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マランツ、音質大幅強化でレコードも繋がる105mm薄型AVアンプ「NR1609」

 ディーアンドエムホールディングスは、マランツブランドの薄型7.1ch AVアンプ「NR1609」を6月中旬に発売する。価格は9万円。高さ105mmながら、Dolby AtmosやDTS:Xに対応。カラーは従来からのブラックモデルに加え、新たにシルバーゴールドを追加した。

薄型7.1ch AVアンプ「NR1609」シルバーゴールド

 「NR1608」の後継モデル。薄型筐体で設置しやすくしながら、音質にもこだわり、HDMI入力を8系統搭載。AVアンプという枠にとらわれず、映像配信やゲーム機、スマートフォンなど、様々な機器と接続しやすく、「リビングの生活を豊かにするマルチコントロールセンター」をコンセプトとしている。

ブラックモデル

 このコンセプトは反響が大きく、2016年モデル「NR1607」と比べ、2017年の「NR1608」の出荷台数は1.8倍に伸張。大型モデルを含めたAVアンプ全体において、NR1608が2018年3月度にシェアナンバーワンを獲得したという(GfK調査)。

2016年モデル「NR1607」と比べ、2017年の「NR1608」の出荷台数は1.8倍に伸張

 センターやサブウーファ、サラウンドスピーカーを接続せず、フロント2chのみを用意し、2chアンプとして気軽に活用している人も多く、NR1608と同価格帯の大型AVアンプでは8%程度の2ch使用率が、NR1607では17%、NR1608では24%にのぼる。「映画のためだけのアンプではない」というコンセプトが浸透した結果と、マランツでは分析している。

2chアンプとして気軽に活用している割合が高い

 その上で、新モデルの「NR1609」では、アンプとしての音質を全面的にブラッシュアップし、音質を大幅に強化。さらに、MM対応のPhono入力も追加し、アナログレコードプレーヤーとも連携可能になった。前述の通り、カラーにシルバーゴールドも追加している。

MM対応のPhono入力も追加。レコードプレーヤーとも気軽に連携できる

音質強化ポイント

 電源部、プリアンプ回路、ボリューム回路、DAC回路、デジタル回路、全てをチューンナップ。DAC、プリ、パワー、パワー用電源部では、主要パーツをグレードアップ。それ以外のデジタル回路、プリ用電源、デジタル用電源では、パーツの見直しや、回路のブラッシュアップが行なわれている。

濃い色の部分が、主要パーツをグレードアップしたところ。薄い色は、パーツの見直しと回路のブラッシュアップ部分

 サウンドマネージャーの尾形好宣氏は、AVアンプは、新製品開発においては、新しいサウンドフォーマットへの対応など、機能面が最優先されるカテゴリであるため、「普段は(機能追加で残ったコストを使って)音質をまとめあげている。限られた中でやるのが普通なのだが、今回のNR1609は、そうした新しいフォーマットなどが無かったタイミングであり、電源回路にメスを入れるなど、Hi-Fiのプリメインアンプのような音質進化を実現した」と言う。

サウンドマネージャーの尾形好宣氏

 電源の源となるブロックコンデンサには、従来は中国製のものを使っていたが、日本メーカーのエルナー製、マランツカスタムのブロックコンデンサ、6800uF/63V×2を採用。整流ダイオードも、従来モデルは10A品だったが、新モデルでは25Aのものを新たに使っている。

 DACは従来モデルから引き続き、旭化成エレクトロニクス製の32bit/8ch DAC「AK4458VN」を搭載しているが、新モデルでは新たに、DAC出力の抵抗を高品位タイプに変更。従来はカーボン皮膜抵抗だったが、薄膜型の高精度金属皮膜抵抗を使っている。

 クアッドコアのDSPである、シーラスロジックの「CS49844A」も搭載。Dolby Atmosなどのオブジェクトオーディオに対応しながら、音場補正などの処理も同時に利用できる。

 アンプ回路では、キーパーツのグレードアップを活かすために、プリとパワー部を再チューニング。エルナー製カスタム音質コンデンサをプリ、パワーのカップリングコンデンサ、デカップリングコンデンサに採用。新採用のフィルムコンデンサも使っている。

