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ここまで違う!? B&W、33万円でオーディオ的スリル「707 Prestige Edition」。名機CM1、S805とも比較
- 提供:
- ディーアンドエムホールディングス
2025年10月3日 08:00
英国の名門スピーカーメーカー、B&W(Bowers & Wilkins)の「700」シリーズの売り上げが好調だ。なかでも日本国内でもっとも販売台数が多いのはシリーズ最小サイズの小型2ウェイ機「707 S3」だという。
よく売れているというのは、本機の音の良さが広く認知されたということだが、狭小空間が多い我が国の一般的なオーディオファイルのリスニングルームにピッタリ収まるサイズだということも重要なポイントだろう。加えてアビーロードスタジオでの採用例を挙げるまでもなく、プロからも高い信頼を得ているB&Wのブランド・イメージの良さも販売台数の多さに大きく貢献しているのは間違いない。
さて、今般このB&Wの人気モデル707 S3の限定プレミアム・モデルが追加発売されることになった。「707 Prestige Edition」である。日本国内向けとして1,000ペアの入荷が予定されているという。
707 S3は、13cmコンティニュアムコーン・ミッド・バスと25mmカーボンドーム・ツイーターで構成される2ウェイ機。コンティニュアムコーンは800 D3で初採用された振動板素材で、分割振動を抑えて振動板固有のキャラクターを低減したものだ。専用設計されたカーボンドームは従来のアルミドームに比べて共振周波数をより高く、可聴帯域を超える47kHzに引き上げたもの。きわめて歪みの少ない高域ドライバーと言っていい。
707 Prestige Editionとレギュラーモデルの違いは主に3点。1つはキャビネットの仕上げだ。707 S3の突板のフィニッシュは、グロスブラック、サテンホワイト、モカ、ローズナットの4種類だったが、Prestige Editionの突板はサントス・グロス仕上げ。
サントスというのは木材の名前で、イタリアのALPI社から供給されるという。ローズウッドに近い深紅の色合いがとても美しい。レギュラーの700シリーズでは9回のクリアラッカー塗装が施されていたが、Prestige Editionはそれを上回る12回の塗装工程を繰り返し、より深く美しく輝く光沢を実現したそうだ。
2番目はスピーカーターミナルで、レギュラーモデルに比べてより導電性の良い真鍮が用いられている。
3番目がツイーターのグリルメッシュの違い。FEA(有限要素解析)によって最適化されたこのグリルメッシュは、開口率と剛性をともに向上させている。
707 Prestige Editionの価格はペア33万円。707 S3のグロスブラックが293,700円、他の仕上げが281,600円なので、36,300円から48,400円の価格上昇ということになる。
ということで、このPrestige Editionとレギュラーモデルの7070S3に値段に見合うような音質差はあるのか、それを検証してみたい。加えて、過去のモデルからの進化も体験するため、2006年に発売され日本国内で大ヒットした「CM1」(発売当時ペア121,800円)なので)、それからAV Watchスタッフの私物という「Signature 805」(2002年発売。当初ペア56万円)も用意してもらったので、それらのスピーカーとも比較試聴してみたい。
707 Prestige Editionと707 S3は、どのくらい音が違うのか
テストは神奈川県川崎市にあるD&M本社のマランツ試聴室で行なった。ここはメーカー試聴室でもっとも音が良い部屋の一つと筆者が実感している試聴室で、音質の違いがとてもよくわかる。
試聴にはネットワークプリアンプのマランツ「LINK 10」とプリメインアンプ「MODEL 10」という高級機を用いたが、MODEL 10は贅沢にも2基用い、それぞれをL/Rチャンネル用パワーアンプとして充てた。試聴曲はすべて高音質ストリーミングサービスのQobuzで、Qobuz Connectを用いて選曲した。
まず707 Prestige Editionとレギュラーモデルの707 S3との聴き比べから。
先述のようにキャビネットの仕上げと入力端子、ツイーターのグリルメッシュの違いだけとはとても思えない、驚くべき音質差にガクゼンとした。
解像感と音数、ディティールの描写でPrestige Editionはレギュラーモデルを大きく上回るのである。ドライバーユニットが新しいタイプに換装されたのではないかと思えるほどだ。3~4万円台の違いなら、ぼくなら絶対Prestige Editionを買う。
ブランフォード・マルサリスの新作『Belonging』(96kHz/24bit)からジャズ・バラード「ブロッサム」を聴く。
