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「日本発スマートテレビ」推進に向けたシンポジウム開催

−TV向けHTML5ブラウザ開発、Hybridcastなど現状と課題


Symposium on Web and TV 2012

 IPTVフォーラムは12日、Webと連携した次世代テレビの実現に向けた議論を行なう「Symposium on Web and TV 2012」を開催した。

 会場となった東京・お台場のフジテレビには、国内外の放送事業者と通信キャリア、メーカー、ブラウザベンダー、国際標準化機関の関係者や有識者らが集い、講演やパネルディスカッションなどを行なった。

 主なトピックは4点。HTML5をベースとした次世代テレビなどに関する「標準化の最新情報」、NHKのHybridcastのプロトタイプのデモなど、Webとテレビを連携させた「最先端サービスのデモンストレーション、次世代のテレビによる防災/減災の可能性を展望する「災害情報とメディア」、次世代のエンターテインメントなどに関する「プレミアムコンテンツとメディア多様性」について議論された。このうち、HTML5ベースの次世代テレビの標準化に向けた取り組みや、NHKなど放送局が技術開発を進めているHybrid Castに関する内容を中心に紹介する。



■ 総務省の「スマートテレビ3原則」など

総務省の森田高政務官

 オープニングにあたり、総務省の森田高政務官が登壇。「スマートテレビの推進に向けて」と題した、総務省の基本的な考え方と推進の方策などについての特別講演を行なった。

 これまで、日本の地上デジタル放送の海外への展開などに努めてきた森田氏は、日本の環境について「放送、モバイル、SNSなどで、コンテンツやインターネットの活用が発達しており、世界最先端のデジタル環境が整っている。それを活かした放送とWebの連携サービスがスマートテレビ。これまで、スマートテレビとして様々なサービスが個々には展開されてきたが、“テレビをネットにつなげるだけ”だったが、それでは十分ではない」と指摘した。

 今後のスマートテレビが目指す姿として、「アプリやコンテンツが特定のOSやデバイスに紐付かず、オープンな開発ができる環境が重要。わが国には信頼性の高い大量の情報を一斉に届けられる放送があり、これとWebの双方向性を掛けあわせることで、新たなサービスが創出できる。アプリやコンテンツの提供において、サードパーティの自在な参入を可能とし、一定のルールの下で多様なアプリ/コンテンツを作成し、提供できることも大事。それを活性化させるために様々な施策が考えられる。利用者の視点に立つと、どのようなメーカーの端末でもつながるオープンな環境の確保も重要。このようなサービスモデルを実現すれば、コンテンツ、ネットワーク、広告など、様々な産業への経済波及効果が期待できる。わが国の産業競争力の強化という観点からも、放送とWebの連携を特徴とするスマートテレビを積極的に推進することが必要」とした。

 こうした基本機能を実装した上で、ユーザーごとのニーズに応えられる多様なサービスの実現の重要性を訴え、具体的には、クラウドに置いた映像が観られる「スマートフォンやテレビなど、色々なものとつながるテレビ」や、音声認識機能などの「高齢者や障害者にも優しいテレビ」、SNSの友人から勧められた番組を楽しむといった「仲間と体験を共有できるテレビ」、見逃し番組や好きな番組を探してくれる「自分好みにカスタマイズできるテレビ」、ネットやビデオを見ていても緊急放送をキャッチした場合に表示する「災害時や緊急時に役立つテレビ」といった例を紹介した。

スマートテレビの定義 3つの基本機能 具体的なサービス例

 こうした機能の実現に向けて、総務省が考える「スマートテレビ推進の3原則」を提示。1つは、ユーザー視点に立った使いやすいインターフェイスや安心・安全なサービスといった「ユーザー本位」。2つ目は、民間のコンテンツ/放送/通信事業者や、端末メーカーらが協力して推進に取り組み、官が環境整備と支援を行なう「民間主導による協業」、3つ目は、国際標準に則った規格などに応じて各事業者らが参加できる環境を作る「オープンな事業環境の構築」。

