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qdc定番SUPERIORに“ステップアップ”イヤフォン「EVOLVER」登場。DD + MSTがオーディオ沼へ誘う
- 提供:
- アユート
2026年10月30日 08:00
音にこだわった、本格的な有線イヤフォンが欲しい。しかも手に届きやすい価格で……。そんな時に選ばれる定番イヤフォンに、qdcの「SUPERIOR」(14,300円)がある。qdcというブランド躍進のキッカケとなった人気モデルなので、持っている人や、お店やイベントで聴いたことがある読者も多いだろう。
定番になった理由はシンプル。“安くて音が良い”からだ。個人的に、SUPERIORのサウンドは、多くの人が聴いて「お、これは凄い」と感じる、ある種の“豪華さ”があると思っている。
市場には「高解像度だが低音が少なく、スッキリした音のイヤフォン」とか「低音のパワフルさを追求したイヤフォン」など、特徴がわかりやすい反面、人によって好き嫌いが出やすい製品がある。SUPERIORは「情報量の多さがありつつ、パワフルな低音も出せる」という、ある意味王道というか、万人が好ましいと感じる音を、この価格で実現したのが評価されたのだろう。
そんなSUPERIORに“ステップアップモデル”が登場するとなれば、気にならないわけがない。その名は「EVOLVER」(エヴォルバー)。新開発の「10.6mmDD + MSTハイブリッド複合同軸構造ドライバー」なる、かなり凝ったユニットを搭載している。価格は38,500円と、SUPERIORよりちょっと高価だが、それでも頑張れば手が届く範囲だ。実際にEVOLVERがどんなサウンドなのか、聴いてみよう。
MST(磁静電)ドライバーとは?
EVOLVERは、qdcと、日本で同社製品を扱うアユートが、共同で企画して誕生したイヤフォン。「qdcのアイデンティティーをより深く知ってもらう」事と、「ユーザーのオーディオ体験の成長」をテーマにしたという。開発の段階から、“SUPERIORからのステップアップ”を意識して作られたわけだ。
デザインを見てみよう。EVOLVERの滑らかな筐体フォルムは、SUPERIORを連想させるが、色味が異なる。SUPERIORは赤と黒を基調としていたが、EVOLVERのフェイスプレートは、光の当たり方や見る角度によって水色や紫へと変化する新デザイン「Magic Powder」を採用している。この色味も、“進化と変化”を表しているそうだ。
形状とサイズ感は似ているが、じっくりと見比べると、SUPERIORの方がほんの少し大きいようだ。SUPERIORの装着感は白眉だが、EVOLVERもその特徴を備えており、スッと耳に入り、首を振った程度では落ちない安定感もある。
最大の注目は、搭載するドライバーだ。
SUPERIORは、10mm径のフルレンジ・ダイナミックドライバーを1基のみ搭載する、シンプルな構成だった。EVOLVERも同様にダイナミックドライバーを搭載しているのだが、振動板が2つあり、それを同軸上に配置している。
1つ目の振動板は、低域を担当する10.6mm径のダイナミックドライバー。薄さ20μmのアルミニウム振動板が使われている。その上に、同軸上に配置されるのが、中高音域を担当する10.6mm径のMST(マグネットスタティック)ドライバーだ。
MSTは、漢字で書くと“磁静電”ドライバーと呼ばれるもので、静電型ドライバー(EST)に続いて開発された、新世代の高域用ドライバーだという。
振動板は薄い金属膜でできており、その振動板の上下に一対の円形磁石と円形コイルを配置。静磁場中に配置された振動板が、上下の極性が切り替わると、それにつれて上下に振動するという仕組みだ。
似た方式として、高電圧でバイアスした薄い膜の振動板を、2枚の電極で挟んで駆動する「静電型(コンデンサー型)」や、振動板にコイルのパターンをエッジングし、それを磁石で挟んで駆動する「平面磁界型」があるが、MSTは、2つの特徴を組み合わせたような方式と言える。
静電型の場合は、高電圧でバイアスするため、トランスなどが必要。平面磁界型は振動板にコイルパターンを描かねばならないなどの難点があるが、MSTにはそうしたデメリットが少ない。
なお、振動板の素材には、アモルファスFeSiBCuNb(鉄・ケイ素・ホウ素・銅・ニオブ合金)が使われている。強度が高く、振動板がたわむ分割振動が起きにくく、音速(音が素材を伝わるスピード)が速くて応答性に優れ、それでいて適度な内部損失を持つ(固有ノイズが少ない)。振動板として理想的な素材だ。
一般的な振動板の約1/3と軽量であるため、応答性が高く、前述の通り振動板にコイルをでエッジングしていないので、振動板が自由に振動できる。消費電流もダイナミックドライバーに比べて約30%低いそうだ。
もう1つ、注目なのは“クロスオーバーネットワークが無い”という点だ。一般的なハイブリッドドライバーは各ドライバーが分離し、個々で音を出しているため、クロスオーバーネットワークによって一部の周波数帯域を被らせることで全帯域をカバーしている。だがそれにより、クロスオーバーさせた部分がどうしても不自然になる場合がある。
EVOLVERは、低域用の10.6mm径ダイナミック型と、中高音用の10.6mm径MSTを搭載しているが、クロスオーバネットワークが無く、2つのドライバーを同軸で配置することで、ハイブリッドながらフルレンジで再生できる。シングルダイナミックドライバーの自然な全域再生を活かしながら、苦手な高域をMSTで自然に補うことができ、さらに圧倒的に歪みを少なく再生できるという、非常に良く考えられた構成なのだ。
周波数帯域は10Hz~50kHz、入力感度は105dB SPL/mW。インピーダンスは13Ω。ケーブルは着脱可能で、2pinの0.78mm。付属ケーブルは4芯銀メッキ銅ケーブル。プラグ部は、3.5mmアンバランスと4.4mmバランスが切り替えられる2in1のスクリューロック式になっている。
音を聴く。SUPERIORとどう違う?
