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ラックスマン、音も使い勝手も大進化。新LIFES搭載リファレンスヘッドフォンアンプ「P-800u」に迫る

東京インターナショナルオーディオショウ開幕当日に発表された「P-800u」。ラックスマンブースにディスプレイされていた

P-100 CENTENNIALの技術を投入した、新リファレンス「P-800u」

2026年10月23日、ラックスマンは同社最新のリファレンス・ヘッドフォンアンプ「P-800u」を発表した。価格は55万円。当日は東京国際フォーラムで始まった「東京インターナショナルオーディオショウ」の開催初日で、P-800uはラックスマンのブースの入口に展示されていた。

DAC回路などを内蔵しないピュア・アナログのヘッドフォンアンプ設計は、2002年の初代機「P-1」から継承されている伝統。老舗オーディオメーカーのラックスマンらしい美点として、このピュア・アナログのアンプ設計は音質を重視するヘッドフォン・オーディオファイルから高く支持されてきている。

2024年にはラックスマンの創業100周年を記念した最高峰ヘッドフォンアンプの「P-100 CENTENNIAL」(99万円)が発売されている。ここで紹介する「P-800u」は最高峰P-100 CENTENNIALの開発で得られた技術的&音質的な知見を基に、今なお評価が高く愛用者の多い「P-750u MARK II」の後継として誕生した新しいリファレンス機ということだ。

P-100 CENTENNIALはトップエンド機であり「リファレンス=基準機」という位置づけではない。前作のP-750u MARK IIは製造完了となって市場から消えて久しいから、新製品のP-800uを待ち望んでいた人々は多いはずだ。刷新されたフロントパネルが醸し出す雰囲気やレイアウトは、P-100 CENTENNIALに倣っていることがわかる。

最高峰「P-100 CENTENNIAL」を2台重ねたところ
新リファレンス・ヘッドフォンアンプ「P-800u」。フロントパネルの雰囲気やレイアウトは、P-100 CENTENNIALに倣っていることがわかる

ラックスマンはスピーカーシステムを相手にしたインテグレーテッドアンプやセパレートアンプを長年に渡って開発してきた。

そのいっぽうで、本格的な造りで高音質を追求し始めてきた国内外のヘッドフォンに着目。自社が有するアンプ技術をヘッドフォンに応用することで、次元の高いヘッドフォン・サウンドを確立した。

前述のデビュー作P-1でヘッドフォン・オーディオファイルからの確かな手ごたえを得たラックスマンは、内部回路を一新してφ6.3mmの端子を3基から2基に改めたP-1uを発売する。

2002年発売の「P-1」

P-1とP-1uのヘッドフォン駆動回路(電力出力段)はコンプリメンタリー(電圧と電流の極性は異なるけれども定格や電気特性が同等の対称設計)のバイポーラ・トランジスターがチャンネルあたり1ペア(NPNとPNP)という簡潔なシングル・プッシュプルの構成だった。

P-1は専用のヒートシンク・ブロックで放熱対策を講じていたけれども、P-1u以降はボトムプレートである鋼板に出力素子を固定することで熱を逃がす設計に改められている。

ラックスマンのヘッドフォンアンプ(フルサイズ機)を時系列で紹介しておこう。

  • P-1 (2002年) ODNF Version 2
  • P-1u (2009年) ODNF Version 3.0A
  • P-700u (2012年) ODNF Version 3.0A
  • P-750u (2017年) ODNF Version 4.0
  • P-750u LIMITED (2020年) ODNF Ultimate
  • P-750u MARK II (2021年) ODNF Ultimate
  • P-100 CENTENNIAL (2025年) LIFES 1.0
  • P-800u (2026年) LIFES 1.1
2012年発売の「P-700u」

P-700uからはヘッドフォンのバランス駆動を実現している。φ6.3mmの端子は左右チャンネルのマイナス側が結合されているのでバランス駆動が不可能なのだが、φ4.4mm端子と4ピンXLR端子は左右チャンネルのプラス側とマイナス側が独立した4接点になっているため、スピーカーシステムを鳴らすパワーアンプの一部にみられるようなバランス駆動が可能になる。ブリッジやBTL(Bridged Transformer Less)といわれる駆動方式のことだ。

ラックスマンは増幅回路の歪成分を抽出して、それを負帰還(ネガティブ・フィードバック)することで諸特性に優れた音を構築している。その回路(基幹増幅回路)の総称は最初はODNF(Only Distortion Negative Feedback)であったが、2021年には次世代回路へと進化して、LIFES(ライフス=Luxman Integrated Feedback Engine System)と呼ばれている。

