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これぞ“小さなピュアオーディオ”、クリプトン「KS-55HG」で最強デスクトップオーディオ

KS-55HG

音楽配信やYouTube、Netflixなどの映像配信、ゲームなどを高音質で楽しめるデスクトップオーディオが熱い。「どうせなら、本格的なオーディオ用スピーカーを使いたい」と考える人は多いものの、ネックとなるのが“サイズ“と“アンプの置き場所”。スピーカーが大きいと机の上に置けないし、巨大なアンプを置く場所も無い。

そんな時に心強いのが、“日本の机の狭さ”を知っている日本のオーディオメーカーで、デスクトップオーディオがブームになる前から、高音質でコンパクトなアクティブスピーカーを手掛けるクリプトン。そんなクリプトンから、デスクトップスピーカーの決定版となりそうな新モデル「KS-55HG」が登場した。

KS-55HG

実はこのKS-55HG、アクティブスピーカーであると同時に、USBスピーカーやBluetooth受信機能も備えており、スマホがあれば、PCと接続しなくても“高音質な小型オーディオシステム”が完成する。リビングや寝室などでも活躍する、かなりの万能スピーカーだ。

サイズは小さいが、結論から先に言うと「もうこれでピュアオーディオ完成でいいじゃん」と言いたくなるほど音が良い。注目なのは、“オーディオメーカーのクリプトン”が手掛けているからこその、3つのポイントだ。

そもそもクリプトンとは

オーディオに詳しくない人のために、簡単に紹介すると、クリプトンは20万円、30万円といった“ガチな”ピュアオーディオ用スピーカーや、オーディオ用の電源ボックスやインシュレーターなどのアクセサリも手掛けているメーカーだ。

クリプトンの密閉方式ブックシェルフ型「KX-3SX」(437,800円)

当然オーディオファンには知られているが、「オーディオファンを増やすためには、高級スピーカーばかり作っていてもダメだ。気軽に良い音が聴ける価格とサイズのスピーカーを作らなきゃ」と考え、ピュアオーディオで培ったノウハウを投入しながら、小さくて低価格なPCスピーカー「KSシリーズ」を開発した。

このKSシリーズは直販限定、つまり“お店で聴けないスピーカー”だったのだが、口コミで人気が拡大し、今では“小さくて音の良いアクティブスピーカーの定番”へと成長した。お店で試聴しにくいのはマイナスポイントではあるが、ピュアオーディオで培ったノウハウやパーツを投入すると、どうしても価格は上昇してしまう。音を良くする以外のコストを極限まで削る手段が、直販限定だったというわけだ。

より低価格な、KSシリーズのモデルとしては、KS-33G(左/93,280円)、KS-11G(右/65,780円)もラインナップしている

ポイント1:オールアルミのガチな筐体と、オーディオライクなザイン

KS-55HGは、そのKSシリーズの上位モデル。価格はペアで129,800円(税抜)だ。“PCスピーカー”と考えると10万円を超えるのは高価と感じるかもしれない。だが、詳しく中身を見ていくと「逆に安いのでは?」と思えてくる。

まず筐体が凄い。PCスピーカーだと、どうしてもプラスチックな製品が多いが、KS-55HGはなんとオールアルミだ。アルミの色を活かしたシルバー・メタリックと、限定のレッドに加え、新カラーのゴールド・メタリックもカラーバリエーションとして用意している。ゴールド・メタリックは特にオーディオっぽい色味で、木の机や黒い机に設置するとマッチしそうだ。

オールアルミの筐体

見た目もそうだが、オールアルミなので手にした時の質感の良さ、剛性の高さが抜群で「あ、これはガチなスピーカーだ」と瞬間的にわかる。筐体がヤワなスピーカーは、指で叩くと「ポコポコ」「ボンボン」と“鳴いて”しまうが、音楽を再生すると、その鳴きまで耳に入ってしまい、安っぽい音になってしまう。

だが、KS-55HGの筐体は指で叩いても「コツコツ」とまったく鳴かない。これにより、余計な音を出さないわけだ。

指で叩いても「コツコツ」とまったく鳴かない

素材として剛性が高いだけでなく、卵のような形状にすることでも剛性を高めている。また、筐体の中には、ユニットの背面から放出された音が充満するわけだが、筐体が四角い箱だと平行面が多いため、中で音が反射しまくり、定在波が発生してしまう。卵型は、定在波を発生させない工夫でもあるわけだ。

卵のような形状にする事で剛性を高めつつ、定在波の発生も抑制している

ユニットも豪華だ。PCスピーカーはフルレンジが多いが、KS-55HGは2ウェイで、63.5mm径のウーファーと、高域用に30mmリングダイアフラム・ツイーターを組み合わせている。ユニットはどちらも音に定評のあるTymphany製だ。

