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「105 AER」と「POET」で“ヘッドフォン沼”に引きずり込まれた。Meze Audioユーザーが新モデル聴いてみる
- 提供:
- 完実電気
2025年6月6日 08:00
AV Watch編集部に入ったので、「せっかくなら本格的で、バランス接続もできるヘッドフォンが欲しい」と、編集部スタッフに相談。「このヘッドフォンは聴いてみて」と、さまざまな提案を受けた後、e☆イヤホンに足を運んで、いろいろと聴き比べ、Meze Audioのヘッドフォン「99 Classics」(32,800円)を購入した。2022年末のことだ。
あれから2年強を経て、99 Classicsには特に不満もなく愛用しているのだが、ある日編集長に「もうちょっと上のモデルも聴いてみたら良いんじゃない?」と急に言われ……、Meze Audioから今年に入って発売された新モデル2機種、「105 AER」と「POET」が手元に届いた。6.6万円の105 AERはまだしも、30万円オーバーのPOETを体験したら、もう戻れない沼の奥底に引きずり込まれてしまうんじゃなかろうか。
そんな不安とともに3機種を聴き比べてみると、単純な性能差だけではない思わぬ違いも見つけることができ、編集長の思惑どおり(?)沼の虜になってしまった。
そもそもMeze Audioって?
各ヘッドフォンを紹介する前に、そもそもMeze Audioについて触れておこう。Meze Audioは2011年にルーマニア北西部のマラムレシュ地方で誕生したブランド。創業者のAntonio Meze氏が「フェンダー・ストラトキャスターと強い繋がりを感じたように、自分自身の共感できるヘッドフォンを探していたこと」が誕生のきっかけだという。日本では完実電気が代理店を務めている。
そのブランドの名を一躍人気にしたのが、2015年に発売した木製ハウジングのヘッドフォン・99 Classics。40mm径ダイナミックドライバーと木製(クルミ材)ハウジングを採用したモデルで、クラウドファンディングでは当初の目標金額の約2倍という支援を受けて製品化、その音質と独創的なデザインが評価され、世界にその名を知らしめた。
木製ハウジングならではの自然で繊細な響きのサウンドが楽しめるほか、ハウジング自体はひとつひとつ削り出されるため、すべてのヘッドフォンがオリジナルのデザインをまとっているのが特徴。価格は32,800円。
木製ハウジングの制作には、ものづくりの精密さも求められる。ハウジングはCNCマシンで精密加工され、手作業で研磨されているほか、1組のハウジングを成形するだけで最大約8時間、研磨やラッカー塗装といった仕上げも含めた全工程は約45日間も要するという。
接着剤は使わず、ボルトやナットを使って組み上げられているのも特徴で、長期間でも安心して使える修理性の高さも特徴となっている。
実際に所有している身としても、木製ハウジングはつるりと肌触りが良く、思わず撫でてしまいたくなる触り心地。イヤーパッドのクッション性も高く、またヘッドバンドは装着するだけで自動調整されるセルフアジャスタブル機構になっているので、ケースから取り出してサッと装着できる使い勝手の良さも気に入っているポイントだ。
この99 Classicsでブランド地位を確立したMeze Audioは、その後2018年に平面磁界型ヘッドフォン「Empyrean(エンペリアン)」(388,000円)、2021年にハイエンドモデル「Elite」(528,000円)、2024年にはEmpyreanの進化形となる「Empyrean II」(440,000円)など、昨今主流となっている平面磁界型ドライバーを採用したモデルも相次いで投入している。
これらの平面磁界型ドライバーには独自技術を盛り込んでいるのもMeze Audioの特徴。ウクライナ(現在はポーランド)を拠点とする平面磁界技術の専門企業「Rinaro Isodynamics」と共同開発した「Isodynamic Hybrid Array Driver」を採用している。
これは1枚の薄い振動板のなかに、低域の再生効率が高いスイッチバックコイルと、中高域の再生効率が高いスパイラルコイルという2種類のボイスコイルを配置するもの。コイルは人間の耳の形に合わせて配置されており、より正確に音を届けるという。
こうした音へのこだわりやクラフトマンシップの高さ、Isodynamic Hybrid Array Driverなどの最新技術・独自技術へ取り組む姿勢が、Meze Audio製品の品質の高さを生む要因となっている。
上位モデルに迫る音質「105 AER」、最先端技術を継承した「POET」
そんなMeze Audioは2025年に入って、ふたつの新ヘッドフォンを発表している。1機種目は1月30日に発売されたダイナミック型ドライバー搭載の開放型ヘッドフォン「105 AER」だ。価格は66,000円。