 これらに基づいた取り組みの必要性を強調し、実証実験や、国際展開といった取り組みを関係者と共に推進。まず、民間の実証実験としては、2012〜13年度にかけて、内外の多様な参加者を募り、HTML5のテレビ対応ブラウザをオープンソースで開発。試作ブラウザの実証環境を整備して、多様なアプリやコンテンツの検証を行なう。その実験結果や、これまでのノウハウなどは、W3CによるHTML5の後継規格として期待されるHTML.nextの規格策定にも寄与していくという。さらに、スマートテレビ実現に求められる“コンテンツのワンソースマルチユース化”に伴う権利処理の課題解決も検討して。こうしたスマートテレビで実現するサービスモデルの国際展開をめざし、CEATECやInternational CESなどへの出展、新興国へのサービスモデル提案などを行なうとの意向を示し、「世界に対する我が国のスマートテレビを積極的に発信したい。その啓発や普及促進に総務省も汗をかいていきたい」と述べた。

スマートテレビの3原則 民間の実証実験を通じてハード/ソフトを開発し、総務省はそのための環境作りを行なうという 国際展開を視野に入れて推進


■ HTML5対応への取り組み

 スマートテレビに求められる技術仕様に関するテクニカルセッションでは、IPTVフォーラムで2011年12月に発足したHTML5ワーキンググループ(HTML5-WG)の活動内容などの説明が行なわれた。

 スマートテレビにHTML5を採用するメリットの一つは、特別なプラグインを必要とせず、動画や音楽を含めた豊富なコンテンツをブラウザ上で扱え、これまでの放送番組と組み合わせた形でテレビを楽しめることが挙げられる。

HTML5-WG主任の藤沢寛氏

 HTML5-WGは、従来のデータ放送で培ったBMLの経験を活かし、HTML5ベースのスマートテレビ実現に向けて、メーカーや様々な事業者とともに共通基盤の策定を進めている。

 HTML5-WG主任の藤沢寛氏は、現在検討されている2つの仕様書を説明。一つは放送と通信の連携についての仕様書で、受信機や全体サービスにおける要求条件など。もう一つは、セキュリティなども考慮したテレビ用のHTMLブラウザに関する仕様とガイドライン。

 藤沢氏は、放送と通信を連動させるアプリケーションが様々な端末で使えるようにするために、放送のメタデータを第3者に提供できるオープンな開発環境の仕組みがまず必要との認識を示し、「メタデータの活用でサービス提供事業者や端末メーカーらにとって新しいビジネスチャンスにできるための環境構築を目指す」と述べた。一方で、「これまで放送が果たしてきた視聴者への“安心・安全”という大原則は守られなければならない。それを実現するシステムはどうするかについて考えている」とした。

 アプリケーションが悪徳商法などに使われることを避け、“安心・安全”を担保するための取り組みとして、仕様策定の中でアプリケーションを「マネージド」と「アンマネージド」の2つに分類。「マネージド」は放送での利用を許可されたもので、それを更に「放送マネージド」(放送信号の指示で許可されたもの)と「放送外マネージド」(アプリの認証など、放送信号でないものの指示で放送利用が許可されたもの)に分ける。この分類が実行できるように、制御信号や受信機の機能を詳細に規定していくのが同WGの役割だという。

HTML5-WGの目的と、策定中の仕様 放送/通信のハイブリッドシステムの概要 受信機の構成

 こうした放送と通信のハイブリッドシステム実現に、今後必要な条件や課題については、「受信中のチャンネルに連動したHTMLアプリケーションが動作すること」、「チャンネルを遷移した時に、放送番組自身は連続して観られること」、「チャンネルを変更したときには、それに同期したHTMLアプリケーションがチャンネルに応じて取得されること」、「放送から来たイベント信号を活用すること」、「セカンドスクリーンとの連携」の5つを挙げた。

 今後のロードマップとしては、前述した「放送マネージド」のアプリケーションに関する規定を9月ごろまでに、「放送外マネージド」は今年度内またはそれ以降に決定する。「アンマネージド」については、「別の組織を作る必要があるかもしれない」とした。

放送/通信のハイブリッドシステム実現に向けた5つの要件と課題 具体的な画面の例。主となる放送を妨げない形で、右下(ブルー)と左上(オレンジ)にコンテンツが表示される 仕様策定などのロードマップ