一般的な負帰還は小レベルの信号をシンプルに逆位相で戻すわけだが、ODNFとLIFESでは歪成分だけを逆位相で戻すのが特徴。そのために歪成分を検出する専用の高速回路が必要にはなるけれども、増幅回路のゲイン(増幅率)の低下を抑制できるという利点が挙げられる。

100周年記念のP-100 CENTENNIALは、そのLIFESを搭載した初めてのヘッドフォンアンプ。ここで紹介するP-800uには、そこから進化したLIFES バージョン1.1を採用しているというから興味深い。

P-800uに搭載しているLIFES バージョン1.1
P-750u MARK IIのフロントパネル
P-800uのフロントパネル

音量がインジケーターで確認可能に。ヘッドフォン出力も刷新

新リファレンスのP-800uである。外観から見ていくと、前作P-750u MARK IIとの大きな違いは音量がインジケーター表示されるようになったこと。0から-87dBの1dB刻みの88段階表示になった。これは嬉しい!

これまでの製品は音量調整のノブの切り欠きが示す位置で判別できたわけだが、それが数値化されたことで音源の試聴レベルやヘッドフォンを交換した時の音量レベルの違いが格段に把握しやすくなる。このインジケーター表示はP-100 CENTENNIALで好評を得たことによる実装といえる。

音量がインジケーター表示されるようになった
ローレット加工が施されたボリュームノブ

とはいえ、実はP-800uとP-750u MARK IIでは音量の調整機能そのものに大きな変化はなく、共に電子制御のLECUA(Luxman Electric Controlled Ultimate Attenuator)を採用している。

バランス伝送のために2回路の高性能アッテネーター素子(IC)をチャンネルあたり1基搭載している左右独立の回路基板があり、ノブに直結した連続可変抵抗器の抵抗値を10ビット=1,024段階の指令として使っているわけだ。この連続可変抵抗器には音楽信号が流れない仕組みである。

電子制御アッテネーターのLECUA

ヘッドフォン出力端子はP-750u MARK IIから整理されて、φ6.3mm端子(アンバランス=シングルエンド)とφ4.4mm端子(バランス)、そして4ピンXLR端子(バランス)の3系統にまとめられた。

P-750u MARK IIでは3ピンのXLR端子を左右独立にしたバランス接続対応もあったけれども、リケーブルを含むバランス用ヘッドフォン用ケーブルが4ピンのXLR端子に集約されてきたという判断から省略されることに。個人的にも合計3系統というまとめかたは理に適っていると思うし、特にφ4.4mmのバランス接続ステレオ端子(PHONES-2)が加わったのは喜ばれるに違いない。

ヘッドフォン出力はφ6.3mm端子(アンバランス)、4.4mm端子(バランス)、4ピンXLR端子(バランス)の3系統

ヘッドフォンを駆動する電力出力素子は、音質に定評があったP-750u MARK IIのそれを基本的に継承している。すなわち、バイポーラ・トランジスターの2SC5200(NPN)と2SA1943(PNP)というコンプリメンタリーな素子を1基ずつ組み合わせた、シングル・プッシュプルの出力段を合計4回路マウントしている。歪成分を検出して負帰還するLIFESの回路は別の基板に構築されているようだ。回路構成の組み合わせとヘッドフォン出力のセレクトはフロントパネルで選び、内部のリレー切り替えで行なわれる。

P-800uの内部

φ6.3mm端子のPHONES-1で出力する場合はチャンネルあたり2回路の出力段を並列に重ねたパラレル・プッシュプルの構成として使い、左右チャンネルのマイナスが共通しているシングルエンド(アンバランス)駆動として使われる。

いっぽう、φ4.4mm端子のPHONES-2と4ピンXLR端子のPHONES-3では、左右独立のホット側(プラス)とコールド側(マイナス)にそれぞれシングル・プッシュプルの出力段を与えたブリッジ接続(BTL=Bridged Transformer Less)によるバランス駆動になるわけだ。φ4.4mm端子と4ピンXLR端子では、シングルエンド(アンバランス)駆動はできない。出力とインピーダンスの関係は以下のようになっている。

