小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第645回:【年末特別企画】Electric Zooma! 2013年総集編

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第645回:【年末特別企画】Electric Zooma! 2013年総集編

全録やレンズだけカメラなど、安定と革新が混じる一年

尖った製品も増えた2013年

 毎年恒例の総集編である。例年もうそんな時期か、と思って書いているのだが、今年はクリスマスと重なってかなり年末感漂う中これを書いている。

 今年はアベノミクス効果もあってか、景気向上が感じられた1年ではなかっただろうか。メーカーの戦略も「良いものを安く大量に」から、「多少高くてもピンポイントで尖ったものを」という戦略にシフトしつつあるように感じる。

 さて、今年取り上げた製品をジャンル別に分類すると、カメラ×19、レコーダ×12、映像周辺機器×6、タブレット×4、オーディオ×5となった。特集やショーレポートは除いている。

 カメラは相当多いが、純粋なビデオカメラは10で、それ以外はデジタルカメラである。動画専門のレビューとは言え、もはや半分がデジカメレビューという時代になったわけだ。

 レコーダは今さら大革命は起こらないジャンルではあるが、相変わらず安定の人気商品である。昨年わりと多かったスマートテレビ関係の製品は目立った製品が無く、代わりにタブレットがそのポジションに滑り込んだ格好だ。

 ではジャンル別に今年のトレンドを分析していこう。

カメラ篇

ソニーの空間光学式手ブレ補正+プロジェクタ搭載ビデオカメラ「HDR-PJ790V」

 デジカメのレビューが増えたとは言え、記事としてよく読まれたのは、ソニー「HDR-PJ790V」だった。レンズそのものが動く空間光学式手ブレ補正と、プロジェクタを組み合わせたモデルだが、他機種を含めたラインナップとしては、空間光学手ブレ搭載を下のモデルにも展開したことで、間口を大きく広げたことは間違いないだろう。

マイクを本体から離した位置に固定するなど、プロ機的な発想も取り入れた意欲作だった。競合他社も手ぶれ補正についてはもはや追従不可能なレベルになっており、この点ではもはやソニーの独走と言える。

 ただ、旧来のビデオカメラ市場は年々縮小が始まっており、今年の結果はまだ出ていないものの、金額ベースでおそらく前年比80%~75%程度に減少するのではないかと言われている。

 だがその内訳を見ると、これまで存在しなかったタイプの製品、いわゆるスポーツ系のアクションカムや、音楽撮り専用機といった、特定用途への絞り込み商品へと、ビデオカメラ全体が変化している。これらは一般的なビデオカメラよりも単価が安いため、数が出ても金額的には減る傾向はある。

 自分撮りに特化したキヤノンの「iVIS mini」も面白い製品だったが、キヤノンオンラインショップでしか売られていないので、触れる機会が少ないのは残念だ。ソニーの「HDR-MV1」は、アクションカムとICレコーダ技術を合体させる事で、音楽演奏の撮影に特化させるというユニークな付加価値を創造した点で評価できる。

JVCのアクションカメラ「GC-XA2」
自分撮りに特化したキヤノンの「iVIS mini」
ソニーの音楽演奏撮影用カメラ「HDR-MV1」
JVCの4Kカメラ「GY-HMQ30」。レンズはFマウント
ソニー初の民生用4Kカムコーダ「FDR-AX1」

 こうしたカメラとは逆方向とも言える4Kカメラも、廉価業務用機/ハイエンドコンシューマ機グレードの製品が出てきた。JVCは以前から発表していたニコンFマウントを採用した4Kカメラ「GY-HMQ30」を投入、ソニーはハンディカムシリーズとして初の民生用4Kカムコーダ「FDR-AX1」を投入した。

 来年から始まる4K試験放送に向けて、撮影や映像制作方法の模索も始まっている。その一方で、一般の方が4Kコンテンツの入手方法がないにも関わらず、4Kテレビはもう売り始めているというバランスの悪さがある。ハイビジョンテレビの時も同じだったが、この矛楯を解消するには、あとどれぐらいのタイミングで普通の人が買える4Kカメラが投入されるかにかかっている。

