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イヤーピース新次元、体温で柔らかく「SednaEarfit XELASTEC II」、伝説復活「ORIGIN」試す

左から「SednaEarfit ORIGIN」、「SednaEarfit XELASTEC II」

オーディオ機器では、今の音や操作性に不満が出たら「別の機種に買い替える」というのが一般的だが、イヤフォンの場合はその前に試して欲しい事がある。“イヤーピースのグレードアップ”だ。

AV Watch読者なら、イヤフォンを購入して、イヤーピースのサイズを選んでいる時に、サイズが小さすぎて「ポロポロ抜けてしまう」とか「低音がスカスカになる」、逆に大きすぎて「耳穴に異物を入れてる感が凄くてストレス」なんて体験をした人も多いだろう。

スピーカーやヘッドフォンと比べ、イヤフォンは「イヤーピースの良し悪し」が、聴こえ方や快適さに大きな影響を及ぼす。装着感を最適化する究極系として、耳型を採取してオーダーメイドする“カスタムIEM”が存在するというのも、その証左だ。

もう1つ、“イヤーピースのグレードアップ”がオススメな理由は「安上がり」な事だ。例えばケーブルや電源タップ、オーディオボードなど、音をグレードアップさせるオーディオアクセサリは数万円するのが当たり前だが、イヤーピースであれば2,000円や3,000円くらいの出費で済む。

そんなわけで、高性能なイヤーピースを別途購入し、グレードアップする人が増えているのだが、そんな人の中でも、特に注目を集めているブランドが、AZLAの「SednaEarfit」シリーズ。

上段から「SednaEarfit XELASTEC II」、「SednaEarfit ORIGIN」

そのSednaEarfitの新製品として3月に登場したのが、体温で柔らかくなり、変形して耳穴にピッタリフィットしてくれるという「SednaEarfit XELASTEC II」と、初代SednaEarfitをベースにしつつ、最新技術と医療用シリコンを採用して進化した「SednaEarfit ORIGIN」だ。

「SednaEarfit XELASTEC II」

なんか凄そうで、「お高いんでしょう?」と思ってしまうが、2サイズセットの価格は、SednaEarfit XELASTEC IIが2,750円、SednaEarfit ORIGINが1,650円と、そんなに高くはなく、とりあえず試してみようと思える価格になっている。

「SednaEarfit ORIGIN」

SednaEarfit XELASTEC IIの特徴

SednaEarfit XELASTEC II

“XELASTEC II”という名前からもわかるように、2020年に“初代XELASTEC”が発売されている。この初代は、体温で軟化して変形する熱可塑性エラストマー(TPE:サーマル・プラスティック・エラストマー)をイヤーピースに使った製品として、大きな話題となった。

新モデルのXELASTEC IIは、その初代のユーザーから寄せられた声や、その後の研究成果を投入して、さらに進化させた。「新たなブランドの代名詞となるべく新開発した究極のオートフィットイヤーピース」という、かなり気合の入ったモデルだ。

SednaEarfit XELASTEC II

細かく見ていこう。最大の特徴はやはり、素材にTPEを使っている事。AZLAと独KRAIBURG TPEが協業して実現した素材で、KRAIBURG TPEの精密技術を駆使した最高水準のTPEだという。

実物を触ってみると、「あ、普通のイヤーピースと違う」とすぐわかる。一般的なシリコンのイヤーピースは、ゴムっぽい弾力があるが、XELASTEC IIのTPEはそれよりも少し反発力がある。また、表面にわずかな粘着性があり、ペタペタする質感だ。ただ、イヤーピースに指がくっつくほどの粘着性は無い。

面白いのはここからだ。このXELASTEC IIを、複数の指で包み込むようにして持っていると、最初は指先にわずかな反発を感じるのだが、体温でしだいに柔らかくなり、指先に伝わる反発があきらかに弱くなり、フニャッとした感じになる。溶けて消えるわけではないのだが、本当に柔らかくなるのだ。もちろん、指から離して机の上などに置いておいて、冷めれば再び元の状態に戻る。

体温でしだいに柔らかくなり、指先に伝わる反発が弱く、フニャッとした感じになる

この特性を活用し、耳の中に入れると、体温で変形し、耳の穴に吸い付くようにフィット。耳への負担を減らしたり、ホールド力を高めて抜けにくくなる……というわけだ。

ここまでの特徴は初代XELASTECと同じだが、XELASTEC IIはそこからさらに進化。大きく3つのポイントに違いがある。

1点目は、耐久性。素材としては同じTPEを使っているが、XELASTEC IIでは耐久性がさらに向上したそうだ。

2点目は、イヤーピースの傘の部分ではなく、軸を見比べるととわかる。XELASTEC IIでは、2つ以上の独自の金型を使うことで、TPE素材での二重構造設計を実現。軸の部分が傘とは違う色になり、触ってみると、初代の軸よりも、明らかに硬く、しっかりとしたものになっている。これにより、イヤフォンのノズルに取り付けた時の安定性が向上したそうだ。

