レビュー

“学生でも買える”を貫くPolk Audio 50周年スピーカー「R200AE」の凄さ

創立50周年を記念して誕生したアニバーサリースピーカー「R200AE」

2020年に日本市場に再上陸、“学生でも買える”コストパフォーマンスの高さを武器に快進撃を続け、2022年8月には日本でのブランド別シェアで3位を獲得。話題のスピーカーブランドがPolk Audioだ。

「そういや最近よく目にするな」という感じなので、最近生まれたブランドみたいな気がするが、実は創業は1972年、今年で50周年という“超老舗オーディオブランド”だったりする。

そんなPolk Audioから、“今までとちょっと違う”スピーカーが登場した。まさに創立50周年を記念して誕生したアニバーサリースピーカー「R200AE」(12月発売/ペア176,000円)だ。

「R200AE」

AEは“アニバーサリーエディション”の略。つまり「R200」(ペア103,400円)というベースモデルが存在しており、それに手を加えた特別モデルが「R200AE」というわけだ。ちなみに全世界1,000ペア、日本への割り当ては150ペアの限定モデルなのだが、音を聴くと「あ、たぶん一瞬で無くなるだろうな」というクオリティになっている。

右端がR200AE。左に並んだ3台がR200だ

R200とはどんなスピーカーか

“AE”モデルを聴く前に、そもそもベースとなる「R200」がどんなスピーカーかおさらいしよう。

左がR200、右がR200AE

作っているPolk Audioの発端は、1971年に、お金は無いが、情熱はあった3人の青年が“学生の自分たちでも買える良いスピーカーを作ろう”と家のガレージでスピーカーを作り始めたところにある。

翌1972年にマシュー・ポーク、ジョージ・クロッパー、サンディ・グロスの3人でPolk Audioを創業。1975年にはモニター7と呼ばれる製品を完成させ、これが大ヒットモデルに。その後も人気モデルを次々と世に送り出し、ついに自前の生産ラインを持てるようになり、オーディオメーカーとして躍進。2000年以降には米国トップシェアのスピーカーブランドへと成長した。

その後、2017年に、デノンやマランツブランドでお馴染みのディーアンドエムホールディングスと統合。2020年に日本市場へ本格的に再参入した。“老舗オーディオブランドなのに日本での知名度がイマイチだった”理由は、そのためだ。

ブランドとしての強みは“規模”だ。日本よりも桁違いに大きな米国市場で“売れているブランド”なので、当然作るスピーカーも多い。当然、使うパーツも多いため、それが高価なパーツであっても、コスト削減効果により、安価に搭載できる。つまり、低価格なスピーカーであっても、高価なパーツを搭載でき、その結果、他社と比べてコストパフォーマンスに優れたモデルが作れる。これがPolk Audioの魅力だ。

日本で展開しているオーディオ用スピーカーでは、「Monitor」シリーズの「MXT15」というブックシェルフが最安で、価格はペアで27,500円とかなりリーズナブル。しかし、かなり本格的な音がするモデルだ。

今回取り上げるR200は、「Reserve」という日本展開モデルでは一番上のシリーズで、R200(ペア103,400円)はその中のブックシェルフだ。

R200が50周年記念のベースモデルとして選ばれた理由は、アメリカやヨーロッパで高い評価を得ている人気モデルである事、そして、詳細は後述するが、ユニットなどにPolk Audio独自の技術をふんだんに使っている事が挙げられる。要するに、“Polk Audioの顔”と言えるスピーカーが、R200であり、それに手を加えたのが新製品の「R200AE」というわけだ。

R200AE

R200とR200AE、何が違うのか

R200は2ウェイのブックシェルフで、1インチのツイーターと、6.5インチのウーファーを搭載している。エンクロージャーはバスレフで、ポートは背面に空いている。

ピナクル・リング・ラジエーター

ツイーターは“ピナクル・リング・ラジエーター”と呼ばれるもので、中央にまるでメタルスライムの頭みたいな突起がある。これは、高域エネルギーの拡散性を改善するための“ウェーブガイド”で、配置する事で広いスイートスポットが得られるという。さらに、表からは見えないが、内部には吸音材でダンプしたリアチャンバーを備え、不要な共振を抑えている。

6.5インチのウーファーも、見た目が面白い。まるで渦を巻くような模様がある、その名も「タービンコーン」だ。

タービンコーンウーファー

振動板は前後にピストンして音を出すが、どうしてもその際に歪みが発生し、それが音に悪影響を及ぼす。そこで、人間の耳が特に敏感な中音域を自然に再現できるように、振動板に独特の凸部を設けて強度を増し、歪を解消しようというのがタービンコーンの狙いだ。

