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Amazonで人気、驚異のハイコスパ・イヤフォンを生み出す“JPRiDE”とは何か

JPRiDEの新イヤフォン「1980 BLUE MOON」

イヤフォンやヘッドフォンといったAV機器を購入する場合、お店で試聴してから買うのが理想だ。しかし、お店が遠かったり時間がなかったりと、なかなか難しい。そんな時は、Amazonなど、口コミを調べられるECサイトが便利だ。そんなECサイトにおいて、お店では売っていない(=体験できない)のに、音質の良さと、購入しやすい価格で注目を集めているブランドがある。「JPRiDE」(ジェイピー・ライド)というブランドだ。

“ECサイトで人気”というと、「☆の評価は信頼できるの?」と心配になる人も多いだろう。だがこのJPRiDEは、公式サイトやAmazonなどの販売ページにおいて高らかに「不正レビュー(自作自演レビュー)や誇大表現で騙して売るような事はせず、デメリットもすべて伝え、納得の上で購入いただきます」、「30日間返品・返金保証」と明言。なんとも大胆なブランドだが、ブランドを立ち上げた青山淳一氏も、非常にユニークな人物だ。

今回、そのJPRiDEの新イヤフォン「1980 BLUE MOON」(オープンプライス/実売16,800円前後)を試聴し、その実力をチェックすると共に、どうしてこのようなブランドを立ち上げたのか、青山氏に話しも伺った。そこからは、ECサイト全盛時代ならではの、“新しいオーディオ・ブランド”のカタチが見えてきた。

JPRiDEのWebサイト

そもそもJPRiDEとは

製品の前に、ブランドについて紹介しよう。“JP”RiDEという名前からもわかる通り、日本のブランドだ。立ち上げた青山氏は現在40代だが、子供の頃から大の音楽好き。14歳でエレキギターを入手し、ハードロックやメタルを弾くバンド青年。プロが使う高級機材やハイエンド・オーディオ機器に憧れるも、高価でなかなか手が出ず、プロのミュージシャンを目指した時期もあったそうだが、断念。しかし、就職後も音楽好きはそのまま、自分で曲を作り、宅録し、ミックスして……という人物だ。

一般的に、オーディオブランドを立ち上げる人は、長年大手オーディオメーカーに勤務し、「もっと自分の理想を追求した製品を作りたい」と独立して……というパターンが多い。

だが、JPRiDEは、そのブランドの成り立ちからユニークだ。代表の青山氏は、多彩なスキルと職歴の持ち主だが、オーディオブランドやメーカー勤務経験はない。そんな彼が、いくつかの偶然から、「音楽好きの耳さえあれば、高級ブランドと同等のモノづくりが出来るはず、しかも誰でも買える値段で」という“思い込み”(青山氏談)で、オーディオブランドの立ち上げを志した。

青山氏の言葉を借りると「時代の波がそこにあっただけ」だそうだが、時代は、ネットとECの普及タイミングでもあった。彼は“音楽好きの耳”だけを頼りに、大手オーディオメーカーのOEMも手掛ける中国の工場を探し出し、コネクションを確立。JPRiDE誕生へと繋がっていく。まさに、インターネットの登場とグローバル化、新しい時代が可能にした、新しいオーディオブランドと言えるだろう。

JPRiDEはこれまで、Amazonのベストセラーポータブルオーディオ部門、イヤフォン・ヘッドフォン部門などで1位を受賞。Amazonランキング大賞2016「オーディオ機器総合」でも1位、楽天市場やYahoo!ショッピングでもナンバーワンを受賞するなど、ユーザーからの大きな支持を得ている。

ただ、ブームの真っ只中にあるECで、タイミングよく人気を博すブランドは他にもある。オーディオ機器で重要なのは、音楽がキッチリと楽しめる実力を備えているかどうかだ。本物の実力が無いと、波が去った後には残らない。JPRiDEも、ブームの波とともに消えていくブランドの一つなのか? それとも、波が去った後にも残る、数少ない“本物”なのか。製品作りの姿勢を取材し、実機を体感すると、JPRiDEは数少ない本物なのかもしれない……と感じるようになった。

なお、JPRiDEというブランド名には、かつて洋楽にかぶれていた青山青年が、「日本人として世界デビューするなら、JPRiDEというバンド名にしよう」と温めていたもので、「Japanese(日本人)だってかっけーギターソロがひけるぜ、というPRIDE(プライド)をもっておこう」という名称だそうだ。

「友人に勧められる製品を作る」

ここまででも、オーディオブランドとしては非常にユニークな生い立ちだ。だが、JPRiDEが最もユニークなのはここからだ。

普通、オーディオブランドというと、自らが理想とするハイエンドなモデルを開発。それがブランドイメージを世にアピールする旗手として頂点に君臨し、その下に、購入しやすい価格のエントリーモデルなどが展開していく事が多い。

