“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第543回:来るか全録ブーム! バッファロー「DVR-Z8」

~8チャンネル8日間録画で10万円を切る低価格~


■究極の録画方式登場

バッファロー「DVR-Z8」

 さて先週の総集編でお約束した通り、今年最後の連載は期待の全録レコーダ、バッファロー「DVR-Z8」のレビューをお送りする。

 レコーダは本コラムでも非常に人気の高い分野で、やはり新モデルが出たとき、あるいは購入を検討するときには皆慎重に下調べをするようだ。それだけ機能が複雑化して、誰かがポイントをまとめないとわからないという証拠でもあるのだが、案外高価格商品のテレビのほうが、イメージだけでポンと買っているような印象がある。レコーダは買った後の使い勝手で、大きく後悔する部分が大きいのだろう。

 さて、レコーダにおける「番組表を見て録画予約」というソリューションは、太古の昔から……とは言わないが、1975年ベータマックスの誕生の瞬間から連綿と、もう36年間も続いている。やがてレコーダ自体に番組表が載るようになり、ダブルチューナで裏番組が録画できるようになり、あるいはユーザーの好みを自動録画するようになり、と進化してきた。

 そしていよいよ、36年間慣れ親しんできた「録画予約」という行為に別れを告げることになるかもしれない。全録レコーダの登場だ。

 いわゆる全録製品は、過去にはソニーの「Xビデオステーション」、PTPの「SPIDER」などがあったが、これらはアナログ放送時代の製品である。PTP SPIDERはすでに法人向けモデルのみ地デジ版を製品化しているが、個人向け製品リリースは今年の年末予定となっている。

 地デジに対応した他の製品としては、これまでワンセグをフルタイム録画するソフィアデジタルの「ARecX6」、「ガラポンTV弐号機」がある程度で、フルセグの製品が待たれていたが、ようやく東芝のレグザサーバー「DBR-M180」が12月10日に発売されたばかりだ。こちらのほうは、また改めて年明けにレビューする機会があるだろう。

 全放送、少なくとも地上波をフルタイム、1週間程度保持できるというあたりが、全録レコーダの基本機能となる。あとは検索・書き出し・ネットワーク機能で差別化することになるだろう。

 本来ならば年末に出るはずだったバッファロー「DVR-Z8」は、現在発売が延期となり、来年に持ち越すことになるようだ。残念ながら年末年始番組に間に合わなくなってしまったが、すでに動作実機はあるということなので、お借りしてみることにした。なお試作モデルであるため、最終的な仕様は変更される可能性がある。

 店頭予想価格は10万円前後となっているが、すでにネットの予約では8万円代前半まで下がってきているようだ。低価格と言う面でも注目の全録レコーダ、その実力を検証してみよう。




■意外に? 普通のレコーダ的外見

見た目は平形のレコーダスタイル

 バッファローはご存じのようにPC周辺機器メーカーなので、全録レコーダも全く違うデザインで作るのかなと思ったのだが、案外オーソドックスな平形レコーダスタイルで出してきた。テレビの下に入れるという宿命だと、どうしてもこの格好が無難ということになってしまうのかもしれないが、思い切って従来にない製品らしいルックスは欲しかったところだ。

 ただ表面にボタンらしいボタンがまったくなく、電源ボタンすらないというのはある意味インパクトがある。前面パネルはブルーの半透明素材になっており、見た目が綺麗だ。ここは両脇のポッチを押して手前に引っぱれば、スポッと抜けるフタ状になっている。動作中は表面に刻まれたスマイルカーブのところに青いLEDが光る。

表面のスマイルカーブ部分にLEDが

 操作のために空ける必要はまったくないのだが、一応中を見てみよう。内部にはミニB-CASカードがずらりと8枚入っている。さらに背面にももう1枚入っている。前面は常時録画用の8チューナぶんで、背面のは別途予約録画するための1チューナぶんだと思われる。


内部にはミニB-CASカードが8枚背面にも1枚挿入

 ただ東芝のレグザサーバーは、ミニB-CASカード1枚と赤B-CASカード1枚だと聞いている。西田氏のインタビューによると開発スケジュールの問題とのことだが、カードが増えればそのぶんスロットやカード自体のコストもかかり、結局はそれが価格に反映されるわけで、その点はちょっと残念だ。来年7月からはソフトウェアでの新保護方式の運用が始まる見込みである。この動きは将来の全録レコーダに与える影響は少なくないはずだ。

 内蔵HDDは2TBで、そのうち1.7TBを全録領域に使用する。残りの約300GBは、録画された番組を別に保存しておくための領域に使用する。

 録画モードは3種類で、8チャンネル録画時の保有期間は以下のようになっている。

録画モードビットレート保有期間
(8ch時)
保有期間
(4ch時)
高画質約8Mbps2日4日
標準画質約4Mbps4日8日
低画質約2Mbps8日16日

 録画チャンネルはユーザーが自由に指定することができる。都心部ではU局を入れれば8ch埋まってしまうが、地方ではそんなに使わないだろう。その場合は録画チャンネルを減らすことで、保有期間を延ばすことができる。例えば4chしか録画しなければ、標準画質でも8日、低画質なら16日に延びるわけだ。