ルーマニア語で「空気(AIR)」を意味する「AER」を名に冠したモデルで、「上位モデル『109 Pro』に迫る音質を実現し、あらゆる音楽ジャンルに対応する」という新開発の50mm径ダイナミックドライバーを搭載したのが特徴。
105 AERを手に持ってみると、99 Classicsよりも少し重たさを感じる。重さは重さは105 AERが336g、99 Classicsが260g。ただ、より分厚くなったイヤーパッドや大型化したイヤーカップなどの影響か、頭に装着してみると105 AERのほうが軽く感じてしまうのが面白い。
ハウジングは木製ではなくPEEKポリマー製なので見た目の高級感は99 Classicsに軍配が上がるが、105 AERにチープさがあるわけではない。またイヤーパッド表面は99 ClassicsがソフトPUレザー製に対し、105 AERはベロア製なので、肌触りは105 AERのほうが圧倒的に上だ。
また細かいところだが付属のキャリングケースも、105 AERはファブリック地のような仕上げになっており、99 Classicsのものよりも高級感がある。
振動板は「W字型ドーム」形状で、炭素繊維強化セルロース複合材を使うことで、高域特性を明瞭に再現しながら、歪みを低減。ドーム周囲のトーラス部分にはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)素材を採用し、高剛性と軽量化を図っている。
ヘッドバンドはカーボンファイバーと強化セルロース複合材を使っているほか、生産をブランドと長年ビジネス関係にある中国内ベンダーで行なうことで、上位モデルの109 Proからコストを削減している。
ケーブルは両出しタイプで、3.5mmステレオミニプラグを採用した1.8mのKevlar OFCケーブルが付属している。別売りアクセサリとして古河電工製のPCUHD(高純度無酸素銅線)を1本0.04mmの線材に加工して、104本をペアツイストした4本撚り線のアップグレードケーブルも用意。プラグは2.5mm、3.5mm、4.4mm、XLRから選択できる。
再生周波数帯域は5Hz~30kHz、インピーダンスは42Ω。
そして、もう1機種はフラッグシップモデル「Elite」などで培った最先端の振動板技術を継承したという、平面磁界型ドライバー採用の開放型「POET」。価格は330,000円。
最大の特徴は、Meze AudioとRinaroが8年以上の歳月をかけて共同開発したという平面磁界ドライバー「RINARO MZ6 Isodynamic Hybrid Arrayドライバー」を搭載したこと。
既存モデルの「LIRIC」で採用したMZ4ドライバー、フラッグシップ「Elite」で採用したMZ3SEドライバーの技術を融合させた最新設計で、「コンパクトながらもELITEシリーズに匹敵する、圧倒的なパフォーマンスを実現する」という。ドライバーサイズは92×63mm。もちろん「Isodynamic Hybrid Array Driver」技術も盛り込まれている。
こちらも実機に手に取ってみると、金属パーツが多用されていることもあり、3機種の中では高級感が桁違い。ハウジングにはスチール製グリルが使われているほか、ハウジング内部の音の響きを最適化するために、微細なパターンが施されており、これも高級感の演出に一役買っている。
イヤーパッドはスエードではないものの、質感の高いレザー調。頭頂部に当たるヘッドバンドの内側がスエードレザーになっているため、頭への当たりも柔らかい。ちなみにイヤーパッドはマグネット式で簡単に着脱できる。
またPOETは、今回の3機種のなかで一番大きなイヤーカップを備えているため、耳をすっぽりと覆ってくれるため装着感は抜群。幅広のヘッドバンドや肉厚なイヤーパッドも相まって、しっかりとヘッドフォンが頭に装着されているのに締めつけ感はまったく感じない。これならば1日中でも快適に着けていられそうだ。
スペック面では、米Dan Clark Audioからライセンス供与された「AMTS(Acoustic Metamaterial Tuning System)」技術も採用した。これは、精密に設計された金属部品を使うことで高周波ピークを抑制し、長時間のリスニング時の聴覚疲労を軽減するというもの。上述の本体デザインと相まって、長時間でも快適に使用できる。
こちらもケーブルは左右両出しで着脱式。製品には6.35mm標準プラグでPCUHDを使ったアップグレード銅ケーブル(約2.6m)が付属しており、上述の別売りケーブルも使用できる。再生周波数帯域は4Hz~96kHz、インピーダンスは55Ω。
WiiM Ultra&K19と組み合わせて音を聴く
