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これぞ究極デスクトップオーディオ、TVとも連携できるFIIO「R9」の衝撃

FIIO R9

2023年も様々な製品をレビューしたが、中でも個人的に「コレは新しいな」「音も最高だな」と感じたのがFIIOの「R7」(実売約125,400円)だった。簡単に言えば、USB DACやヘッドフォンアンプ、ネットワークオーディオ機能を集約した小型オーディオなのだが、オーディオ機器では珍しい縦型の筐体に巨大なディスプレイを備え、とにかく「省スペースのデスクトップオーディオでの使いやすさ」にこだわって作られていた。

実際に、いろいろなアクティブスピーカーと組み合わせて使ってみたのだが、音質の良さはもちろん、大きな画面の使いやすさや、ヘッドフォンアンプとしての高い実力、パソコンを起動していない時にも気軽に音楽が楽しめる新しさなど、“デスクトップオーディオの決定版”と言っていい完成度の高さだった。

左からFIIO R7、R9

読者の注目度も高く、R7は一時期品切れになるほど大人気に。この熱気はFIIOにも伝わったようで、その後、初のアクティブスピーカー「SP3」もリリースするなど、「デスクトップオーディオに本腰を入れるぞ」という姿勢が伝わってきた。

そして2024年、はやくも“究極のデスクトップオーディオ”と言えそうな上位モデル「R9」(実売約269,500円)が登場する。R7ファンとしては、これは使ってみたい。スピーカーの「FIIO SP3」と一緒に、さっそく借りてみた。

左のスピーカーがFIIO SP3

持ち上げてわかる“本気度”

外形寸法はR7とほぼ同じ。オーディオ機器では珍しい“縦長”で、フットプリントはと小さい。PCデスクがあまり大きくない、キーボードやマウスがあって置き場所があまり無いという人には嬉しいサイズ感だ。

「サイズはR7とほぼ同じなんだなぁ」と言いながら、箱からR9を取り出そうとしたのだが、筐体を片手で掴んだ瞬間に「うおっ!」と思わず声が出て、慌てて両手で筐体を掴みなおす。凄まじく重い。R7は約1.2kgだったが、R9は約2.2kgと、2倍近い重さになっている。

R7はひょいと片手で持ち上げられたが
R9はかなり気合を入れないと片手では無理。両手で持ち上げよう

筐体の剛性が上がっており“ガッシリ感”が格段にアップ。内部パーツがみっちり詰まっていると感じる。音を出す前から「あ、これは本気だわ」と伝わってくる。さすが10万円以上高価な最上位機だ。

鏡面仕上げで光沢が美しく、気品が感じられる。R7はどちらかというと目立たない縁の下の力持ち的な雰囲気だったが、R9はデスクトップで見栄えの良いインテリアのような雰囲気をまとっている。鏡面仕上げなので指紋が目立つ。メガネ拭きなどでたまに拭いた方がいいだろう。

指紋が目立つが、鏡面仕上げが美しい
使っているとかなり発熱するのだが、向かって右側面がパンチングメタルになっており、冷却性能を高めている

R7と並べてみると、質感や重さ以外に2つの外観的な違いがある。1つはディスプレイサイズ。R7は4.97型で720×1,280ドットだったが、R9では6型で1,080×2,160ドットとより大型で高精細になっている。筐体の横幅・高さはほぼ同じなので、画面が大きく、狭額縁になった印象だ。

左がR7、右がR9。筐体サイズはほぼ同じだが、ディスプレイサイズが大きくなったのがわかる
本体を角度をつけて設置するためのゴムプレートも付属している。少し上向きになるため、ディスプレイのタッチ操作もしやすい

もう1つはイルミネーション。本体中央から左寄りにディスプレイ、右よりにボリュームツマミやヘッドフォン出力を備えており、その境目には切り欠きがある。一体型筐体なのだが、2つのブロックで構成されているようなデザインに見せている。この切り欠き部分にLEDが内蔵されており、様々な色に光るのだ。

切り欠き部分やボリュームなどのツマミにLEDが内蔵されており、イルミネーションカラーを変えられる

光りのパターンやカラーは、Android 10をベースとしたOSの設定から変更可能。ゲーミングっぽく緑にしたり、虹色にしたり、ホワイトにする事も可能だ。個人的には、部屋を少し暗くし、真空管のようなオレンジに設定すると、まさに“オーディオ機器っぽい”見た目になってテンションが上がった。