 ただ、カメラから再生するぶんには問題ないが、それをバックアップしたり編集したりするのは大変だ。24pならまだいけるが、60pともなると普通のPCではマトモに再生すらできないのが現状である。年内発売と言われていたアップルの4K対応新「Mac Pro」の受注がようやく12月からスタートしたが、これでどれぐらいやれるものなのか、年明けのいいタイミングでテストしてみたいと思っている。

ミラーレスでフルサイズのソニー「α7」
AFマウントアダプタ「LA-EA4」

 一方、デジタルカメラも、最近は動画にフォーカスしたカメラはもう別物扱いになってしまい、普通のモデルで“動画を強化した”というフレーズは聴かれなくなった。だが実際に撮ってみると、以前はフルオートでしか撮れなかったものが、絞り優先やシャッタースピード優先などのモード選択ができるようになっていたり、AFもそこそこ効いたりと、あからさまに「まあ動画はオマケですからね」と言った逃げをしてこなくなった。

 もちろん、ビデオカメラと比べてしまうと難がある部分もあるが、ちょっとした動画撮影ならもうデジカメで十分使える。ソニー「α7」は、ミラーレスのボディサイズにフルサイズセンサーを仕込んだこと、像面位相差AFを備えた事、さらにはフルサイズ用の高速AFマウントアダプタ「LA-EA4」(AマウントレンズをEマウントに装着)が出たことで、動画にも大きなインパクトを与えた。

 2012年以降後継機が出ていないビデオカメラスタイルのNEX-VGシリーズが今後どうなるのかは不透明だが、このマウントアダプタと、フルサイズ用Eマウントレンズが揃ってくれば、また話も違ってくるのではないか。

 キヤノン初のミラーレス「EOS M」は、CMOSセンサーの上に位相差AFを搭載し、コントラストAFも併用できる「ハイブリッドCMOS AF」を搭載したが、レビュー時にはフォーカスに難があった。続いて8月に発売された「EOS 70D」では、1画素を独立した2つのフォトダイオードで構成し、像面位相差AFとコントラストAFの両方が使える「デュアルピクセルCMOS」を搭載して話題となった。

 これがそのままEOS Mの後継機に載れば最高だったのだが、残念ながら12月中旬発売の後継機種「EOS M2」には「デュアルピクセルCMOS」は載らなかった。このCMOSはまだしばらく高級路線で行くのかもしれない。

キヤノン「EOS M」
「デュアルピクセルCMOS」搭載の「EOS 70D」
ソニー「DSC-QX10/100」

 センサーということでは、ソニーが1インチのCMOSをコンパクトカメラに搭載し、多くのバリエーションを産みだした。特に「DSC-QX10/100」は、ほぼレンズだけという思い切ったコンセプトで、センセーショナルに市場に受け止められた(センサーサイズはQX100が1インチ、QX10は1/2.3型)。

 なお本連載では取り上げなかったが、同じ1インチセンサーを搭載したネオ一眼「DSC-RX10」も、動画撮影機としてレベルが高い。

レコーダ篇

 テレビ離れ云々も最近はもうすっかり当たり前になったのか、ネットでも騒がれることもなくなってきた。その反面、レコーダのレビュー記事は人気が高く、多くの人が購入の参考にしてくれたようだ。もっともこれは、レコーダをレビューする媒体が少なくなったという事情もあるかもしれない。

 今年のトレンドは、いわゆる全録レコーダの充実だろう。2月にはパナソニック初の全録機「DMR-BXT3000」が登場、シャープからは放送局1つだけ全録できるという「BD-T2300」が投入された。

 DMR-BXT3000は、安定のDIGAを全録にしたらどうなる? といった作りで、最初からBSもCSも合計3チャンネルまで全録できるのは、有料放送を契約している人には便利だろう。

パナソニック初の全録機「DMR-BXT3000」
1chだけ全録できる、シャープ「BD-T2300」

 全録にレコーダとしての活路を見出した東芝は、夏に「DBR-M490」、秋に「D-M470」と、1年で2モデルも投入してきた。特にM470はBlu-rayドライブを取っ払い、小型かつ低価格で衝撃をもたらした。

