藤本健のDigital Audio Laboratory
第545回:注目のDSD対応USB DAC 3機種を比較する【その1】
第545回:注目のDSD対応USB DAC 3機種を比較する【その1】
TEAC「UD-501」、KORG「DS-DAC-10」、RATOC「RAL-DSDHA1」
(2013/4/1 11:32)
DSDに対応したUSB DACが国内外のメーカーから続々と登場している。DSDファンからすると、長年求めてきたのに、なかなか登場しなかったものが、なぜこのタイミングで続々と登場してきているのか、不思議な感じもするのだが、コンテンツも増えてきているところなので、選択肢が増えてくるのは大歓迎。
国内メーカー品をピックアップすると、ティアック、コルグ、ラトックシステムなどが製品を出しているが、それぞれの製品を比較してみると、いろいろな違いもある。そこで、主な3製品を取り寄せた上で、何がどう違うのかなどを2回にわたって比較してみることにしよう。第1回は、ハードウェア仕様や基本機能を中心に紹介する。
3機種の基本的な違い
今回取りあげるDSD対応のUSB DACはティアックのUD-501(11万円/実売99,800円)、コルグのDS-DAC-10(オープンプライス/実売54,780円)、ラトックシステムのRAL-DSDHA1(72,000円/実売59,800円)。ラトックシステムでは、バランス駆動のヘッドフォン出力を備えた上位版のRAL-DSDHA2(標準価格120,000円/実売99,800円)という製品も出ているが、今回使ったのは、RAL-DSDHA1のほうだ。
まず、3つの製品を並べてみたので、その大きさの違いを確認いただきたい。明らかに大きいUD-501とコンパクトなDS-DAC-10およびRAL-DSDHA1という感じだろうか。もっともUD-501だけは、単にPC用のUSB DACというわけではなく、オプティカルおよびコアキシャルのS/PDIF入力に対応したDACとしても機能するもので、出力もRCAのラインアウトのほかに、XLRの出力も備えた格上の製品といった感じではある。
では、それぞれをスペックで比較してみるとどうだろうか? そもそも、どの項目を比較するのがいいのかが分からないが、主にDSDに関する部分のみを抜き出して並べてみた。同じ国産のDSD対応USB DACとはいえ、こうみると、大きさや値段だけでなく、それぞれの製品で結構違いがあるのがわかるだろう。
TEAC UD-501 | KORG DS-DAC-10 | RATOC RAL-DSDH1 | |
---|---|---|---|
DSD64(2.8224MHz) | ○ | ○ | ○ |
DSD128(5.6448MHz) | ○ | ○ | × |
DoP対応 | ○ | × | ○ |
ASIO(DSD)対応 | ○ | ○ | × |
電源 | AC100V | USB電源供給 | ACアダプタ |
付属プレーヤーソフト | TEAC HR Audio Player | AudioGate | × |
サイズ (幅×奥行き×高さ) | 290×244×81.2mm | 120×150×48mm | 133×167×43mm |
重量 | 4.0kg | 530g | 615g |
標準価格 | 110,000円 | オープンプライス | 72,000円 |
実売価格 | 99,800円 | 54,780円 | 59,800円 |
いずれの製品もDSD64、つまり2.8224MHzのデータの再生には対応しているが、5.6448MHzのDSD128に対応しているのは、UD-501とDS-DAC-10に絞られる。まあ、DSD128のデータなど、現状ほとんどないので、あまり気にするほどの違いではないかもしれないが、選択のためのひとつのポイントではある。
一方、PCでDSDを扱うに当たって、非常に難しいのがドライバを含めた再生の仕組み部分だ。ご存知のとおりDSDはPCMとはまったく考え方の異なる方式であるため、これをPCに扱わせるのはトリックが必要となる。現在、大きく2通りの方法があるが、そのひとつはDTMではお馴染みのASIOドライバを利用するという方法で、これが安全で確実な方法ともいえる。
ASIOはドイツのSteinbergが開発したオーディオドライバの規格で、最近はPCオーディオのユーザーからも支持されているものだが、2005年にASIO 2.1にアップデートされた際に、DSDに対応するようになったのだ。もっとも、当時DSDに対応したのはソニーのVAIOだけであり、つい最近までその状況が続いていたが、最近になってこれに対応する機器が増えてきているのだ。今回の3機種のうち、RAL-DSDHA1のみが非対応となっているが、実はPCMにおいてはRAL-DSDHA1もASIO対応しているので、アプリケーション側からはASIOドライバが見える。ただし、DSDネイティブには対応していないので、UD-501やDS-DAC-10とは別モノなのだ。