JPRiDEにも、“スタンダードモデル”とハイエンドな“PREMIUM”の2つのラインが存在する。だが、PREMIUMモデルも、今回紹介する新製品「1980 BLUE MOON」が約16,800円と、そこまで高価ではない。ここにJPRiDEの哲学がある。

「1980 BLUE MOON」

ポータブルオーディオマニアであれば、「ハイエンドモデルなら、5万円、10万円のイヤフォンがあってもおかしくない」と考えるだろう。だが、それはあくまで我々のような“マニアの感覚”で、普通の人からすると、やはり5万円、10万円などのイヤフォンは「ありえない価格」だろう。

青山氏は、JPRiDEがターゲットとするユーザー像を、「インターネットでよく買い物をする、30代~40代。音楽好きで、プレミアムなサウンドの製品が欲しいけれど、あまり大金は使いたくない。それでも、いい音で、なおかつデザイン性が高いものが欲しい人」と設定。「つまり、自分自身のことなんですけどね」と笑う。それは、クオリティの高い機器が欲しかったけど高くて買えなかった青年期の自分が夢見た製品でもある。

そんな製品が作れれば、ECサイトメインの販売方法でも、興味を持ってくれる人は現れ、購入してくれるはず……。「本物の音質とクオリティを、極限まで低価格で」。これが、JPRiDEのコンセプトだ。

だが、ECサイトには御存知の通り、定価格なイヤフォン/ヘッドフォンが大量に存在する。さらに「不正なサクラレビューを投稿し、実際よりも良くみせて販売している製品もある」と青山氏は語る。

こうした状況下では、価格を抑えた製品を頑張って開発しても、さらに安価な製品の中に“埋もれて”しまう。ではどうすればいいのか。青山氏は、「良い製品を作ること」そして「例えば、製品が不備があった場合はしっかりとサポートする。ある意味、“あたりまえ”の事です。その当たり前の事を真面目にやることが大切です」と言う。その“あたりまえ”の継続・積み重ねが、ブランドとして信頼され、支持されるためには不可欠であり、それがECサイトで埋もれない事に繋がっていくというわけだ。

Webサイトや販売ページに、「不正レビューはしない」など、開発・販売についてのルールを明記していっる

JPRiDEのイヤフォンが生まれるまで

前述の通り、青山氏はプログラマーの経歴があるが、音響技術者などではない。JPRiDEの製品はどのように作っているのだろうか?

ポイントは3つ。OEMメーカーとの信頼関係、音楽好きの青山氏が理想とする製品のビジョン、そして徹底したコストの削減だ。

例えば、新製品のPREMIUMラインの場合、AV Watch読者なら誰もが知っているようなハイブランドの製品もOEMで手掛ける、中国のメーカーとコネクションを確立。その高い技術力、生産力を活用し、JPRiDEの製品は生み出される。

具体的には、OEMメーカーがサンプルとして開発した多くのイヤフォンを青山氏が試聴。その中から、サウンドやコストの面で、自分の理想に近いものを選択。そのサウンドに対して、「もっとこうして欲しい」という要望を出し、それを反映したイヤフォンを試作してもらう。そのサウンドを再度チェックし……といった工程を何度も何度も繰り返す事で、理想のイヤフォンを作り上げていく。そのため、青山氏は新型コロナウイルスの影響が出る以前は、毎月のように中国に渡っていたそうだ(現在は試作機の郵送で対応しているとのこと)。

また、OEMメーカーに頻繁に出入りしていると、同メーカーの技術者から、「こんなドライバーが完成した」というように、新たな技術やパーツの試作機を見せられ、体験できる機会も多くなる。そこからアイデアが生まれ、そうした技術やパーツを搭載した新製品につながる事もある。

製品のデザインも同様。すでに存在するサンプルをベースに微調整していく事もあるが、手描きのスケッチをOMEメーカーへと送り、ゼロから新しいデザインの製品を作っていく事もあるそうだ。

こうしてJPRiDEの製品が生まれるわけだが、“音のいいイヤフォンを低価格で”提供するためには、大胆なコスト削減が必要になる。青山氏が徹底的にこだわるのは「とにかく固定費をかけない事」だという。

例えば、JPRiDEは事務所を設けず、リモートワークが基本。スタッフの数も極力少人数にする。普通のオーディオ機器であれば、ユーザーが実物を体験できるように、イヤフォン専門店や家電量販店などに置いてもらったり、イベントに参加するといった方法をとる。

しかし、JPRiDEはあえてそこに注力はせず、ECサイトでの販売と製品サポートにフォーカス。音が気に入らなければ「30日間返品・返金保証」という大胆な施策も行ない、実物が体験できないマイナス面を補っている。

