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ラックスマン史上最強ヘッドフォンアンプ「P-100 CENTENNIAL」。驚愕の2台駆動も聴く

ヘッドフォンアンプ「P-100 CENTENNIAL」を2台重ねたところ

ラックスマン史上最高&最強ヘッドフォンアンプの登場

昨年9月、ラックスマンは同社史上で最高&最強のヘッドフォンアンプ「P-100 CENTENNIAL」(99万円)を発表した。2025年は高級ラジオ部分品専門店「錦水堂ラヂオ部」がルーツとなるラックスマンの創業100周年目!! P-100 CENTENNIAL (センテニアル=100年)は、その記念となる第1弾の製品なのだ。発売は10月下旬からだったが、ファーストロットは即完売。セカンドロットも続々と注文が入っているらしいから凄い人気だ。

輝く“CENTENNIAL”のプレート

ヘッドフォンやイヤフォンを愛するオーディオファイルにヘッドフォンアンプのトップブランドを尋ねたら、私に限らず多くのAV Watch読者は即座に「ラックスマン」と答えるだろう。これまではラックスマンのP-750u MARKII(以下、P-750uII)が定番といえる最高級機で、国内外の市場で高い評価を獲得してきた。新登場のP-100 CENTENNIALは、それをスッと軽く追い越してしまうほどの新しいフラグシップ機なのだ。

2017年発売のP-750uから2020年発売の「P-750u LIMITED」(95周年記念の限定100台)を経て、P-750uIIはLIMITEDと同等の内容で2021年4月から発売されている。実は2017年の7月に、私はAV Watchで「P-750u」を紹介している。ラックスマンの技術陣はスピーカーとヘッドフォンを同等の存在と捉えて、本格的なヘッドフォンアンプを開発してきた。スピーカーを鳴らすアンプメーカーだからこそ成し得た音質水準といっていいだろう。

最強ヘッドフォンアンプが誕生するまで

少し歴史を振り返ってみよう。今につながるヘッドフォンアンプの初号機は2002年発売の「P-1」だった。φ6.3mm標準ステレオフォーン端子を3系統も搭載していたP-1は、ちょうどゼンハイザーの「HD600」や「HD650」をパワフルに鳴らすヘッドフォンアンプとして評判になった。2009年発売のP-1uは標準ステレオフォーン端子が2系統に絞られて登場。P-1uも同年に発売されたゼンハイザーのHD800を鳴らすリファレンス的なヘッドフォンアンプとして市場に君臨したのである。

2002年発売の「P-1」

2012年の12月に発売されたP-700uは初めてのフルバランスアンプとしてデザインされたヘッドフォンアンプだ。左右チャンネル独立の3ピンXLR端子を装備したことも画期的だった。私は手持ちのダイナミック型ヘッドフォンを自己流リケーブルで先端をノイトリック製3ピンXLR端子に換装したことを思い出す……。電子制御アッテネーターのLECUA (Luxman Electric Controlled Ultimate Attenuator)が搭載されたのも、このP-700uからである。2017年にはP-750uが発売されている。4ピンXLR端子と左右チャンネル独立の3ピンXLR端子を搭載することで対応範囲を高めた人気機種だった。

2012年発売の「P-700u」

P-750uから3年後の2020年に登場したのは、ここで紹介する創業100周年記念のP-100 CENTENNIALの前身にあたる、創業95周年記念モデルのP-750u LIMITED (100台の限定生産)だ。P-750uよりも1kg増の筐体は、オーバーサイズのアルミニウム製ボンネットによるもの。現行機種として販売されているP-750uIIは、P-750u LIMITEDの人気の高さに驚いたラックスマンが急遽レギュラー製品化したように思える。ボンネットをスチール製にすることで価格を抑えたP-750uIIは、現在も市場で人気が高い。

95周年記念・100台限定生産モデル「P-750u LIMITED」

負帰還技術の進歩も興味深いところ。ラックスマンは諸特性を向上させる独自の負帰還技術として、歪成分だけをフィードバックするODNFを開発。一般的なフィードバックは逆位相の信号をそのまま増幅回路に戻すのだが、ODNFでは歪成分だけを生成する専用の回路があり、それだけを逆位相でフィードバックする。個人的には、ゲインの低下を抑えられることが最大のメリットではないかと思っていたが、ラックスマンによると「歪成分のみをフィードバックすることで鮮度が高く自然で瑞々しい音色を実現できる」という。

