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シリコンOLED採用で高画質化したエプソン新スマートグラス「MOVERIO BT-300」

 セイコーエプソンは、スマートグラス「MOVERIO」の第3世代の製品として、個人向けの「BT-300」と、商用モデルとなる「BT-350」、業務用モデルとなる「BT-2200」を発表した。BT-300は11月30日から発売し、直販価格は83,280円。

第3世代となるスマートグラス「MOVERIO BT-300」
MOVERIO BT-300

 シリコンOLED(有機EL)を採用することで、小型・軽量化とともに、高輝度や高コンストラスト、高解像度、高画質化を実現したのが特徴で、セイコーエプソン HMD事業推進部長の津田敦也氏は、「MOVERIO事業を開始した当初に描いたコンセプトに合致した製品をようやく作ることができた。技術的進化という点では、第1世代から第2世代への進化よりも、今回の進化の方が大きい。新たな市場にも打って出ることができる」と自信をみせる。

シリコンOLED採用で大幅に高画質化
セイコーエプソン HMD事業推進部長の津田敦也氏

 MOVERIOは、2011年に第1世代となる「BT-100」を発売。2014年には、66%小型化した第2世代の「BT-200」を投入。さらに、2015年には業務用に特化した「BT-2000」を製品化している。

 30~40代の男性ユーザーを中心として映像視聴などの個人利用のほか、ビジネス用途での活用も広がっており、世界遺産である群馬県富岡市の富岡製糸場では、MOVERIOに、かつての構内の様子などを映し出して観光案内を行なうといったサービスにも利用されている。

 今回発売した第3世代のMOVERIOは、第2世代の製品に比べて約20%軽量化した69gとしたほか、重量配分などを追求することにより装着性を向上。装着部のツル形状の見直しで安定性向上を図るとともに、マグネシウムの採用により軽量化と堅牢性、放熱性にも貢献。長時間の使用でも、快適に装着できるようになった。また、同梱している眼鏡専用鼻パッドを使用することで、眼鏡をかけた上からでも簡単に装着が可能で、対応する眼鏡幅が約147mmまで広がり、より多くの人が使えるようにしたという。

MOVERIO BT-300を装着した様子

 さらに、操作部となるコントローラには、第1世代製品で採用していた十字キーを復活させ、トラックパッドと併用することで操作性も高めている。

BT-300のコントローラ部

 CPUは、インテルのATOM x5プロセッサを搭載。OSには、Android 5.1を採用しており、5倍の性能向上を図ったという。また、内蔵カメラを500万画素に向上させている。駆動時間は動画モードで約6時間。

 最大の特徴は、なんといっても、エプソン独自のシリコンOLEDを採用している点だ。

 これまでの製品では、HTPS液晶ディスプレイを採用していたが、新たに0.43型超小型高精細カラーのシリコンOLEDディスプレイを採用することで、従来モデルでは実現できなかったスクリーン感(表示枠)を意識させない映像表現を可能にしたほか、高輝度、高色域によるリアルな色再現を可能とした。

シリコンOLEDを採用

「コントラスト比は、10万:1と、従来の230:1から大きく進化。リアルの視野と、MOVERIOによるシースルー映像および情報が境目なく表示され、一体化したリアルなAR(拡張現実)表現を可能にしている」という。

 シリコンOLEDでは、白色発光素子を使用。キャビティ内に搭載した光共振器により白色発光素子を、異なる共振周波数で共振させることで赤、青、緑をそれぞれ発光。この光を、カラーフィルターを通じて表示する。

「従来構造に比べて、広色域化、高効率化、微細化が可能であり、約2,000cd/m2の明るさを実現できる。これらの構造は、エプソンの独自の技術として特許を取得している」という。

シリコンOLEDを採用。ディスプレイモジュールも小型化した
レンズも小型化

 白色発光素子を利用することで、有機ELの課題とされていた長寿命化も実現しているという。

 課題は生産が難しい点だが、同社の富士見事業所に設置している有機EL生産ラインを活用。「量産時の歩留まりも予想を上回るものとなっており、生産面での課題も解決している」とする。

 シリコンOLEDの採用により、従来の液晶パネルで必要だったバックライトが不要になること、ドライバーICをディスプレイに内蔵させることで駆動基板の面積を縮小できるといった効果がある。これにより、ディスプレイモジュールの小型化も実現したほか、OLEDパネルの構造を生かした配光制御を可能にしたことで、レンズや導光板も小型化することができ、軽量、小型化に寄与しているという。