 背面は実にシンプルで、AV系は地デジのアンテナ入力とスルーの他は、アナログAV出力とHDMI出力、光オーディオ出力があるのみ。LAN端子はあるが、DLNAなどのホームネットワーク機能には対応していない。

 USBは外付けHDDが接続できる。ただ全録領域は拡張できず、そこからのムーブ・コピー領域がこれによって拡張できるということである。電源はACアダプタを接続するスタイルで、レコーダとしては異例といっていいだろう。

 リモコンも見ておこう。上部は普通に放送番組の視聴として12キーがある。小さくタイムシフトボタンがあるのがちょっと普通と違う点だ。

最小限の接続端子に絞ったシンプルな背面電源はACアダプタを使用やや小ぶりなリモコンが付属

 あとはメニュー操作用の十字キーとその周りに4つのボタン、再生、早送りなどの操作ボタンのほか、録画番組一覧という長いボタンがあるのも変わっている。このあたりは実際の操作と照らし合わせて見ていこう。



■初期設定で決心が必要

初期設定はウィザード形式になっている

 普通のレコーダとはかなり違うので、まず初期設定の手順から順に見ていこう。最初にB-CASカードの確認とあるが、これは9枚のカードの状況を確認することになる。サンプル機ではすでにカードが刺さった状態になっているが、製品ではB-CASカードとの貸し出し契約の同意が必要なので、自分で9枚のカードを挿すことになる。

 まず地域設定を行ない、アンテナ線の接続を行なったあと、チャンネルスキャンに進む。その後は全録チャンネルの設定だ。8つのチューナに割り当てる放送局を決める。次にリモコンボタンへの割り当てを決め、画質モードを選択する。せめて1週間分は使えないと全録らしくないので、今回は低画質を選択している。


録画できるチャンネル数は8リモコンの数字キーにチャンネルを割り当て画質モードは3段階

 次に停電後の復帰動作を選択する。実はここが大きなポイントだ。停電などで動作停止し、再起動した時に全録を再開するかの選択である。当然自動で再開して欲しいところだが、こちらを選択すると停電前に録っていた番組が全部消えてしまう。「自動再開しない」という選択をすると、録画されたものは見ることができる。

停電後に自動再開しないと、番組が残る停電後に自動再開させると、番組が消える

 これはどうやら、長時間連続録画する際の録画ファイルの方式を決めているようだ。自動再開にすると、録画ファイルを閉じることなく延々録っているだけなので、停止すれば再生不能になる。一方自動再開しないという選択では、ファイルを定期的に閉じるので動画が助かる、ということのようだ。

 この設定は後でも変えられるが、それまでの録画がパーになるかどうかの瀬戸際を経験することになるので、最初の選択は重要である。今回は自動再開しない方式にセットした。

録画されると「録」マークが付く

 その後、実際の全録がスタートする。電源ボタンがないので、一度電源をさすと、ここまでは一直線だ。設置場所や電源の取り回しポイントなどはよく吟味の上、設定を開始する必要がある。

 全録が開始されると、番組情報が取得され、番組表が作られる。録画されている番組には「録」マークが付けられる。




■シンプル操作、というよりシンプル機能

 さて全録が始まってしまえば、ユーザーは何もすることがない。あとは見たい番組を見るだけだ。ここでもいくつかパターンがある。

録画済みの番組を選ぶと、再生かダビングかを選択できる

 まず完全に録画済みの番組を視聴する場合は、番組表を過去に遡って見たいものを選択する。すると番組詳細情報と共に、再生するかHDDにダビングするかの選択肢が出る。USBにHDDを繋いでいる場合は、外付けHDDへのダビングもできる。

 「再生する」を選んだ場合は、番組先頭、正確には番組枠として確保されている時間の先頭から再生が始まる。早送りは、1.5、2、4、8、16、32、64、128倍速が可能。1.5倍速は音声付き再生が可能で、その他はコマ飛ばしによる無音再生だ。

 そのまま番組を見続けると、なりゆきでそのチャンネルの次の番組が続けて再生される。またタイムシフト再生中にリモコンでチャンネル切り換えを行なうと、その時間の他局の番組に飛ぶことができる。チャンネル切り換えも結構速く、普通に地デジの番組をテレビで見ている時よりも全然速い。アナログ並みの瞬時とは言わないが、地デジであることのストレスはほとんど感じない。このあたりはタイムシフト再生の大きなメリットだろう。

 現在放送中の番組も当然ながら見ることができる。これを担当するのが背面に一つだけ挿すB-CASカードのぶんのチューナだ。ここでリモコンの「タイムシフト」ボタンを押すと、今現在録画しているほうのファイル再生に移動する。実時間よりもだいたい4~5秒遅れたポイントからの再生になるようだ。

 つまり今のシーン見逃したと思ったら、タイムシフトに入って巻き戻せばいいということである。さらにリモコン十字キーの左を押すと、番組の先頭にジャンプして再生が始まる。このレスポンスも上々だ。