ちなみにこの複雑な形状の振動板、どうやって作っているかというと、溶かした樹脂を金型に射出して成型している。その際に、樹脂に発泡剤を混ぜている。だが、金型と接触する表面と裏面は圧力が高いためほとんど発泡せず、逆に、表と裏に挟まれた真ん中の部分だけが発泡する。これにより、裏と表は剛性が高いけれど、内部は発泡によって空間がある振動板に仕上がる。振動板にとっての理想的なのは、軽くて剛性が高く、内部損失が適度にある事(=振動板固有の音が無いこと)なのだが、それを実現するための工夫というわけだ。

背面には、低域を補強するためのバスレフポートを備えている。よく見ると、ポートの中央に、砲弾のような円筒形のパーツが入っている。

バスレフポートに、円筒形のパーツが配置されている

バスレフポートは、低音を強めるためのものだが、実はそこから出ているのは低音だけではない。本来“出てほしくない”中低域まで出力されてしまう。そこで、この円筒形パーツが登場。筒の一部に、綿密な計算に基づいた“穴”が空いており、特定の周波数の音を、反共振の効果で取り除く事ができる。いわゆる“周波数トラップ”のような機能で、「Xポート・テクノロジー」と名付けられている。これもPolk Audio独自の特許技術だ。

ここまでの特徴は、通常モデル・R200のもので、R200AEにも共通する。では、R200AEとR200の違いはどこにあるのか。Polk Audioを扱う、D&Mのシニアサウンドマスター澤田龍一氏によると、最も大きな違いは、スピーカー内部にあるネットワークにあるという。ここに、R200のクラスを超える、高品位なパーツを多数投入している。

具体的な違いとして、通常モデルは、チョークコイルにおいて、インダクタンスの大きなものにはコア入りのコイルを使っている。しかし、「コアを使うと、どうしても、コア独特のキャラクターが音に濁りとして出てきます。また、あるパワー領域を超えると、サチュレーションが起こり、歪が急激に上がります。できる事ならコアの無い、空芯コイルを採用したいところですが、コストが上がるため、通常モデルでは使えない。しかし、R200AEでは全て空芯コイルを採用しています」。

「ただし、空芯コイルにも弱点があり、コイル同士が干渉し、結合しやすい。それを防ぐために、空芯コイル同士を物理的に離して設置し、向きも90度ズラすなどの工夫が必要になります。そのスペースが必要となるため、R200AEのネットワークボードはR200よりも倍以上大きくなっています」(澤田氏)。

D&Mのシニアサウンドマスター澤田龍一氏に解説してもらった

さらに、フィルムコンコンデンサーと電解コンデンサーの使い方にも違いがある。通常モデルは、音質的に重要な部分にメタライズドポリプロピレン、それ以外の部分にはメタライズドポリエステルコンデンサーを採用。低音用に、大きな容量が必要な部分には電解コンデンサーを使っている。

しかし、R200AEは「ツイーターに関わる部分は、全て特性の良いメタライズドポリプロピレンコンデンサーを。それ以外のコンデンサーは、電解コンデンサーも含めてメタライズドポリエステルを採用しています」(澤田氏)。

大きな黒い筒のような部分が空芯コイル。白くて横長なのがセメント抵抗だ

さらに小さなパーツだが、基板上の抵抗にもこだわりがある。澤田氏によれば、容量的には5Wのセメントタイプ抵抗を搭載すればOKで、通常モデルも5Wの抵抗を使っているのだが、R200AEではあえて容量が2倍の10Wセメント抵抗に変更されている。

「これは、抵抗に電流が流れると発熱し、抵抗値が上昇するためです。本来入力信号に応じて、出る音も大きくならなければなりませんが、抵抗値が上昇すると、それが多少頭打ちになってしまう。そうならないように、あえて倍の容量の抵抗を採用しています」(澤田氏)。

他にも、ネットワーク上の端子部分の仕上げを、錫メッキから金メッキに変更するなど、非常に細かな部分までこだわり、高音質化されている。

外観も大きく異なる。エンクロージャーの仕上げが、R200は高級ビニールクロスのシートを貼ったものだが、R200AEはチェリーウッドの天然木、突き板仕上げになっている。R200も価格を考えると十分綺麗な仕上げだが、見比べるとやはり、R200AEの方が天然木らしい質感の良さがあり、高級感がある。

R200AEはダークチェリーの天然木、突き板仕上げ

また、R200AEの背面には、マシュー・ポーク氏のサインとシリアルナンバーが刻印されたプレートも配置。初期の可愛いPolk Audioのロゴマークも入ったもので、限定モデルらしいポイントだ。

