マランツの求める音”を再現するために、非常に重要な部分で、以前のAVアンプでもHDAMを搭載はしていました。ただし、Hi-Fiの2chアンプで使っているHDAM-SA2と、まったく同じ回路ではなかったのです。しかし、CINEMA 50ではHi-Fiアンプとまったく同じ、フルスペックのHDAM-SA2回路を搭載しました」(尾形氏)。

CINEMA 50の基板。中央の、小さなパーツが無数に並んでいる部分がHDAM-SA2回路だ

パワーアンプ基板は、肉厚なアルミ押し出し材を使ったヒートシンクに、2分割して取り付ける事で、放熱性を高めるほか、振動にも強い構造となっている。最大出力は220W(6Ω/1kHz/THD 10%/1ch駆動)で、低能率なスピーカーもドライブ可能だ。

こうした姿勢は、薄型のCINEMA 70sでも同様。「以前の薄型AVアンプでは使うことができなかった高級パーツを多数投入しています。7chパワーアンプは、パーツ1つ1つの選定や、回路設計の自由度が高いフルディスクリートですが、上位機に使っている高音質パーツを使っています」(尾形氏)。

電源回路も同様で、リスニングテストで厳選したパーツを投入。回路に電源を供給する“音質のキモ”であるブロックコンデンサーには、CINEMA 70s専用に開発された6,800μF×2のカスタムコンデンサーを使うなど、薄型であっても中身は非常に豪華な仕様になっている。最大出力は100W(6Ω/1kHz/THD 10%/1ch駆動)。

AVアンプとしての機能面も抜かりはない。どちらのモデルもオブジェクトオーディオのDolby Atmos、DTS:Xに対応。CINEMA 50は9chアンプを内蔵しているので、単体で5.1.4ch、7.1.2chのシステムを構築できる。2chパワーアンプを追加すれば、5.1.6ch、または7.1.4chまで拡張可能だ。また、サラウンドバックやハイトスピーカーを使わない場合は、フロントをバイアンプ駆動する事も可能。2組のフロントスピーカーを切り替えて使うこともできる。

CINEMA 70sは7chなので、単体で5.1.2chシステムを構築できる。フロントハイト、トップフロント、トップミドル、フロントドルビーイネーブルド、リアドルビーイネーブルドのいずれかを、ハイトスピーカーとして使う事も可能だ。

上位機のCINEMA 50のみ、IMAX EnhancedとAuro-3D、360 Reality Audioをサポート。一方で、MPEG-4 AACのステレオ、5.1chには両モデルが対応しているので、4K/8K放送のサラウンドサウンド再生はCINEMA 70sでも楽しめる。

BDレコーダーやUHD BDプレーヤー、ゲーム機など、HDMIまわりの充実も昨今のAVアンプでは重要だが、そのあたりの仕様も最新だ。CINEMA 50は、HDMI入力×6、出力×2。8K/60Hz、4K/120Hz映像のパススルーにも対応。全端子がHDCP 2.3対応で、HDMI 2.1の新機能であるALLM、VRR、QFTもサポートする。8Kや4Kへのアップスケール出力も可能だ。

CINEMA 50の背面

CINEMA 70sはHDMI入力×3、出力×1となるが、8K/60Hz、4K/120Hz映像のパススルーは可能(HDMIの総入力数は6個)。上位機と同じように、全端子HDCP 2.3対応、HDMI 2.1のALLM、VRR、QFTや、8K/4Kへのアップスケール出力可能。下位機種であっても、このあたりの手を抜かないのはユーザーにとっては嬉しいポイントだ。

CINEMA 70sの背面

HEOSのネットワークオーディオ機能も搭載しているので、Amazon Music HD、AWA、Spotifyを再生したり、NASやUSBメモリーに保存したハイレゾ音楽を再生する事も可能。Bluetooth受信やAirPlay 2も利用でき、“Bluetooth送信”まで可能だ。つまり、家族が寝静まった夜に映画の音をBluetoothヘッドフォンで聴く、なんて事もできる。なお、尾形氏によれば、このHEOSのモジュールもCINEMAシリーズでは新しいものになっているそうだ。

また、マランツのAVアンプは従来から“セットアップメニューがやたらと親切”で知られているが、その部分も進化。テキストや画像の解像度がアップし、より見やすくなっているほか、デザインもより洗練されたものになっている。

UIも高解像度かつ新デザインに
リモコンも刷新

“4系統”のサブウーファープリアウトなど、マニアに注目の新機能も

デザインやUIは親しみやすくなったが、マニアがグッとくる部分も追加されている。

CINEMA 50には、使用しないパワーアンプを信号ラインから切り離し、高品位なプリアンプとして使う「プリアンプモード」を搭載している。機能としては以前のAVアンプにもあったが、従来は“全部のパワーアンプを使うか、使わないか”しか選べなかった。CINEMA 50は、チャンネル毎に個別にON/OFFができるようになった。