もうひとつはDoP=「DSD Audio over PCM Frames」という方式を使う方法。以前はdCSとかPlayback Designといった会社がそれぞれPCMの仕組みを利用して、DSDをダマして流す方法を開発していたが、両者が合意してまとまったのがDoPというもの。以前、コルグにインタビューした際、「DoPは何かトラブルがあると、機器にダメージを与える可能性もある」という話をしていたが、そうした観点からコルグだけはDoP非対応となっている。
ティアック「UD-501」
では、それぞれの機器について簡単に紹介していこう。まずティアックのUD-501は前述のとおり、一番大きな機材で、価格的にも高いのだが、機能的にも非常に充実している。PCM機能の詳細は割愛するが、リアには光デジタル2つ、同軸デジタル2つの計4つのS/PDIF入力があり、入力の切り替えによって切り替えて利用することができる。またUSB接続の場合は、最高384kHzの再生も可能となっているのもほかの2機種にはない特徴だ。さらに指定の周波数のアップサンプリングができたり、PCMデジタルフィルターを装備しているのもユニークなポイントである。
本体にはCD-ROMなどは付属していないが、ティアックのサイトから最新のドライバおよびプレーヤーソフトがダウンロードできるので、これを使ってみたところ、セッティングはいたって簡単。ドライバインストール後、TEAC HR Audio Playerというものを起動し、Configureで「TEAC ASIO USB DRIVER」を選択すればいいだけだ。さらにMacの場合は、もっと簡単で、ドライバをインストールする必要もない。UD-501はUSB Class Audio 2.0の仕様になっているので、Macならそのまま使えてしまうのだ。Macの場合は「TEAC USB AUDIO DEVICE」が設定されているのを確認すればOKだ。
Windowsの設定画面には「Decode mode」というのがあるが、これを「DSD over PCM」を選択すればDoPとして動作し、「DSD Native」を選べばASIOで動作するようになる。MacにはASIOが存在しないため、DoPのみのサポートであるため、この項目は存在しない。
そのほか、Windows側、Mac側双方に、「Audio Data Handling」という項目があるが、標準の「Native」の設定であれば、HDDからのストリーミング再生となるが、「Expand to RAM」に設定すると、オーディオデータをいったんメモリーに展開してから音を出す形になる。DSDのデータの場合、あまり関係はなさそうだが、FLACなどの圧縮データの場合、いったんWAVに解凍してRAMに置いて再生するため、再生時には負荷も軽く、高音質での再生が可能になるというのがポイントとのことだ。
実際、このプレーヤーで再生してみたが、とにかく簡単で、初心者であっても戸惑うことはまったくなさそう。あまり複雑な機能を持ったプレーヤーではないが、DSFに限らず、DSDIFF、WAV、FLAC、MP3の各フォーマットの再生が可能で、プレイリストの保存などもできるので、便利に使えそうだ。
DSDで再生を行なうと、UD-501のディスプレイ上ではDSD再生である旨の表示がされる。また、DSD動作時に機能するアナログFIRフィルターが選択できるようになっており、デフォルトのFIR1(fc=185kHz、Gain=-6.6dB)のほかにFIR2(fc=90kHz、Gain=+0.3dB)、FIR3(fc=85kHz、Gain=-1.5dB)、FIR4(fc=94kHz、Gain=-3.3dB)の選択ができ、微妙な音の違いを楽しめるのも楽しいところだ。
コルグ「DS-DAC-10」
次はコルグのDS-DAC-10。こちらは今回の3機種の中でももっともコンパクトな機材であり、電源もUSBからの供給でACアダプタなども不要であるため、トータルで見てとにかく小さいのが特徴。小さいだけに、UD-501のようなディスプレイ表示はないが、フロントにLEDが並んでいて、サンプリングレートによって切り替わるようになっている。確認してみたところ、PCMで44.1kHz、88.2kHz、176.4kHzの44.1kHz系は緑、48kHz、96kHz、192kHzの48kHz系はオレンジ、そして2.8MHz、5.6MHzのDSD系は青が点灯する。