左がバランス接続時で、左右独立のホット側とコールド側にそれぞれシングル・プッシュプルの出力段を与えたBTL接続。右がアンバランス接続時で、チャンネルあたり2回路の出力段を並列に重ねたパラレル・プッシュプルの構成となる
  • P-800uの連続実行出力
    アンバランス : 4W+4W(8Ω) 2W+2W(16Ω) 1W+1W(32Ω) 53mW+53mW(600Ω)
    バランス : 8W+8W(16Ω) 4W+4W(32Ω) 213mW+213mW(600Ω)
背面。入力端子はRCAアンバランス×1、XLRバランス×2を搭載。スルー出力(RCA)も1系統備えている

P-100 CENTENNIALと似通った音の感触

P-800uの音を聴いてみた。場所は神奈川県の新横浜にあるラックスマン本社の試聴室だ。音質比較のために前作のP-750u MARK IIも用意してもらい、最初にUSBメモリーで持参した試聴音源を自宅で愛用しているオーディオテクニカ製ヘッドフォンでひととおり聴いてから、P-800uの試聴を始めている。

試聴に使った機器と試聴音源は以下のとおり。なお、試聴したP-800uは量産試作の機体だった。東京インターナショナルオーディオショウの会場で、私はラックスマンの開発責任者から音質をさらに向上できたというコメントをいただいている。


    【試聴機材】
  • ヘッドフォン:私物のオーディオテクニカATH-ADX5000(バランス接続にAT-B1XA/3.0)
  • ネットワークトランスポート:NT-07 (試聴音源のUSBメモリーを接続)
  • SACD/CDプレーヤー:D-100 CENTENNIAL (USB接続DACとして使用)
  • ヘッドフォンアンプ:P-800u (D-100 CENTENNIALからのバランス伝送)
  • ヘッドフォンアンプ:P-750u MARK II (音質比較用)
ヘッドフォン以外はラックスマンの機材を使用した

    試聴音源
  • 竹内まりや「告白」(2022年リマスター)44.1kHz/16bit
  • 米津玄師「KICK BACK」44.1kHz/16bit
  • エリック宮城(ジャズ・トランペット)「North Shore Express」96kHz/24bit
  • ヴィルデ・フラング「ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲」192kHz/24bit
  • 河村尚子(ピアノ)「楽興の時 第3番 ヘ短調 D780 / 作品94の3」2.8MHz DSD

シングルエンドの音とバランス駆動の音の試聴を済ませた結論からいうと、P-800uの音はP-750u MARK IIと比べてエネルギーバランス(音調バランス)に関して共通なのだが、明らかに力強さが増して鮮明さを感じさせる音になっている。シングルエンドの音は音楽の重心の低さが、バランス駆動では音場空間の拡がりが好ましかった。

たとえば米津玄師や竹内まりやの楽曲では、瞬発力が高まったなと意識させる鋭角的な音になっている。そのぶんヴォーカルの声質もクリアーな傾向になって、少し音量を絞っても歌詞が聴き取りやすいという印象だ。ビッグバンド構成に近いエリック宮城のジャズも多彩な楽器の細部の音まで把握しやすいし、なにより演奏そのものが生気を感じさせる勢いがあってドラムソロの迫力も凄かった。

聴感的にP-750u MARK IIよりも音離れがよくダイナミックな音が得られていると感じられるのは、増幅回路全体のS/N比が向上していることも関係しているのではないだろうか。

  • P-800u S/N比(IHF-A) バランス:119dB / アンバランス:116dB
  • P-750u MARK II S/N比(IHF-A) バランス:116dB / アンバランス:113dB

河村尚子のピアノはDSD録音なのでDSDフォーマットで聴いているが(96kHz/24bitも販売されている)、打鍵の音色の明確さと収録したホール空間に響く余韻までしっかりと聴き取ることができる。

P-750u MARK IIでは僅かに柔らかさを感じさせる音色の美しさを聴かせるのだが、P-800uはさきほどの竹内まりや等と同じように明瞭さが微細な音まで丁寧に顕していることがわかる。それはヴィルデ・フラングが弾くヴァイオリンの音色も同様で、木製の楽器らしい胴鳴り感が心地よく、多彩な音色が織り重なって音の厚みを演出していくオーケストラの響きの豊かさが好ましかった。

上段がP-800u、下段がP-750u MARK II

実をいうと、P-800uで聴いた音の感触は、同じラックスマンの試聴室で昨年に聴いたP-100 CENTENNIALのそれに似通っている。そのことを伝えたところ、P-800uはラインレベル信号が入力されてすぐのバッファー回路がバイポーラ・トランジスターの構成になっていて、それはP-100 CENTENNIALとほぼ共通という。