歴代のヘッドフォンアンプに使われているODNFを見ていこう。

  • P-1 (ODNF Ver.2)
  • P-1u (ODNF Ver.3.0A)
  • P-700u (ODNF Ver.3.0A)
  • P-750u (ODNF Ver.4.0)
  • P-750u LIMITED (ODNF-u)
  • P-750uII (ODNF-u)

最終進化形になったODNF-uの末尾のuは、究極=アルティメイトの略。それがP-100 CENTENNIALでは、ODNFを抜本的に改めたLIFES (ライフス)と名付けた新・増幅帰還エンジンを搭載したのだ。LIFESはコストのかけられるハイクラスの新世代機に導入されている。

P-750uIIのODNF-u基板(1回路分)

新しい増幅帰還エンジンのLIFESは、メインの増幅回路と歪検出回路を一体化していることも特徴らしい。歪検出回路は増幅回路よりも高速であることが求められるので、増幅回路との一体化は信号経路の短縮化からしても理にかなっているはず。LIFESでは長期間の安定供給が期待できる高性能FET素子を新採用。ODNFがPチャンネルのJ-FET+NPN極性のトランジスターを組み合わせていたのに対して、LIFESではNチャンネルのJ-FETとPNP極性のトランジスターを組み合わせている。

圧倒的物量が投入された超弩級ヘッドフォンアンプ

P-100 CENTENNIAL

さて、100周年記念モデルのP-100 CENTENNIALである。95周年記念モデルのP-750u LIMITEDと同じようにオーバーサイズのアルミニウム製ボンネットが与えられた筐体は、脚部からの高さが13.6cm。P-750uIIは9.2cmだからずいぶんと大型化している。ちなみに、重量は19.7kg。P-750uIIは13.3kgなので、オーバーサイズのボンネット部分を考慮してもP-100 CENTENNIALは圧倒的な物量投入で造りこまれていることが窺える。

参考までにP-100 CENTENNIALの内部画像と、P-750uIIの内部画像を紹介しておこう。

P-100 CENTENNIALの内部
P-750uIIの内部

内部画像を比べてすぐに判るのは全体的な密度の高さだろう。P-100 CENTENNIALでは左側にある電源部の横にシールド板が設けられており、電源部に由来する漏洩磁束を防いでいる。P-750uIIの電源部は大容量のOI型電源トランスフォーマーが1台である。もちろん、2次側の巻線は各所用に分割した巻線になっているわけだが。

この写真では奥が電源部。手前の回路との間に、シールド板がある
P-100 CENTENNIALの電源トランスとブロック電解コンデンサー

これがP-100 CENTENNIALでは、左右チャンネルに独立した2基の大容量OI型電源トランスフォーマーに加えて、リレー素子の駆動やLEDインジケーターなどの周辺回路のための専用の電源トランスフォーマーという、合計3基という理想的な布陣になったのだ。それらは電源回路基板の直下にある。全高13.6cmという筐体サイズで実現した立体的な部品配置といえるだろう。

ラックスマンは部品メーカーの協力を得て、カスタム仕様のオーディオ素子を多用していることでも知られている。ブロック電解コンデンサーでいえば、P-100 CENTENNIALでは3300μFが4本と10000μFが4本使われているが、P-750uIIは共に2本ずつのようだ。実はヘッドフォンアンプとしての定格出力はP-100 CENTENNIALとP-750uIIは同じなのである。

しかしながら、聴感上のパワー感は明らかにP-100 CENTENNIALのほうが高く感じられる。そこでラックスマンに訊ねたところ、定格出力に関してはP-750uIIと同じになっているけれども、電源電圧が異なるため最大出力はP-100 CENTENNIALのほうが大きく上回っているという。

  • P-750uII:ドライバー段の電源電圧25V、出力段の電源電圧12.5V
  • P-100 CENTENNIAL:ドライバー段の電源電圧30V、出力段の電源電圧17.5V

P-100 CENTENNIALの高音質は、電子制御アッテネーターのLECUAを刷新した新・電子制御アッテネーターのLECUA-EX (EX=Excellent eXperience)によるところも大きいはず。ここでは上位性能のアッテネーター専用ICが使われており、マイナス・デシベル表示の大型7セグメントLEDが新設されたことで、ボリューム位置が視覚的にわかるようになった。マイナス記号は表示されないけれども、0.5dB・ステップで00.0~99.5の3ケタ表示(100ステップ)になったのはありがたい。実はこの表示は、P-100 CENTENNIALを2台使った驚愕のパラレルBTLバランス駆動を行なうときにも便利なのだ。