今回は、これら新モデル2機種を借りて、筆者私物の99 Classicの計3機種を聴き比べていく。ケーブルは付属のアンバランス接続のものに加え、別売りのバランス接続のものも借りている。
組み合わせたのは、筆者が最近気に入っているネットワークストリーマー「WiiM Ultra」(66,000円)と、FIIOの据え置きヘッドフォンアンプのフラッグシップモデルで、最大8,000mWの高出力を誇る「K19」(約247,500円)で、こちらも代理店から貸出を受けている。
WiiM Ultraは単体でAmazon MusicやQobuz、Spotifyといった音楽配信サービスを利用できるネットワークプレーヤー。6.35mm出力や4.4mmバランス出力は備えていないものの、3.5mmステレオミニ出力を本体前面に備えているため、PCを使わず手軽に音楽サブスクを楽しみたいときに活躍してくれる。
LINE出力や光デジタル出力、同軸デジタル出力、ARC対応のHDMI端子も備えているため、WiiM Ultra1台でリビングのオーディオ環境を整えることもできる。
K19は、FIIOのデスクトップオーディオシステム「Kシリーズ」のフラッグシップモデル。ESS製の最新DAC「ES9039SPRO」を2基採用したほか、「THX AAA-788+」アーキテクチャも盛り込んだ高音質設計が特徴となっている。
USB Type-C入力では最大768kHz/32bitまでのPCM、DSD 512(ネイティブ)、MQAフルデコードに対応。出力は6.35mmヘッドフォンと4.4mmバランスのほか、4ピンXLR、HDMI入出力、同軸デジタル入出力、光デジタル入出力、RCAライン出力、3ピンXLRバランスライン出力などを備えている。
そのほか、アルミダイキャスト製のボディでMacBookなどともマッチする高級感のある仕上げや、横置き/縦置きの両方に対応したデザインなども、フラッグシップモデルらしい仕上がりとなっている。
まずは私物の99 ClassicsをWiiM Ultraとアンバランス接続して聴いてみる。音源にはAmazon Musicを使用した。「サカナクション/怪獣」では山口一郎のボーカルはもちろんだが、背後で流れるベースやドラムの描写力が高く、ベースの弦が揺れる様子なども聞き取れそうなほどの鮮明さ。密閉型ヘッドフォンということもあり、低音の量感も十分に味わえる。
「tuki./月面着陸計画」や「櫻坂46/Addiction」のような女性ボーカル楽曲では、解像感の高いボーカルが前面に飛び出してくるような印象で、迫力あるサウンドを楽しめる。コーラスやハモりなどもキメ細かく再生される。10年前に発売されたヘッドフォンとは思えないサウンドで、ロングセラーとなっている理由を感じることができた。
続いて新モデルの「105 AER」をWiiM Ultraと組み合わせてアンバランス接続で試聴。
「サカナクション/怪獣」を聴いてみると、特に印象的なのは低域の表現力。ベースの“ズンッ”と身体に響く印象や、ドラムの“ダンッ!”というアタック感など、低域の迫力が密閉型の99 Classicsよりも強く、「このヘッドフォン、開放型だよね?」と思わず確認してしまうほど。
ボーカルの解像感も99 Classicsからベールが1~2枚剥がれたような描写力で、迫力が増した低域とのバランスは整ったまま。10年間のヘッドフォン技術の進歩をしっかり感じられるサウンドだった。
続いてPOETの試聴……といきたいところだが、POET付属ケーブルは6.35mm標準プラグでWiiM Ultraには使えない。なので、ここからは接続先をFIIO K19にスイッチ。M2 MacBook AirとUSB-C接続して、ブラウザ経由でAmazon Musicを使う試聴環境に切り替えた。
さっそく「サカナクション/怪獣」を聴いてみると、山口一郎のボーカルがスッと浮かび上がってくると、広大なサウンドステージにバンドのサウンドが響き渡り、開放感のある音楽が楽しめる。あまりに自然な音の広がり方だったので、思わず「あれ、MacBookのスピーカーから音が出ちゃってるかな」と確認してしまったほど。
105 AERと比べると、POETはサウンドに奥行き感が出てくる印象で、ボーカル・コーラスや楽器隊のサウンドをより立体的に味わえる。奥行きが広がる分、低域のパワフルさという点では105 AERのほうが迫力を感じられるが、聴き比べると105 AERは音の広がり方に少し窮屈さを感じてしまう。
「tuki./月面着陸計画」でも、tuki.の持ち味である伸びのあるボーカルを存分に堪能できる。せっかくならと「宇多田ヒカル/BADモード」も聴いてみると、こちらもスピーカーで聴いてるような広大な音場感を味わえる。ボーカルも明瞭でクリアなのだが自然な響き方で、“頑張って高音を鳴らしている”感覚は一切ない。