部屋のイルミネーションと合わせて、ゲーミングっぽくしてみた
オレンジ色にするとちょっとオーディオっぽくてかっこいい

気品のあるボディに、高音質パーツを満載

仕様も見ていこう。

DACチップが異なり、R7はESSの「ES9068AS」を1基搭載していたが、R9ではES9038PROを2基採用している。このあたりからもうガチだ。

CPUはSnapdragon 660、OSはAndroid 10で、メモリは4GB、ストレージメモリは64GB。このあたりはR7と同じだ。XMOSのXU316を採用し、対応するデータはPMC 768kHz/32bit、DSD 512までと文句のつけようがない。

凄まじいのがヘッドフォンアンプ部分だ。FiiOとTHXが共同開発した「THX AAA-788+」というヘッドフォンアンプ回路を採用しているのはR7と同じなのだが、R9ではこれを2基並列接続し、4ウェイのフルバランス設計で採用している。つまり8ch分のヘッドフォンアンプを、贅沢に2ch駆動に使っているわけだ。これにより、過渡特性を大幅に向上させている。

この強力なアンプ部により、出力はR7が3200mW@32Ωだったが、R9はなんと7300mW@32Ωという圧倒的な数値を実現。これで鳴らせないヘッドフォンはないだろうというレベルだ。

なお、THX AAA-788+のTHXというのは、映画とかAVアンプでお馴染みのあのTHX。ルーカスフィルムの1部門としてスタートし、映画館の音響や、AVアンプなどの家庭用オーディオ機器が、THXが定めた基準をクリアしているかどうかをチェック。合格した製品に“THX認定”を授けている。

そのため、ホームシアターのイメージが強いが、実際は様々な分野の技術を手掛ける集団で、ピュアオーディオのアナログアンプ向け技術も作っており、そこから生まれたのがTHX AAA。信号の増幅時に発生する歪みを効果的に補正する技術を備えているのが特徴で、FIIOを含めて採用メーカーが増えている。

フロントにステレオミニ、4.4mmバランス、XLRのヘッドフォン出力を装備している
動作モードの切替画面
Android OSを採用しており、アプリの追加も可能だ

コンパクトな製品だが、筐体内では電源、デジタル部分、DACまわり、ヘッドフォンアンプを全て別基板に配置。DACとヘッドフォンアンプ部は金属シールドで完全に分離するなどして、相互干渉を防いでいる。また、オーディオ回路のデジタル部分とアナログ部分には独立した電源を備え、クロストークを回避している。

さらに、DC/ACデュアル電源に対応。外部DC電源からも駆動できるため、高性能なリニア電源と組み合わせる事ができるほか、外部AC電源と組み合わせてクロストークを低減する「グラウンドリフト」切り替え機能も備えている。

背面をR7とR9で見比べてみると、ストレージ用のSDカードスロット、RCAのライン出力、PCなどと接続するためのUSB-C端子、USBホスト端子、光デジタル入出力、同軸デジタル入出力、LAN端子、XLRのラインアウトなど、多くの端子が共通している。ACとDCの電源切替スイッチも備えているほか、その上に見えるのが「グラウンドリフト」スイッチだ。

R9で大きく異なるのが、R9のみ新たに“HDMIっぽい”AV入出力端子を備えている事。見た目としてはHDMIなのだが、HDMIと呼称していないのには理由があり、FIIOとしてははじめてHDMIに挑戦したのだが、現時点では認証が取れていないとのことなので、あくまでAV入出力と名乗っているそうだ。ともあれ、これでテレビとも接続できそうなので、後ほど試してみよう。なお、FIIOによれば「認証が受けられるよう今後もソフトウェアの改良をしていく」とのことだ。

R7の背面
R9の背面。“HDMIっぽい”AV入出力端子も備えている

さらに細かい所ではBluetoothチップにQCC5125を採用し、Bluetoothの送受信も進化。LDACに加え、aptX HDやaptX Adaptiveも新たにサポートしている。

スピーカー再生でハッキリとわかる、R7とR9の違い

では、スピーカーで音を聴いてみよう。

R9と、比較相手としてR7を用意。スピーカーはFIIOのアクティブスピーカー「SP3」を接続する。ちなみにこのスピーカーは、高さがR9やR7と揃えられているので、並べた時のマッチングもバッチリだ。