XELASTEC IIの軸部分
左が初代XELASTEC、右がXELASTEC II。軸の部分の色が異なり、より硬くなっている
軸の部分の底部をじっくり見ると、たしかに二重構造になっているのがわかる

3点目は、イヤーピースの穴を見比べると一目瞭然。初代は“素通し”だったが、XELASTEC IIはハニカム構造コアレスワックスガードが設けられている。

左が初代XELASTEC、右がXELASTEC II。XELASTEC IIにはコアレスワックスガードが設けられている

異物が入るのを防ぐためのものだが、構造としてこのガード部分もTPE素材で一体成型されているのがポイント。このガード部分も柔らかいので、指で簡単につぶせるわけだ。これにより、ゴミの流入を防ぎつつ、ガードが一種のダンパーとしても機能している。

“ガードなんて設けたら音が悪くなるのでは?”と思われるかもしれないが、イヤフォンから出る音の伝達を邪魔しないように、追求した形状になっているほか、余白部分が最小になるように配慮しているそうだ。

ガード部分も柔らかいので、指で簡単につぶせる

XELASTEC IIを装着、聴いてみる

では使ってみよう。XELASTEC IIは有線イヤフォンでも完全ワイヤレスでもどちらにも使えるイヤーピースだが、今回はソニーの「WF-1000XM5」に装着した。

ソニーの「WF-1000XM5」

WF-1000XM5の標準イヤーピースは、遮音性の高い「ノイズアイソレーションイヤーピース(EP-NI1010)」と呼ばれるもので、ソニー独自開発のポリウレタンフォーム素材を使っている。通常のシリコンイヤーピースと比べると、モコモコ、モチモチ感が強いもので、確かに遮音性は高いのだが「モコモコを耳に入れている」という異物感はかなり強め。性能は良いと思うが、個人的にちょっと苦手なイヤーピースだ。

WF-1000XM5の標準イヤーピース

XELASTEC IIを取り付けて耳に装着すると「あーもうコレだわ、標準イヤーピースに戻せないわ」と思うほど快適だ。フォームタイプではないのでモコモコ感が無く、スッと簡単に装着できる。装着後の無音状態では、標準イヤーピースは頭の中がこもったような感じになるが、XELASTEC IIでは抜けがよく、スッキリとした気分でいられる。

XELASTEC IIを装着した

XELASTEC IIは、耳に入れた瞬間は「ゴムっぽいものを耳に入れた」異物感はあるが、しばらくして柔らかくなると、それがあまり気にならなくなる不思議な装着感。それゆえ、装着したまま何曲か聴いていると、イヤフォンを装着している事自体があまり気にならなくなる。これは大きな特徴と言えるだろう。

再生音にも変化がある。標準イヤーピースでは、低域がちょっと膨らみがちで、それに負けじと高域が突き抜ける、“良く出来たドンシャリ”というサウンドだが、XELASTEC IIに変更すると、低域の余分な膨らみが無くなり、全体的にモニター寄りの良いバランスになる。では低音が地味になるのかというとそうではなく、膨らみが減った事で「ズシン」と沈む一番深い音がより鮮烈に聴こえるようになるため、低域の存在感はむしろ増す。全体的にピュアオーディオライクな、本格的なサウンドに進化する。

「ダイアナ・クラール/月とてもなく」の冒頭では、静かな空間からピアノやアコースティックベースが流れ出すが、余分な低域の膨らみが無くなった事で、ベースの弦のほぐれ具合や、ピアノの左手など、細かな音が聴き取りやすい。

また、モコモコ感が無いので音場が広く感じられる。地下のライブハウスから、屋外のコンサート会場に移動したような感覚だ。「カナル型のこもった聴こえ方が嫌だ」という人は、XELASTEC IIを試して欲しい。

装着安定度の高さも抜群。首を振っても落ちそうな気配がまったくない。30分、1時間と装着してみたが、長時間であっても、イヤーピースの位置がほとんど変わらないのも良い。表面がサラサラしたイヤーピースや、密閉性が低いイヤーピースの場合、装着から時間が経過するとズルズルと抜けてきて、最終的には落下してしまう事もある。駅や街中で、完全ワイヤレスが抜け落ちてヒヤッとした経験がある人も多いと思うが、そんな人もXELASTEC IIを試すと良いだろう。

一方で、遮音性は標準イヤーピースの方が高く、音楽を流さない状態で、周囲の騒音が耳に入ってくる量はXELASTEC IIの方が多くなる。ただ、御存知の通り、WF-1000XM5は強力なアクティブノイズキャンセリング機能を備えているので、XELASTEC IIを装着した状態でもノイズ低減性能は十分高いと感じるし、音楽を流してしまえば残った騒音も気にならなくなる。個人的には「WF-1000XM5を使うなら、絶対XELASTEC IIだ」という感想だ。

