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マランツ、「今後10年の礎となる」Ncore搭載の次世代プリメインアンプ「PM-10」

 ディーアンドエムホールディングスは、マランツブランドのリファレンスプリメインアンプ「PM-10」を2月下旬に発売する。価格は60万円。「今後10年の礎となるような技術革新を実現した製品」として展開する「10シリーズ」のプリメインであり、「リファレンスセパレートアンプのパフォーマンスを一筐体に統合した次世代のプリメイン」と位置づけられている。

リファレンスプリメインアンプ「PM-10」

 ハイエンドオーディオのアンプでは、プリ部とパワー部が別になったセパレート型が多い。これは大出力と駆動力の高さ、フルバランス構成、プリとパワーの電源を別にすることで高いSN比やチャンネルセパレーションを実現できるといった利点があるため。「PM-10」はプリメインながら、この大出力・駆動力、フルバランス、セパレート電源という3要素を実現する製品として開発された。

 入力端子として、XLRバランス×2、RCAアンバランス×4、Phono×1、パワーアンプダイレクト×1を装備。入力された信号は、全て4chのフルバランス構成で処理。信号はバランスの状態でインプットバッファを通ってプリアンプステージへ送られる。

「PM-10」の背面

 プリ部はリファレンスプリ「SC-7S2」で培った技術を投入しており、グランドに大電流が流れず、電源ノイズ、外来ノイズがキャンセルされるフルディスクリートでプリ・ボリュームアンプを構成。アンバランス入力用に用意している、バランスへの変換回路には、独自のHDAM-SA3を使った、電流帰還形を採用している。

プリ部の基板

 ボリュームもLR独立した、フルバランス構成。LRの信号が近接していると、飛び込みにによりチャンネルセパレーションが低下するため、高精度の4連電子ボリュームを採用している。素子はMAS6116を2基採用。HDAM-SA3も投入している。電子処理のメリットを活かし、独自のF.C.B.Sにも対応。複数台のボリュームを連動動作できる。

 フォノアンプも搭載。MM、MC high、MC lowのインピーダンスに対応しており、具体的には10Ωと50Ωをカバー。回路としては、コンスタントカレントフィードバック回路を採用。フォノアンプは通常、周波数によって負帰還量が変わり、帯域によって音質が変化してしまうが、帰還量が変わらない工夫をこらしたもの。

コンスタントカレントフィードバック回路を採用したフォノアンプ

 これらのプリアンプステージ用に、専用のパワーサプライを搭載。OFC巻き線の大型トロイダルトランスで、整流回路には新採用の超低リーク電流ショットキーバリアダイオードを使用。平滑回路には、マランツカスタムによる、新開発のニチコンブロックコンデンサ(6,800μF×2)を使っている。

プリアンプステージ用の専用パワーサプライ

 プリ部とフォノイコライザには、純銅箔を作用した最上位グレードのオリジナルフィルムコンデンサ「ブルースターキャップ」や、ハイグレードな電解コンデンサ、Vishay製の精密メルフ抵抗などを投入。

プリアンプ用のブロックコンデンサ

リファレンスプリメインにスイッチングパワーアンプ「Ncore」を採用

 限られた筐体の中で大出力を得るため、スイッチングのパワーアンプを採用しているのが大きな特徴。ただし、「世間的にはクラスDと分類されるが、スイッチングの中もほぼアナログで構成されており、“ほぼアナログアンプ”と言っていい構成になっている」(マランツの尾形好宣サウンドマネージャー)という。

尾形好宣サウンドマネージャー

 パワーアンプモジュールはHypex製。既発売の「HD-AMP1」にも、Hypex製のモジュールが使われているが、PM-10にはよりハイグレードな「Ncore」と呼ばれるものを採用。同社はモジュールの一般販売も行っているが、PM-10に使われているNcoreは、一般ユーザーが買えない、ビジネスパートナー向けのものだという。Ncoreは4基搭載され、BTL駆動となる。

Hypex製「Ncore」

 なお、マランツはかつてPhilipsの傘下だったが、当時Philipsのエンジニアが考えだしたSODA(ソーダ)というデジタルアンプの方式が、Hypexの製品のベースとなっており、マランツにとって馴染み深い方式でもある。

 パワー部向けには、LR独立した大容量のパワーサプライを搭載した。定格出力は400W×2ch(4Ω)、200W×2ch(8Ω)。

筐体の中央に4基搭載された「Ncore」。ヒートシンクも取り付けられている
「Ncore」の左に見えるのがパワー部向けの電源
パワーアンプ用の電源回路

 通常のアンプには、スピーカーを保護するためにスピーカーリレーを搭載している。しかし、音質的には無い方が有利であるため、PM-10ではパワーアンプモジュールの中に内蔵されている保護機能を、マランツのコントロールマイコンと組み合わせる事で、リレーの排除を実現した。