東芝全録機の二代目「DBR-M490」
光学ドライブを省き、コンパクトで低価格な「D-M470」
ワンセグ全録「ガラポン参号機」

 また、変わり種として、ワンセグを全録するという「ガラポン」の3世代目、「ガラポン参号機」も登場した。これは筆者も個人的に購入して、SNSで話題になった番組をチェックする、キーワード検索でトレンドを調査するなど、タイムマシン兼情報データベースとして活用している。

 その一方で、家のレコーダ内の録画番組をネット経由で外から視聴するというソリューションが、多くのレコーダで本格的に実現した。これは昨年10月に、DTCP-IPのルールが緩和されたことが大きい。

 また、レコーダと、録画番組を視聴する専用モニターを組み合わせて使う「DIGA+」も、モニターの後継機が出て、使い勝手が良くなった。さらにDTCP+への対応で、屋外から録画番組を視聴する環境も整ってきた。DIGAのオプションであるDTCP+サーバー「DY-RS10-W」などだ。

 新デザインの本体やリモコンの使い勝手が向上したソニー「BDZ-ET2100」では、同時期に発売されたスマホXperia Z1にフルHDで無線転送できる機能を搭載。スマホを中心に機能を強化する方向に出た。

DIGA「DMR-BZT860」と新ディーガモニター
DIGAとDTCP+サーバー「DY-RS10-W」
角を大胆に切り落としたデザイン、ソニー「BDZ-ET2100」

タブレット篇

 2012年の秋頃から、“Google v.s. Amazon”といった構図で7インチタブレットが大幅に安くなった。これにより、電子書籍ではなくAV端末としてもっと活用できないか、という模索が始まったように思う。これまではレコーダと同じメーカーのタブレットじゃないと連携ができないという縛りもあったが、もうそういう時代でもないのはあきらかだ。

 Amazonの「Kindle Fire HD」、「Kindle fire HDX」は、オーディオの再生性能が高いのがポイントである。モノとしての品質も高く、エンターテイメント向けのタブレットという位置付けが明確だ。ただAmazonのエコシステム内で使うだけなら快適だが、一般的なAndroidタブレットとは違う点は注意が必要だろう。

Kindle Fire HD
11月に発売された8.9インチの「Kindle Fire HDX 8.9」、7インチの「Kindle Fire HDX 7」
マイクロソフト「Surface RT」

 一方でWindows 8タブレットも今年多くの製品が投入されたが、本家マイクロソフトの「Surface RT」の評判は散々だったようだ。やはり多くの人がWindowsに求めているのはエンタテイメントやソーシャルのコミュニケーションじゃないというのが明らかになった。

 ところが8インチのWindowsタブレットは低価格ということもあって、ビジネスユースよりも「艦これ」ユーザーに大ヒットするなど、妙な盛り上がりを見せている。この市場動向の“変”加減も、アキバ文化を擁する日本ならではと言える。

 ASUSの「TransAiO P1801」は、タブレットに分類していいのか微妙なところではあるが、Windows機のディスプレイが取れてAndroidになるという発想はなかなか面白かった。ただ、日本の家庭においてそうする必要がどこにあるのかと問い詰められると、難しいところである。

 ノートPCからタブレットへの移行も、要するにライトな使用なら薄くて軽くて電池持つ方がいいよね、という理屈だった。だがHaswellの出荷開始でノートPCも薄くて軽くて電池持つ、しかも処理能力が高いということで、また棲み分けが混沌としてきている。さらにスマートフォンも大型化の傾向があり、もはやミニタブレットと重なりそうである。来年これがどうなるのか、一つの見所になるだろう。

オーディオ篇

自作したスピーカー

 以前からもう少し強化したいと思っていたオーディオネタだが、どれも人気の記事となった。意外にアクセスが多くて安心したのは、自作スピーカーの記事である。手軽にできる材料でトライしたのが良かったのだろうか。ただ材料費は安いが、これ結構工具代がかかっているので、トータルのコストとしては全然安くない。せっかく買った工具を生かして、またこういう企画をやってみたい。