さらに注目は、独立した“4系統”のサブウーファープリアウトを搭載した事。4系統のサブウーファー全てから同じ音を再生する「スタンダード」と、各サブウーファーの近くにある「小」に設定されたスピーカーの低音を再生する「指向性モード」が選択できる。

例えばフロントとリアに2個ずつサブウーファーを設置し、指向性モードを選べば、“地鳴りのような低音が背後から前方へ移動する”みたいな、従来のAVアンプではできなかった表現が可能になる。

また、専用マイクを使って部屋の音響特性を測定し、ルームアコースティックを最適化する「Audyssey MultEQ XT32」を引き続き搭載。CINEMA 50は、2023年予定の有償アップデートで「Dirac Live」にも対応する予定だ。

このDirac Liveは、複数のリスニングポイントでマイクによる測定を行ない、周波数特性だけでなく、部屋の反射やスピーカーの位置ずれに起因する音の遅延についても測定・補正するもので、広いエリアのスイートスポットを実現できるのが特徴だ。

音を聴いてみる

では、実際に音を聴いてみよう。

まずはCINEMAシリーズになった事での音の進化を試すべく、以前の薄型AVアンプ「NR1711」(119,900円)と、同じく薄型のCINEMA 70s(154,000円)を比べてみよう。前述のように同じ薄型だが、後継機種ではなく価格帯が違うモデルになっており“薄いけどガチなAVアンプが登場した”と言えるだろう。

以前の薄型AVアンプ「NR1711」

比較は、CDプレーヤーとのアナログ入力からスタートしよう。これは、デジタル処理などが介在しない“アンプとしての素の実力”がわかるため。さらに、AVアンプであっても、2chアンプと同様、音質評価はアナログ入力の2chからスタートし、その音質から遜色がないようHDMI入力など、デジタル入力も作り込まれるからだ。

まずは以前のNR1711から。「宇多田ヒカル/残り香」を再生する。実はこのモデルも、薄型AVアンプとは思えないほど音の良いアンプで、2chであっても広い音場、キレの良い低域、マランツらしい気品のある中高域などを実現しており、2chアンプとしても十分使えるクオリティを備えている。

CINEMA 70s

だが、CINEMA 70sに切り替えた途端、ぜんぜん違う音が出て頭を抱える。静かな空間に宇多田ヒカルの声が広がっていく曲なのだが、そもそも ”空間の静けさ”がCINEMA 70sの方が優れており、より無音な空間からスッと宇多田ヒカルの声が立ち上る瞬間の生々しさがまったく違って「ドキッ」とする。声のエコーが広がっていく空間も、CINEMA 70sの方が圧倒的に広い。

続いて、ベースの低域が入ってくるのだが、低音がパワフルに、押し寄せて来る感覚もCINEMA 70sの方が上だ。いや、価格帯が上になったので“良くなって当たり前”ではあるのだが、実際にお腹にズシンと響く感じや、肺を圧迫されるような音圧の凄さを体験してしまうと「いやぁ~高いけどCINEMA 70sの方がイイな」と思ってしまう。「角田健一ビッグバンド/イン・ザ・ムード」のようなジャズでも、低域が力強いので、聴いていると思わず体がスウィングしてしまう。

尾形氏によれば、こうした中低域の進化は、クラスが上になり、より高音質なパーツが使えるようになったと共に、筐体を刷新した事の影響も大きいという。

個人的に、この進化には賛成だ。ドッシリとした重厚な低域を聴いていると、CINEMA 70sが薄型AVアンプである事を完全に忘れられる。つまり「薄いAVアンプだから仕方ないよね」みたいなネガティブな部分がまったく無い。まさに「薄くても“音はガチ”なAVアンプ」に進化したわけだ。

CINEMA 50

「薄くてこれだけシッカリした音が出るなら、もうCINEMA 70sだけでいいじゃん」と言いたくなるが、それで終わらないのがこの趣味の恐ろしいところ。続いて、CINEMA 50(286,000円)を聴いてみると、「聴かなければよかった」と再び頭を抱えてしまう。

同じ宇多田ヒカルの曲を再生すると、明らかにCINEMA 70sより、CINEMA 50の方が音場が広い。CINEMA 70sも、自分の両サイドまでグワッと広がった音場が感じられたのだが、CINEMA 50ではそれを通り越して背中の方まで包み込まれる感覚。思わず「え、いま2chのCDだよね、マルチチャンネルじゃないよね」とディスプレイの表示を確認してしまう。

その開放的で広大な空間に定位する音像も、CINEMA 50ではコントラストがより強くなり、1つ1つの音の輪郭がわかりやすくなり、味わいがより深いものになる。より広い空間に、より強い音が舞い踊るので、聴いているとそのスケールの大きさに圧倒される。CINEMA 70sとCINEMA 50は価格が倍くらい違うので「そんな価格差あるの?」と思うわけだが、実際に聴き比べると「これが値段の差か!」と痛感する。

マルチチャンネルで聴き比べる

映画のマルチチャンネルも聴いてみよう。映画は「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」のUHD BD。冒頭、ボンドが墓参りをするシーンから、町中でのチェイスシーンを鑑賞する。