 こうした工夫により、アンプの特性は「ほぼアナログアンプ同じ。通常のクラスDアンプは、波形が暴れがちで、負荷が変わると音質が変わってしまう。NcoreではAB級アナログアンプのような振る舞いをするのが優れたところ」だという。

 CD入力とPhono入力には純銅削り出しのピンジャックを採用。スピーカー出力も、同様に純銅削り出しのターミナルを採用。真鍮に比べて硬度が低く、機械加工が難しいが、熟練工が手作業で切削。銅の高い電気導電性を活かし、再生音に力強さと安定感がもたらされるという。インシュレーターはアルミ無垢材からの削り出し。

 スイッチングパワーアンプモジュールや電源回路などから発生するノイズや漏洩磁束による干渉を抑え、外来ノイズによる音質への影響を防止するため、リアパネルやシャーシにはシールド効果に優れた銅メッキ鋼板を採用。各回路間にも、銅メッキの鋼板や、珪素鋼板によるシールド板を配置している。

 出力端子はスピーカーターミナルに加え、レックアウト×1、標準のヘッドフォン出力×1も搭載。Marantzリモートバス、F.C.B.S.入出力も備えている。このF.C.B.S.は、最大4台(8ch)までのPM-10のボリュームを連動操作できる機能で、複数台を使ったバイアンプドライブ、マルチアンプドライブ、サラウンドシステムの構築などで活用できる。

F.C.B.S.を使い、2台のPM-10を使った「コンプリートバイアンプ接続」も提案

 ヘッドフォンアンプ、レックアウト回路、オートスタンバイ用の信号検出回路への電源供給を停止し、音楽再生の純度を最大化するという「Purest Mode」を搭載。

 消費電力は270W。外形寸法は440×453×168mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は21.5kg。リモコンが付属する。

音を聴いてみる

 マランツの試聴室において、プレーヤーに「SA-10」を、スピーカーにB&Wの「800 D3」を使って試聴した。比較対象は、プリメインの「PM-11S3」(43万円)だ。

 全体の印象として、まっさきに違いがわかるのは「クリアさ」だ。音の1つ1つの明瞭さだけでなく、音の余韻が広がる空間の見通しの良さ、音像と音像がなっていない部分の静けさなどが、PM-10の方が大幅に優れている。もちろんPM-11S3も非常に高いクオリティなのだが、それでも一聴した瞬間に違いがわかるPM-10のサウンドは凄い。透明度の高い湖を見ているような荘厳さがある。

 デッドマウスの打ち込みによる低域を聴くと、トランジェントの良さ、音がズバッと出るだけでなく、スッと消えるスピードもはやく、消えた後にふらついて音が濁るような事もない。スピーカーの駆動力の高さを感じさせる。分解能も高く、目の覚めるような細かな音が、ハイスピードに展開する。極めて現代的なサウンドだ。

 ムソルグスキーのクラシック(展覧会の絵)も、ホールの広大さや、展開する音像の細かさなどが、PM-11S3よりもわかりやすい。

 一方で、音の傾向としては、特に中低域はPM-11S3の方が迫力がある。PM-10もしっかりと低音が出るのだが、その低音もクリアかつ高分解能で展開するような印象で、低音がカタマリになってブワッと吹き付けるような“荒々しさ”は無い。そのため、一聴するとPM-10の方が“サッパリ”した音に聴こえるだろう。聴き込むとポテンシャルの高さに圧倒されるが、ピュアオーディオにある種の個性や、味の濃さを求めるニーズとは方向性が違うサウンドだ。

B&Wの「800 D3」

 音決めに使われた機材は、今回の試聴とまったく同じで、スピーカーはB&Wの「800 D3」、プレーヤーは「SA-10」。尾形氏は「800 D3もSA-10も、ベールを剥いだような透明感のある、クリアなサウンドであり、それと組み合わせるPM-10も、アンプとしてもっとクリアにできるはずだ、800 D3とSA-10のサウンドをより活かせるアンプが作れるはずだと、良い意味で刺激を受けながら開発した。我々は800 D3は世界をリードするスピーカーだと信じており、B&Wが追求している3次元的な音場などは、我々マランツが求めるところと同じだ。そして、それはやはり“原音再生”を追求していく事なのだと考えている」という。