こうした努力の結果、新製品のブルームーンは約16,800円と2万円を切る価格ながら、「他社の5万円、10万円といった高級機にも負けないクオリティを実現した」と青山氏は胸を張る。

その姿勢は一貫しており、「自分が欲しいもの」であると同時に、「自分の友人に、勧められる製品」を作らなければダメだという。オーディオマニアではない友人が「音の良いイヤフォンが欲しい」と相談してきた場合、目が飛び出るほど高価な製品は勧めにくい。そこまで高価でなくても、スマホ付属のイヤフォンより圧倒的に音が良く、満足感が得られるイヤフォンを作る。つまり、オーディオマニア的に“音質にこだわる”姿勢を持ちながら、価格の面では“普通の人の感覚”を忘れないで製品を作る。ここが、JPRiDEの最大の特徴といえるだろう。

「1980 BLUE MOON」のサウンドをチェック

では、PREMIUMシリーズの新モデル「1980 BLUE MOON」を聴いてみよう。前述の通り、実売約16,800円と、プレミアムな位置付としてはかなり抑えられている。3万円、5万円といった、他社のハイクラスモデルと比べて、音がどう違うのか気になるところだ。

1980 BLUE MOON

試聴前にイヤフォンを手に取ると、“BLUE MOON”という名前の通り、深い青のシェルが美しい。半透明で内部のパーツが透けて見えるため、光の加減で表情が変化。奥行きを感じさせるデザインに仕上がっており、安っぽい感じはない。高価なカスタムIEMのような雰囲気も感じさせる。ハウジングのロゴもシンプルで主張し過ぎず、いい感じだ。

筐体が小さめであるため、装着も楽で、異物感も少ない。イヤーピースは通常のタイプに加え、ダブルフランジタイプも同梱。より密閉したい場合はダブルフランジを選ぶと良いだろう。それにしても、約16,800円とは思えない充実ぶりだ。

イヤーピースを外したところ
付属のイヤーピース。ダブルフランジタイプも同梱している

ユニット構成はバランスド・アーマチュアユニット×1基、10.2mm径のダイナミック型ドライバー×1基のハイブリッド仕様。ダイナミック型はデュアルコイルタイプで、駆動力を高めている。再生周波数特性は20Hz~40kHz。インピーダンスは9Ω+/- 15%@1kHz。出力音圧レベルは93dB/mW、最大入力は5mW。

中のダイナミック型ユニットが透けて見える
内部構造。ダイナミック型はデュアルコイルタイプで、駆動力を高めている

ケーブルは130cmで着脱可能。4N OFCの高純度カッパーケーブルに、シルバーコーティングを施しており、高級仕様だ。端子はMMCXを採用している。ケーブルの入力端子はステレオミニだ。価格を抑えた製品だが、銀メッキケーブルや入力プラグの質感は高い。

MMCXで着脱可能
シルバーコーティングケーブルや入力プラグの質感は高い

しばしエージングを進めた後、「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」(96kHz/24bit/WAV)を再生する。

音が出た瞬間に「おおっ!」と思わず声が出る。“新しいメーカーの、16,800円のイヤフォン”という先入観があったため、「ややドンシャリ系のパワフルなサウンドなのかな?」と勝手に予想していたのだが、その予想を気持ちよく裏切ってくれる。モニターライクでバランスの良い、ピュアオーディオライクなサウンドだ。

まず感じるのは音場の広さだ。冒頭のアコースティックギターの響きの広がり、ボーカルの声が音場の奥まで響いていくのが良く見える。狭い空間に音が詰め込まれる閉塞感はまったく無く、広い空間に、のびのびと音が広がる様子がわかる。爽やかな気分になるサウンドだ。

ギターの弦の硬質な響きと、ギターの筐体が共鳴する木のあたたかなぬくもり、女性の声の自然さなど、個々の音の質感描写も丁寧だ。BAとダイナミックのハイブリッド型でありがちな、低域と高域で、音の質感が異なるような事もない。

1分過ぎからアコースティックベースが入ってくると、低域の量感の豊富さ、沈み込みの深さに驚かされる。中低域を膨らませたような“なんちゃって低音”ではなく、本当に深い音がズゴーンと沈む。その低域に、しっかりと芯がある。単にボワボワと膨らむ低音ではなく、低い響きにも締まりがある。迫力とキレの良さが同居した気持ちのいい低域だ。

この低域のクオリティは、デュアルコイルタイプの10.2mm径ダイナミック型ドライバーによるものだ。デュアルコイルで駆動力を高めたことで、ユニットがフラフラせず、音が出る時はズバッと出て、音が無い時はスッと止まる。これが、前述の“キレの良さ”に繋がっていると思われる。