63.5mm径のウーファー
30mmリングダイアフラム・ツイーター

背面にはバスレフダクトがある。外からは見えないが、内部で折り曲げたダクト(フォールデッドダクト)になっており、低音の再生能力を高めている。

背面にバスレフダクト。内部で折り曲がったダクトになっている

外形寸法は109×203.4×159.5mm(幅×奥行き×高さ)で、片手でガシッとつかんで持ち運べるサイズだ。ただ、重さはかなりあるので、持ち運ぶときは両手にしよう。細かいところでは、付属リモコンも新デザインになっている。

付属リモコンが新デザインに

今回はゴールド・メタリックモデルをお借りしているが、前述のように、オールアルミの質感と、落ち着いたゴールド・メタリックの色味がマッチして高級感がある。

机に設置し、最初は部屋の白い照明で撮影していたのだが、「この色味だったら暖色の照明がマッチしそう」と切り替えたらドンピシャ。一気に大人っぽい雰囲気になった。テンションが上がって、お酒のミニボトルも並べてみると、さらにカッコ良い。書斎を趣味の空間としてカッコ良くしたいと考えている人にもマッチするスピーカーだろう。

白い照明で撮影した時も良いのだが……
暖色の照明にするとさらにカッコいい
サランネットは着脱可能。こういうところもオーディオっぽい

ポイント2:後から欲しくなるアクセサリーが最初からついている

先ほど、“筐体の鳴き”について書いたが、スピーカーを机に設置すると、当然ながらスピーカーの振動が机にも伝わる。すると、机も振動して“鳴いて”しまい、そこから余計な音が出る。

分厚くて剛性の高い机を使えば影響は少ないが、薄くて鳴きやすい机だと対策は必須と言っても良い。そこで便利なのが、振動を机に伝えにくくするインシュレーターだ。

ただ、オーディオ用の本格的なインシュレーターは高価で、数千円は当たり前、数万円も珍しくない。「スピーカーを安価にしたのに、アクセサリーが高くなってしまった」というのはよくある話だ。

しかしKS-55HGは、オーディオ用アクセサリーのプロであるクリプトンが作ったスピーカーなので、最初から本気のインシュレーターが底面に装着されている。このインシュレーターは、振動を熱に変換するネオフェードという特殊な素材を、カーボンの板でサンドイッチした「ネオフェード カーボンマトリックス3層材」になっており、数万円の単品インシュレーターで使っている素材と同じものだ。

KS-55HGに採用されているインシュレーター。「ネオフェード カーボンマトリックス3層材」を使っている

このインシュレーターに、滑り止めを兼ねたOリングを組み合わせたものを3点支持で装備している。「とりあえずゴム足ついています」みたいな安いPCスピーカーとは本気度が違う。というか「この値段のスピーカーに、こんなアクセサリー使って大丈夫なのかな」と心配になるレベルだ。

このインシュレーターを3点支持で装備している

“そういう見方”をすると、付属している電源ケーブルや左右間のスピーカーケーブルなども、太くて高品位なものが使われているのがわかる。要するに、「買った後でグレードアップしたくなる部分を、最初から採用してくれているスピーカー」というわけだ。

付属のACアダプターと電源ケーブル。左右間のスピーカーケーブルも太くてしっかりしたものが付属する

ポイント3:コーデックも進化した高音質

ここからは、従来モデル「KS-55」から「KS-55HG」になり、進化したポイントだ。

大きな進化点はBluetoothのコーデックだ。内蔵するBluetooth SoCが「QCC5181」となり、従来は48kHzまでだったが、aptX Adaptiveの96kHz/24bitまで対応可能になった。さらに、LDAC 96kHz/24bitまでサポートしている。LDACとaptX Adaptiveの両方に対応したスピーカーは世界初だそうだ。

なお、KS-55HGは2023年に発表されていたが、2024年に発売が延期されていた。その代わり、搭載するSoCが新しくなり、aptX Adaptiveも昨年発表時は48kHzまでの対応だったが、96kHzまでサポートするようになった。

コーデック以外にもこだわりがある。それは“音の鮮度”だ。

KS-55HGは、DACではなくDDC(Digital to Digital Convertor)を搭載し、DSPと、2ウェイのユニットをそれぞれ駆動するバイアンプ方式のデジタルアンプを内蔵している。出力は35W×2で、ペアでは合計140Wとなる。

入力されたハイレゾなどのデジタル音源をアナログ変換せず、そのままDDCへ(アナログ信号の場合はデジタルに変換してからDDCで処理)。DDCで処理した信号をデジタルアンプで増幅し、ユニットの直前までフルデジタルで伝送するという思想だ。これにより、鮮度の高い音を再生できるわけだ。