■ NHKなどが取り組むHybrid Cast

NHKの加藤久和氏

 実用化に向けてIPTVフォーラムで検討されている「Hybridcast」についても、NHKの加藤久和氏から解説された。

 加藤氏は、これまでの通信との連携への取り組みついて、現在のデータ放送で使われているBMLブラウザの変遷とともに説明。'03年にテレビにEthernet端子が搭載されたことでHTTPプロトコルに対応し、BMLがWebサーバーからも提供できるようになったことや、'08年にアクトビラの開始に伴いテレビにHTML4ブラウザが搭載され、ストリーミング再生が可能になったことなどを振り返った。その後、NHKオンデマンドでの見逃し配信なども始まったが、「この段階では放送と通信は全く独立していた」とした。

 その後、BMLからHTML4を起動する機能がIPTVフォーラムで検討され、現在はテレビ画面から関連するネットサービスへ遷移でき、BMLブラウザからストリーミング配信へ簡単に移行できるようになったことを説明。サービスの事例として、一定時間視聴したユーザーに対し、普段は観られないプレミアムなコンテンツを見る権利が得られるといったサービスが実用化されたことを紹介した。一方で、「BMLの拡張性も飽和している。もっとネットの機能を効果的に使ったものを実現するため、Hybridcastに取り組んだ」とした。

 「Hybridcast」は、VODのおすすめ番組などでユーザーの視聴機会が増えることや、番組に関連した情報を表示することでユーザーの好みに合わせること、タブレットをセカンドスクリーンとして、必要な操作を手元で行なえること、セキュアな環境で利用できることなどを目指して開発。「放送事業者が、放送の伝送路とネットの伝送路を使うというメリットを最大限に活かす」という。

 これまでも、NHKの技研公開などでデモが行なわれており、テレビで視聴している番組の追加情報をタブレットに表示させたり、特定のCMになるとWebアプリが立ち上がり、連動したクイズに答えてプレゼントをもらえたり、サッカーを視聴している際に、少し前のゴールシーンをさかのぼってタブレットで再生するといったことが紹介されている。

 Hybridcastならではの特徴の一つに、映像と通信の同期技術がある。例えばアイドルグループをマルチカメラで撮影し、視聴者が好きなメンバーを選ぶと、そのメンバーをメインにとらえた映像を、放送に重ねるように子画面表示することも可能。この場合、通信経由の子画面映像は遅延するが、Hybridcastではテレビ放送の映像も受信機側のバッファなどで遅延させ、通信の映像と同期させる。この同期を実現するため、放送のタイムスタンプをサービスプロバイダに提供することで、映像のタイミングに印をつけて、同期表示を可能にしているという。

 今後もデモや実証実験を行なう予定で、ロンドンオリンピックでもデータ放送を活用して実証を行なう。また、総務省からの委託により、災害下でHybridcastがどれだけ有効かという点を検証するため、東北大学との協力でフィールド実験を10月〜11月に行なう。こういった取り組みの結果などを経て、「フル(サービス)にはならないかもしれないが、何らかの形で2013年度に立ち上げたい」とした。

日本におけるIPTVの歴史 Hybridcastのコンセプト 2012年の実証実験などの予定
会場では、Hybridcastのデモも行なわれた。写真は、放送に合わせてリアルタイムでCGの手話を表示するもの フジテレビが開発中の、CM連動サービスの画面。テレビで特定のCMになると、タブレットのブラウザからクイズに回答して賞品がもらえるというイメージ Facebookと連動する「JoiNTV」のデモも行なわれた。近く、対応する番組のオンエアが予定されており、ユーザー登録の受付を再開したという。
キーノートスピーチには、IPTVフォーラムの理事長を務める村井純慶應義塾大学教授が登壇。「インターネット人口は、15年で20億人まで行った。これが50億人になる時代はすぐに来る。20億人の為のネットと、50億人の為のネットの守備範囲の違いを考えて取り組まなければならない」とし、テレビやネットの果たす役割などについて語った World Wide Web Consortium(W3C)のDr. Jeff Jaffe CEOも登壇。「HTML5で、Webにとってエキサイティングなことが起こっている。テレビの見方やコンテンツ配信の形などが変わってきて、今後も変わっていくことは分かっているが、どう変わるかは分からない。そこにW3Cの役割がある。様々な業界のリソースを集めて、ベストな技術を見つけていく」とした W3CでW3C HTML-WGのActivity Leadを務めるMichael Smith氏。「HTML5 and HTML.next」と題して、HTML5導入のメリットや、仕様策定の取り組みなどを説明した


(2012年 6月 12日)

[ AV Watch編集部 中林暁]