 ノイズ対策も刷新。信号系、電源系の各デジタル回路と、デジタル回路用電源部(SMPS)のデカップリングコンデンサを中心とした、パーツの種類・容量・耐圧を最適化。エルナー製オーディオグレードの表面実装コンデンサも使っている。

 尾形氏は、「ノイズ対策品をのべつまくなしに取り付ければ、音質的によくなるというものではなく、適材適所つけるべき場所を選び、つける場所も定数の見直しなどをカットアンドトライしている。シャーシでは、銅メッキのネジを使い、グランドインピーダンスを最適化。平らな頭のネジ、イボイボのネジ、ギザギザのワッシャーなど、場所によって使い分けて調整している」という。他にも、大型パーツなど、不要な振動による音質劣化を防止した。

付属のリモコン

主な機能はNR1608を踏襲

 最大出力100W(6Ω)の7chディスクリートパワーアンプを内蔵。オブジェクトオーディオのDolby AtmosやDTS:Xに対応。5.1.2ch構成、5通りのスピーカー配置に対応。フロントハイト、トップフロント、トップミドル、フロントドルビーイネーブルド、リアドルビーイネーブルドのいずれかをオーバーヘッドスピーカーとして使用可能。

 ネットワーク音楽再生機能も備えており、自社開発のネットワークモジュールを搭載。DSPやネットワーク、USBなどのデジタル回路への電源供給には専用のトランスを使用し、アナログ回路との相互干渉を排除している。

 シールドにより回路間のノイズの飛び込みを抑え、電源ラインに流入するノイズはデカップリングコンデンサーを用いて除去。挿入するコンデンサの種類や定数はサウンドマネージャーによる試聴を繰り返し最適なものを選定。基板やシャーシを固定するビスやワッシャーの種類を使用する箇所に応じて変更するなど、細かなノウハウも活用されている。

 プリアンプ回路には、JRC(新日本無線)と共同開発した、個別の高性能ボリュームICと信号セレクター回路を採用。入力セレクターとボリュームが1チップに統合されたデバイスを使う場合と比べ、信号経路を最適化でき、SN比を改善している。

 パワーアンプ部は7chフルディスクリート構成。サラウンドバックを含む全7チャンネルを同一構成、同一クオリティで、チャンネル間の温度差に起因する特性のばらつきを抑えるために、パワーアンプをヒートシンクに一列にマウントするインライン配置を採用。つながりの良いサラウンド再生を追求した。

 接続するスピーカーのインピーダンスは最低4Ωまで対応。サラウンドバックおよびオーバーヘッドスピーカーを使用しない場合には、フロントスピーカーをバイアンプ駆動したり、2組のフロントスピーカーを切り替えて使用することも可能。

 専用マイクを使ったオートセットアップ機能「Audyssey MultEQ」も搭載。最大6ポイントでの測定結果をもとに、スピーカーの距離、レベル、サブウーファのクロスオーバー周波数を最適な状態に自動設定する

 スピーカーとリスニングルームの音響特性も測定し、時間軸と周波数特性の両方を補正。ルームアコースティックを最適化する。測定マイクを設置するスタンドも付属する。

 ドルビーイネーブルドスピーカーを利用する際は、Audyssey MultEQの自動補正に加えて、天井までの高さをAVアンプに入力する事で、補正の精度をさらに高める事ができる。

 「Audyssey MultEQ Editor」というアプリも2,400円で用意。AVアンプ単体では設定できない詳細な調整項目にもアクセスできるもので、部屋に起因する音響的な問題をより精密にカスタマイズして対応可能。インストーラーやホームシアターのエキスパートの使用を想定している。

 HDMI入力は8系統、出力は1系統装備。HDMI端子はすべてHDCP 2.2に対応。HDMI入力は、4K/60pまでサポート。4K/60p/4:4:4/24bitや、4K/60p/4:2:0/30bit、4K/60p/4:2:2/36bitもサポート。広色域表現BT.2020のパススルーにも対応する。

 HDRもサポート。HDR10に加え、Dolby VisionとHLG(ハイブリッドログガンマ)もサポートする。

 セットアップアシスタント機能も充実。テレビ画面に表示されるガイドに沿って作業するだけで、初期設定が完了する。センタースピーカーやフロントスピーカーの位置、接続する端子の場所などといった情報をイラストを交えて紹介。スピーカーケーブルの剥き方、ネットワークの接続、入力機器の接続などもガイドしてくれる。

