“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

【年末特別企画】Electric Zooma! 2011年総集編

~予測不能なトレンド発生元年~


 12月に入り、そろそろちまたでは年末恒例行事の準備に入っている頃かと思われるが、Electric Zooma!では一足早い年末総集編をお送りする。今年はこれで終わりではなく、あと1本皆さんお待ちかねの全録レコーダのレビューをお送りする予定だが、機材手配のタイミングで先に総集編をやることになったというわけである。

 さて今年のAV業界、というかのんきにAV機器の話なんかやってる場合じゃない年ではあったのだが、そうはいっても我々を楽しませてくれる娯楽の分野がなくてはとてもやり切れない、そんな特別な年であった。東日本大震災だけでなくタイの大洪水による被害で、国内メーカーはかなり大きなダメージを受けているが、それでもきちんと製品をリリースしてくれている。目に見えないところで誰かが頑張ってくれた結果に、ありがたく感謝したい。

 今年取り上げた製品をジャンル別に分類すると、ビデオカメラ系×11、レコーダ系×10、生放送系×5、ビデオ編集×4、オーディオ×3、周辺機器×3、ポータブルデバイス×2となった。特集やショーレポートは除いている。

 カメラ系の話題はやはり多いが、今年は新ジャンルとして生放送系という分野が盛り上がった。昨年からその兆しはあったのだが、震災をきっかけに市民ジャーナリズムとしてプレイヤーが増えたというのは、興味深い傾向だ。では順に分析していこう。



■ビデオカメラ篇

JVCの「GC-PX1」。1080/60pのMPEG-4/H.264 35Mbps、VGAクラスの5倍ハイスピード撮影、570万画素の静止画を秒間60コマ撮影に対応した異色のカメラだ

 ビデオカメラでの大きなトピックは、今年7月、AVCHDの規格が2.0となり、新たに1080/60pと3D記録が正式にサポートされたことだろう。既に昨年から60p記録のカメラはちらほら出てきてはいたが、それぞれが独自規格という格好にならざるを得なかった。

 そうなると、それをサポートする機器の方も同一メーカーでなければ再生・保存が保証されないという事態になり、なかなか広がらない。だが規格化されればBlu-rayレコーダ側でも対応が可能になる。

 60p化の特徴としては、ビデオカメラ側ではなくデジカメ側からのアプローチが積極的だということだ。海外動向は来年のCESを見てみないと何とも言えないが、日本においては動画のメインストリームが、ビデオカメラからデジカメに移りつつあると言ってもいいかもしれない。


ソニーの1080/60pが撮れるコンパクトデジカメ「DSC-HX9V」ソニーの「NEX-5N」と交換レンズ群。マウントアダプタを使う事で、α77、65、55で採用されているトランスルーセントテクノロジーによる高速AFが、NEXでも使える同じくソニーの「NEX-VG20」。撮像素子と画像処理エンジンが新しくなり、1080/60pや24pの撮影ができるようになった

 AVCHD 2.0でサポートされたもう一つ、3Dだが、こちらも対応カメラが発売された。今年頭のCESで発表されたものが順次発売された格好だ。

 隠し球はやはりソニーの「DEV-3」だろう。双眼鏡ベースの3Dカメラなのか、3Dカメラベースの双眼鏡なのか意見がわかれるところだが、ごつい筐体の割に使いやすかった。ある意味3D技術のものすごくナチュラルな形と言えるかもしれない。

 ただ現在3Dで映像を撮ることにニーズがあるかと言えばなかなか厳しいようで、記事のページビューのほうも3Dカメラは全体的に低調であった。撮ってみれば面白いのだが、マスのユーザー層では「興味ない」というところなのかもしれない。

JVC「GS-TD1」は、家庭用ビデオカメラとして世界初のフルHD 3D撮影に対応したモデルだソニーの3D対応ビデオカメラ「HDR-TD10」双眼鏡であり、ビデオカメラでもあり、3D撮影も可能な異色モデル、ソニーの「DEV-3」

 本コラムでは取り上げていないが、3Dビューワーとしてソニーの有機EL HMD「HMZ-T1」、富士フイルムのフォトフレーム「FinePix REAL 3D V3」のような低価格機器も出てきている。見る装置が5万円程度で買えるのであれば、いろいろやってみたいという人はいるのではないだろうか。



