レビュー

Hi-Fiサウンドへの進化に驚く、Polk Audio注目機「R200/R200AE」を聴く

Polk Audio R200AE

1990年代、米国に仕事で行くたびに取材の合間を見て、各地のオーディオショップや家電量販店をのぞいて彼我の違いを数多く発見した。とくに驚かされたのがPolk Audio(ポークオーディオ)製スピーカーの人気ぶりだった。どこへ行ってもスピーカー売り場のいちばんいい場所に陣取っているのである。

当時わが国にも同社製スピーカーは輸入されていたが、さほど注目される存在ではなかった。当時の代表モデルを何度か聴く機会があったが、低音のたっぷりとした、いかにもアメリカンなスピーカーという印象。よく言えばおおらかな鳴りっぷり、シビアに言えば低音がゆる過ぎて音に繊細さが欠ける、そんなサウンドだったのである。このへんに日米の音楽ファンの音の嗜好の違いがあるのかもしれないと当時は思っていた。

その後、ポークオーディオ製品は日本市場から消えてしまっていたが、北米では相変わらず人気は高く、当地でのスピーカー売上げは、毎年トップ・グループの一角を維持し続けていると人伝てに聞いていた。

そして、2017年にをPolk Audio擁するオーディオ企業体、Sound United社がD(デノン)&M(マランツ) ホールディングスを買収、それに伴って2021年からPolk Audio製品が日本市場に再参入することになったのである。

Polk Audio自体のスタートは1972年とのことなので、今年同社は創立50周年ということになる。そこで、ここでは日本市場での最上位ラインとなるReserveシリーズの小型2ウェイ機「R200」(ペア103,400円)と、その50周年記念モデルである「R200AE」(ペア176,000円)のリスニング・リポートをお届けしたい。

Reserveシリーズの小型2ウェイ機「R200」

そもそもPolk Audioとは

1972年、米国東海岸のメリーランド州ボルチモア市で同社を設立したのは、ジョンズ・ホプキンス大学の学生だったマット・ポーク、ジョージ・クロッパー、サンディ・グロスという音楽好きの3人の若者だった。

当時お金に余裕のなかった3人が目指したのは、“学生である自分たちが買える最高品質のスピーカーをつくる”ということ。このコンセプトは50年経った現在でも生きており、同社のタグラインには“GREAT SOUND FOR ALL”と記されている。

1960年代後半からロックが若者文化の中心となり、Polk Audioが創設された1972年にはロックやソウルの名盤が次々に発売され、若者たちの音楽熱、オーディオ熱は高まっていた。そう考えると、Polk Audioの創業理念はまさに時宜を得たものだったのだろう。

1970年代半ばにドロンコーン(パッシブラジエーター)を用いたMODEL7(MONITOR7とも呼ばれた)とMODEL10が大ヒット、同社の経営は軌道に乗る。

MODEL7とMODEL10

その後、L/Rch相互のクロストーク成分を打ち消すSDA(Stereo Dimensional Array)システムを提案するなど、技術面でも他社にないアプローチを採り、ポークオーディオは国内外で大きな注目を集める存在になっていった。

1986年にはNASDAQに株式公開を行ない、同社は大企業への道を歩んでいくことになる。現在は家庭用スピーカーの他に車載用やカスタムインスタレーション用スピーカーなども展開している。

現在日本市場で展開されている家庭用スピーカーは、「Monitor X」、「Signature Elite」、「Reserve」の3シリーズで、ここに紹介するR200は最上位シリーズ・Reserveの中核モデルとなる。

わが国での最上位シリーズとはいっても、R200がペアで10万円強、50周年モデルのR200AEが17万円強と手の届きやすい価格に抑えられている。創業の理念である“GREAT SOUND FOR ALL”コンセプトに基づいて開発されたのは間違いないが、重要なのは言うまでもなくその音質、"GREAT SOUND" が実現されているかどうかということになる。

R200とR200AEの違いは?

ではR200の概要について述べよう。本機には中央部に高域エネルギーの拡散性を改善するウェーブガイドを備えたリングラジエーター型ツイーターが採用されている。一般的なドーム型は超高域(一般的な25mmタイプでは30kH近辺)で頭頂部と周辺部が逆相駆動となってノッチフィルター的な減衰を示すが(形状効果と呼ぶ)、リング型は超高域までフラットなレスポンスを示すのが大きな特長だ。

R200
R200AEのツイーター部分。尖っている部分がウェーブガイドだ

R200のウーファー振動板は、ポリプロピレンに発泡剤を加えた素材で作られており、表面は流線型のタービン形状が採られている。この工夫によって質量を増やすことなく、剛性と内部損失を高めることに成功したという。内部損失が大きいとはすなわち、振動板素材の固有音が少ないということだ。

ウーファー振動板の表面は流線型のタービン形状がある

バスレフポートの工夫も見逃せない。本機のリアポートには、同社のパテントである「X-Port」が採用されている。これは不要なポート共振を排除するために調整されたパイプ型のアブソーバー(振動減衰器)を指す。

緻密に設計されたポート形状によって空気の流れをいっそうスムーズにして、ポートノイズを抑えるとともに、一般的なバスレフポートに比べて低音域をより深く、より高い音圧レベルで放射できるというわけである。いずれにしても、R200はポークオーディオの最新技術がフル投入された注目のスピーカーと言っていいだろう。