このDS-DAC-10はDoPに対応しておらず、ASIOでの利用となるため、Macは基本的に非サポートとなっている。ただし、Macでまったく使えないというわけではなく、PCMであれば再生できる。コルグのWebサイトからダウンロードしたドライバをインストールした後、同じくコルグのWebサイトにあるフリーウェア(コルグのDSD製品のユーザー以外は、Twitter登録/ツイートが必要になる)のAudioGateをインストールすることで、DSDデータのネイティブ再生が可能になる。
環境設定においてドライバの種類を「ASIO」に、ドライバ名を「KORG USB Audio Device Driver」に設定した上で、サンプリング周波数を「Auto」に設定しておけば、オリジナルデータのフォーマットでの再生ができる。もし、このサンプリング周波数を「2.8MHz」と設定すると、WAVでもMP3でも自動的にDSD64の2.8224MHzにアップサンプリングされて高音質再生されるというのもちょっと面白いところだ。リアパネルを見ると、アナログ出力のほかに、DIGITAL OUTというものがある。これはS/PDIFコアキシャルの出力であり、PCMデータの場合に機能し、DSDの場合は無効となるようだ。
ラトックシステム「RAL-DSDHA1」
3つ目はラトックシステムのRAL-DSDHA1。これもコンパクトなボディーだが、ACアダプタが必須であるためこれと合わせると、DS-DAC-10との比較ではちょっと大きい印象。リアに用意されているのはシンプルにアナログライン出力のみとなっている。
フロントにはDS-DAC-10と同様に動作モードを示すLEDランプがあり、DSDで動作する場合にはDSDのランプと、176.4kHzのランプの2つが点灯するようになっている。またフロントにあるHigh、Lowの切り替えスイッチは、ヘッドフォンジャック用のレベル切り替えとなっている。
先ほども紹介したとおり、このRAL-DSDHA1はDoPのみの対応で、ASIOでのDSDネイティブ再生には非対応。また、UD-501と同様でUSB Class Audio 2.0対応のデバイスであるため、Macの場合はドライバのインストールは不要だが、Windowsの場合は付属ドライバのインストールが必要。なぜか、このドライバがラトックシステムのWebサイト上では公開されていないため、ドライバをなくさないよう、バックアップなどをしておく必要がありそうだ。
ほかの2製品と比較して、明らかな違いとして感じるのは、付属のプレーヤーソフトが存在しないこと。そのため、DSDを再生する場合、WindowsであればDoP対応での再生が可能なプレーヤーであるfoober2000やHQPlayer、またMacではAudirvana Plusなどの使用が不可欠。そして、この設定がなかなか面倒なので、初心者にとっては、かなりハードルが高いように感じる。
また、慣れている人にとっても、DoPはちょっとわかりくく、実際に音が出るところまで持ってくるには、時間がかかるのが実情だ。AV Watchでも以前、RAL-DSDHA1をfoober2000で使うための詳細な記事を掲載しているので、それが参考になるだろう。ただし、そのときと比較すると「foo_dsd_asio」のバージョンが上がった関係で、少しパラメータが変わっている。ASIO Driverは以前と同様、「RALdsdha1 ASIO Driver」を選択した上で、DSD Playback Methodとして「DoP Maker 0x05/0xFA」を、そしてPCM to DSD Methodとして「SDM type A」を選択しておく必要があるので、ここは注意しておきたい。
一度、音が出てしまえば、あとは特に困ることはないが、初心者用にぜひ標準プレーヤーを用意していただきたいところだ。なお、使っていて気になったのが、無音時のノイズ。ハムノイズというほど低音ではないのだがブーンというかすかな音がヘッドフォン出力に乗ってしまうのだ。ライン出力側では無いように思えたし、音を出しているときはほとんど気にならないレベルではあるのだが……。
以上、DSDに対応した国産のUSB DAC、3製品についてハードウェア仕様を中心に見てきたが、いかがだっただろうか? 似たような製品に見えて、実はいろいろと違いがあることがわかったと思う。次回は、ソフトウェア的に見た互換性などについて検証してみる予定だ。
UD-501-S | DS-DAC-10 | RAL-DSDHA1 |
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