 「OLEDの特性と、独自の発光方向制御技術を活用することで、第1レンズに対して光が集約でき、プロジェクションレンズの小型化につながっている」という。

業務利用も想定し、製品ラインナップ拡充

 一方、BT-350は、基本性能はBT-300と同等ながらも、商用サービス向けと位置づけられる製品で、堅牢性や装着性を高めるための工夫が施されている。

商用モデル「BT-350」

 不特定多数の人が利用するシーンでの導入を想定しており、女性や子供などでも装着ができるように改良。観光ガイドのツールとしての利用や、業務でスマートグラスを利用するといった用途にも対応する。

利用イメージ
業務用モデルとなる「BT-2200」

 また、BT-2200は、業務用モデルの「BT-2000」の後継に当たるもので、ハンズフリーでの操作や、ヘルメットへの装着が必須となる現場での利用を想定している。

「BT-2000では、製造業を中心に作業現場での利用が多く、ヘルメット着用が必須となる現場での利用が約6割にも達した。これは予想外に利用比率が高かった。また、土木、建設のほか、電気・ガス・水道の現場での利用も見られ、遠隔指示や、作業ガイドを表示する用途で活用されている。これらの現場でもヘルメットの着用が必須になっていた」とする。

BT-2200は、ヘルメットへの装着したまま利用できる

 BT-2200では、シリコムゴムバンドにより、日本のメーカーが発売する特大タイプのヘルメットの外形にも対応できるようにしたほか、ヘルメットを装着していても、片手ではねあげが可能な構造を採用。MOVERIOを使用しない際の視野を確保できるようにしたという。また、IP54に準拠した防水防塵仕様となっており、屋外の過酷な環境での利用にも対応する。

画質向上でエンターテインメント利用を推進。ドローン連携も

 エプソンでは、今回のBT-300による大幅な性能進化に伴って、いくつかの新たな利用提案を行なっていく考えだ。

 ひとつはエンターテイメント利用の促進だ。これまでに比べて圧倒的に進化した映像表現を生かして、「持ち運べるプライベートシアター」としての利用提案を行なう。

 インターネット接続により、YouTubeや楽天SHOWTIME、U-NEXTなどの動画配信サービスを利用できるほか、スマートフォンやタブレットのコンテンツをミラーリングしたり、ホームネットワーク上のHDDレコーダーに録画した番組を、宅内や宅外で視聴したりといった使い方のほか、ポータブルDVDドライブと無線接続してDVDコンテンツを楽しむこともできる。

利用イメージ

「映像表現が向上したことで、動画配信サービスを行なう企業との連携が一気に進んだ」としており、これからの動画を視聴するためのアプリも新たに用意している。

 もうひとつは、ドローンやアクションカメラとの連動による新たな活用提案だ。リコーのTHETAとの連動による360度画像の表示や、ドローンに搭載したカメラを活用したFPV(First Person View)による利用も可能になる。

ドローンでMOVERIOの利用イメージ

 ドローンの操作では、航空法により、目視外飛行が禁止されており、モニターやスマホなどを見た状態での操作は禁止されている。MOVERIOの場合は、シースルーで目視が可能なことから、目視外飛行には該当しないため、装着したまま操作が可能だ。MOVERIOで機体を目視し、同時に撮影している画像を視野内で確認しながら操作できるというわけだ。

 MOVERIO Apps Marketで提供されているMOVERIO専用アプリ「DJI GO」を使用すれば、DJI PhantomシリーズやOsmoなどのカメラで撮影した映像をリアルタイムで確認できるという。

 さらに、BtoB用途での提案も加速。すでに実績がある観光ガイドの用途のほか、警備員が装着したMOVERIOに監視カメラの映像を表示することで、複数箇所の監視を同時に行ったり、不審人物を顔認識して、アラート情報を表示して、セキュリティを強化するといった使い方も可能だという。

 なお、同社では、開発者向けに、アプリ開発に必要なSDKが入手できる「MOVERIO Developer Site」を公開。MOVERIO専用アプリの開発促進にも取り組む姿勢をみせている。

 BT-300は11月30日発売で直販価格は83,280円。BT-350とBT-2200は、2017年2月から発売する予定で、価格は未定となっている。販売台数は、MOVERIOシリーズ全体で50,000台を計画している。なお、BT-350およびBT-2200は、デザインが変更される場合があるという。