CINEMA 70s

まずはCINEMA 70s。5.2.2chセッテングで、サブウーファーの2台は同じ音を出す「スタンダード」だ。

冒頭は屋外のシーンで、風の音や、遠くでさえずる鳥の声から“外の広さ”がしっかりと伝わってくる。墓参りしていると、お墓が突然爆発するのだが、しっかりと“重い”低音が出せるCINEMA 70sなので、「ズバコーン!!」という爆発音の迫力が凄い。

分解能も高いので、チェイスシーンでは、うなるエンジンの低音が空間に充満する中でも、タイヤで巻き上げられた地面の砂が飛び散る細かな音がしっかり聞き取れ、画面にちゃんと写っていなくても「ああ、乾いた地面に砂が多いんだな」というのが、耳からの情報でわかり、映画のリアリティがグッとアップする。これはホームシアターの醍醐味と言っていいだろう。

CINEMA 50

CINEMA 50ではどう聴こえるだろうか。後ろに2ch追加された5.2.4chセッティングになり、サブウーファーは2台でスタンダードモードのままだ。

屋外のシーンから、確かに違いがある。2chの時にも感じたが、音像のコントラストが深いので、風で揺れる葉の音や、虫や鳥の声が、より耳に入りやすい。そして、爆発シーンでは上位モデルらしい、中低域の深さと重さが、モロに出る。

同じシーンが2度目なので「ここで爆発するぞ」とわかっているのだが、CINEMA 50では爆発音がよりハイスピードで鋭く、そして“重い”ので、身構えていても「ビクッ」と驚いてしまう。

銃撃音もより鋭く、重いため、ちゃんと“音が怖い”。また、途中でボンドはバイクに乗って逃げるのだが、エンジンの回転音がCINEMA 50の方が鋭いため、ふかすと「いい音してるわ~このエンジン」と、逃亡劇と関係ない感想が頭をよぎる。

こうした情報量の多さには、CINEMA 50のみが搭載している、Hi-Fiアンプと同じHDAM-SA2回路が効いているのは間違いない。「プリアンプが必要なのかという議論はありますが、スルーレートが高いHDAM-SA2を使う事で、情報量をとりこぼすことなくパワーアンプに送れます。実際に聴いてみると、上質なプリアンプを搭載する良さはやはりあると思います」(尾形氏)。

映画だけでなく、音楽のマルチチャンネルも抜群に良い。「ジョン・ウィリアムズ/ライブ・イン・ウィーン」から、おなじみスター・ウォーズの「帝国のマーチ」を聴くと、コンサートホールの広大な空間が、試聴室に出現。まるで部屋ごと、コンサート会場にワープしたような感覚だ。

CINEMA 70sは、マルチチャンネルでも情報量がしっかり多いため、広大な空間に音が広がる中でも、オーケストラのストリングスが弦で奏でる細かな音の“揺れ”や、広がる観客の拍手の細かさなどが、しっかりと味わえる。

CINEMA 50では、これらの描写のコントラストがより深くなり、ストリングスの質感も豊かになるため、聴いているとゾクゾクするような気持ちよさがある。全身を包み込まれるような最後の拍手の嵐も、CINEMA 50の方がより左右だけでなく上下も含めてより広い空間から包まれる感覚がある。

“音楽をしっかり再生できるAVアンプ”こそがCINEMAシリーズ

尾形氏は、「CINEMAシリーズは、これまで毎年のモデルチェンジで培ってきた技術も盛り込み、理想的なプラットフォームを1から作った事で、新しいスタートを切れたという印象があります。逆に、“この部分には手が出せない”という“言い訳”ができなくなったとも言えますね」と笑う。

確かに、音を聴くと「前モデルからこの部分が良くなった」という次元ではなく、CINEMA 70s、CINEMA 50のどちらも、音のあらゆる部分が大幅にジャンプアップしている。そしてこれから先、この新たなモデルを軸に、毎年のブラッシュアップが重ねられるのだろう。

CINEMA 70s、CINEMA 50に共通して感じられるのが、“AVアンプっぽくない音”だという事。「とにかく中低域をパワフルにする」とか「情報量はHi-Fiアンプよりちょっと少ないけどAVアンプだからいいよね」みたいな部分が無い。

尾形氏も「“映画用のアンプだから”という作り方はまったくしていません。まず音楽がちゃんと楽しめるアンプとして作り込みました。それを追求する事で、映画を楽しむ時の満足度もアップすると考えています。例え、映画を観る時であれば気にならない要素であっても、音楽を聴いた時にダメだと感じる要素であれば、音楽をしっかり再生できる事を重視します」と語る。

音楽配信や映像配信、ゲームなど、楽しむソースが増加した現代にマッチする、新時代のAVアンプとして生まれたCINEMAシリーズ。だからこそ、音も「AVアンプだから映画を良く再生できればいい」で満足せず、「アンプとしての基本である音楽をしっかり再生できる事を重視する」姿勢を貫くこと。そこにこそ、CINEMAシリーズの真価があるのだろう。

(協力:マランツ)

山崎健太郎