P-750uIIのLECUA基板(2回路分)
P-100 CENTENNIALに搭載された新LECUA-EX基板(2回路分)
マイナス・デシベルの3ケタ表示になった

ヘッドフォンやイヤフォンを駆動するパワーアンプ部分は、バイポーラトランジスターの「2SC5200(NPN)」と「2SA1943(PNP)」による、コンプリメンタリーのシングル・プッシュプル構成。その出力素子を駆動するのは、3段ダーリントン構成のドライバー段である。P-100 CENTENNIALでは、このシングル・プッシュプル構成アンプが左右チャンネル合計で4回路あり、組み合わせて使われている。実際には1枚のLIFES基板に2回路のアンプが乗っているかっこうだ。4回路あるアンプの組み合わせとグラウンドの接続切り替えには、大型のメカニカルリレーが左右合計24個も使われている。

P-100のLIFES基板。1枚の基板に2回路のアンプが乗っている
黒くて四角いパーツが多数並んでいるが、これが大型のメカニカルリレーだ

合計で8個になる出力トランジスターは2枚構成になっているスチール製の底板に固定されて底板がヒートシンクの役割を担った、非常に合理的な放熱手法を継続している。P-1から始まったラックスマンのヘッドフォンアンプは、すべてディスクリート素子によるピュア・アナログな回路構成だ。

電源ケーブルには、ラックスマンのリファレンスであるJPA-15000が付属。独自のノンツイスト構造が特徴で芯線は3.5スクエアの高純度無酸素銅(OFC)である。両端のプラグは金メッキ処理が施された。カスタム仕様の高剛性グラデーション鋳鉄製レッグも、フラグシップ機らしいP-100 CENTENNIALの装備といえよう。

カスタム仕様の高剛性グラデーション鋳鉄製レッグ

ラインレベル入力はシングルエンド(RCA端子)が1系統と、2系統のXLR端子バランス入力を備えている。一方、ヘッドフォン端子は4系統もある。φ6.3ミリ標準ステレオフォーン端子(PHONES-1)がパラレル・アンバランス専用(グラウンド左右チャンネル共通)、φ4.4ミリ端子(PHONES-2)と4ピンXLR端子(PHONES-3)はBTLバランスとパラレル・アンバランス(グラウンド左右独立)に対応している。3ピンXLR端子(PHONES-4)はモノラルのパラレルBTLバランス専用で、2台のP-100 CENTENNIALを使う場合である。

背面の入力端子部
前面にはアンバランス6.3mm、バランス4.4mm、4ピンXLR端子に加え、2台を使ったパラレルBTLバランス出力モード専用端子として3ピンXLR端子も搭載する
開発陣にも話を聞いた

音を聴いてみる

P-100 CENTENNIALの音はラックスマンの試聴室で聴いている。その後に別の場所でも試聴する機会が得られたのはラッキーだった。音を聴くにあたって、私は自宅から聴き慣れているオーディオテクニカのATH-ADX5000を持っていった。ケーブル交換が可能な開放型=エアーダイナミックの定番的なヘッドフォンである。付属するのは3mのφ6.3mm標準ステレオフォーン端子ケーブルだが、別売りで用意されている4ピンXLR4端子バランスケーブル AT-B1XA/3.0(3m)も持参することに。φ4.4ミリ端子は使わなかったが、電気的な接続は4ピンXLR端子と同等である。

デジタルファイルの試聴音源はラックスマンのネットワークトランスポートNT-07を経由してSACD/CDプレーヤーのD-07XにUSBケーブルで接続。そこからのアナログ・バランス出力をP-100 CENTENNIALに接続している。試聴楽曲は以下の通り。

  • ボーカル曲 アネッテ・アスクヴィーク「リバティ」 (48kHz/24bit)
  • アコースティックジャズ 松井秀太郎「カラー・パレット」 (96kHz/24bit)
  • クラシカル音楽 ネマニャ・ラドゥロヴィチ「スペイン舞曲」 (96kHz/24bit)

φ6.3ミリ標準ステレオフォーン端子で聴くパラレル・アンバランス駆動(グラウンド左右共通)

この場合はアンプがパラレル・プッシュプル構成になり、ヘッドフォン両極のグラウンドは共通になっている。音を鳴らし始めて感じたのは、拡がって聴こえてほしい音場空間が少し狭く感じられたこと。ボーカル曲では頭内定位感をより意識させるような音の雰囲気だ。ジャズもクラシカル音楽も楽器がセンター寄りに感じられて音楽に集中することはできるけれども、ちょっと窮屈に感じられた。