では、音を聴いてみよう。いつものようにDAPはAstell&Kernの「A&ultima SP3000」をメインに使ってれいるが、今回はイヤフォンが3万円台なので、新モデルの「PD5」(176,000円)も使っている。
前述の通り、入力プラグは、3.5mmアンバランスと4.4mmバランスが切り替え可能だが、まずは3.5mmアンバランスで試聴した。
「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を聴いて、まず感心するのは“音色の統一”だ。ウッドベースの低音がズシンと音楽を下支えしてくれ、音の響きにも温かみがあり、身をまかせたくなる心地良さ。まさに「ダイナミック型らしい低音だなぁ」と感じる。
にもかかわらず、ボーカルの中音域は非常に高解像度であり、同時にナチュラルさもある。歌の途中に入るブレスが、非常に細かく聴き取れるのだが、高音がキツイ音ではなく、自然で、温度や湿度すら伝わってきそうな生々しさがある。
方式の異なるドライバーを組合せたイヤフォンでは、低音と高音の音色やスピード感がチグハグになり、「低音はモッタリしているのに、高音だけ金属質でシャキシャキする」というような、違和感のある音になってしまうこともある。
だが、EVOLVERは低音から高音まで音色が統一され、ナチュラルで温かみを感じる。それでいながら、ハイスピードでキレ味も鋭い。これはダイナミック型×2枚の振動板を組み合わせたことと、応答性に優れ、音の色付けも少ないMSTを採用した効果と思われる。
SUPERIORと比較すると、どう違うだろうか?
SUPERIORで「米津玄師/KICK BACK」を再生する。量感たっぷりのベースやドラムの低域が一気に吹き出す。非常にパワフルなサウンドで、KICK BACKの荒々しさが良く出ている。それでいて、この激しい低音に全てが覆い隠されず、ボーカルやコーラスはしっかりと聴き取れる。派手さがありつつ、大事なところをしっかり聴かせてくれる。まさにSUPERIORらしい鳴り方だ。
ただ、シビアに聴いていくと、ベースラインはちょっと膨らみがちで、モコモコっとした音に感じられ、もう少しキレが欲しいと感じる。ボーカルやコーラス、ギターのフレーズも聴き取れるのだが、ズバッと飛び出すような鋭さはない。音場もやや狭めだ。
では、EVOLVERに交換しよう。
再生ボタンを押した途端に、目の前の空間が広がり、見通しが良くなる。明らかにSUPERIORよりも1つ1つの音の輪郭がクリアで、細かな音が聴き取りやすい。この違いは大きく、おそらく比較試聴した誰もが、聴いた瞬間にハッキリとわかるほどの違いがある。
EVOLVERが凄いのはここからだ。簡単に言えば、“SUPERIORと比べて高解像度でシャープな音になった”のだが、だからといって、全体が腰高で、サッパリした音になったのではない。中低域は、むしろSUPERIORよりもグッと厚みが増し、存在感がアップ。それでいて、ベースラインはより細く見えるようになり、低音1つ1つの輪郭がシャープになった。
低音がズバッと鋭く出るだけでなく、消える際もスッとハイスピードに消える。ボワボワと余分な響きが残らない。“重厚で厚みがあるのに、キレの良い低音”に進化している。サウンドは大幅に進化しているが、全体から感じるこの豪華さは、まさしくSUPERIOR系譜だと感じる。
そして、EVOLVERのサウンドはさらに進化する。付属する4.4mmバランスプラグに付け替えると、“アンバランスからバランスの進化”も実感できる。
バランス接続の良さとしては、左右のチャンネルセパレーションが改善されるため、音場がより広く、奥行きも深くなり、サウンドがより立体的に感じられるようになる。アンバランス接続時でも、SUPERIORとEVOLVERを比べると、EVOLVERの方が音場が広がったが、バランス接続にすると、そこからさらに広がる印象だ。