アクティブスピーカー「SP3」

まずR7で内蔵の音楽プレーヤーアプリや、Amazon Musicのアプリからハイレゾ楽曲を中心に再生。その後で、R9に変更して聴き比べてみた。

FIIO R7

R7の時点で、非常に解像度の高く、色付けのないニュートラルなサウンド。高域の解像感が良いだけでなく、例えば「ダイアナ・クラール/月とてもなく」のベースを聴くと、たっぷりと膨らむ中低域の響きの中に、弦が震える様子もシャープに描いている。いわゆる“安いPCスピーカーで聴いている音”とは次元の違うHi-Fiサウンドだ。

FIIO R9

「これで充分良い音だよなぁ」と思いながら、本体をR9変えてみると、「え!?」と声が出るほど音が変わる。

スピーカーを設置している位置はまったく変えていないのだが、R9から再生すると、ダイアナ・クラールの声や楽器が広がる空間が、ブワッと一気に広がる。横方向だけでなく、奥行きもR9で再生した方が深い。音の響きが波紋のように広がっていく様子が、R9で聴いた方がより立体的で、遠くまで見渡せる。まるで机の上の空間自体が広くなったような感覚。リアリティが一気に高まる。

空間の広さだけではない。低い音はより低く、高い音の突き抜け感もより強くなる。低域の分解能もさらに上がった。ダイアナ・クラールの口の動きが、R9では目に見えるかのようなリアルさ。また、R9で聴くと、よりお腹からしっかりと声を出しているのがわかり、ボーカルの力強さも感じられるようになる。

「手嶌葵/明日への手紙」のような、シンプルな女性ボーカルを聴くと、音場の広さと、定位の明瞭さにより、透明な手嶌葵の顔が空中に浮かび上がっているかのように聴こえる。中央に定位するだけでなく、ボーカルがしっかりと前で出てくる感覚は、PC用スピーカーではなかなか味わえない世界だ。

しばらくR9を聴いた後で、R7に戻すと、音場の奥行きが狭く、低域の押し出しの強さも弱く感じられる。後ほどヘッドフォンでも聴き比べるが、スピーカーでの聴き比べでは、細かく聴かなくても、切り替えた瞬間に音のスケール感、こちらにグッと押し寄せるパワフルさがR9の方が勝っているのがハッキリわかる。

では、PCとUSB接続。R9をUSB DACとして使ってみたが、こちらも素晴らしい。

最近、YouTubeでゲーム実況動画をよく見るのだが、3人の配信者がチームを組んで一緒に配信しているような時でも、R9 + SP3で再生すると、分解能が高いので1人1人の声が明瞭に聞き分けられて楽だ。また、3人が盛り上がって声が大きくなるようなシーンでも、R9 + SP3では、騒いでいる声の背後にある小さなゲーム音楽がしっかりと聴き取れる。

音の情報量が多いので、しっかり聴き取りたい音に意識を向けると、その音にズームしたように聴き取れる……という現実世界の感覚に近いことができるわけだ。

続いて、YouTubeのTHE FIRST TAKEで「羊文学 - more than words」を聴いてみたが、歌が始まる前に、床に置いてあるモニターヘッドフォンを持ち上げるためにしゃがんで立ち上がる……その時の衣擦れやギターに体が触れた時のかすかな音までクッキリと描写されて驚く。収録現場の心地よい緊張感まで伝わってくるのは、R9 + SP3のSN比の良さがあってこそ。この描写力はピュアオーディオの域だ。

Netflixでアニメ「葬送のフリーレン」から第15話「厄介事の匂い」を鑑賞してみたが、これも抜群に良い。

ザインが森の中を進む時に、踏みしめた地面から伝わる小さな砂利の音、木の枝を踏み折った時の「パキッ」という音の鋭さにハッとする。このエピソードでは混沌花(亜種)とのバトルが見どころだが、重厚なBGMが背後の空間に広がり、そこからザインの独白が浮かび上がるように定位する様子など、R9の音場の広さが良くマッチする。このバトルは、フリーレンの凄まじい魔法の一撃で決着がつくのだが、その魔法の音も鋭く、シャープ。まるで音のキレの良さで、フリーレンの魔法の威力を表現しているかのようだ。

さらに、人気のFPS「Apex Legends」もプレイしてみたが、ゲームにもピッタリ。

このバトロワゲームでは、生き残るために建物の中に籠城するシーンがあるのだが、他のプレーヤーも建物の中に入ろうとするので、それを阻止する攻防戦が勃発する。R9でプレイしていると、「壁の向こうに敵が来た」というのが、壁越しの小さな足音でハッキリとわかる。自分がいる建物に的が侵入してきた時も、それが上の階なのか、下の階なのかも、判断しやすい。ゲーミングヘッドフォンでじっくり聴いて判断していたような音からの情報が、スピーカーでも難なく聴き取れるほど明瞭だ。