「ダイアナ・クラール/月とてもなく」では、イントロのピアノやそこに重なってくるアコースティックベースの繊細な音色が心地良い。とくにベースは弦の爪弾き感が鮮明で生々しさを感じられる。もちろん、ダイアナ・クラールのボーカルも鮮明で、意識して聴き取ろうとしなくても口の動きを感じられるような細かさを味わえた。
バランス接続も堪能。105 AERの進化に驚き
さらにヘッドフォンのポテンシャルを引き出すべく、今度はバランス接続に切り替えて、引き続きMac+K19+Amazon Musicで音を聴いてみる。105 AER、POETには109 PRO/Liric用アップグレードケーブルを借りて、99 Classicsには筆者私物の純正アップグレードケーブル「99 Classics/99Neo用アップグレードケーブル」を使用した。
まずは99 Classics。ボーカルの明瞭さがアップし、アンバランス接続時よりもベールが2枚くらい取り除かれたようなクリアな歌声が響き渡る。またバンドサウンドとの分離感も良くなり、サウンドステージも一段広がったような印象を受ける。
続いて105 AERをバランス接続すると、こちらもサウンドステージが拡大。「サカナクション/怪獣」はサウンドステージの奥行きが広がることで、アンバランス接続時では印象的だった低域のパワフルさは少し薄まるものの、その分ボーカルとのバランス感が良くなり、より自然な音の響きに感じられる。
もちろんボーカルの解像感もアップし、「tuki./月面着陸計画」では伸びの良い歌声を楽しめる。
サウンドステージの広さや音のバランス感は、上位のPOETに近いものがあり、「ケーブルを変えるだけでここまで進化するのか」と105 AERが持つポテンシャルの高さに驚かされた。
最後はPOET。こちらはアンバランス接続時は少し大人しく感じられた低域のパワフルさや迫力がアップ。ボーカルの解像感も高まってよりクリアになるため、量感が増した低域に負けず、埋もれることもない。「ダイアナ・クラール/月とてもなく」は、ステージの最前列でライブを観ているかのような臨場感を味わえた。
東欧生まれのデザインと高音質が融合。10年経っても色褪せないMeze Audioの魅力
2011年設立と比較的新しいブランドながら、99 Classicsを筆頭に世界中でその知名度を高めてきたMeze Audio。ロングセラーモデルである99 Classicsの実力はもちろんだが、意欲的に最新技術を盛り込んできた105 AERや、ハイエンドモデルのPOETでは、従来の“開放型=低域は抜けがち”というイメージを覆すサウンドを堪能できた。
個人的に印象的だったのは、3シリーズとも「クリアなボーカルと適度に量感のある低域」というバランス感は保ちつつ、その解像感や迫力、音場の広がり方がモデルをアップグレードするごとにしっかり進化していくところ。
99 Classicsは密閉型ダイナミック型、105 AERは開放型ダイナミック型、POETは開放型平面磁界型と、それぞれドライバー方式が異なるのに、Meze Audioとしての世界観をしっかり維持できているのは、ブランドとしての哲学や技術力がなせるものだ。
また99 Classicsの木製ハウジング、105 AERのハニカム構造のようなハウジングデザイン、そしてPOETの微細なパターンが刻まれたスチール製グリルなど、どの製品も高級感は抜群。細かなところまで作り込まれているので、所有している満足度も極めて高い。修理性も高いので長期間でも安心して使えるのも嬉しいところ。
高級ヘッドフォンをすでに持っている人はもちろん、「ちょっと人とは違う、良いヘッドフォンが欲しい」と思っている方にも、ぜひおすすめしたい3モデルだ。
ちなみに、99 Classicsオーナーとして特に驚きだったのが105 AER。もちろんサウンドや製品の高級感に関してはハイエンドモデルであるPOETに軍配が上がるのだが、330,000円はおいそれと手が出せるものではない。
それに対し105 AERは66,000円で、99 Classicsを上回るサウンドを楽しめるうえ、37,400円のアップグレードケーブルと組み合わせれば、その音を“POET並み”にできてしまう。POETの3分の1とはいえ、もちろん10万円も十分高価な買い物だが、99 Classicsが10年経っても色褪せないサウンドを奏でることを考えると、105 AERも長く愛用できるはず。「99 Classicsが気になっているんだけど」という人がいたら、もう少し貯金して105 AERに手を出してみても良いかもしれない。
すでに99 Classicsを愛用しているという人は、ぜひ店舗やイベントなどでPOETを聴いてみて欲しい。99 Classicsの持ち味は残しつつ、よりスケールアップしたサウンドに虜になるはずだ。筆者もPOETによって“沼”に引きずり込まれてしまったので、なんとか予算を捻出できないか、Excelの家計簿ファイルと睨み合う日々を過ごしている。