音場や立体感だけでなく、低域の解像度も高まる。アンバランスでもEVOLVERの低域は、重厚さとキレが感じられたが、バランス駆動ではその低域に“芯のある重さ”が加わる印象だ。
SUPERIORも、別途4.4mmバランスケーブルである「SUPERIOR Cable 4.4mm」を購入すればバランス接続も可能だが、EVOLVERは何も追加せず、3.5mmアンバランスから4.4mmバランスへのステップアップを体験できる。「ユーザーのオーディオ体験の成長」をテーマにしたイヤフォンらしい魅力だ。
真に注目すべきは低音
試聴しはじめた段階では、「中高域のハイスピードさが気持ち良いな。MSTは良い技術だなぁ」と思っていたのだが、それから数時間、音楽を聴き続け、MSTの新鮮味に慣れてくると、MSTではないダイナミック型ユニットによる、低域の深さや解像度の高さに注意が向くようになり、「この低音は凄いな」と気がつく。
例えば、クラシックのモントリオール交響楽団「死の舞踏~魔物たちの真夜中のパーティ」から「サン=サーンス:死の舞踏 作品40」。EVOLVERは音場が広くなったことで、大きな空間に、複数の楽器が展開するオーケストラも聴きやすくなったのだが、空間全体に広がった低音が、グワッとこちらに押し寄せてくる圧倒的な量感は、もっと高価なイヤフォンであっても、なかなか体験できない迫力だ。
そんな低音が押し寄せる中でも、ヴァイオリンの弦が震える細かな音まで聴き取れる。これだけの描写力と音場の広さがあれば、クラシックやジャズも十二分に楽しめるイヤフォンと言って良い。
「上原ひろみ/ドリーマー」も素晴らしい。最初はピアノの響きの美しさに魅了されるが、次第にドラムのキレ味の鋭さ、「ズゴーン」と沈むベースの重さに圧倒されていく。
MSTドライバーも凄い技術だが、中高域をMSTにまかせたことで、低域再生に専念でき、能力をフルに発揮したダイナミックドライバーにサウンドも聴きどころだ。この2つの振動板の組合せにより、聴く音楽ジャンルを問わない、オールマイティーなイヤフォンに仕上がっている。
よりポータブルオーディオ沼にハマりたくなるイヤフォン
SUPERIORの魅力は、高音質な有線イヤフォンとして、基本的な再生能力の高さがありつつ、低域の量感やパワフルさといった部分を大切にして、多くの人が、迫力があり、聴いていて楽しいと感じるサウンドに仕上げたところにある。
ステップアップモデルであるEVOLVERの魅力は、そんなSUPERIORのサウンド傾向は維持しつつ、音場の広さ、低域の深さ、全帯域での解像度の高さとトランジェントの良さといった、あらゆる面を進化させたところにある。
SUPERIORは、そのサウンドゆえに「初めて本格的な有線イヤフォンを買う」という人にオススメしやすいのが特長だったが、EVOLVERも同様だ。聴いた多くの人が、「これはSUPERIORと同じ道の、さらに先へ到達したサウンド」と感じるだろう。
ただ、EVOLVERはSUPERIORの後継機ではなく、SUPERIORは今後も併売される。定番となったSUPERIORの音が好きな人も多いだろう。ただ、そんなSUPERIORユーザーにこそ、一度EVOLVERの音を体験して欲しい。
EVOLVERは、低音の情報量がアップし、解像感も上がり、微細な音も聞き取りやすくなったことで、駆動するDAPによる音の違いもわかりやすくなった。PD5でドライブすると、EVOLVERの実力は十分発揮でき、「こんな音が外出先で楽しめるのか」という感動があるが、さらに高価なSP3000に接続すると、低域の深さや音場などで「さらに先があるのか!」という驚きも感じられる。
そのため、EVOLVERを聴いていると「据え置きのヘッドフォンアンプで鳴らしたらどんな音になるのかな」とか、「ケーブルを銀線にリケーブルしたら中高域の音色はどう変化するかな?」なと、よりポータブルオーディオ沼にハマりたくなってくる。そういった意味でも、EVOLVERは「ユーザーのオーディオ体験を成長」させるイヤフォンなのだろう。


