AV入出力端子でテレビとも連携してみる

映像を楽しむついでに、HDMIっぽいAV入出力端子を使い、テレビとも接続してみよう。

前述の通り、HDMI認証は取得できていないが、1つはHDMI端子を使った入力、もう1つがHDMI ARCのテレビと接続する事を想定した端子になっているようだ。そこで、テレビ接続向けの端子と、LGの55型4K液晶テレビ「55NANO75JPA」のHDMI ARC端子を、HDMIケーブル1本で接続してみた。

すると、テレビで見ている放送や、テレビ内蔵アプリで見ているYouTube動画、Netflix映画、テレビに接続したゲーム機の音などが全て、R9 + SP3から再生できた。

HDMI認証は取得できていないが、テレビと接続するとHDMI ARCデバイスと表示された

最近はテレビ内蔵スピーカーも高音質化しているが、R9 + SP3で聴くと、まさに別格の音になる。グルメ情報の映像を見ながら、複数の芸人がリアクションをとっている番組では、芸人やMCなど、登場する人の声がしっかりと描き分けられていて、非常に聴き取りやすい。テレビ内蔵スピーカーでは、ボリュームを大きくすると音がガチャガチャしてうるさく感じられていたのだが、R9 + SP3では全てが聴き取れるので、ボリュームを上げてもまったくうるさく感じない。

登山のドキュメンタリーでも、登山者の荒い息遣いや、背負ったリュックに吊り下げられたコップが揺れる音、登山靴が踏みしめる土の乾いた音など、細かくてリアルな音と、背後に流れる雄大なBGMが同時に聞き分けられる。「テレビ番組って、こんなに細かな音まで放送されていたんだ」と、驚いてしまった。

実はスピーカーも凄い

ちょっと話が脱線するが、試聴に使っているFIIOのアクティブスピーカー「SP3」、これ、かなりイイ。イベントなどでちょっと聴いたことはあったのだが、家でじっくり聴いたのは今回が初めてだったのだが、正直驚いた。

アクティブスピーカー「SP3」

実売約53,900円と、“PC用スピーカーとして見るとちょっと高いけど、オーディオ用アクティブスピーカーとして見ると激安”というなんとも言えない価格なので「R7を作ったから組み合わせ相手としてFIIOがとりあえず作ったスピーカーなのかな?」などと思っていた。

しかし、箱から取り出してみてあまりの重さと、ガッチガチな筐体の剛性に衝撃を受けた。それもそのはずこの筐体、アルミニウム素材を650度の高温で加熱溶融したアルミダイキャストで出来ている。フロントバッフルだけがとか、サイドパネルがとかいうレベルではなく、筐体まるごと全部アルミダイキャストだ。凄いを通り越して「なんでこんな素材使ってペア5万円で作れるの?」と頭を抱えてしまう。さすがFIIOとしか言いようがない。

ガッチガチな筐体の剛性。指で叩いてもまったく響かない

しかもこのサイズで、カーボンファイバーを使った3.5インチのウーファーに、25mmシルクドームツイーターという2ウェイ仕様。各ユニットを個別にTIのD級アンプモジュールでドライブする豪華さで、各ドライバー用のアンプに送られる信号はチャンネルあたり3基のTI074を用いたアクティブクロスオーバー回路というからこだわっている。

ただ、バスレフポートは筐体背面にあるので、あまり背後の壁に近づけて設置しないほうが良いだろう。できればフロントバスレフにして欲しかった。

また、標準設定ではちょっと低域が強すぎる。背面に低域のレベルを-8dB~0dBの範囲で調整できるイコライザーを備えているので、これをかなり回したところ、低域から高域まで驚くほどシャープで高解像度なモニターサウンドが得られた。これは聴き比べに最適だし、ゲームなどで細かい音を聴き取りたいというニーズにもピッタリだろう。

R7やR9と、背の高さまで揃えられているのでなんとなく「R7やR9と組み合わせて使うもの」みたいなイメージがあるが、デスクトップスピーカーとしてかなりの実力を備えているので、このスピーカー単体にも注目してほしい。