■レコーダ篇

 レコーダも非常に根強い人気のある分野である。各メーカーとも機能的に、もはや やることはないんじゃないか、あるいはそれ以上やっても誰も違いがわからないんじゃないかと思われるレベル到達したと思われるが、それでもまだ先がある。

 トリプルチューナの搭載、外付けUSB HDDによる増設と、リソースの追加で稼いだ1年と言えるだろう。

トリプルチューナを搭載したパナソニックDIGA「DMR-BZT900」USB HDD増設に対応し、2番組同時AVC録画にも対応した、東芝の「RD-BZ810」3チューナ、USB HDD記録に対応したソニーのハイエンドレコーダ「BDZ-AX2700T」

 そしてその次、来年来るのは「全録」ブームである。すでに今年ガラポンTVが発売されたが、東芝「DBR-M190」、「DBR-M180」、そしてバッファロー「DVR-Z8」が控えている。レコーダ部門はシンプル&低価格で攻めるPC周辺機器メーカー、高付加価値で逃げる家電メーカーという図式が繰り広げられることになるかもしれない。

東芝のレグザサーバー「DBR-M190」。タイムシフト用に4TB、通常録画用に1TBのHDDを搭載DBR-M180はタイムシフトに2TB、通常録画に500GBを搭載8チャンネルを8日間できるバッファローの全録レコーダ「DVR-Z8」
ワンセグの全録が可能なガラポンTV弐号機アイ・オー・データからは単体のBDドライブとデジタルチューナ、USB HDDを組み合わせ、レコーダのように使うというソリューションも登場したレグザサーバーではないが、多機能なBDレコーダである東芝「DBR-Z150」。録画番組や放送中の番組を対応タブレットに転送できるなど、タブレットやスマホとの連携も今後のトレンドになりそうだ


■生放送篇

 今年大きく開花したのが、ネットの生放送関連機器ではないだろうか。しかも自宅やスタジオからの放送ではなく、屋外やイベント会場からの中継が可能になったという背景から、多くのサポート機器が登場した。

 もちろんその背景には、モバイルルーター接続回線の高速化と安定性、カバー率の拡大がある。ちょうどいいタイミングで様々な条件が揃ったところに、多くの人が流れ込んできているというのが現状だ。

BlackMagicDesignの「ATEM 1M/E」

 BlackMagicDesignの「ATEM 1M/E」は、本格スイッチャーとしては格安で、個人的には神機認定だが、ほとんどの人は本格的すぎてぽかーんとした状況だった。しかし今後はこういった映像クリエイティブ機器が、楽器と同じような状況で長く定着していくことと思われる。

 Webカメラで細々と放送という次元から、マルチカメラ、マルチマイクを使った本格的な現場構築が低価格でできるようになっている。方法論としてはプロ機器からレベルを下げていく方向性と、IT機器を使ってレベルを上に上げていく方向性に二極化していくのではないかと思われる。


 そんな中で「TapStream」はiPhone、iPad、iPod Touchだけで簡単に構築できるマルチカメラシステムで、もっと活用されてもいいはずだ。VR-3もまだ発売されたばかりで動向がわからないが、低価格故にかなりの現場でスタンダードに使われていくだろう。

またHDMIカメラから簡単にPCレスでどこからでも中継できるLive Shellはfacebookで開発者を交えて情報交換が始まっており、こちらは移動しながらの放送で新しいスタンダードを形成するかもしれない。

iPadやiPhoneなどを使い、マルチカメラ配信が行なえる「TapStream」iPhoneでも高品質な音を収録しながら、配信が行える Fostex「AR-4i」ネット配信に特化した機能を搭載し、低価格化を実現したAVミキサー、ローランド「VR-3」


■変化する編集へのニーズ

 ビデオ編集という作業も、時代とともに変わりゆくものの一つだ。アナログ放送時代は、録画番組をCMカットして何かにまとめるという作業がPC上で行なう編集作業のメインストリームを占めており、それ向けの製品も多かった。