いっぽう、P-750u MARK IIなどはFET(電界効果トランジスター)を使っていたというのだ。P-100 CENTENNIALは音量調整にLECUA-EXを採用しているので回路基板そのものは異なるわけだが、P-800uには同等の入力バッファー回路を採用しているらしい。回路基板のサイズもP-750u MARK IIより少し長くなっているという。

P-100 CENTENNIAL

最初はP-750u MARK IIとの音質の違いにODNF(Ultimate)とP-800uのLIFES 1.1の存在があるのかと想像を膨らませたけれども、ODNFとLIFESは共に歪成分の検出と負帰還に関わるところだ。ちょっと冷静に考えると、そこで大きな音質変化が生じるわけではないと思っている。

ちなみに、LIFESでは長期間の安定供給が期待できる高性能FET素子を歪検出に採用している。ODNFがPチャンネルのJ-FET+NPN極性のトランジスターを組み合わせていたのに対して、LIFESではNチャンネルのJ-FETと+PNP極性のトランジスターを組み合わせているという違いがある。最新のLIFES1.1では誤差を検出する差動アンプの入力段をパラレル構成とすることで、1kHzと100Hzにおいては歪を約1/3に減少しているという。

P-800uとP-750u MARK IIでは重量の違いも大きかった。P-800uでは底板(ボトムプレート)に3mm厚の鋼板によるベースシャーシと2mm厚のボトムプレートを組み合わせた、二重構造の低重心&高剛性なコンストラクションを採用したという。4つの脚部は振動減衰に優れたグラデーション鋳鉄製というのは共通しているけれども、P-800uの重量は15.7キロで、P-750u MARK IIは13.3キロということだ。天板と両側板を構成するボンネットの形状も変わっているが、それは組み立てに関する改良のようである。

天板と両側板を構成するボンネットの形状も変わった

ラックスマン伝統といえるハイイナーシャ電源も強化されていた。高いレギュレーション能力を誇るという大容量OI型の電源トランスフォーマーは共通のようだが、P-750u MARK IIではカスタム仕様のブロックコンデンサーを出力段に10,000μFを2本、ドライバー段用に3,300μFを2本と奢っていたけれども、P-800uでは出力段用に10,000μFを2本追加した合計4本体制に強化されている。音の瞬発力が高まって感じられたのは、電源部を強化した効用もあるに違いない。P-800uとP-750u MARK IIの内部写真を見せてもらったが、P-800uの内部はキッチキチに詰まっているという印象だった。消費電力に変更はないようだ。

大型の電源トランスと大容量のコンデンサー(10,000μF×4)を組み合わせたハイイナーシャ電源

ヘッドフォンアンプを使っていて注意すべきは不用意な大音量になること。自分の耳とヘッドフォンを守らなければならない。電子制御アッテネーターのLECUAを音量調整に使っている利点として、過大音量を防ぐための音量制限機能がある。P-800uでは6段階(-10dB/-20dB/-30dB/-40dB/-50dB/OFF)の音量制限機構が与えられた。ちなみに、P-100 CENTENNIALでも同様だ。左右のバランスを含めてLECUAの細やかな設定になるので、それらによる音質劣化はまったくない。

6段階(-10dB/-20dB/-30dB/-40dB/-50dB/OFF)の音量制限機構も新たに搭載された。初期設定はOFFとなっている

「秋のヘッドフォン祭2026」で試聴できる

ラックスマンの新リファレンス・ヘッドフォンアンプP-800uは、東京インターナショナルオーディオショウの会場で展示されていたが、音を出してはいなかった。実際にP-800uの音を聴くことができる最初のチャンスは、ステーションコンファレンス東京(東京都千代田区丸の内1-7-12サピアタワー5F/6F)で11月7日に開催される「秋のヘッドフォン祭2026」会場。フジヤエービックの主催で70社が参加予定の、ヘッドフォンとイヤフォンを中心にした一大イベントだ。

土曜日だけで、11時~18時までの開催となる。ラックスマンP-800uに興味のあるヘッドフォン・オーディオファイルとイヤフォン・オーディオファイルは、ぜひこの機会に音を聴いてみてはいかがだろうか。

三浦 孝仁

中学時分からオーディオに目覚めて以来のピュアオーディオマニア。1980年代から季刊ステレオサウンド誌を中心にオーディオ評論を行なっている。