バスレフポートには「X-Port」技術が使われている

では、R200とR200AEの違いは何か。大きく二つある。

一つは外装のフィニッシュ。R200は塩化ビニール製だが、R200AEは見た目が高級なチェリーウッドの突板張りだ。

R200の外装は塩化ビニール製
R200AEチェリーウッドの突板張り

もう一つはクロスオーバーネットワーク基板。R200AEにはポリプロピレンならびにポリエステルのフィルムコンデンサー(R200は電解コンデンサー)と、空芯コイルが奢られている。音の色付けを排して高SN化を図ろうということだろう。基板面積も断然大きい。

ネットワーク基板は、サイズもパーツも大きく異る
R200AEの背面にはマシュー・ポーク氏のサインとシリアルナンバーが刻印されたプレート
スピーカーターミナルは金メッキ仕上げ

王道のハイファイ・サウンドに進化したPolk Audio

注目の2モデルを1週間ほど借りることができた。マランツの試聴室で両モデルをテストしたことはあるけれど、聴き馴染んだわが家のシステムで鳴らしてみれば、また新たな発見があるはず。

ぼくの部屋に届いたR200とR200AEをハコから出す。やはりR200AEのほうがズシリと重い。手持ちのスチール製スタンドに載せてまずレギュラーモデルのR200から聴いていく。再生環境は、プリアンプがオクターブ「Jubilee Pre」、パワーアンプは「オクターブMRE220」だ。

R200
R200にサランネットを着けたところ。マグネット式で着脱は簡単だ

ワイドレンジでハイダイナミックレンジ、クセの少ないクリアーなサウンド。プライスタグが信じられない本格的な音である。特にぼくのように1990年代のおおらかでダルなPolk Audioの音を知っているベテラン・ファンは驚かれること必至だろう。まさに王道のハイファイ・サウンドだ。

特に驚かされるのが、低音の質感の良さ。肥大することなく、解像感がきわめて高い。それに加えてR200は、ヴォーカル帯域のリニアリティがきわめて良いのも大きな特長。声のニュアンスの再現がすばらしいのだ。

スウェーデンのコーラス・グループ、ザ・リアル・グループのアカペラをCDで聴いてみたが、男女メンバー5人の声をきわめてクリアーに解像しつつ美しいハーモニーをリッチに表現する。リズムのキレのよさもよくできた小型2ウェイ機ならでは、だ。

このヴォーカル表現の見事さに感心し、そうだ映画の声も聴いてみようと思い立ち、わが家の110インチ・スクリーンの両サイドにR200を置いて、UHDブルーレイやブルーレイで映画作品を何枚か観てみた。

予想通り、それぞれの俳優の声が生々しい。UHD BDでスピルバーグ版「ウエスト・サイド・ストーリー」を再生してみたが、ミュージカル・シーンの臨場感がすばらしかった。アニータ役のアリアナ・デボーズの歌に聴き惚れてしまう「アメリカ」の群舞場面など、オーケストラのダイナミックな響きをR200はモニタースピーカーを思わせる恐るべき精密さで描写し、心を揺さぶられたのだった。

しかし、またこれがR200の美点なのだが、R200は高性能モニタースピーカーにありがちな素っ気なさや生真面目さを感じさせないのだ。とくに女性の声にこのスピーカーならではの人懐っこさ、色気や艶っぽさを感じさせるのである。このポイントこそ、R200の最大の魅力だと思う。

R200AE

では続いて、R200AEの音を聴いてみよう。スチール製スタンドに載せた姿はとても美しい。R200もけっして安っぽさを感じさせるフィニッシュではないが、やはりチェリーウッドの突板張りのR200AEのほうが本格派の佇まい。スピーカーは部屋の大きなアクセントで、しかも毎日眺めるものだから、やはり見た目の美しさは重要だ。

R200AE
サランネットを着けたところ

R200で聴いた音源を同じように再生してみたが、ローレベルの精妙な表現、静寂の気韻の深さ、音色の美しさでR200を上回る魅力を持つことがよくわかった。とくに解像感が高く澄明な低音の表現力にR200AEならではの魅力を実感する。

同じスピーカーでビニール仕上げとツキ板仕上げの違いによって、SN感に差が出ることは過去に経験したことがあるが、それに加えてネットワーク基板に高級パーツを奢った効果がこの音の違いに現れていることは明らかだ。約7万円の値段差が十分に納得できるパフォーマンスと言っていいだろう。

アナログ録音黄金期である1950年代から60年代の名盤、ナット・キング・コールの「ベリー・ソウト・オブ・ユー」、エルヴィス・プレスリーの「エルヴィス・イズ・バック!」、ザ・ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のLPを、KLIMAX LP12で再生してみたが、エアーやスペースの表現が秀逸。録音スタジオの空気感や緊張感が生々しく伝わってくる。これはまぎれもなくハイエンドオーディオの醍醐味。

ここまで述べてきたようにR200AEの音、とくに低音はよくできたハイエンド機を思わせる魅力があるが、ちょっと優等生的な音に感じないでもない。比較するとR200のほうが低音が少しふくらむが、それが音楽の楽しさに結びついている気もするのだ。よりリラックスして楽しみたいという音楽ファンにお勧めしたい音調なのである。R200AEのハイエンドライクな持味は、鳴らし方をさまざまに探求したいオーディオ愛好家向きだろう。

いずれにしても、R200/R200AEともに同社の創業の理念である“GREAT SOUND FOR ALL”を高い次元で実現していることが深く理解できた一週間だった。今後Polk Audioがわが国のスピーカー市場で大きな存在になっていくことは間違いない。日本で150ペア限定のR200AEは、この出来のよさなので既に品薄になっているようで、ご興味を持った方は急いだ方がいいだろう。ぼくも買おうかどうしようか心が揺れ動いております(「また? どこに置くの?」の声あり)。

R200AE

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。