低域の再生能力が高いため、「コーネリアス/Sensuous」の「Beep It」(96kHz/24bit/FLAC)のビートのソリッドな切り込み方が最高だ。聴いていると思わずビートに合わせて頭が動いてしまう。

空間描写も優れているため、「マイケル・ジャクソン/スリラー」(DSD 2.8MHz)冒頭の「ギギギーッ」とドアが軋む音や、その後のビートのキレを味わいながら、それらのサウンドの背後に吹き荒れるビュービューという嵐の音もしっかりと聴き取れる。音楽の美味しいところを堪能しながら、音楽がどのように構成されているかもわかる描写力を備えている。この実力は、2万円、3万円、いやそれ以上の価格のモデルとも十分渡り合えるものだ。

手持ちのバランス接続ケーブルも試してみたが、音場がさらに広く、音像にも立体感が出る。ケーブル交換による音の変換など、オーディオ的な楽しさも味わえるイヤフォンだ

ワイヤレスレシーバー「BTR-1」もチェック

「1980 BLUE MOON」と同じく、新製品のBluetoothレシーバー「BTR-1」も使ってみよう。イヤフォンは付属しない純粋なBluetoothレシーバーで、ネックバンドタイプ。既に持っているMMCX端子の有線イヤフォンを、ワイヤレスイヤフォンとして使える製品だ。

ワイヤレスレシーバー「BTR-1」

「BTR-1」の特徴も、“ハイクオリティをリーズナブルに”だ。Qualcommの「QCC 3034」を採用し、Bluetooth 5.0に対応。コーデックはSBC/AACに加え、aptX、aptX HDもサポートしている。さらに2時間のフル充電で、約10時間の連続再生が可能だ。それでいて価格はオープンプライス、実売は6,800円前後に抑えられている。

操作ボタン
BTR-1とBLUE MOONを接続

さっそくBTR-1と、先程のBLUE MOONを接続。aptX HD対応のスマホとワイヤレス連携し、Amazon Music HDで「Official髭男dism/Laughter」を聴いてみた。

BLUE MOONの特徴である、ワイドレンジでニュートラルなサウンド、低域の量感や深さといった持ち味は、BTR-1で駆動してもしっかりと感じられる。BTR-1自体のサウンドに変な色付けが無いので、接続したイヤフォンの持ち味をしっかり味わえる。別のMMCX端子搭載イヤフォンとして、finalの「B1」(税込7万円弱)を接続してみたが、B1ならではの付帯音の少ないクリアなサウンドがストレートに出てくる。

finalの「B1」を接続してみた

首の後ろに当たる部分は柔らかく、柔軟性もあるため、使っていてズレる事もなく快適だ。また、イヤフォンケーブルに形状記憶ワイヤーも搭載しているため、いわゆる“シュア掛け”もしやすい。音量操作に加え、再生/停止、曲送り/戻しの制御も可能。マイクも搭載している。

なお、充電端子はmicro USBを採用している。トレンドとしてはUSB-Cが理想だが、充電用のケーブルも付属しているので実用的には問題ないだろう。

新しい時代のオーディオ・ブランドのカタチ

JPRiDEのイヤフォンを実際に聴いてみるまで、ぶっちゃけ「Amazonでいっぱい売っている定価格イヤフォンの中で、ちょっと良いモデル」という印象しかなかった。だが、サウンドを体験し、製品を手にしてみると、玉石混交、ライバルひしめく苛烈なECサイトを勝ち抜く確かな実力と、圧倒的なコストパフォーマンスを兼ね備えた製品である事がわかった。前述のように、JPRiDEというブランドが、ネット上で人気を博して来た理由も感じ取れた。

確かに、従来のオーディオブランドと比べると、生い立ちはユニークで“イマドキ”だ。しかし、これから先、ECサイトで製品を購入する人は増加し続け、販売ページ上での口コミを参考にする機会も増えていくだろう。JPRiDEはそんな“新しい時代における、オーディオ・ブランドのカタチ”を体現しているようにも見える。

そんなJPRiDEが、“良い製品を作り”、“サポートをしっかりやり”、“普通の消費者の感覚を忘れず”、そのニーズにマッチした製品を販売する事で、支持されているというのは、ある意味でホッとする話しでもある。新モデル「1980 BLUE MOON」は、価格からは想像できない音質を実現しており、そんなJPRiDEのブランドイメージをより強固にする製品になるだろう。

また、こうした“ユーザーとの近さ”や“ユーザーニーズを素早く製品に反映させるスピード感”は、これまでのオーディオブランドに無かった部分でもある。単にコストパフォーマンスの高い製品を今後も生み出すだけでなく、オーディオ市場における新たなトレンドを生み出す可能性も秘めたブランドになるかもしれない。