Prestige Editionはブランフォードの吹くテナーサックスが表情豊かでとても生々しい。それからレギュラーモデルの707 S3ともっとも大きな違いを感じさせたのが、スネアドラムをこすったり叩いたりするドラマーのブラッシュワーク。Prestige Editionはそのプレイを顕微鏡でのぞき込んだかのように仔細に精妙に描写してみせるのである。比較すると707 S3は表現が大づかみで、ディティールの描写が甘い。この違いはツイーターのグリルメッシュの開口率が上がったことも大きいのだろう。
エベーヌ弦楽四重奏団の演奏する『ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番』(96kHz/24bit)では、音場表現の違いが興味深かった。Prestige Editionは提示するサウンドステージが立体的で、幅と高さと奥行を伴ったステージに4人の奏者がぽっかりと浮かび上がるのである。707 S3もこれだけ聴いていれば十分な音場表現力を備えたスピーカーに思えるが、比較するとステージの天井が低く感じられる。
シャーデーや尾崎亜美など、ぼくの好きな女性シンガーの歌声も聴いてみたが、ヴォーカルの練れた感じ、スムーズさはレギュラーモデルの707 S3に好感を持ったことはお伝えすべき点だろう。これは今回用意してもらった707 S3が、エージングの進んだ十分に鳴らし込まれた個体だったということが大きいのだと思う。比べると、おろしたてのPrestige Editionは音がまだ硬い印象だ。
いずれにしろハイエンドライクな魅力を持つPrestige Editionは、小型2ウェイスピーカーの可能性をとことん追求してみたいとお考えのオーディオ感度の高いマニア向けのチューニングが施されたモデルと総括できるだろう。レギュラーモデルの707 S3は、Prestige Editionがレーシングカーだとすれば、より乗り心地のよいサルーンカーと言えるかもしれない。
過去の名機とも比較してみる
次に2006年に発売され、我が国で大ヒットしたCM1とPrestige Editionを比較試聴してみた。
CM1は707 S3と同じ13cmコーン型ウーファーを搭載しているが、振動板素材はケブラーで、25mmツイーターはアルミ製だ。以前、本欄でB&Wの「607 S3」とCM1を比べてみたことがあるが、今回の比較試聴もほぼ同じような印象だった。一言でいえば約20年を経てB&Wの小型スピーカーは着実に「性能面」で進化しているということだった。
尾崎亜美が2009年に再録音した往年のヒット曲「マイ・ピュア・レディ」「44.1kHz/16bit」で聴き比べてみたが、707 Prestige EditionはCM1を圧倒した。音の鮮度感、音数の多さ、立体的な音の広がり、すべてにおいて「おっ!」と思わせる魅力を実感させるのである。尾崎亜美のヴォーカルも表情豊かでとてもチャーミングだ。
比べるとCM1はおっとりした穏当なサウンド。長時間聴くにふさわしいサウンドという言い方はできるかもしれないが、オーディオ的なスリルに乏しい。CM1発売当時「B&Wらしい高性能を訴求するハイスピードなサウンド」などとどこかに書いた気がするが、なんともいやはやである。繰り返すが、この20年間のB&Wスピーカーの進化はおそろしいほどだ。
大好きなジャズ・ピアニスト、フレッド・ハーシュのECMレーベルから発表された新作『ザ・サラウンディング・グリーン』(96kHz/24bit)からタイトル曲で聴き比べてみたが、これまたほぼ同じ印象だった。707 Prestige Editionは「ピアノの詩人」と評されるハーシュの繊細なタッチを、きらめくような美しく輝かしい音に昇華させて描写するのである。CM1で聴くとその輝かしさが後退し、なにかちょっと古い録音のように聴こえるのだ。
最後に2002年に発売されたSignature 805と707 Prestige Editionを比較してみる。
Signature 805は16.5cmケブラーコーン・ミッド・バスと25mmアルミドーム・ツイーターを組み合わせた、707 Prestige Editionよりも一回り大きなスピーカー。感度も88dB/W/mと高く(707 Prestige Editionは84dB/W/m)、鳴りっぷりがとても良い。
情報量とか音数の多さ、広大な音場感といった現代ハイエンドオーディオ・シーンで重視されるポイントは、たしかに707 Prestige Editionは優秀だが、音楽そのものの訴求力の高さは、やはりSignature805にはかなわないというのが今回の比較試聴の結果だった。ノラ・ジョーンズの歌う「ドント・ノー・ホワイ」のヴォーカル音像の厚み、押し出しの良さはSignature805の圧勝だ。やはりウーファー口径の違いによって、音楽表現の余裕度は決まるのだなと実感させられた次第。ま、考えてみればSignature805は発売当時ペア56万円だったわけで、その値段差がもたらす違いは大きい。
707 Prestige Editionはペア33万円。30万円台でここまでオーディオ的なスリルを楽しませてくれるスピーカーは他にないかもしれない。ある程度オーディオの経験を積んだ、腕に自信のある方にこそ、このスピーカーをお勧めしたいと思う。