ヘッドフォンでも比較

R9に話を戻そう。次はヘッドフォンで聴き比べてみる。R9は駆動力の高さが特徴だが、手持ちの中でも鳴らしにくいフォステクスの平面駆動型「RPKIT50」(インピーダンス50Ω)を4.4mmでバランス接続してみた。

ヘッドフォンアンプとしての実力もチェック

R7もR9も、Ultra high、Super high、High、Medium、Lowと5段階の切り替えが可能だ。R7も充分パワフルなヘッドフォンアンプを内蔵しており、Medium設定で、ボリューム値80~90(MAX120)で充分な音量が得られる。それよりもパワフルなR9も同様で、もはやRPKIT50程度では「余裕ですよ」とR9に言われているかのようだ。

R7とR9をヘッドフォンで聴き比べてみると、トランジェントと低域の描写に大きな違いがある。

R7で「月とてもなく」を聴くと、分解能が高く、アコースティックベースの描写も微細。だ。この楽曲では、冒頭、楽器の音やボーカルの声が、響きながら広がっていく様子が、特に左方向において良くわかるのだが、R7でもその小さな響きがしっかりと聴き取れる。ぶっちゃけR7単体で聴いている分には、「これで充分では」と感じるほどの駆動力、描写力だ。

しかしR9を聴いてしまうと、確かに音が違う。左奥へ消えていく響きの音は、細かく意識しなくてもR9では容易に聴き取れる。アコースティックベースの低域も、R9の方がブルンと震える時の低音の張り出しが鋭く、強い。そのため、ヘッドフォンで、耳だけで聴いているにも関わらず、パワフルな音圧で胸を圧迫されたように感じてしまう。もちろん錯覚なのだが。

「米津玄師/KICK BACK」のような、疾走感のあるロックをR9で聴くと、トランジェントが良すぎて、ドラムやベースラインの“クッキリ感”が半端ではなく、聴いているだけで快感と言っていいほど気持ちが良い。この切れ味の鋭さを味わってしまうと、R7に戻ると全体がちょっとソフトな音に聴こえてしまう。R7で満足していたはずなのに、上には上がいるものだ。

据え置きネットワークプレーヤーとしても使えるクオリティ

R9がここまでの実力を備えていると、「デスクトップオーディオではなく、据え置きのピュアオーディオコンポとしても充分使えるのでは」と思いはじめる。

そこで、個人的にネットワークプレーヤーとして非常に開放感のある音で気に入っている「DNP-2000NE」(275,000円)と、2chプリメインアンプ「PMA-A110」(393,800円)を使ったピュアオーディオ環境にR9を組み込み、Amazon Musicの音を、DNP-2000NEと比較してみた。

据え置きネットワークプレーヤーとしても通用するクオリティだ
リモコンも付属しているので、離れた所からも操作できる

結論から言うと、流石にDNP-2000NEの方が格上だ。スケール感、中低域の肉厚さ、低域の深さなどでDNP-2000NEが勝っている。ただ、分解能の高さや中高域のクリアさなどはR9がかなり肉薄している。サイズがまるで違うので、DNP-2000NEが勝って当たり前の勝負だが、「いやR9かなり」というのが正直な感想だ。

R9とSP3を使っていて感じるのは、驚異的なコストパフォーマンスの高さだ。2つ合計で約330,000円と、PCスピーカーの感覚で見るとちょっと高価なのだが、出てくるサウンドは完全にピュアオーディオの世界であり、ピュアオーディオでも「かなり良い製品」でないと太刀打ちできないクオリティを実現している。

それにR9は、ディスプレイを備え、アプリもインストールでき、テレビとも連携できる。さらに、圧倒的なまでの駆動力を誇るヘッドフォンアンプも内蔵しながら、このサイズに収めている。R7と比べると高価ではあるが、中身を見ていくと、この価格にも納得感がある。

例えば、R9 + SP3でデスクトップオーディオを満喫した後、リビングの据え置きのピュアオーディオ環境に移動しても、R9は充分ネットワークプレーヤーとして流用できる。巨大で重い据え置きプレーヤーは容易に動かせないが、R9であれば部屋間の移動も楽だ。

そう考えると、R9はピュアオーディオクラスのサウンドを、様々な部屋と利用シーンで楽しめる“移動するピュアオーディオ”といえる。PCの前に座っている時間が長い人はもちろん、自室やリビング、寝室など、様々な場所で良い音を楽しみたい人に、要注目の製品だ。

山崎健太郎