そして初代XELASTECと、XELASTEC IIの違いも試してみた。

XELASTEC IIの方が軸の強度がアップしているので、イヤフォンのノズルに取り付けやすいかな? と予想していたが、初代XELASTECも装着はしやすいので、あまり違いはない。ただ、取り付けて耳に入れた時に、心なしか、XELASTEC IIの方がスッと奥まで挿入しやすく感じる。

それによって、よりイヤーピースが奥まで入り、密閉度が上がるためなのか、聴き比べてみると、XELASTEC IIの方が少し低域がパワフルかつ、締りが増したように感じる。

XELASTEC IIにはガードが追加されたので、音がマスキングされないか心配だったが、聴き比べてみると、まったく影響は感じない。XELASTECのユーザーが、音質・装着感をアップさせるため、XELASTEC IIを買うというのも大いにアリだ。

ガードが追加されても音への影響は感じない

SednaEarfit ORIGIN

「SednaEarfit ORIGIN」

前述の初代XELASTECが登場するよりも前、AZLAの初代単品イヤーピースとして2018年に発売されたのが「SednaEarfit」。現在は同社イヤーピース全体のブランド名になっているSednaEarfitは、もともとこの“無印・初代SednaEarfit”の名前だったわけだ。

それから、前述したXELASTECなど、様々な派生モデルが登場。技術も進歩して現在に至るわけだが、その最新技術を投入して、初代SednaEarfitを生まれ変わらせようと作られたのが、「SednaEarfit ORIGIN」だ。

「SednaEarfit ORIGIN」

初代SednaEarfitは、主に有線イヤフォン向けに開発されていたため、軸部が傘部より長いキノコ型形状になっている。SednaEarfit ORIGINはその形状を再現しつつ、素材を進化させた。

具体的には、耳道内に触れる傘部に、低刺激フィットを実現するKCC SILICONEの医療用メディカルシリコンを採用。これは、外科手術中に体内への挿入などで使用されるもので、低刺激性としなやかな弾性、パウダリーな質感が特徴。実際に触ってみると、サラサラしている。

イヤーピースとして使っても、耳道内に優しくフィットするそうだ。もちろん、長時間の使用でも負担が少ないという。

軸部が傘部より長いキノコ型形状。肌触りはサラサラしている

素材だけでなく、形状にも工夫がある。耳に触れる部分に向かうほど厚みが薄くなる、独自のテーパード型構造設計を実現。一般的なイヤーピースは、耳の内側部分と外側の厚みが同じか、内側に向かうほど厚くなるが、それが圧迫感を与える原因になるという。SednaEarfit ORIGINでは、成形難易度が高いテーパード型構造に挑み、低圧迫と高遮音性の両立させたとしている。

軸部分も進化。厚みを再設計することで、イヤフォンに取り付けた際に、イヤフォンノズルへの固定力を高めている。

さらに、穴の形状も工夫。音の直進性をより高めるために、ストレート型内部構造とホーン型開口部を組み合わせたハイブリッド構造を採用。こうする事で、特定の音域を可能な限り強調せず、全体としてバランスの良い音を耳まで届けられるそうだ。

SednaEarfit ORIGINを装着、聴いてみる

qdcの「SUPERIOR」

完全ワイヤレスイヤフォンでも使えるイヤーピースだが、初代SednaEarfitは、主に有線イヤフォン向けに開発されていたので、試聴には有線イヤフォンを使った。qdcの「SUPERIOR」だ。

まず、SUPERIORには標準で3サイズのソフトフィットシリコンイヤーピースと、3サイズのダブルフランジシリコンイヤーピースが付属する。普段はソフトフィットシリコンイヤーピースを使っている。このイヤーピースはシリコン製で、サラサラした柔らかめのものだ。

付属のイヤーピースから、SednaEarfit ORIGINに付け替えると、明らかに音が変化する。全体的にSN比が良くなり、音場が静かになり、細かな音が聴き取りやすくなる。音像の輪郭もクリアになっているほか、中低域も掘りが深く、コントラストもアップしたように聴こえる。

SednaEarfit ORIGINを装着

「ダイアナ・クラール/月とてもなく」のアコースティックベースも、弦がブルッと震える様子がシャープで、聴き取りやすい。また、「ヴォン」という低域も、ORIGINを装着した時の方が、明らかに沈み込みが深い。軸の部分が長くなり、より耳穴の奥まで挿入できるようになった効果かもしれない。これにより、低音にズシッとした重さが感じられ、全体としてオーディオ環境としてのグレードがアップしたように感じる。