なお、USB接続時は最大192kHz/24bitまでのリニアPCMに対応。形式としては、WAV、Apple Lossless、AIFF、FLACに対応する。USB以外の入力端子は、アナログのステレオミニと、光デジタル入力だ。

右チャンネルの背面に入力端子を揃えている
USBケーブルやステレオミニのケーブルも同梱する

音を聴いてみる

木の机にKS-55HGを設置し、Windows PCとUSBで接続。Amazon Musicのアプリから排他モードで、ハイレゾファイルを中心に再生してみた。

「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生すると、音が出た瞬間に「うふぉー」みたいな謎の声が出る。小さな見た目から想像していなかったスケールの大きなサウンドがブワッと机の上に広がった驚きと、「これはスゲェ」という喜びが入り混じった声だ。

冒頭、アコースティックベースが展開するが、その音がしっかりと深く、重さが感じられる。安いPCスピーカーにありがちな「中低域を膨らませたなんちゃって低音」ではなく、ズシンと沈み、芯のある、本当の低音だ。

音量を上げても、このタイトで重い低音はまったくボヤけない。オールアルミで卵型にした鳴きの少ない筐体の効果だ。さらに、スピーカーを設置した付近の机に触れてみても、机が振動していない。しっかりとしたインシュレーターで、振動の伝搬を防いでいることも、このクリアな低音に寄与しているのだろう。

スピーカーを設置した付近の机に触れてみても、机が振動していない

ダイアナ・クラールのボーカルが、机の上にあるディスプレイの少し上の空間にビシッと定位する。その声やピアノの響きが、左右だけでなく、奥行き方向にも広がっていく様子が聴き取れる。そのため、キーボードを叩きながら音楽を聴いていると、自然と顔がディスプレイの上の虚空を見つめてしまう。

一般的なPCスピーカーでは、キーボードの上あたりの空間に音楽が広がるだけだが、KS-55HGは、机の上が全部ステージになったような、机のエリアも越えて広がってしまうような広大さだ。

こうなると、音楽の楽しみ方もちょっと変わってくる。

今までは、「パソコン作業をしながら音楽に没頭する」ような聴き方しかできなかったが、KS-55HGの場合は、キーボードから手を離し、椅子を少し引いて背もたれをリクライニングさせ、机の上に出現したステージを眺めながらゆったりと音楽を聴く……という聴き方もできてしまう。

これは音楽だけでなく、映像作品を鑑賞する時も最高だ。

Amazon Prime Videoで配信されている映画「BLUE GIANT」から、カツシカJazz Festivalのシーンを再生してみたが、これが凄い。冒頭、大のテナーサックスからスタートするが、スピーカーから吹き出してくる中低域がパワフルで最高に気持ちが良い。ピアノとドラムが入ってくると、音場の広さも手伝い、一気にスケールもアップし、本当のフェスステージを見ているかのような臨場感に包まれる。

音のスケールが小さいと、映画を再生しても「鑑賞」というより「確認」という気分になるが、KS-55HGであれば、音のうねりや波に身を任せ、映画の世界に入り込む「鑑賞」が存分に楽しめるだろう。

この再生能力は、ゲームにも恩恵がある。人気のバトロワ「Apex Legends」をPCでプレイしてみたが、「音が良くなるとここまで変わるのか」と思うほど臨場感がアップ。狭い室内で敵と戦った後で広大なフィールドに出ると、風の音や、遠くで他の敵が戦っている音の“遠さ”などがしっかりと表現され、マウスを握る手にも力が入る。

このゲームは3人がチームになって助け合うのがポイントなのだが、バラバラになって物資を漁っている時に、仲間の1人が敵に襲われる……というシーンもよくある。その時にも、音の情報だけで「左奥で味方が敵と戦っている」「音がこもって聴こえるからこれは建物の中で戦っているな」という事もわかる。音場が広いだけでなく、音の鮮度が良く、微細な音まで再生できる証拠と言えるだろう。

ワイヤレスでも聴いてみる

前述の通り、LDACとaptX Adaptive(96kHz)までをサポートしたのが新モデルの特徴なので、ワイヤレスでも聴いてみよう。

「手嶌葵/明日への手紙」をSBC接続で聴いたあと、LDACやaptX Adaptiveに切り替えると、確かに聴こえ方が変わる。

前述の通り、もともと音場が広く、立体感のある再生ができるスピーカーなのだが、LDACやaptX Adaptiveで情報量が増えると、手嶌葵の歌声や、ピアノの音の余韻が広がる空間がより広く、そしてより深くまで見通せるようになる。

これが臨場感のアップにつながるため、ボーカルが目の前にいるような感覚がより強くなり、じっくりと聴き込みたいという気持ちになる。

もう1つ、Bluetooth再生で良い事がある。それは“静かさ”だ。

PCをシャットダウンし、スマホからBluetooth接続して再生しているので、PCの「フィー」というファンノイズが耳に入らない状態で音楽が聴ける。これは想像以上に恩恵がある。