パナソニック「SC-LT205」

 また昨年のNECに続いてシーリングライトと組み合わせるパナソニックの天井スピーカー「SC-LT205」は、読者からの注目度が高かった。スピーカーの置き場に困っている人が多いのか、それとも環境音を楽しみたいという人口が増えたのかわからないが、この方向性はどうも日本家屋ではウケがいいようだ。

ただ現時点での難点は、いかにも上の一点から音が鳴ってますと聞こえることで、もう少し自然に拡がるような工夫が欲しいところだ。日本のオーディオメーカーの本気が見たいところである。

 どんどん連結できるクリエイティブのBluetoothスピーカー「D5xm」は、記事としてのアクセスはそれほどでもなかったのだが、あるイベントプロデューサーからは、「まさに探していた製品」として大変感謝された。多くの部屋に別れたイベントで、一斉にアナウンスや音楽を流す装置として重宝しているそうである。

 従来であれば業務用機を借りてきたり、館内放送でなんとかしたりと結構苦労していたそうだが、一般家庭より業務ユースのほうが使えるとは思わなかった。

 一方、今年はBluetoothスピーカー・ヘッドホン類が豊作で、NFCによるペアリングもだいぶ環境が整ってきた。省電力技術も進み、小型ながら結構長時間バッテリがもつものも多い。スマホ用イヤフォンは以前から人気が高いジャンルだが、それにプラスする形でオーディオアクセサリは盛り上がりを見せている。

Creative D5xm
Bluetoothスピーカー特集も行なった
スポーツ向けBluetoothイヤフォン特集で試した製品

映像周辺機器

 映像周辺機器というか、上記ジャンルに入らなかったもの大集合ということなのだが、今年はテレビとスマホをどうにかしようという動きの萌芽が見られた。例えばauの「Remote TV」は、レコーダをリモートで操作してスマホで番組視聴しようというものだし、テレビをMiracast対応にする「ミラプレ」はスマホ画面をテレビに出す事で、コンテンツスクリーンにしようという製品だ。

auの「Remote TV」
アイ・オー「ミラプレ」

 通信業界は今さらコンサバとは思いつつもテレビの影響力は大きいと考え、テレビ業界は斜陽と言われつつもITの力を借りてなんとか盛り返したいと思ってるんだから、双方からガッチャンコすればいいと思うのだが、どちらも主導権はこっちが握ると思っているので、Win-Winの関係になってこない。

 来年期待されるハイブリッドキャストの普及も、テレビ業界が仕掛けた話とはいえ、IT業界が乗ってこなければのまったく見向きもされない可能性もある。テレビとITのもっと前向きな融合が実現されることを願いたい。

総論

 以上、今年取り上げた製品をまとめてみたが、トレンドは掴めただろうか。今年は派手な世代交代や、これまでなかったものの登場といったトレンドはそれほど見られなかったが、停滞感はさほど感じられなかったように思う。確実にグレードが上がって、これまで今一つと思っていたものが、そろそろ買い時になってきたのを感じる。

 製品サイクルという意味では、レコーダ、ビデオカメラ、オーディオ製品は息が長く、それほど急いで欲しい製品でなければ、今年発売のモデルをこの年末年始に買うと、値頃感も相当あるのではないだろうか。もっとも大人はお年玉をあげる側なので、財布は余計に寂しくなるかもしれないが。

 来年の注目ポイントとしては、日本が世界に先がけてぶち上げた4K放送に向けて、一過性のブーム扱いにならず継続的に興味を喚起できるか、といったところだろう。また液晶の高解像度化により、ハイレゾリューションのタブレットも注目を集めそうだ。このディスプレイ技術をうまく使えるソリューションは何か、どこもまた一つのポイントとなるだろう。

 さらに、先頃文化庁で始まった、「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会-著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム」の動向も注意が必要だ。これは現在国外では行なわれている様々なクラウドサービスや、メディア変換サービスを実現するために、日本の著作権法を整備するための会議である。

 iTunes Matchのような米国発の画期的なサービスが日本で導入されなくて、もう諦めている人も多いと思うが、ぜひ実りある議論で明るい結論をお願いしたいものである。

 以上、今年のElectric Zooma!はこれにて終了である。来年は2年ぶりとなるCESレポートでお目にかかる予定だ。それでは皆様、良いお年を!

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。