 有線LANに加え、2.4/5GHzデュアルバンドのWi-Fi(IEEE 802.11a/b/g/n)にも対応。ネットワークオーディオ機能も利用可能。DSDは5.6MHzまで、WAV/FLACは192kHz/24bit、Apple Lossless(ALAC)は96kHz/24bitまでサポートする。FLACやWAVのほか、DSD、ALACのギャップレス再生も可能。AirPlayにも対応。インターネットラジオにも対応する。

 フロントUSB端子から、USBメモリなどに保存した音楽ファイルの再生も可能。Bluetoothにも対応し、iOS/Androidスマートフォンなどの音楽をワイヤレスで受信して聴くことも可能。

 ワイヤレス・オーディオシステム「HEOS」にも対応。「HEOS」アプリを使い、ストリーミング音楽配信サービスやインターネットラジオ、LAN内のミュージックサーバー(NASなど)や、USBメモリに保存した音源の再生操作が可能。Bluetooth再生にも利用できる。

 音楽ストリーミングサービスは、新たにAWAやSpotify、SoundCloudなどに対応。インターネットラジオの検索にはTuneInを利用する。

 iOS/Android向けのリモコンアプリ「Marantz 2016 AVR Remote」も用意。無線LAN経由でスマートフォン/タブレットから、電源入力やサウンドモード切り替え、ボリューム操作などが可能。AM/FMラジオチューナも搭載。ワイドFMの受信もサポートする。

 入力端子は、HDMI×8、コンポーネント×2、コンポジット×3、アナログ音声×3、光デジタル音声×1、同軸デジタル音声×1。出力はHDMI×1、コンポーネント×1、コンポジット×1、2.2chプリアウト×1、ゾーンプリアウト×1、ヘッドフォン×1を装備する。

 消費電力は250W。重量は8.3kg。

背面

音を聴いてみる

 5.1chや7.1chのスピーカーが揃っていなくても、「2chのフロントスピーカーのみ」、「サラウンドスピーカーを加えた4ch」などで使われる事も多いという薄型AVアンプ。試しに、センターもサブウーファも無い、フロントトールボーイと、リアブックシェルフの4chでDolby Atmosでもデモ映像「Amaze」を聴いてみる。

 音量も、試聴会などでセッティングされる事が多い73dB程度ではなく、防音処理されていないリビングを想定し、63dB程度に設定する。

 驚くのは、低域の量感と深さ。サブウーファは無いが、アンプとしての駆動力が上がっており、低域のパワフルさと分解能が、従来モデルより大幅に改善されている。低域が派手になったというのではなく、スピーカーに対しての駆動力がアップし、ウーファユニットを“キッチリ再生できている”サウンドだ。

 鳥の羽音が反時計回りに移動する場面では、音像がキッチリと小さく、移動感もAtmosらしい明瞭さだ。4ch環境といっても、途中で途切れたり、移動の軌跡がいびつになったりはしない。フロントがトールボーイというのもあるが、映画の迫力や包囲感は十分に楽しめる。

 「ダンケルク」の空戦シーンも、音量を上げると部屋に重低音が満ち、その中でも銃撃音の鋭さはクリアに描写される。駆動力が上がり、どっしりとした低音が出せるため、安定感のあるサウンドが楽しめる。センターはファントムだが、中抜けもせず、声の帯域も密度高く再生された。

 フロント2chのみで再生しても、「キングダム・オブ・ヘブン」の攻城戦シーンも、投石機から飛来する巨石の迫力はたっぷりと楽しめる。前方からの包囲感もあり、映画の世界に入り込める。

 CDプレーヤーと接続し、2chで「NR1608」とじっくり比較すると、駆動力の向上が良くわかる。JAZZピアノの左手の動きや、クラシックのオーケストラにおける定位感、音場の広さ、空気感といった面で、かなり大きな進化が見られる。

 また、DAC出力の抵抗を高品位タイプに変更した効果によるものか、細かな音の描写力や、トランジェントもアップ。ドッシリとした低域と、その低域内の細かな描写が両立できている。電源部の強化と、細部のブラッシュアップの相乗効果により、ハッとさせる音質の進化を実感できた。

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