普段はPCが起動しているのが当たり前なので、小さなファンノイズが気になる事はないのだが、「明日への手紙」のように、冒頭が静かで、歌声とピアノだけが流れ出すようなシンプルな曲を聴くと、「ああ、俺はいつもファンノイズと一緒に音楽を聴いていたんだ」という事実に、改めて気づいてしまう。

それと同時に、「無音の空間にスッと音楽が流れ出す」気持ちよさ、美しさも改めて実感する。この魅力に気づくと、「ながらPCはやめて、PCはシャットダウンして今から寝るまではじっくり音楽を楽しむ時間にしよう」という意識に切り替わる。音楽を聴く時間を特別なものにしてくれるという意味で、KS-55HGはピュアオーディオなスピーカーと言っていいだろう。

テレビと組み合わせても世界が変わる

前述の通り、光デジタルやステレオミニのアナログ音声入力も備えているので、テレビと接続する事も可能だ。スピーカーのサイズが小さいので、最近流行りの、壁寄せスタンドの小さな棚にも設置できた。

テレビの音もKS-55HGで聴くと激変する。

スケールが大きく、低域から高域までワイドレンジな再生ができるので、大画面テレビの映像に音が負けない。映像と音声が釣り合うと、臨場感がアップする。

NHKの野生動物系の番組を観ていたのだが、テレビ内蔵スピーカーでは「へぇーチーターの狩りって大変なんだね」くらいの気軽さで眺めていたのに、KS-55HGで再生すると、草原を吹きすさぶ風の厳しさや、ナレーションの声の重みなどが別次元で胸に響くので、「頑張れチーター!」と、思わず画面に釘付けになってしまう。

芸能人やスポーツ選手がたくさん登場し、ワイワイ喋るバラエティ番組でも、音の解像度が高いため、声と声が重なっていても、キャラクターの違いが聴き取りやすく、誰が何を言っているのかわかりやすい。普段は「うるさい番組だなぁ」とチャンネルを変えてしまうのだがKS-55HGで聴くとそのまま視聴し続けられる。

なお、左右のスピーカーを接続するケーブルは3mも長さがあるので、大画面テレビの左右に設置したり、PCのマルチディスプレイ環境での設置にも対応できそうだ。

左右を接続するケーブルは3mと余裕がある

KSシリーズの中での立ち位置

PCデスクに設置しやすい小型サイズで、アンプも内蔵し、PCにUSBで直結できるスピーカーとして、KS-55HGの音質は最上クラスと言って良い。

より大型のモニタースピーカーも市場には存在するが、机に設置スペースが無ければ候補にもならない。日本の住環境にマッチしたサイズに収めつつ、ピュアオーディオレベルのサウンドが楽しめるスピーカーとして、KS-55HGは貴重な製品だ。

左からKS-11GとKS-33G

一方で、同じKSシリーズの下位モデルであるKS-11GやKS-33Gと比べてどうか? が気になる人もいるだろう。

KS-11GとKS-33Gは、どちらもよりコンパクトながら、クリアで付帯音の少ないサウンドを聴かせてくれる、実力派のスピーカーだ。機能面はほぼ同じで、大きな違いは筐体の素材。KS-11Gはフレーム部分がアルミで側板がモールド樹脂だが、KS-33Gは側板までアルミのオールアルミになっている。

筐体の違いが、そのまま音の違いにも反映されており、KS-11Gは樹脂側板の響きも活用した、どちらかというとゆったりしたサウンド。KS-33Gは鳴きの少ない、より高解像度なモニターサウンドになっている。

オールアルミという点が共通しているので、音の傾向はKS-33GとKS-55HGが同じ。どちらもクリアでシャープな音なのだが、比較してみると、KS-55HGの方が筐体の剛性がより高く、卵型で内部定在波が少ない事もあり、KS-33Gよりも金属固有の音が少ない、よりナチュラルな音に聴こえる。

さらに、音が広がるスケール感の豊かさはKS-55HGの方が圧倒的に上だ。2ウェイになっているためか、ユニットの鳴りっぷりもよりのびのびとしており、レンジ感も広い。KS-33Gはあくまで「ニアフィールドで聴くスピーカー」という印象だが、KS-55HGは前述の通り、「離れて座ってリラックスして聴こうかな」という気分にさせてくれる。この余裕が、上位機ならではの魅力と言えるだろう。

そういった意味で、KS-55HGが活躍するのは机の上だけに留まらない。リビングのテレビ脇や、台所、寝室など、様々な場所に運んで、その部屋を気持ちの良い音楽で満たす……そんな使い方もしたいという人は、KS-55HGを選ぶと幸せになれるだろう。

台所で使ってみた写真
山崎健太郎