 一方デジタル放送時代になってからはそのような作業が難しくなり、メインはAVCHDのダイレクト編集であったり、デジカメ、ケータイ動画の編集に移り始めている。

 もう一つの変化は、Windowsのみの話だが「CUDA」や「Intel Quick Sync Video」などのハードウェアアクセラレーションを使用するエンコーダが増えたことだろう。CUDAはnVIDIAのグラフィックスカードが必要だが、Quick Sync Videoは対応CPUさえあれば高速化できる。もっと広く普及する技術だろうが、今のところあまり大きなニーズらしいニーズがないのが残念だ。

TMPGEnc VMW5LoiLoScope 2

 一方Appleでは、iPhone、iPadで撮影から編集までを完結するソリューションを進めている。今年出たiPad 2対応iMovieの登場で、もうそれでいいという人はそれ以上が必要ない環境が出来た。ただ日本でそれほど活用されているというイメージはない。おそらく利用シーンやテンプレートなどが、米国向けソリューションになっているところに馴染みの悪さがあるのかもしれない。

Final Cut Pro X

 Mac用の編集ソフトとしては「Final Cut Pro X」のリリースは、いろんな意味で衝撃的だった。iMovie的なアプローチをプロの現場に持ち込むことで、作業で必要なパラメータをどんどん自動化していくというアプローチは、プロユーザーに近いほど抵抗がある。筆者のまわりでもXに乗り換えたユーザーは少なく、先日のInterBEEではかなりのユーザーがAvid Media Composerに乗り換えを検討している姿が目に付いた。

 自分のスタイルで自由に編集ができる、編集権を持ったユーザーならいいだろうが、日本の映像業界の中で編集者の立場は弱いので、なかなかツールが変わることで表現やワークフローが変わることが許されない。実績のあるツールに流れていくのは、仕方がないことだろう。Appleが今後どういうビジョンでプロ映像業界を考えているのか、気になるところである。




■総論

 来年の予測としては、ビデオカメラは順調にデジカメ勢に吸収されていくだろう。一眼はミラーレスが主流になり、ビデオでもレンズ交換が好まれることになりそうだ。

 コンパクトデジカメは非常に低価格化が進み、付加価値として動画撮影機能の強化、あるいは昔の三洋Xactiのように動画を撮影しながらの静止画撮影といった両方撮りブームがもう一度来るかもしれない。

 動画フォーマットとしては、60pがいよいよメインになりそうだ。液晶テレビとの相性がいいことも、一つのメリットである。2K、4Kも撮像素子ができあがりつつあるが、コンシューマに落ちてくるのはまだ当分先だろう。いかんせんディスプレイがほとんどないので、撮っても見られないのでは始まらない。まあ2Kぐらいなら低価格なPCモニタで対応するものが出てくるかもしれないが。

 3D撮影に関しては、双眼鏡型「DEV-3」のように“3Dであること”の必然性があるものも生まれてきており、ストレートに3D映画だスポーツだという用途以外の「応用製品」が生まれてきた。技術的にはもうだいたいオートコンバージェンスでも問題ないところまで立ち上がってきているので、今後は「さあ3Dだ」と構える感じではない、さりげない製品が登場してくるかもしれない。

 レコーダは、やはり全録のインパクトには敵わない。東芝は早々にそちらへ舵をとるが、他社が録画予約型でどこまで粘るのか、来年はその駆け引きが見られそうだ。

 一方で生放送をソーシャルビューイングするという流れも出来つつある。元々はネットの生放送から始まったムーブメントだが、それが逆にテレビの方に輸出されている感じが面白い。このあたりの機能も、AV機器の中でどのように取り込まれていくのか、観察していくと面白いだろう。

 今年はあまり数が揃わなかったが、国内メーカー製のタブレットもAV機能を強化してくるだろう。レコーダやテレビといったコンサバ商品に組み合わせてどれだけアグレッシブなことができるか。要するにスマートテレビ化できるのかといったところも、各社腕の見せ所である。

 来年も引き続き、停滞することないAVの世界が待ち受けていることだろう。世界をリードするメーカーがひしめく日本で何が起こるのか、楽しみに待ちたいと思う。

(2011年 12月 14日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]