 すべての番組を記録している本機だが、過去番組を探す機能はそれほど充実しているとは言いがたい。一般のレコーダにはメタデータからの出演者検索などを実現しているが、そのような機能はない。番組表をどんどん遡って探す方法と、ジャンル検索は実装されているので、そこから探すということはできるというぐらいだ。

メニューボタンを押すと表示されるメニュー全録の検索はジャンルのみジャンル検索の結果

 画質に関しては、今回2Mbpsの低画質で録画している。画質的には番組内容にかなり左右される感じだ。

 フィルム撮りの古い時代劇再放送などは、もともと信号がなまっているせいか圧縮効率は非常にいい。報道番組なども、多少絵柄によっては圧縮ノイズを感じることもあるが、おおむね見られる画質である。アニメに関しても、ドラえもんあたりを見てみたが、画質が悪いとは感じられなかった。

 厳しかったのがバラエティ番組で、セットの背景が電飾でぎらぎらしているようなものだ。先週の土曜日に放送された「THE MANZAI 2011」は、背後の電飾にビットレートが食われてしまい、見るに堪えない画質になっていた。

 オールマイティに見るには標準画質ぐらいにしたほうがいいのかもしれない。画質を変えるために一度録画を停止しようとすると、これまで録画した番組が全部消えるという恐ろしいダイアログが出る。

 だが、実際に録画を停止すると、その場ですぐに削除されるわけではない。録画停止した状態でも過去の番組の再生はできる。そこから必要な番組はダビングするように求められるので、ダビング指定して外付HDDなどに待避することはできる。


全録を停止するとこれまでの番組がすべて消去という恐ろしい表示が全録を停止しても、まだダビング保存のチャンスはある


■普通に予約録画もできる

 番組表には、当然ながら未来の番組も表される。これらはほっといても録画されていくのだが、それとは別に予約録画もできる。予約録画を行なうと、ループ録画領域ではなく、保存領域に直接録画されるため、自動的に上書きされない。

 画質設定などはなく、DRモードで録画される。高画質で見たい番組だけ、この予約方法を利用するという使い方ができるだろう。

 なお、この録画は、生番組を視聴しているチューナを使うため、予約録画が実行されているときは、放送中の別のチャンネルに切り換えることができない。

未来の番組は普通に予約録画も可能予約録画実行中は生視聴のチャンネルが変わらない

 もっともタイムシフトに入って別のチャンネルを見れば済むことではあるが、構造が頭に入っていないと知恵が出てこないところである。このあたりはユーザーの操作に合わせて自動でそういう動作をしてくれるといいだろう。

 ちなみにアナログ版のSPIDERはそのあたりをかなり割り切っていて、最初からライブ視聴ができないようになっていた。しかしそれが故に、生放送というつもりで見ている番組でもシームレスに巻き戻せるという、操作感のメリットが出せるわけだ。

これだけチューナがあるのに重複予約警告が出るのは変な感じ

 なお、録画予約では裏番組を予約しようとすると、重複予約のアラートが出る。これだけチューナいっぱい積んでいて重複予約警告が出るというのも、なんだか違和感を感じるところだ。その場合はタイムシフト録画部分からあとで切り出すような予約の仕方に振ってもよかっただろう。

 予約録画した番組についても、「録画一覧」からジャンル別で探すことができる。この場合は事前にジャンル一覧が出ずに、いきなりジャンル別番組一覧画面まで飛ぶというインターフェースだ。




■総論

 地デジがフルで録れる全録レコーダだが、機能的にはシンプルで、本当に録ってみるだけ、に絞っているのが特徴と言えるだろう。

 もちろんテレビ番組を自分で把握している人、従来型のレコーダユーザーにはまことに便利なものであろうと思われる。友達から「昨日こんな番組があった」と聞いても悔しがる必要は無い。が、ある意味これは「閉じた」世界である。

 例えばSNSで話題になった番組があれば、そのリンクで番組が再生したい。キーワード検索でAKB全出演番組を調べることもしたいだろう。さらに全録レコーダがあれば、自分がテレビ番組のキュレーターとなり得るわけだが、その情報をネットに発信していくのは、自力でやるしかない。

 そのあたりに期待するなら、東芝の全録レコーダということになるだろう。ただ本製品が全録レコーダのハードルを大きく下げていくだろうということは事実で、これがある意味リファレンスモデルとなる。

 機能的にいろいろできるわけではないが、実売価格が下がることでバリューは非常に大きくなる。自分は使わなくても、お子さんをお持ちの家庭に一台導入すると、テレビに対するアクセシビリティの感性は全く違ったものになるだろう。そしてテレビの未来はそうなるべきなのである。

 だがそれを社会側の対応に求めると、おそらくあと5年10年はかかる話だ。各家庭がいちいち全番組を保有しておかないといけないというのは、社会的に見るとものすごいコストの無駄なのだが、放送局自身が全番組オンデマンドに合意しない限り、オンラインでの実現は難しい。

 そう考えると、若干クセはあるものの、「DVR-Z8」は最初の一歩として注目すべき製品である。

(2011年 12月 21日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]