イヤーピースを変えただけで明らかに音が進化するので、例えば目隠しされて「イヤフォンが新型になりました」と言われたら「お、そうなんだ」と騙されそうなくらい音に変化がある。

なお、ORIGINとXELASTEC IIも聴き比べてみた。低音の沈み込みは、ORIGINの方が深い。しかし、よりイヤーピースの存在を感じさせない装着感はXELASTEC IIの方だ。SN比の良さも、XELASTEC IIの方に軍配があがる。歌声やピアノの余韻が広がっていく時の消え去る余韻みたいな細かな音が、XELASTEC IIではより細く見える。よりピュアオーディオっぽいサウンドになると言っても良いだろう。

Shure「SE215 Special Edition」

qdcのSUPERIOR以外のイヤフォンにも当然マッチする。定番イヤフォンであり、ノズルに特徴のあるShure「SE215 Special Edition」と、ゼンハイザーの「IE 100 Pro」にも取り付けてみた。

ゼンハイザーの「IE 100 Pro」

SE215 Special Editionは、ノズル部分が一般的なイヤフォンよりも細いため、そのままでもORIGINを装着できるが、ちょっとノズルから抜けやすい。だが、ORIGINには細軸ノズルアダプターが付属しており、ノズルにアダプターを装着し、その上からORIGINを挿入するとしっかり固定できる。

SE215 Special Editionのノズルは細いので、アダプターを介して太くする事でORIGINをしっかり固定できる

SE215 Special Editionに標準で付属するイヤーピースは、表面がつるつるしていて抜けやすい印象があるが、ORIGINに交換すると、耳穴にしっかりフィットし、抜けてくる気配が無い。また、肌に伝わる異物感もORIGINの方が少なく、ストレスも無く、快適だ。

音場も広く感じられ、開放的な気分で音楽を楽しめる。そのためなのか、サウンド全体のレンジ感も拡大したように感じられる。

ゼンハイザー「IE 100 Pro」のノズルは太くて短めだが、ORIGINを装着可能

ゼンハイザーのIE 100 Proは、ノズルが少し太めで短いのが特徴。ORIGINは、アダプターを使わずにそのまま装着できた。軸の厚みが改良されたORIGINなので、短いノズルでも外れそうにはならず、安定している。

IE 100 Proは、標準付属イヤーピースでは少し高域寄りのバランスだが、ORIGINを装着すると、低域がタイトになりつつ、沈み込みが少し深くなったように聴こえる。音楽にも迫力が出るので、なかなか良い組み合わせだ。

お気に入りのイヤーピースを手軽に進化させる

SednaEarfit ORIGINとXELASTEC II、どちらもイヤフォン付属のイヤーピースと比べて、サウンド・装着感の両方でグレードアップが実感できるだろう。

価格的にはORIGINの方がリーズナブルなので、まずはORIGINから試してみるというのも良い。低音の豊かさをアップさせたいという人にもオススメだ。

装着感の良さや、ストレスの低減をなにより重視するという人にはXELASTEC IIがオススメ。より静かな空間で、細やかな描写が聴き取れる。自分の耳の性能が良くなったような変化が期待できる。

いずれにせよ、4,000円以下で試せるグレードアップなので、イヤフォン買い替えの前に、気軽に試して欲しい。

SednaEarfit XELASTEC II

    SednaEarfit XELASTEC II Standard M/ML/L 各1ペア 3,850円
    SednaEarfit XELASTEC II Standard MS/M/ML 各1ペア 3,850円
    SednaEarfit XELASTEC II Standard S/MS/M 各1ペア 3,850円
    SednaEarfit XELASTEC II Standard SS/S/MS 各1ペア 3,850円
    SednaEarfit XELASTEC II Standard L 2ペア 2,750円
    SednaEarfit XELASTEC II Standard ML 2ペア 2,750円
    SednaEarfit XELASTEC II Standard M 2ペア 2,750円
    SednaEarfit XELASTEC II Standard MS 2ペア 2,750円
    SednaEarfit XELASTEC II Standard S 2ペア 2,750円
    SednaEarfit XELASTEC II Standard SS 2ペア 2,750円
SednaEarfit ORIGIN

    SednaEarfit ORIGIN Standard M/ML/L 1ペア 2,420円
    SednaEarfit ORIGIN Standard S/MS/M 1ペア 2,420円
    SednaEarfit ORIGIN Standard SS/S/MS 1ペア 2,420円
    SednaEarfit ORIGIN Standard L 2ペア 1,650円
    SednaEarfit ORIGIN Standard ML 2ペア 1,650円
    SednaEarfit ORIGIN Standard M 2ペア 1,650円
    SednaEarfit ORIGIN Standard MS 2ペア 1,650円
    SednaEarfit ORIGIN Standard S 2ペア 1,650円
    SednaEarfit ORIGIN Standard SS 2ペア 1,650円
山崎健太郎