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国際航空宇宙展でHoloLens体験。宙に浮かぶ飛行機エンジンに触れてみた
2016年10月19日 09:30
東京・ビッグサイトで10月12〜15日に開催された「2016年国際航空宇宙展」。国内外の航空・宇宙関連企業ブースが集い、屋外では航空自衛隊の戦闘機「F-35」の実物大模型などが展示され、休日の家族連れで賑わっていた。その中で人気だった展示のひとつが、Microsoftのヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」を使った、日本航空(JAL)ブースの機体研修プログラム体験コーナー。普段は見られない、ボーイング787型用エンジン内部をモデルとしたホログラム映像を指のジェスチャーで動かしたり、細部をのぞくことができた。
アジア初のHoloLensパートナー。コンセプト機を共同開発
HoloLensは、フルカラーのホログラム映像を生成する光学投影システムを備えた製品。半透過型のディスプレイを採用しており、現実の風景に立体的なユーザーインターフェイスや映像コンテンツなどを重ねて表示できる。MicrosoftではVRとARのメリットを併せ持つ「Mixed Reality」(複合現実)デバイスと呼んでいる。一般的なVRヘッドマウントディスプレイと異なる特徴は、Windows 10をOSに採用した単体コンピュータであること。CPUやメモリ、ストレージを備え、IEEE 802.11acの無線LANや、USB端子なども備える。
JALでは'14年6月に「チャレンジJAL」宣言を発表し、利用者のための新サービス導入に加え、ロボットやIT技術を採用した様々な実証実験にも取り組んできた。HoloLensを使った機体研修システムはその一環として、JAL側からMicrosoftへ開発協力を打診したことから始まった。HoloLensのビジネスパートナー企業はJALがアジア初で、エアライン企業としても初の試み。コンセプトや実機モデルデータはJALが用意し、Microsoftがシステムを開発してプロトタイプが完成。現在も業務活用テストが続いている。
筆者はパブリックデー(15日)のお昼前に会場について真っ先にJALブースへ向かったが、この時点で配布された整理券は16時以降の回という盛況ぶり。体験中も予約キャンセル待ちの列ができていた。JALのブースが会場入口を入ってすぐの立地ということもあり、多数の来場者の注目を集めたようだ。
ボーイング787型用エンジンを指先で操れる驚き
機体研修プログラムは、パイロットや整備員が機体研修の際に利用することを想定し、2つのコンテンツを用意。ひとつはボーイング787型用エンジンをホログラム表示し、エンジンの構造や部品名称、システム構造などをリアルに体感・学習できるというもので、今回はこちらを体験してみた。
まずブースの説明員に従ってHoloLensを頭に被る。筆者はメガネをかけているが、前面ディスプレイに干渉することもなくスムーズに装着できた。HoloLensに触るのはこれが初めてだが、見た目の印象に反して軽く感じ、「本当にこの中にコンピュータが入っているのだろうか」と感じた。ちなみに重量は579g。内側の細いリング状バンドで額から側頭、後頭部にかけて締め付けるのだが調節してもゆるく、筆者の頭の上では安定しなかった。ずり落ちそうになる本体を片手で支える必要があった。
指示に従ってしばらく待つと、目の前の2m四方ほどの空間に、配管やジェットエンジンブレードがむき出しの787型用エンジンの立体ホログラムが現れ、思わず「おお」と声が出てしまった。まるで実物が目の前にあるかのような感覚だ。エンジンのサイズや自分との距離感は指のジェスチャーのみで調整でき、手前に引き寄せて大写しにしたり、奥に押して小さくすることもできた。指でつまむジェスチャーでは、内部構造が青くスケルトン表示される。
ジェスチャー認識や装着者のトラッキングはHoloLens前面に内蔵されたカメラやセンサーが行なっており、体験スペース内に別途トラッキングカメラなどが置かれていたわけではない。マウスやキーボードを一切使わず、空中の指の動きだけで拡大縮小したり、ボタンをクリックするのは、実際にやってみるととても不思議な感覚だった。
HoloLensを装着したまま小間の中を歩き回り、側面や下に回り込んでホログラム表示されているエンジンを観察してみる。3Dモデルは細かいところまで作り込まれており、実物のエンジンにありそうな注意書きも再現されていた。今回は制限時間が10分と短く、体験できなかったが、自分は動かずにホログラムを回転させて見たい箇所を見るといった操作もできるようだ。
説明員によると、従来の整備士養成訓練では、エンジン構造の教育を教科書などの平面図を使って実施している。だが、現在の航空機はハイテク化が進んだために故障しにくくなり、実機の数も限られているため、エンジンパネルを開けた状態の実物を前にした訓練などの時間は限られている。このコンテンツを活用することで、エンジン本体が目の前になくても、構造や仕組みを体感しながら習得が捗るようになるという。
もうひとつのコンテンツは、ボーイング737-800型機の訓練用コクピットがホログラム表示され、パイロット訓練生が英語音声のガイダンスに従って計器・スイッチ類の操作を行なう手順を学ぶもの。こちらも従来の訓練ではコックピット内を模した写真に向かって指を動かして操縦手順を学ぶが、このコンテンツによってより効果的な習得が期待できるという。
コクピットのコンテンツは操作の流れがあらかじめセットされており、比較的長いため、今回はコクピットのホログラムを数分眺めるだけで終了となった。目の前に現れたコクピットはフライトシミュレータゲームのコクピット映像に似ているが、指のジェスチャーひとつでダイヤルをひねったり、スイッチのオン/オフ操作ができる。コクピット前方の上下左右180度(背後は描写されない)のすべてを眺め回すことができ、シミュレータに乗り込んだ気分を味わえた。
エンジンやコクピットモデルの拡充を検討
HoloLensがPS VRやOculus RiftなどのVRヘッドマウントディスプレイと違うのは、グラスの向こう側の現実の景色が見えること。これにより、実在のエンジンと見比べたり、操作時の自分の手の動きをホログラムと重ねてチェックすることが可能。研修時には、訓練生は目の前にいる講師の指示や動きを確認できる。HoloLensと講師のパソコンを連携させれば、訓練生の視野の様子をリアルタイムで映し出し、どこを見ているかもチェックできる。個人で勉強する際は、教科書の上にエンジンのホログラムを表示させたままで筆記するといったことも可能だ。
今回用意された機体研修プログラムの今後については、他の機体のエンジンやコクピットのホログラフィック化など、様々なアイデアを持っているそうだが、具体的な検討はまだこれからだという。
国際航空宇宙展ではこのほかにも、隣の全日空や階上のボーイング社のブースで、VR/ARを活用した解説コンテンツやソリューションを見かけた。いずれも多くの来場者が順番待ちの様子で、VR/AR技術に関する関心の高さが伺えた。