4ピンXLR端子で聴くパラレル・アンバランス駆動(グラウンド左右独立)

さきほどと異なるのはヘッドフォン両極のグラウンドがヘッドフォンアンプ内で左右独立の接地になっていることだけ。でもこの“だけ”の違いは大きい。ボーカル曲の音場空間は広がってくるし、微小領域の音も克明に描かれていく。松井秀太郎のジャズは発音の勢いが増したようなオープンな演奏になって楽器の響きの余韻も長く感じられる。クラシカル音楽はラドロヴィチが弾くヴァイオリンの弦を擦る音色が陰影感も豊かに繰り広げられるし表現の多彩さも印象的。個人的に最も好きなポジションである。

4ピンXLR4端子によるBTLバランス駆動

この場合は、シングル・プッシュプル構成のアンプがヘッドフォンのプラス側とマイナス側の両極からドライブするBTL(ブリッジ接続)のバランス駆動になる。シングルエンド駆動とは明らかに音楽の佇まいが異なり、ヘッドフォンを積極的に制動しているという印象を与える強い音だ。アネッテ・アスクヴィークのボーカル音像はよりソリッドに感じられて低音域の下支えもしっかりとした安定感の高い演奏。松井秀太郎のジャズは響きの余韻よりも楽器の存在感をより際立たせた説得力に満ちた音になる。クラシカル音楽も演奏の訴求力がグッと増した迫力を伴っているが、繊細な表現を求めるならパラレル・アンバランス駆動(グラウンド左右独立)を選んだほうが良さそうだと思った。

P-100 CENTENNIALを2台使った、驚愕のパラレルBTLバランス駆動

2台使った、左右チャンネルをフィジカルに完全独立させたバランス駆動

すでに数名の強者が実践しているという、P-100 CENTENNIALを2台使った、左右チャンネルをフィジカルに完全独立させたバランス駆動である。この場合はチャンネルあたりパラレル・プッシュプル構成のアンプがヘッドフォンの両極をドライブするブリッジ(BTL=Bridged Tied Load)接続のバランス駆動になる。ラックスマンの自作アタッチメントで、ヘッドフォンの4ピンXLR端子→左右独立の3ピンXLR端子という接続だ。また、背面からの専用ケーブル接続で2台のP-100 CENTENNIALは音量調整が連動することになる。

音量調整を連動させるため、2台を専用ケーブルで接続する
なお、パラレルBTLバランスモードでFOCAL UTOPIA用を駆動するためのヘッドフォンケーブルが、onsoから発売されている

いやまあ、この音の圧は凄い!!

ヘッドフォンアンプ自体の支配力を強く滲ませている強靭な音に私は面食らったが、すぐに演奏の音世界に入り込んでしまった。ヘッドフォンの素性よりもアンプの音の素性が上回っている音ではないかと思いつつ、いやこれがヘッドフォンの表現力の凄さなのではと音の判断を迷いながらのリスニングだった。音量を低めにして聴いても音の厚みが保たれているため、じゅうぶんに音楽に浸ることができた。

試聴インプレッションは以上になる。P-100 CENTENNIALを2台使うと左右独立パラレルBTLバランス駆動に限られてしまうけれども、その強靭なサウンドは同じヘッドフォンから聴く音とは思えないほどの迫力だった。

それは究極として、1台のP-100 CENTENNIALで聴く音は明らかにP-750uIIのそれを凌駕している。もしもP-750uIIのユーザーが音を聴いたとしたら、もう後には戻ることができないほどの衝撃かもしれない。

個人的には1台のP-100 CENTENNIALでは4ピンXLR端子で接続しておき、弦楽四重奏やピアノ独奏などアコースティック楽器の演奏や繊細なボーカル曲はパラレル・アンバランス接続(左右独立グラウンド)で聴き、編成の大きいビッグバンドやEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)はBTLバランス駆動にスイッチするという、音楽ジャンルやシチュエーションに合わせた柔軟な使い方をするだろう。その場合はスイッチひとつで切り替えられるので、とても便利だ。

ラックスマンの創業100周年を記念した第1弾のP-100 CENTENNIALは、自分が想像していた以上に本格的な音で魅せるヘッドフォンアンプだった。普段はスピーカーシステムを鳴らすアンプをデザインしているオーディオメーカーならではの、極上のヘッドフォン・サウンドを堪能できたのは素晴らしい体験だった。

三浦 孝仁

中学時分からオーディオに目覚めて以来のピュアオーディオマニア。1980年代から季刊ステレオサウンド誌を中心にオーディオ評論を行なっている。