背面にはマシュー・ポーク氏のサインとシリアルナンバーが刻印されたプレート
スピーカーターミナルは金メッキ仕上げ

R200とR200AEを聴き比べる

R200AE

では、R200とR200AEを聴き比べてみよう。白状すると、「キャビネットのサイズも、ユニットも全部同じだから、あんまり違いは出ないのでは?」とか「17万円 VS 10万円で、7万円分の音に違いはあるのかな?」と、聴く前は思っていた。

だが、「ダイアナ・クラール/No Moon At All」で聴き比べると、冒頭のピアノからスタートし、アコースティックベースの低音が入ってきた段階で「あ、ぜんぜん違うわ」とハッキリと音の違いがわかる。

ピアノの響きが広がる様子で、音場の広さがわかるのだが、明らかにR200AEの方が奥まで広がる様子が見やすい。また、ピアノの響き自体もより美しい。じっくり聴き比べるとかすかな違いが……というレベルではなく、音が出た瞬間に違いがわかるレベルだ。

ピアノの左手や、ベースが奏でる低音では、より違いが顕著に出る。R200はもともと、ブックシェルフながら豊かな低音を出せるスピーカーで、それが価格帯を超えたパワフルさという魅力になっているのだが、R200AEはそのパワフルな低域に、より締まりがあり、例えばベースの低音が「グォーーン!」と押し寄せてくるシーンも、「グォーーン!」という音を引き起こしている最初の弦の音が、より細かく紐解かれ、弦がブルブルと震える様子までシャープに聴き取れる。そのため、音像がより生々しく、リアルに感じられる。

続いてダイアナ・クラールのボーカルが入ると、この印象はより決定的なものになる。音像のシャープさがR200AEの方がクッキリとしており、空中に浮かぶ彼女の口が、開閉する様子がよりホログラムチックに、まるでそこに存在しているように見える。口の中の湿り気まで感じられるようなリアリティで、聴いていると、ゾクゾクするような快感がある。

「ネットワークとエンクロージャーの仕上げが違うだけでしょ」と思っていたが、実際に聴き比べると、この違いは想像以上に大きい。

個人的に、R200は「価格帯とサイズを超えて、低音もしっかり出せる、鳴りっぷりの良いブックシェルフ」という印象を持っていたのだが、R200AEはそのベースを持ちながら、「よりHi-Fiらしい繊細さ、分解能を高めたスピーカー」だと感じる。

R200とR200AE、それぞれどんな人にオススメか

右端がR200AE。左に並んだ3台がR200だ

では、「R200AEの方が良いので、全員R200AE買おう」という結論になるかというと、そうとも限らない。そもそも150ペア限定なので「全員買おうと思ったら売り切れてた」となりそうだが、その話は別として、「R200がマッチする人」と「R200AEがマッチする人」がちょっと違う気がする。

前述の通り、R200はペア約10万円で買える小さなブックシェルフながら、迫力の低音と、色付けの少ない自然な音が出せるところが魅力だ。そう考えると、確かに音のクオリティだけを比べると約17万円のR200AEに軍配が上がるが、7万円の価格差があるかどうかというと、聴く人によって答えが異なるだろう。

例えば、ちょっと離れた距離にスピーカーを置いて、ロックをガンガン楽しみたいとか、テレビの横に設置してNetflixで映画を再生して、簡易的なホームシアターとして低音の迫力も堪能したいとか、ゲームのサウンドをリッチに楽しみたい……みたいな用途であれば、通常のR200でも十二分に活躍してくれるだろう。

一方のR200AEは、例えばデスクに設置してニアフィールドで楽しんだり、しっかりとしたスタンドを用意して、ピュアオーディオらしい本格的なセッティングで再生した方が、その繊細な描写力を味わえるはず。つまり“本格的なピュアオーディオのスタート”として選ぶならR200AE、よりカジュアルにコスパを活かしていろいろな用途で使い倒したいならR200を選んだ方が良いかもしれない。

いずれにせよ、R200とR200AEを聴いていて感じるのは、Polk Audioというブランドの創立時のポリシーへの強固なまでのこだわりだ。世界的オーディオブランドなら普通、50周年記念モデルともなれば数百万円の超巨大スピーカーを作ってもおかしくない。にも関わらず、“学生でも買える音の良いスピーカーを”という理念を50年後もひたすら守り、記念モデルも約17万円と、他社より桁が1つ少ない。

そして、そんな価格であっても、手を抜かずに高音質なパーツを多数投入。よりHi-Fiなサウンドに仕上げる……。R200AEは、どこまでも愚直なPolk Audioらしさが詰まった記念モデルと言えるかもしれない。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

山崎健太郎